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双天のステルラ  作者: なまけもの
変わり始めた世界
47/49

第47話

ほんっとうに申し訳ございません!!

約三ヶ月ぶりの更新で読者様に申し訳ないです。決して飽きたなどという下らない理由ではなく、仕事先の部署移動で忙しくなり執筆する時間が減ってしまったのが原因です。

今後はこうならないように気をつけますので、今後とも宜しくお願いします!!

 アイルが一人出て行った後は、話は適当に進んでおり最終的には青年達は勝手にしろという答えを出した。言っても聞かないのであれば仕方がないとアイルに対して呆れる者が圧倒的に多く、擁護する者はアイラとキリエの二人ぐらいなものである。

 月が昇った頃を見計らってイースの屋敷を奇襲することになった。出来る限りの犠牲を払わずに多くの者がイースの下へ辿り着く事を目的にしている。

 人間とは違う進化を遂げた人間。即ち獣人や小人、巨人などは総称して亜人とされる。


「そんなに獣人は強いの……? 今まで亜人なんて見たことないから分からないけど」


 そこまで一人に対して警戒するものなのかと疑問を抱くアイラは経験豊富なキリエに獣人という種族についてキリエに聞いていた。


「個体によってはピンからキリまでですが、本当に強い獣人は強いですね。数で押し切れるのかと言われるとほぼ不可能に等しいと思いますが、その数が千や万であれば不可能ではないと思われます。ただ、獣人は二つの姿を有しており、獣人態になると身体能力がさらに跳ね上がりますので獣人態には気をつけてください」

「そ、そうなんだ……獣人態には気をつけよ。ぅぅっ、できるなら穏便(おんびん)に済まされないかな相手を攻撃するのは好きじゃないのに」


 獣人についての話を聞いたアイラは話し合いで終わってほしいと本気で願う。

 だが、それは争う事が嫌いだからで特に相手を攻撃するのはアイラは本当に嫌う。攻撃するのは自分の命が危うかったり、友達や宝物を守ることが前提である。しかし、アイラの発言にキリエは訝しげな表情でアイラを見る。特にもう一つの人格のキリエはその言葉に引っかかっていた。


――この子は自分が負けるなんて思ってない……?

(らしくない言葉ですね。今の言葉は勝つ事が前提の台詞ですよ)

――だから可笑しいのよ。わたしもアイラが戦っているところなんて見たことがないから何とも言えないけど、あの子の性格上じゃそんな事思うはずないでしょ。

(確かにそうですが。アイル様の性格が少し伝染っておられるのかもしれませんね)

――どちらにしろ今宵が楽しみね。アイラの実力が少し見られるもの、ふふふっ


 突発的にアイラが呟いただけなのか、それとも本音なのかは今宵分かることで裏人格のキリエは実に楽しそうに時間が経つのを待っていた。

 月が昇る時間から陽が出るまでの時間は裏人格が表に出て来る時間で実質は裏人格のキリエが反乱に参加する。

 アイラの言葉について色々と考えながらもキリエがドアノブに手を伸ばそうとした瞬間、何かに気付き直ぐに扉から離れてアイラの腰に手を回し扉から距離を取る。その瞬間、扉が勢い良く吹き飛ばされた。


「だ、誰がこんな事をしたの? 人様の家を壊すなんて最低だよ!」

「恐らくイースがどなたかを派遣したのでしょうね。ブルゴーニュはイースのお膝元ですし――」


 扉が勢い良く壊れたことで埃が舞う中、キリエはアイラを丁寧に下ろすと両手の指の間全てに短刀を挟み、即座に迎撃態勢に入る。

 集会所に集まっていた青年達は武器など常備しておらず突然の破壊音に目を見開き、視線を一点に集める。集会所自体は日々の清掃で綺麗にされていたが扉が無理矢理に壊された事と扉が壁に激突した事が原因で埃が舞うその中で大きな影が蠢く。

 最近はアイルのせいか神経が図太くなってきており、突然の破壊現象に驚きはするもすぐに落ち着きを取り戻すようになっていた。


「おおっ、おおっ、集まってやがる――っと、誰だ急に物騒な事をしやがるのは?」


 男の声にキリエは即座に反応すると手始めに短刀を一発だけ放り投げた。弾丸の如く影の方へと疾走した短刀は動いた影の手によって止められて刃物を握りつぶし、粉々になって床に落ちる音が聞こえた。

 埃も風に吹かれて消えると筋肉隆々な男と細身の男が先頭に立ち、レジスタンスの青年達を見回していた。探すのはアイルただ一人で。

 イースから聞いた情報と合致する少年の姿が見当たらないので細身の男は、青年達にアイルの所在を投げかける。


「しかし、子供がいないみたいですね。君達に聞きたいのですがアイルという少年を知りませんか? イース様から連れてくるように言われましてね――勿論、抵抗するのであれば殺しても構わないとのことですが」


 まるでお使いのように殺害発言を言いのける細身の男。だが、アイルの名前が出たときに周囲はざわざわと騒がしくなり始めた。


「アイル様――何かやらかしたのでしょうか?」

「な、なんにもしてないよ? だって、ずっと私達一緒に居たし――イースって人と関わってないもん」

「では、何故――? しかし、問答も良いですがあまりそういった雰囲気ではなさそうですね、特にこの方々は」


 突然の来襲から身に覚えのない難癖をつけられ、終いには殺害予告までされる始末にキリエは、つい何をやらかして来たのかとアイラに問う。問われたアイラはやはり答えることが出来ずに何もしてないとしか答えられない。

 当の本人すら理由が見当たらない。だが、イースに狙われるという事はそれだけ敵に回すような事件を起こしたということにほかならない。疑問に思うことはあったが、四人組主に筋肉隆々の男は苛立ちが既に顔に出ていた。


「グダグダ話してんじゃねえぞ? アイルってガキはどこに隠してるんだって聞いてんだよこっちは!!」

「全くゴリアスは短気ですね。そもそも、噂だけが一人歩きしている少年ですよ、実際は弱いのかもしれませんし逃げたのかもしれません」

「ハハッ、良いじゃねえか。別に殺せって命令されているんだしよ」


 苛立つ筋肉隆々な男=ゴリアスを(なだ)める細身の男。

 しかし、宥めながらもアイルが逃げているだけかもしれないと馬鹿にしたような物言いをし、それを聞いたアイラはカチンときて、つい口を滑らしてしまう。


「さ、さっきから何ですか! アイルの事を探してるみたいですけど、私もアイルも貴方達みたいな人達に目をつけられる事はしてないです!!」

「へえ、その子が何か知ってるみたいねぇ。小娘、痛い思いをする前に何処に居るのか正直に吐きなさい。怪我なんてしたくないでしょう?」

「脅したって、教えてあげないもん……」


 勝手に目をつけられている事に対し僅かな怒りを抱えているアイラはつい強めの口調で叱咤(しった)する。

 アイラの叱咤を聞いた妖艶な雰囲気を抱く女性が反応する。アイラの言動から関係者という事は簡単に読み取れるので、アイラに狙いをつける。

 脅し文句を言われたアイラは一歩、右足が後退するもグッと堪えて妖艶な女性を睨み付ける。それは逃げるではなく戦う事を覚悟した目だった。


「あら、この私と戦うつもりなのかしら。貴方にそんな力があるの?」

「それは、分からないけど――戦わないとダメだから戦うの」

(きっとアイルならこの場面は絶対に逃げないで戦うから、私もアイルに近づくために――!)


 このまま戦う事から逃げればきっと変われないと、そう思ったアイラは戦っている時のアイルのように凛とした目色を見せる。まだ、アイルのそれには遠いが、それでも今のアイラはそれだけでもアイルに近づけたような気がしていた。

 ほんの僅かな時間しか過ごしていないがキリエの中にあったアイラのイメージは少し崩れた。意外そうにしかし、優しい微笑みを浮かべてキリエもまた――


(アイラ様はそんな表情をされることがあるのですね――私も戦いましょうか)


 戦意を見せるアイラとキリエに眉を顰めるゴリアスは、指の骨を鳴らし腕を回して体を解していた。


「俺達、四獣と戦う気が女一匹と小娘一匹で? 舐めてんのか?」

「そうですか――ですが、言っておきます」


 四獣という立場の自分達に女と少女だけで戦うことに舐められていると感じ苛立ちを覚えた。

 しかし、そんなゴリアスの感情などお構いなしのキリエは適当に流して軽く床を蹴る。刹那、集会所の室内に強い風が吹き、皆が目を見開く。ほんの一瞬の時間、キリエとゴリアスの姿は集会所から消えて激しい破壊音がアイラや集会所に集まった青年達、残った四獣の耳に届く。

 百m程離れた地点にメイド服を靡かせながら美しく立つキリエの前方には大量の砂埃が舞っており、その光景に四獣達は皆愕然としていた。


「所詮は獣人――私とは種としての格が明らかに違うのですよ」

「ぐがぁあっ……」


 壁に強く叩きつけられたゴリアスは苦しそうな表情でキリエの事を見上げる形となっていた。

 キリエの腕力が異常なのか厚く高い壁は砕かれてゴリアスが寄りかかっており、キリエは酷く冷めた表情で見下ろしていた。


(そ、そうだっ! キリエさんはこの世界にいる沢山の種の中でも高位の種族、獣人がいくら強くてもキリエさんの方がもっと上なんだ。それに人格が違っても基の能力は同じだから力で負けることもあるはずがない)


 馬鹿みたいに強いアイルと互角以上にやり合ったキリエの肉体。人格が違っても能力に大差はなく、アイラは何を心配していたんだと苦笑いを浮かべてしまう。自分の周りには化け物じみた二人がいるのだから、実際は危険なことに遭うこと自体限りなく少ないのだとアイラは強く思う。

 もっともアイルはこの場に居ないが、既にアイラの中でアイルは除外されている。


「す、すげえ……獣人を力づくで飛ばした」

「ああ……ホントに女なのか!? 本当はムキムキのオッサンじゃなくて!?」

「いや、それはないだろうが」


 誰もがキリエは女ではなく男なのではないかと疑う。それでもアイラにとって信じられる出来事に変わりなく相手の人数が多くても大丈夫という確信が何故か生まれてきた。

 

「あまり調子に乗らないことですよ女!」


 細身の男は上から目線からゴリアスを見下すキリエへと一気に加速して接近する。

 大きく右腕を振り上げる細身の男に気付かない。気付いていないことはなかった、ただ振り返る事もせずに残像だけを残し背後をとる。


「くっ、逃げますよゴリアス!」

「ああ! バルカッス、あの女は本当に人間なのか!?」


 空振りに終わった攻撃に避けられた細身の男=バルカッスは小さく舌打ちをして、前を振り向く。既に跳躍していたキリエが放つ短刀が数本迫っておりすぐさまゴリアスを乱雑に掴むと回避に専念する。避けられた短刀数本は近くの民家の壁に深く突き刺さった。馬よりも数倍速いバルカッスの速力。だが――

 既にキリエの視線は村の中を走るバルカッスとゴリアスの二人。綺麗に着地するとキリエはメイド服を叩いて埃を落として、再び二人との距離を零に縮め一瞬で追い越すと冷ややかな銀の瞳に映す。


「わ、私を追い越して!?」

「人間態の貴方達が束になって私に勝てるとでも? あまり調子に乗らないでいただきたいですね、好き勝手やって来たみたいですけども」

「何故、貴方のような猛者がイース様の目に止まっていないのか不思議ですね」

「大勢の方と関わるのは私の性分には合わない、それだけです」


 想像以上に強いキリエに驚きは隠せないでいバルカッスはイースが誘わないことに不思議でしかたがなかった。何故とバルカッスから問われたキリエは即座に答えを返す。

 ただ、性分に合わないそれだけの理由。なによりキリエはイースに興味など毛頭ないのだから。


「余所見をしていても良いのかしらねえ? 囲まれてるわよ連れの女の子が」

「っ!?」


 従者という立場を忘れゴリアスとバルカッスの相手ばかりをしていたキリエは、露出度の高い服を着込む四獣の一人である女の言葉に反応する。

 荒くれ者に囲まれるアイラ。総勢百人弱は、それぞれ大剣や斧など武器を持ちアイラを恫喝(どうかつ)していた。アイラは微かに震えて泣きそうではあるが、体勢だけは迎撃の形をとっている。そして、アイラの周囲には僅かな蒼白い光を放つ粒子が無数に発生し始める。

 普段、アイルとアイラ以外には見えないそれはアイラが使用すれば誰にでも視覚出来るものとなり、囲んでいた荒くれ者どもはその光に目を奪われ戸惑いが生まれる。刹那、無数の蒼白い光は音沙汰もなく小さな爆発を起こした。

 小さな爆発だがその威力は人間が間近で受ければ皮膚が剥がれる程度には痛いもの。それが無数に、まるで誘導されたかのように一発が爆発すれば連続で爆発が起きる。荒くれ者達がいくら鍛えようともそんなものを至近距離で受ければダメージになる。


「ごめんなさい……でも、私は負けないの」


 痛みに悶え倒れこむ複数の大柄な男達を見下ろすアイラは悲しい目を向けていた。

 

「まさか――アイラ様は特異点!?」


 たった一度。しかし、アイラが起こした現象をしっかりと見ていたキリエはゴリアス達など眼中になく、アイラに視線を向けていた。

 先程まで追い詰められていたゴリアス達ならばキリエの態度に怒りを覚えていただろうが、アイラが行った事にキリエと同じように目を奪われ、見開き口を開いてジッと見ていた。

 そして、今までひ弱な少女という印象を抱いていたルキナやザザ、そしてレジスタンスの青年達にも同じ衝撃を与え印象を変えさせていた。


「もう止めようよ。こんなバカな事をしても誰も嬉しくないと思う――」

「バカな事だと?」

「そうだよ、私達が貴方達に狙われる理由がまるでないもん。これじゃ、ただのとばっちりだよ」


 暗に戦いたくないという思いは出さず、ただバカな事だと結論付けるアイラにゴリアス達は眉間に皺を寄せ問い返す。

 アイラにとって狙われる事に理由がなく、あまりにも馬鹿らしいこととしか思えないでいた。自分達はただ、とばっちりを受けているだけで――目を細めてそう言う。理解が出来ない、何故そこまで自分達に拘るのかと目で訴える。


「まさか、自分がした事を忘れたわけじゃねえよな? いや、正確にはアイルという餓鬼か? 世界中で噂にはなってんじゃねえのか、いやもしかすると世界中で狙われるかもしれねえなぁ?」

「だから何でなの? 何も私達は何もしてないよ、それどころか世界中なんて見たことないよ」

「そうかぁ? アイルって餓鬼だろ、ディオールに歯向かった子供は」

「っ!!? な、なんでそれを貴方が知って!!」


 世界中で噂になっているかもしれないとゴリアスから煽られたアイラは再び疑問符を浮かべる。確かに世界中を見て回ると、グランと約束したがセレナーデ大陸しかまだ見ていない。それどころかセレナーデ大陸の全てだってアイラは見ていない。なのに世界中で噂になっているのか解せなかった。

 だが、アイルの名とディオールの名がゴリアスの口から出てきた瞬間、言葉に詰まり動揺を隠せずにいるアイラ。同時に周囲の青年達も動揺を見せた。


「嘘だろ……? なんであの餓鬼が戦ったんだよ!?」

「そ、それよりも生きてるか死んでるか不明だって俺は聞いたぜ!」


 動揺しているアイラの耳に青年二人の(ひそ)かな会話が入る。

 そう、そこでハッとアイラは思い出す。自分とアイルが居る世界の状況を。


「そ、そうだ……私とアイルは一年と半年もの時間――この世界に居なかったんだ」


 生死の行方すら不明なのは自明の理。最初からその時間内に二人は存在していないのだから。

 だから、誰も見つける事など出来ない。そもそも、見つける事など不可能な話。


「だからこそ、行方不明だったお前達が俺達の前に現れたことはまさに幸運と言わざるえない! クレセリア帝国の王ディオールに逆らった餓鬼を殺せば陛下は俺達、獣人を認めてくれるだろうからな!!」

「そ、それが理由――」


 つまり、この件を解決出来たとしても双子の旅には常に危険が伴うということ。それを聞いたアイラは俯いてしまう。

 俯いていると甘い香りがアイラの鼻を(くすぶ)った。気づけば足元に淡い桃色の輝きを放つ大きな魔法陣が発生していて、そこから霧のようなものが空間内を漂っていた。


「こ、これは? きゅ、急に眠気が……」


 他の者達にはない力を持っていてもアイラはまだ子供。今、発動されている魔法が何なのか分からず、警戒する事しか出来ずにまんまとそれに引っかかることも。


「魔法ですか! アイラ様、その霧を吸ってはなりません!!」


 魔法に耐性がないのか、既に大量に吸っていたのかアイラはふらふらと体が前後に揺れていた。

 ひと蹴り、それだけで届く瞬発力を持つキリエだが――キリエが動く前にゴリアスとバルカッスの二人に邪魔される。そして、妖艶な雰囲気の女が倒れそうになるアイラの元へと素早く移動すると、キリエに視線を向けて唇を釣り上げる。


「くっ! 私としたことが――」


 すぐさま反撃の手を繰り出そうと自らの血を紅い短刀に変化させて飛ばそうとする。

 しかし、すぐにその手を止めて眉間に皺を寄せては剥き出しの怒りを向ける。


「アイラ様を盾に……卑怯なことをっ」


 甘い香りを漂わせる霧によって深い眠りに入ったアイラを盾にしている姿に怒りを覚えるキリエ。同時に相手が魔法を使う相手だと予想しなかった自分に苛立ちを感じた。

 キリエとアイラの関係など僅か一日二日程度のもので、見捨てる事も考えられるがキリエはそうはしなかった。アイラがキリエのことをどう思っているのかは不明だが、少なくともキリエはアイラに対して特別な感情を抱いている。


「ふふっ、貴方が抵抗すればこの女の子の首を切るわよメイド」

「っ、分かりました降参です……」


 アイルやアイラだって知り得ないキリエの過去に双子が関わっているのか、すんなりと降参をする。

 紅い血で出来た短刀は再びドロりと溶けるように液体に戻り、手から落ちてはキリエの足元を赤く染め上げると、アイラを盾にした女は小さく笑う。


「ふふっ、従者でなければ私達を倒せたかもしれないのに。うふふっ、ここで貴方を殺すのも簡単だけどイース様の場所に来てもらうわよ」

「今回は獣人である貴方達の勝ちを譲りましょう。ですが、これで勝てたと思わないことです、ね」


 このまま黙って従えば良いものをキリエはあくまでも強気で、女を挑発する。もっとも、反抗には移さない。


「可愛げのない女、イース様の前でもそんな口が聞けるかしら?」


 まだ強気なキリエに肩を竦める妖艶な女。だが、キリエに対して接近しようとはしない。

 下手に近付けばアイラを奪われかねないからだ。ならば、今は堪えて任務を遂行する方が余程、まともなのだ。


「さてと、後はこの反乱の首謀者は誰だ? そいつもイース様に連れて来いと言われてな」


 アイラを捕まえた以上、これで終わりだと安堵していたレジスタンスの面々は途端にざわざわと騒がしくなる。

 真実は定かではないが獣人達の目的は、クレセリア帝国の王と戦った反乱分子の双子だけかと思っていたかで、その騒がしさに気付いたバルカッスがくぐもった笑みを吐く。


「くっふふっ、もしかして狙いは子供だけだと思っていたのですか? 堂々とブルゴーニュへ足を踏み入れたにも関わらず、隠しきれるとでも思っているとは。 実にお花畑ですね」

「ど、どういう事よ!! 一体、アンタ達は何が言いたのよ!!」

「もうネタはバレているのですよ? ブルゴーニュの警備兵が双子と同行するレジスタンスを見ていたと」


 あえてここで名指しをしないのはレジスタンスの仲を崩すため。


「私よ。私がこの首謀者だから」


 だが、素直に出てきたルキナ。そんなルキナに父親である町長は止めようとするが、ルキナはそれを無言で制した。


「る、ルキナッ!」

「駄目よ、ザザ」

「け、けどルキナだけじゃ!」

「大丈夫だから。 それに、ザザじゃ心配だもの」


 アイラを乱雑に抱えている女の下へ足を進めるルキナを止めるのはザザ。

 酷く動揺した様子でルキナの名を呼ぶが、ザザと違いルキナは落ち着いており、子供を(なだ)めるような優しい口調でザザを(しず)める。


「なっ!? お、俺だってな!!」


 まるで幼い子供を宥めた口調のルキナにザザは声を荒げるが、ゴリアスに睨まれて途中で言葉を切ってしまう。


「別に奪い返しに来ても良いんだぜ? 人間が俺達、獣人に勝てるわけもないがな!」


「ぐぐっ!」


 先程までキリエに押されていた人物とは思えない言葉だが誰も何も言わない。最初からレジスタンスの青年達は諦めているのだから。

 だから、歯を食いしばる事しか出来ない。そして、誰も言い返すこともしないで悔しがるだけ。

 最初から獣人に力で勝てるなんて希望は抱いていない。


「まあっ、無理だろうけどな! 本当に俺達に勝てると思っているのならもっと前に反乱していたからな!」


 コルネット王国がディオールの手によって滅亡したその一ヶ月後程に獣人イース率いる賊に侵略された。無論、それだけ大きな独立都市だったので警備兵もいて反抗はしたのだ。

 しかし、獣人には勝てず多くの死亡者及び負傷者も出し、結果としてイース達にこの街どころか島全体を侵略されてしまった。そして、植えつけられたものは力の差――


「さっさと歩きなさいメイド」

「分かっております――」


 歯を食いしばり拳を握り悔しがる青年達に背を向けて歩き出すゴリアス達。そして、四獣の一人である女に歩くように背を押され急かされるとキリエも黙って後に続く。

 ここでゴリアス達を人質にする事も可能だが、アイラの身柄が相手の手の内にある以上は実行には移せずにいた。そして、右隣には少し体が震えているルキナが歩いていた

 やはり本音としては怖いのだろう。自ら首謀者として名乗り出ても、敵対する者達の長と会うのだから。そして、待っているのは恐らく拷問に近いもので、それを想像してしまったのであろう。横目で見ていたキリエは右手で震えるルキナの左手を握る。


「ルキナさん、私の手で良ければ貸してあげますよ」

「え、あの……」

「気になさらないでください。貴方の気持ちは察していますから」


 小声でザザ達には聞こえないように話すキリエにルキナは目を見開いて小さくありがとうと呟く。

 黙って言うことだけを聞き歩くキリエを見て気分が良いのか、はたまた立ち尽くす今年か出来ない町民に気分が良いのかゲラゲラと笑いながら集会所周辺を立ち去るゴリアス達四獣。



 ゴリアス達が集会所から去ってから約三時間程の時が経った。それでも、殆どの若者達は話すことも一度帰宅する事もなくただ座り込んでいた。何も出来ずに足が(すく)み、戦ったのは結局のところ部外者のメイドと女の子だけという残された現実に後悔だけが溜まっていた。


「俺、何をしてるんだよっ……!」


 静寂だけの大広間でザザの悔しそうな声が皆の耳に届く。

 ザザの近くにいた者達の目に映るは拳を強く握り締めて打ち震えるザザの姿。その姿を見ても誰も何も言えずに顔を背けるだけ。

 

「昔は何時も助けてもらっていたのにっ、なのにっ!」

「ここも荒れてるのか~。 何があったのか皆は知ってるの?」

「あ、アイル!?」

「そうだけど、なんでそんなに驚くのさ」


 ザザ達が虚しく悲嘆(ひたん)していると、周囲の光景を見回しながらアイルが話掛けてきた。

 数時間ぶりに姿を見せたアイルにザザは目を見開き驚く。そんなザザの様子にアイルは疑問しか浮かばずに首を小さく傾げた。


「なんで、そんなにボロボロに……?」

「修行してただけだから気にしなくて良いよ。そんな事よりも何があったの、なんか戦闘の痕が残ってるみたいだけど」

「しゅ、修行?」

「そっ! だから、何かあったのかだけを教えてほしいんだ」


 上着の袖が破れていたり裂けていたりと、とてもじゃないが修行をして出来る服の破け方ではなくザザだけでなく他の者も不思議に思って見ていた。当のアイルは修行だと(にこや)かな微笑みを一つ落として肯定すると、削られた地面や破壊された壁に視線を向けて何があったのかをザザに確認する。

 先程の獣人との一件を語るザザ。その話を聞いているとアイルの表情は色々と変化する。驚愕、困惑など色々と見せながらも黙って聞く。そして、話を聞き終わると一度だけ目を瞑り――


「そっか! それなら助けに行こうか」


 再び目を開けると破顔(はがん)して買い物にでも行くかのような軽いノリで宣言する。

 そう、アイルを抑圧する者はない。アイラやキリエがこの場に居ないという事はアイルを止める者が一人も居ないという事実しかないのだ。そうなってしまえばアイルがする事など一つだけ。


(は、話を聞いてた、よなぁっ!?)


 だが、話をしたザザはそんなアイルの態度に心中で話を聞いていたのかとツッコミを入れた。

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