表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双天のステルラ  作者: なまけもの
変わり始めた世界
46/49

第46話

前回に引き続き今回も更新が遅くなって申し訳ありませんでした。

ちょっとリアル生活が忙しくなって執筆及び更新する時間があまりなかったもので、などと言い訳はダメですね。

一応、私情も大分片付いたので何時もどおり月一の更新を目指して頑張りたいと思います。月一の更新だと大して変わらないなぁw


それでは46話をどうぞ。

 依頼を断られたルキナは非常に納得のいかない表情でキリエの事を睨みつけており、幼馴染のザザは答えが分かっていたかのように溜め息を吐く。ルキナの視線にキリエは気付いているが涼しげな表情でそれを無視してい。


「アンタ達って旅人なんでしょ? このままじゃ島からだって出れないのよ、それなのに何で無理なのよ」

「ですから先程も申したように私はアイル様達の従者。主の命令もなく私はあまり身勝手な行動はしないのです、今回ばかりは貴方達が尾行していたので理由を聞くためにこの場を設けたにすぎません」

「なにそれ意味が分からない。子供から指示を待ってるなんて自分の考えがないわけ?」


 断られた理由が双子から命令を受けていない、だからその依頼を受けることは出来ない、そう断ってきたキリエに改めて理由を問い直したルキナ。やはりその理由は納得のいかないもので、主人と言っても青年でもない十歳前後の小さな子供に指示を貰わなければならない動かないキリエに幻滅さえしている。

 キリエとルキナの間で不穏な空気が生まれるがお構いなしに食事を食べ続けていたアイルが漸く口を開く。


「ごちそうさまー! ぷはーっ、満腹満腹!」

「アイル……相変わらずの空気の読めなさ」


 満腹になり満足げに自分のお腹を叩くアイル。それを横目にアイラはついつい何時ものことながらつい苦笑いを浮かべる。旅を始めて何度目だろうか、そう思うくらいにアイルはマイペースを崩さない。


「それでイースってどこにいるの? 今から戦いに行こうと思うんだけど」

「は、はぁぁあっ!? ちょっ、急に何を言い出すのよ!?」


 突発的にイースの所在を問われたルキナは爆弾発言に思いっきり立ち上がってアイルを見る。

 だが、アイルにとってイースは勝てる相手だと信じて疑っていないわけで仰々しく驚いていることに首を傾げるだけ。アイルの発言自体に何を言っているんだ自分達の耳とアイルの思考を疑い視線を向けている。


「アンタ一人で勝てるわけないでしょ!? イースがいる場所は屈強な戦士達が警備しているのよ!?」

「そうかなぁ、別に一人でも楽勝だと思うんだけどな」

「その自信は一体どこからくるのよ。アンタは人間で相手は獣人よ、身体能力の差は顕著なのに?」


 アイルの言葉を最初から無理だと断定するルキナ。イースのいる場所には鍛え抜かれた戦士達が蔓延る地区で近寄るのも避けたい場所だと語る。しかし、アイルはその話を聞いてもやはり大丈夫だと思えている。

 食い違う意見。自分に絶大な信頼を寄せるアイルの瞳に迷いはない。だからこそか、ルキナはアイルの根拠のない自信はどこからくるのかと本気で問いかけてしまう。


「種族なんて関係ないさ。強くなりたい気持ちは誰にも負けない」


 そう、アイルにとって種族の違いから生まれる差など躊躇う事や諦める事など決して理由にならない。

 自分はどこまでも強くなれるとそう信じて疑わないのだから。


「アイル様が戦うと言うのであれば私も力を貸しましょう。そろそろ私もイースの支配にはうんざりしていた頃ですし、分からせてあげるのも良いでしょう」


 そして、アイルがイースと戦うと宣言するとキリエもそれに便乗する。キリエ自身はイースの支配が始まってから特に迷惑行為を受けたわけではないが、心中では図に乗っており鬱陶しいと思っていたと露見した。

 キリエの言葉を聞くとアイルは立ち上がって今からイース達のいる地区まで行こうと促す。


「よしっ、それなら今から二人で奇襲しに行こうか!」

「お待ちくださいアイル様。一先ずはここを離れた方が良いでしょう、体勢を整えるという意味でも」

「ええー? 思い立ったが吉日って言うじゃん」

「万が一にも不確定要素が生まれればそれは敗北に繋がるのです。例えアイル様が強くてもそれは変わりませんよ」

「うっ! キリエの言う通り、かも」


 思い立てば即行動に移ろうとするアイルに制止を呼びかけるキリエ。荒くれ者との集団戦で実力は垣間見たので強いことは認めているが、実践に乏しく子供ということもあり甘く見ていることも今のアイルから感じられた。その為、足元を救われるかもしれないと注意を呼び掛ける。

 それを聞いたアイルは最初は渋っていたものの、ディオールとの戦いを思いだして苦い顔をしながらもキリエの言葉に納得した。

 そんな素直なアイルを見て一人珍しそうにしている者がいた。


(アイル? 珍しい、てっきりそんな事ないと言うかと思ったのに……)


 もしも、ディオールとの戦いで負けていなければアイルは天狗となりキリエの制止を聞かないだろう。それでも、あっさりとアイルが納得した事にアイラ自身も驚きがあったらしく、心中でどうしたんだろうと心配をしていた。


「というか、本当に良いのかよ? 島の問題に無関係なお前達に力を借りるだなんて……しかも二人は子供だし」

「なんだ、そんな事じゃんか。困ってるのなら手伝うさ!」

「うん、アイルの言う通りだよ。困ったときはお互いさまです」


 流れ的に手伝ってもらえる雰囲気だがザザだけ非常に申し訳なさそうな表情で双子へと視線を向けていた。アイルの方は自分は強いと思っており力を貸そうとしているが正直、二人の素性を知らないザザからすればただの子供にしか見えないし、心許ないこと極まりない。

 ザザの心配など知らない、気付かない双子は困ってるから力貸すのは当然だと口にする。ザザの目には自信が垣間見れるアイルの表情とそんなアイルを見て微笑むアイラの姿が鮮明に映る。


「それじゃ、一旦私達の村に行きましょ。そこでもっと詳しい話をするわ!」

「あ、私まだご飯全部食べ終わってない……」

「そ、そう。それなら貴方が食べ終わってから行きましょうか」


 話もひと段落したのでルキナとザザが現在暮らしている仮の住居区に移動することをアイル達に勧める。のだが、話を聞くのに夢中で食事の手が止まっていたアイラは今になって半分以上残っていることに気がついた。

 それを見てつい「ほんとにこの三人に頼んでもよかったのだろうか」とルキナは不安を覚えてしまった。



 都市ブルゴーニュを支配しているイースが居る地区は海賊や山賊など世間のはみ出し者が多い。しかし、荒くれの集まりと言っても路上喧嘩は見られず、酒場に集い昼からお飲酒していたりする。

 そして、その地区でも異様に広い屋敷。キリエが暮らしていた洋館よりも数倍は大きく庭も多くの女性によって手入れされている最中。庭の中心に獅子をあしらった噴水があり、水が吹き出ている。

 その屋敷の最上階の奥の部屋。そこには豪華絢爛とした大貴族や王族が鎮座するべき玉座があり、そこに堂々とした姿で座する大男がフォンニャを睨み威嚇していた。ただ黙って睨まれているフォンニャはその圧力に顔を上げることも出来ずにただただ、下を向くばかり。


「この俺に言うことはないかフォンニャよ」

「も、申し訳ございません……イース様」

「俺はお前になんと命令を出したか覚えておるか?」

「は! アイルとアイラという子供をここへ連行することです」

「だが、お前はおめおめと敗れ戻ってきた」

「は、はいっ!」


 最早、蛇に睨まれた蛙の状態にあるフォンニャ。眼力だけでも人を射殺せそうなイースの眼光はまるで肉食獣のようで側近のメイド達は竦み上がり小刻みに震えていた。


「ちっ、これだから人間は使えんのだ。おい、こいつを牢にでもぶち込んでろ!!」

「りょ、了解致しました!!」

「そ、そんな!? も、もう一度チャンスを!!」


 双子に二度邪魔をされ失敗しているフォンニャにイースはもう失敗を見逃すことはなく、フォンニャの言葉に耳を貸さず別の事を考えていた。


(やはり一筋縄(ひとすじなわ)ではいかんか。子供とはいえ、あのディオールが殺し損ねたと聞いたからな。だが、その子供を俺が殺したとなればさらに上に行くことも……そう、俺の野望の為にな小僧ども!!)


「イース様、先程ですが双子がルキナと共に街を歩いていたのを見た者がいるそうです!」

「――ほう。ルキナとは確か今、俺達を倒そうと目論むレジスタンスの一人だったはずだが、黙って見過ごしておけば調子に乗ってきたか」

「どうなされますか?」

「ククッ、少しばかり痛い目に遭わせるのも一興か」


 ディオールが倒しそこねた子供。つまりアイルの事を指しており、アイルを殺す事で野望に近づけることに真剣な表情をしているイースに側近の兵士が話しかけてきた。

 ブルゴーニュ地区の元長の娘ルキナが、双子と行動していることを聞きニヤリと唇を釣り上げた。


「四獣を呼べ。ククッ、痛い目に遭うと同時に小僧どもにも死んでもらおうか」


 どちらも刈り取れる絶好の期を逃すまいとイースは兵士に四獣の召集を命じる。

 命じられた兵士は敬礼して部屋を出て行った。



 昼食を食べ終えたアイル達はルキナの後を着いて行っている途中だった。

 先に前を歩くのはルキナとザザの二人。そして、その後ろをキリエとアイラが仲良く話しながらルキナ達に続き、アイルは後頭部に両手を組んだ状態で街中を見回しながら着いて行っている。

 そんな三人をチラッと首だけ後ろに向けて見たザザはルキナに本当に任せても良いのかと疑問を抱き、小声で改めて確認していた。

 ちょっと自信家な少年と気の弱そうな少女、そしてメイドの組み合わせに強い不安を覚えるのは仕方がない。


「ホントに大丈夫なのか……? 男の子の方とか凄い自信家なんだけど」

「わ、私が知るわけないでしょ? あのメイドが強いのは確かなんだし」


 それでもキリエが強い事は既に証明されている事実で力を借りれれば大きなものとなる。例えその素性を知らなくとも力を頼れる。


「それでも認めてくれるのか? キリエさんの事は認めてくれてもあの二人はさすがに無理なんじゃ」


 三百六十度どこから見ても双子は子供。そんな子供が力を貸すと言って果たして誰が認めてくれるだろうか。それどころか門前払いをされるのが関の山。

 もっともルキナが連れて来たのであれば話ぐらいは聞いてもらえるだろうが、ほぼ間違いなく認めてくれることはない。そんな気がしてならないザザは再びアイルの方へと視線を向ける。すると、視線が合いアイルは子供らしい笑みを浮かべて、ザザは――ついそっぽを向いてしまう。


「やっぱ普通の子供だろ」

「そ、そうだけど……仕方ないじゃん!? 私だってホントならエレスティスとか王国の騎士団とかにも頼みたいわよ」


 手助けしてもらえることはルキナにとっても嬉しいものだが、それはあくまでもキリエだけの話。

 双子が力を貸してくれると言った時は本気で断ろうとしたのだが、相手は子供で断ることがルキナには出来なかった。そして、不満はやはりあるもので可能ならば世間を騒がしているエレスティスや王国の実力者の力を借りたいのが彼女の本音。


「それに、あの子とか特に戦いとか凄く嫌いそうだし……なんか戦わないといけないから戦うって感じだし」

「それは俺も思う。自分から進んで戦うような子じゃないと思うんだが、なんでだ?」

「私が知るわけないでしょ」


 さらに追い討ちをかけるのはアイラだった。

 自分から進んでこの話を乗るような雰囲気は感じられない印象が強いアイラが何故、手を貸すのか理由を問いたいぐらいだった。

 ルキナとザザのどちらも知らない、だからこそ気になって仕方がなくついキリエと話しているアイラを見てしまう。


「うっ……見られてる」

「少し失礼な方々ですね。一応、注意しておきましょうか?」

「そ、そんな事でしなくて良いよ。そんな風に思われるのは慣れてるから……」

「アイラ様がそう仰るのであれば――」


 ルキナとザザの二人の意外そうな視線に気付いていたアイラは何時もの癖のように俯いてしまう。その視線の色はこれから起こそうとする事をする少女には見えないという思いが見え隠れしており、キリエはそんな目色をしている二人に注意をしようと右足を一歩踏み出そうとする。

 しかし、それはアイラにとって日常的にも旅をしている時にも向けられていた視線なのでアイラ的には慣れていると説明しキリエを止める。それを聞いたキリエも僅かに不満を残しつつ納得した。


「でも、キリエさんも少しは思うでしょ? 私もなんであんな事を言ったのかちょっと不思議なんだ……」

「アイラ様のことをまだ深く知らないので何とも言えませんが、確かに雰囲気や言動から反乱に手を貸すようなタイプではないと思っています」

「そうなんだよね、やっぱり――」


 アイラ本人もクーデーターに加わることに疑問を抱いていた。

 戦いを避ける傾向がアイラにはあり、実際にフォンニャが引き連れてきた数十人弱の荒くれ者との集団戦も避けうとしていた。簡単にアイルに言いくるめられて簡単に戦いを許してしまったが、少なくともアイルやキリエと比較しても戦いは好まない性格をしており、キリエもそういう子供なのだ認識している。

 結局はアイラ自身が知っている自分と他者の知っているアイラの性格はやはり同じもので、アイラもキリエの言葉を聞き否定するどころか納得さえした。

 それでもアイラはどこか決心を固めた瞳でどこか遠くを見ており、キリエは何か察したのか目を細めてアイラの幼い姿を目に焼き付けていた。



 ブルゴーニュから約五km離れた先に小さな村に到着したアイル達は村を見学することもなく、ルキナの自宅。つまりは本来ブルゴーニュの長であったルキナの父が居る家で話を聞いていた。

 そこにはザザやルキナと同年代の若者やそれよりも年齢が上の者達が集まっていた。小さな村と言っても集会が出来る程度の集会所も兼ね備えており、殆どの者達がまるで値踏みでもするかのように双子主にキリエを見ていた。

 数百人は軽く入るだけの広さはあり、ルキナ達と同じ反乱意思を持つ者達の集団にアイルは感嘆の声をもらす。


「ひゃー、こんなに若い人達も戦うんだね」

「わ、私達よりも年上だよあの人達」

「それもそうか! でも、これだけ大人数ならイースって獣人を倒すの楽勝なんじゃないの?」


 ルキナから父に会って話を聞いてもらいたいと頼まれていたのだが、まさか大勢に出迎えられるとは思わなかったアイル達は最初に訪れた時は目を丸くした。

 ビックリしたもののアイルは既に何時ものペースに戻っており、キリエはアイルとアイラよりも一歩後ろに下がり従者として周囲に気を配り警戒をしていた。


「楽勝だと……?」

「おい今、何を()かしやがった?」


 悪気のないアイルの失言を聞いた青年達はアイルを睨み付ける。

 鋭い視線を一気に集めたアイルの付近にいたアイラはビクッと小さく震え、アイルの左裾(すそ)を右手の親指と人差し指で掴む。


「ひっ!?」

「ん、急になんで睨むんだよ? 何か可笑しいこと言った?」


 アイルはアイル睨まれている事が理解出来ずに今の状況に首を傾げてしまう。

 不穏な空気が流れ始めた集会所。失言を生産するアイルにキリエは呆れた溜め息を一つ吐いてしまうが、手を出そうとはせずに黙って見守ることに徹していた。

 例え子供の戯言(ざれごと)でもイースからの圧政(あっせい)に苦しんでいる彼らにとって、今のアイルの言葉はあまりに配慮の感じられない禁句だった。そして、アイル本人はそれを悪いとすら思っていないのもあり一気に敵に回してしまっていた。


「ちょっ、ちょっとアンタは少しは考えて物を言いなさいよ!!」

「ルキナよ。この者達がレジスタンスに入りたいと言う者達なのか?」

「この子供達じゃなくてメイドの方なんだけどお父さん。とにかく、メイドの方は出鱈目ってぐらい強いんだから!!」

「なんと? こんな美しい女性が戦うのか!?」


 失言を吐いたアイルを怒鳴って咎めるルキナに声を掛ける男性がいた。ルキナはその男性のことを父と呼び適当な紹介をした。

 デスクワークが多いはずの町長にしては中々に体躯の良くダンディズムが感じられる。恐らくイースに反乱する為に修練していたのだろう。

 ルキナがキリエの事を紹介すると町長は目を見開いてキリエの事を見て驚く。

 年齢は二十代前後の美しい女性。そんな女性が争いごとをすることが有り得ないと言いたげな表情をしている。


「ええ、アイル様が戦うと仰ったので当然、私も力を貸しますよ」


 主人のアイルが戦うのだから当然だと涼しい顔で頷き肯定するキリエ。

 しかし、キリエの言葉を聞くと周りがざわざわと騒がしくなった。

 その理由はアイルが戦うと言ったという言葉に周囲が落ち着かなくなったのだ。この町の人々はアイルが一体誰なのか分からなくとも、見知らぬ人物が三名しか居ない以上、アイルは子供なのだと充分に答えを導き出せる。故に、動揺を隠せずにはいられない。


「こ、こんなガキがやっぱり戦うのかよ!?」

「ははっ、そりゃ冗談だろ。そうだろルキナ?」

「それに子供がそんな危険な目に遭うのはいけないと思うけど」


 口々に発される言葉は疑いの言葉で時折、子供がそんな危険な事に参加することを咎める者も聞こえてくる。

 しかし、そんな言葉の数々は双子そしてキリエも予想通りで動揺はなく涼しい顔をしていた。特にアイルは自分のことながら興味なさそうに後頭部を両手で組んで適当に時間が過ぎるのを待っている。


「アイル様、すごい興味なさそうですね」

「うん。だって、ダメって言われても戦うから!」


 そう、戦う事を断られようがアイルにとって問題ではない。自分が戦いたいから戦う、そこに許可など必要なくアイルは戦う気満々である。


「ホントに子供を戦わせて良いのかよ? 死ぬかもしれないぜイース達と戦ったら」

「下手すればどこかの闇市場の商品にされるかも」

「そうよ。貴方達はそんな目に遭うかもしれないのに本気で戦うつもりなの?」


 いくらアイルが冗談でも禁句を言い放っても見た目は十歳前後の子供。誰もがアイルが戦おうとすることを拒否している。

 怖い目に遭うと脅しをかければ怖くなって戦おうとしないのではと考えた青年達は、考えられる最悪の結末を口にする。


「ははっ、大丈夫だって。多分、そんなことにはならないよ」


 青年達の言葉を聞いても軽く笑う程度で済ませるとアイルは一人その場から離れて行く。


「ちょっ、アンタ何処に行こうとしてるのよ!」

「散歩ーっ! このまま話してても時間の無駄だから暇潰ししてくる」


 話は終わってないが一人で勝手に集会所から出て行こうとするアイルに声を掛けるルキナ。だが、アイルは聞く耳を持っておらず散歩だと言って集会所から歩き去って行った。


「もう勝手にしなさいよ! まったく、自分勝手なんだからあの子の両親はちゃんと育てたの!?」

「す、すみません……昔からだからアイルは」

「別にアンタが謝る必要はないと思うけど?」


 本人よりも双子のアイラの方が反省していることにルキナは若干戸惑ってしまう。



 集会所から一人抜けて来たアイルは家の屋根から屋根へと飛び越えながら平原の方へと向かっていた。

 目指すは動き回れるぐらいに広い空間。しかし、移動していたアイルは人の集まりを見つけて移動をやめて屋根の上からそれを見る。


「んんっ? なんであんなに人が集まってるんだろ、それにしても柄の悪い人も多いな~」


 アイルの場所から人の集いまで約3kmの距離があるがアイルには一人一人の顔をハッキリと認識出来ており、集まった人の大半がブルゴーニュで出会った荒くれ者ばかり。

 その中でも四名だけ異彩を放っていることにアイルは気付く。雰囲気的には蛮族のそれには近いが荒くれ者よりも賢そうに見えた。だが、興味はそれまでのアイルは再び平原の方へと駆けて行った。アイルはきちんと周りを見ていなかった。集団の集まりに脅える村人達、そして理不尽に暴力を振るわれている村人を。


「イースさんが言ってたガキがいんのかよ?」

「私が知るわけないでしょ。君達は子供を金髪碧目の子供を見ていませんか?」


 イースよりも筋肉隆々な男と賢そうな男が面倒そうにアイルのことを探していた。

 もっともその下には二人に殴られたり蹴られたりした村人が倒れ込んでおり、賢そうな男が悶え苦しんでいる商人に質問をした。質問された商人は殴られた腹部を抑えながら掠れた声で返事を返す。


「こ……子供なら……集会所の方に……」

「そんな人が集まる場所にいんのか。良い見世物になりそうだなこりゃっ!!」


 集会所がある方向を指した方を筋肉隆々な男が見るとゲラゲラと馬鹿笑いをしながら良い見世物になると言う。それに続くように賢そうな男もニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべて筋肉隆々の男に続く。

 そんな二人の悪趣味に呆れるように肩を(すく)める妖艶(ようえん)な金髪の女性と初老の男性は無言で二人に続いていく。目指すは当然、アイラとキリエが居る集会所。


 その頃、アイルは既に平原にたどり着いており蒼白い煌きを全身に纏っていた。

 先ず、数回ほど両手とも握り拳を作る動作を行い腰を軽く回したりしている。たった、それだけの動作だがアイルの額には僅かに汗が流れていた。そして、小さく息を吐く。


「ふうっ、やっぱり二倍でも結構きついな。ディオールとの戦いで二倍だからなぁ、せめて五倍は持続出来るようにはなりたいなっ!」


 自身の能力を一時的に全て上昇させる強力な技だが、その代償としてアイルの体力と気力を大きく削ぐデメリットがありそれを克服する為に修行をし始めていた。

 軽く大地を蹴るだけで地面を砕き雑草が飛び散って幾つものアイルの残像を周囲に残して行く。アイルが大地に拳を叩き込むそれだけで、アイルを中心にその周辺の地面は揺れては陥没を起こす。


「でやあああっ!!」


 振り抜くは大砲の威力をも遥かに上回る拳の数々。それだけで衝撃波が発生し振り抜いた前方の岩を粉砕していく。


「こんなんじゃディオールには勝てないよな~。しかも、悪魔みたいに変化してたしアレがまだ未完成な状態ならちょっとヤバいよな」


 思い返すのは生まれて初めて経験した完全敗北。経験が少ないとは言えアイル自身は勝つ自信はあったが、予想外の再生能力と変身に負けた。勿論、それをアイルは言い訳にはしないしその先のことを考えてしまう。

 ディオールが見せた異形への変化はアイルの中で必ず戦う中で頭に入れておかなければならないもの。二倍を引き出した状態で戦ってはいないものの、攻撃を受けた時点で叶わないことはアイル自身が一番知っていることで、あれがさらに変身するのであれば次は死ぬことも考えられた。


「よしっ、もっともっと強くなるぞ!!」


 そこから始まるのは超高速から繰り出される拳打の数々。途中で魔物がアイルを食らおうと飛び掛かったりするが空振りに終わったりしている。

 飛び散る汗は陽の光を浴びて煌き、草が舞い大気が僅かに震える。アイルの修行はまだまだ続きそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ