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双天のステルラ  作者: なまけもの
変わり始めた世界
45/49

第45話

前回の更新の約一ヶ月とはなんたる遅さ。

これも再び仕事が終わってからすぐにベッドへ足を運んでしまうという腑抜け根性のせいですね。

皆さんはそんな大人にはならないように!!

さて、45話目ですけどなんですかね一向に話が進みませんやん!!w


それでは、また次回!!

 睨み合うキリエとフォンニャ。互いに動きは見せないが戦闘能力を持たないフォンニャではキリエとまともに戦う事すら出来ない。

 そして、キリエの実力を存分に味わったアイルは下がっていろなど退避の言葉すら出さないでいる。唯一、アイラが一人であたふたと今の状況に困り慌てるぐらいなもの。


「あ、争いごとはダメだよー……」


 今にも乱闘が起こりそうな雰囲気にアイラはアイルの背後に隠れて小声で争いを止めようとする。


「アイラ、多分それ聞こえないから」

「うむむっ! あ、アイルは平然としすぎなんだよ」

「そう? まぁ、なんとかなるよ」

「呑気すぎるよ!?」


 小声で言ってもアイラのか細い声がキリエやフォンニャ達に届くことはなく、アイルから届いてないと指摘されてしまう。

 アイルと話すのならば普通の声量で話せるが、知らない者達。それも筋肉隆々で強面(こわもて)の男ばかりだと気弱なアイラは声の音量が一層下がる。

 指摘されたアイラは頬を膨らませてアイルは平静としすぎだと言う。

 三名の状況としてはフォンニャから身に覚えのない言いがかりをつけられて荒くれ者達に囲まれたこと。そこからは想像しやすく、アイラとしては今にもこの場から立ち去りたい気分であった。


「お前達、こいつらを引っ捕えろ! そして、イース様の下へ連れて行く」

「イース……このブルゴーニュを現在支配している獣人ですね。何故、彼の下へ連れて行こうとするのですか?」

「私は知らんさ。ただ、イース様にそこのガキの事を言えば連れて来いと仰ったからな」

「そうですか。それを黙って見過ごすとでも思いですか?」


 ブルゴーニュを支配しているイースという獣人が主人である双子に興味を示していると察するとキリエは凛とした表情で臨戦態勢に入る。そして、フォンニャから

 長らく島に滞在していたキリエはイースと呼ばれる獣人の事も知っているのか、連れて行かれることを阻止しようと考える。


「獣人? なんでそんな人がボク達の事を知ってるんだろ」

「知らないけど、あまり喜べないよ」


 間違いなく狙われていることだけは理解出来た二人は心から喜べずにいた。

 そんな、三名を取り囲んでいた荒くれ者達はフォンニャの命令を受けてニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら、それぞれが手や首の骨を鳴らしながらジリジリと接近する。


――真夜中なら私がさっさと終わらせていたのだけど。日中だと出れないのが歯痒いわね。

(この程度の(やから)に本気を出す必要もありませんけどね、ですがあまり騒動にはしないでほしいとの願いもありますので戦うに戦えないのが現状ですけど)


 戦えば簡単に相手取れる敵に違いはないがアイラから騒動にはあまりしたくないと言われているので戦おうはしない。


「アイラ、囲まれてるし戦うしかないんじゃないの? 囲まれなかったら戦わずに逃げれてたけど」

「う、うん……仕方ないよね。あの、キリエさん戦って良いですよ」


 このまま避けるに徹して逃亡も不可能ではないが時間は掛かる。その事を見込んでアイルは戦う事を許可してもらおうとしていた。それはアイラから見ても充分、理解の内なのでキリエに戦うことを許可した。

 その声を聞いた瞬間、キリエはまるで消えるかのような速度で立っていた場所から姿を消した。あまりにも突然にキリエの姿が見えなくなり荒くれ者達に動揺が走って周囲を見渡す。音沙汰もなく消えるそれはまるで暗殺者のようで。


「ぐあああっ!?」

「うわああああっ!?」


 大の大人達が悲鳴をあげていくその様はフォンニャを恐怖させるに充分で――

 血飛沫(ちしぶき)をあげる荒くれ達の体。肩を外されたのか(ひざまず)き左肩を押さえる者など関節技をかけられて苦しむ者も大勢いた。

 一切その姿を捉えられない荒くれ達は恐怖に戦意を削がされていた。相手はただの女で服装からして、ただのメイドに過ぎないと思い込んでいた。


「くそっ! だったら、あの小娘をねらっ!?」


 キリエが倒せないのであればアイラを狙えと荒くれ者に命令を下そうとした瞬間、目にも止まらぬ速度でフォンニャの横を通り抜けた。

 右頬に痛みを感じ右手でそこに触れると血が僅かに付着し頬が切れている事に気付く。


「次にアイラ様を狙った場合、その醜悪な顔を今度こそ本気で突き刺しますから」


 荒くれ者達の上に立つキリエがフォンニャに短剣を向けたまま威圧する。

 あまりのコントロールの良さにアイルは純粋に凄いと拍手を浴びさせる。アイルの拍手に気付いたキリエは微妙に照れていた。そして、アイルとアイラの方へと歩み寄ろうとした時にキリエはアイルに対して叫ぶ。


「アイル様、後ろです!」

「どう、うわああっ!?」


 キリエ一人で終わらせれるからと余裕を持っていたからなのか背後を取られたアイルは後方から組み付けられる。そして、身長差が大きい事もありアイルは簡単に浮かされてしまう。


「私としたことが……!」

――放っておきなさい。これくらい自分でどうにかするでしょ、あの子はあんな奴では押さえられないし。

「確かにアイル様はスピードは速いですが力はそんな……はず、って」


 気が抜けていたと自分の失態に悪態を吐きながらも助けに行こうと足に力を込めようとした時、もう一人の人格が制止を呼びかけた。

 体格差などアイルにとって問題ではないし自分でどうにかするのだからともう一人の自分に止められたキリエはやや納得のいかない表情をする。スピードに関しては卓越(たくえつ)したレベルにあるが実際の戦闘能力の方は表に出ているキリエは知らないので不安があった。そして、失礼と思いながらも呑気な性格が大きく戦闘向きではないと思っているぐらいだった。

 そんなキリエの不安など杞憂だと訴えるようにアイルの元気な声が耳に入る。


「うりゃあっ! 腕が使えればこっちのもんだい」

「ぐふっ!?」


 両腕が動かせるアイルは右腕で男の腹部に強烈な肘打ちを叩き込む。元々、ディオールや巨大な魔物とも戦えるだけの力を持つアイルの肘打ちをちょっと鍛えた程度の男が一撃でも受ければ血反吐を吐くレベル。

 男はその痛みに顔を歪ませアイルを手放してしまう。その隙を衝いて、さらなる追撃に移るアイルだが寸前で攻撃の手を止めた。男は血反吐を吐いてゆっくりと膝をつきうつ伏せに倒れ込んだ。


「っと、危ない危ない。さすがに殺すわけにはいかないや」


 このまま攻撃を決めれば男にとって致命傷となる。それはアイルが望んでいないことなので攻撃の手を止め、コンクリートを蹴り素早く他の荒くれ者との距離を縮めて腹部に拳を叩き込む。アイルの移動速度に反応出来ない荒くれ者はそのままなすすべもなく拳を受けて跪く。

 まさにそれは刹那の出来事で立っている荒くれ者どもに動揺が走る。女性一人と子供二人を引っ捕えるだけが、逆に多くの犠牲を出していることに驚き慄く。


「マジかよ……こいつら化け物だぜ」

「聞いてないぜこんなに強い奴らだなんて……」


 数十人といた荒くれ者どもも十分も経たぬ内に立っている者が数人のみと減っており残った者達は恐怖し、キリトアイルの二人を見て震える。特にキリエの方に視線が注がれているが。

 そんな荒くれ達の様子に怒りを覚えワナワナと震えるフォンニャは、息を吸って怒声を上げようとした瞬間、自身の体に違和感を覚える。首元には冷たい薄い鉄の板しかし、僅かに痛みが首元に走る。


「このまま続けるというのであれば私は即座に貴方の首を落とすことも構いませんが?」

「うぎっ……!」


 足音すら聞き取れないほどの抜き足でフォンニャの背後をとっていたキリエは耳元でこれ以上続けるのであれば殺すと囁く。絶世の美女とも言えるキリエの声を耳元で囁かれてもそこに含まれる殺意に恐怖を抱き顔を青褪めるフォンニャ。

 怒鳴りつけることも止め、悔しさに歯軋りをする。


「もう用がないのならさっさと先に行くけどいい?」

「答え、聞いてないよアイル? けど、私もあんまりここに居たくないから」


 絡まれた理由がこの街の長から連れて来いと命令されたと言われたことなど既に忘れているのか双子はさっさと歩いて行った。

 特にアイルは自分から質問していながら返答は聞かずに堂々と大通りを歩き、アイラは体がビクビクと震えてはいるが居心地が悪いのでアイルの後に続く。その二人の姿を見てキリエもフォンニャを解放し何事もなかったかのようにそして、双子を見守るように一歩下がって歩く。

 そして、最後にチラリとキリエは背後を見る。家と家の路地裏の方へと視線を移し、軽く笑みを浮かべると前を向いて双子を追う。


「くそっ! なんなんだよあのガキ達は!!」


 騎士や下級兵士のように真っ当な鍛錬(たんれん)を受けていない荒くれ者達を引き連れてきたにも関わらずまるで些細(ささい)(くだん)としか思われなかったこと。そして、想像を上回る強さの三人に悔しさを抱き、フォンニャはコンクリートをおもむろに蹴って苛立ちを叩きつける。

 彼の耳に聞こえるは今先程の件を見ていた人々。ある者は笑い、ある者は陰口をそんな集団の中に入ってくる二人の青年。一人は男で一人は女の二人組は身体的年齢はエレスティスと然程変わらないぐらいである。

 服装は旅人が着るようなものではなく、この島の住民だと想起(そうき)させる。


「今の見た? 特にあのメイドの方、とんでもない強さよちょっと話をしに行くわよ!」

「そ、そりゃあ見てたさ。確かにこの島全体の問題だから関係ないとはいえなくはないけど、明らかに旅行者のしかも子供連れの人に力を借りるなんて流石に図々しいだろ」

「それでも私はアイツからこの島を取り返したいのよ! アンタは悔しくないの? 好きなように島を牛耳って他の村や町からは不満の声が上がってるのよ!?」


 建物と建物の影からキリエの戦いを見ていた女の方は男の方に先程の場面を見ていた二人組。

 キリエの強さに魅せられた女は待っていましたと言わんばかりの勢いで歩き去って行く三名を追いかけようとしていた。だが、男の方は女の意見には快く賛同出来ずに渋っていた。

 男から見た三名は道楽で旅をしている貴族という印象。服装的にはそう思われないが、内向的で大人しげなお嬢様な雰囲気を僅かにもつアイラとメイド服を着込み、落ち着いた保護者という立場にも見えるキリエ。この二人の関係から旅行者という答えを男は導いていた。

 戦闘能力は確かに凄いものはあるが、やはり旅行者に自分達がこの島が抱えている問題を一緒に解決してもらうという考えには躊躇いがあった。

 それは女の方も重々承知しているが、一年半前ぐらいにやってきた現在の島の長の好き勝手やっている政治に住民達の不満の声を聞き女もまた不満を持っている為、今の状況を打開しようと考えていた。


「そりゃ、俺も同じだけど。無関係な人達を危険な目に遭わせるわけにはいかないだろ、話し合いでどうにかなるのなら苦労はないし」

「兎に角、着いて行くわよ! 話を聞いてもらうだけ聞けば良いじゃない!」

「分かったよ。まったく……」


 こうと思ったら直進するタイプの女に引っ張られながらやれやれと呆れながらも一緒に着いていく男。



 ブルゴーニュの大通りをホクホク顔で歩くのはアイル。理由は簡単で、これから食事を取りに行くからだ。

 本来ならキリエ行き着けの換金所で宝石類を換金する予定だったが喧騒を起こしてしまったので別の店で換金してきたのだった。換金して得た額はかなりのもの。


「それでは料理店に行きましょうか。そこでお話でも、ね?」


 それは双子に言ったのだろうか。それとも後ろから着けて来ている二人組の青年に向けて教えたのだろうか。

 真実を知っているのはキリエだけである。

 比較的安全な地区という事もありお洒落な料理店も多く見られ、ちょうど昼頃なのか空腹を刺激する匂いを嗅ぐことができる。


「もうお腹が空いて限界だったから沢山食べるからね!」

「ええ、お金も充分にあるので存分に食べられてください。アイル様とアイラ様は育ち盛りなのですから特に」

「やったね! 早く行こ、そこら中からいい匂いがしてたまらないよ!!」


 漸くご飯が食べれると分かるとアイルはキリエに沢山食べると宣言する。

 アイルの言葉を聞いたキリエは軽く微笑みを浮かべてお金は充分にあるから思う存分に食べて構わないと了承を出す。それを聞くと嬉しくなりアイルは小走りになる。

 まるで犬のように鼻でレストランから漂う料理の匂いに(よだれ)を流し、それを右手で拭いてはガラス越しから店内を見る。


「アイルはしたないよ……」

「けど、どれも美味しそうなんだよ!? ハンバーグやステーキ、カルボナーラ、クリームシチュー、見るだけで食欲を刺激されるっ! アイラも見てみなよ、絶対に食べたくなるからさ!」

「もうっ、しょうがないんだから」


 動物のように尻尾があれば元気よく左右に動いていることだろう。アイルから一緒に見るように催促(さいそく)されたアイラはやれやれと呆れながらも同じように窓からレストランの内装を見渡す。

 三ツ星レストランではなく城下町や大きな自治都市であればどこにでもありそうな普通のレストラン。そこそこ人の出入りもあり繁盛している。店員が運ぶ料理を見てアイラも小声で「あ、美味しそう」と呟く。すると小さな腹の虫が鳴って、アイラは恥ずかしいのか顔を紅潮させる。


「い、今の違うから! なんにもないから!」

「ねっ凄く美味しそうでしょ!」

「うん……私もお腹減った」


 お腹の音が鳴った事を必死に否定するアイラだが、そんな事はさもどうでも良いというか気にも止めていないアイルは「美味しそうだよねっ」と同意を求めていた。

 追求されていない事に安堵したアイラはアイルに同意してまだちょっぴり恥ずかしいのかぎこちなく笑い、自分もお腹が減ったと言う。


「ふふ、それでは入りましょうか。ずっと窓から見ていると不審者と間違われますから」

「「おー!」」


 このまま子供らしい二人を見続けるのもキリエ的には全く構わないが周囲から変な目で見られてしまうので、店内に入る事を勧める。その言葉を聞いて二人ともるんるんと僅かにテンポの良い歩みで店内に入って行く。

 扉を開けると扉の上に飾られているベルが鳴り、その音に反応し店員達が元気よく挨拶をしてきた。

 一人の店員が三人を空いている席に案内し一礼すると厨房の方へと戻っていく。既に机の上に置かれているメニュー表を広げるとアイルとアイラはメニューの値段に唖然とした。


「うげえっ、なんだよこれ!?」

「た、高い……キリエさん、こんな高いの頼んでも良いの?」


 とてもではないが旅人が入店出来る額ではなく、双子はひどく吃驚しアイルは声を上げていた。

 流石に大声では言わなかったがアイラも高額だと思うほかなく、本当に頼んでも良いのかと尻込みしキリエに確かめる。


「構いませんよ。換金しているので寧ろ私達は金持ちな方ですし、私は葡萄酒(ワイン)を飲みたいのでやはりレストランの方が良いのです」

「あ、たまに爺ちゃんが飲んでたやつだ。あの匂い苦手なんだよな、なんか凄い変な匂いがする」

「子供にはまだ早いですからね。年を取ればその味の良さが分かりますよ」


 金銭面はキリエが持参していた宝石や装飾の類で解決出来たが決して双子のお金ではない。その為、割りと高い値段のメニューを選ぶのを渋ってしまい、アイラがキリエに確認をとると微笑みながら了承した。そして、キリエは葡萄酒が飲みたいのでレストランを選んだのだと語る。

 確かにレストランや高級宿屋でなければ葡萄酒などメニューには書かれない。それだけ、葡萄酒というのは高価な飲物。安物でもそこそこ値段はし田舎であった山奥の村では極希にしか飲めないことを思い出すアイル。一度、美味しいのかと試しに飲んでみたがアイルの気には召さなかったらしい。

 お酒という飲物はやはり時を経て大人にならなければその味は分からないもので、微笑みを浮かべながらキリエは年をとれば良さが分かると言う。


「さらに言うとこのブルゴーニュは元々、葡萄酒によって栄えた街ですからね。ですから、私はここに滞在していたのもありますし」

「葡萄酒ってそんなに儲かるものなの?」

「最高級にもなると瓶一本でも、このメニューに載っている料理のどれよりも高いですよ。そういうものは王族や貴族の方々が多く飲まれていますけど」

「そんなに!? 世界って凄い……」


 まさか葡萄酒の瓶一本にそれ程の価値があるものとは思いもしなかったアイラは開いた口が閉じなかった。

 さらにキリエの口振りからだとキリエはその最高級の葡萄酒を買った事がありそうである。

 その後、メニューを決めると店員を呼びメニューを店員に伝達し待っている間に時間を潰すように駄弁るアイル達。特にアイラは聞きたい事が山ほどあるので失礼と思いながらも質問をし始めた。


「あのキリエさんは、長い年月を生きてるんだよね?」

「そうですよ」

「そしたらエレスティスっていう人を知らないですか? それとファゴット王国が今、どうなっているのか少し知りたいんだけど……」

「エレスティス? 亡国の姫君もしくは紅蓮の舞姫と世論の中心にいる少女ですね、彼女のことがどうなされましたか?」

「生きてる……? ホントに生きてるの!? よかった、ほんとによかった!」


 アイラの質問はエレスティスの生存確認とファゴット王国のその後であった。

 修道院で聞かされた事実は衝撃的なものばかりで一年半という短期間に二つもの帝国が建国されていることに悪魔の存在を感じていた。とても、人間が出来る所業ではない。ならば、そこに関与しているのは悪魔なのではと思うことは間違いではない。

 そして、クレセリア帝国が建国された大陸上にはファゴット王国が大陸内に属しており、さらにその奥地には故郷があり育て親グランと友人となったエレスティスが心配なのだ。

 エレスティスの名を耳にしたキリエはアイラに説明をする。今、世間で話題になっている存在であるということを。その言葉を聞きエレスティスが生存していると胸をなで下ろした。そんな話をしていると店員が飲み物の準備が終わり三名の座っているテーブルの方に持ってきた。

 店員が持ってきた赤ワインとオレンジジュース二つ、それぞれ口につけるとキリエが次に言葉を紡いだ。


「アイラ様……エレスティス姫君をご存知で?」

「うん、エレスさんは私達の友達なの!」


 アイラの素振りを見る限りでは知人なのだとキリエは推測する。でなければ姫君を心配する理由が双子にはないからだ。関係性を問われたアイラは嬉しそうにエレスティスを友達だと答えた。


「友達、ですか。彼女には会ったことはないですが仲間を集めていると聞きましたね。この島が外海から閉ざされても情報はそこそこ集めることが出来ますから、恐らくは本当のことだと思われます」

「仲間を……? どうして?」

「クレセリア帝国を打倒することが目的かと。そして、ファゴット王国は現在――クレセリア帝国と交戦中でしょう。同じ大陸に在るというのですから」

「で、でもどうやってそんな一年ぐらいで国を建国できるの!? 国を創るには沢山の人や道具そして時間が必要なのに」

「諸説ありますが有力な説では悪魔と契約をしたということでしょうか。そうすれば神をも冒涜(ぼうとく)する業を得ることも可能ですから」


 双子が時間跳躍した先は過去の世界よりも一年半も先の未来の世界。にわかに信じられない事象だが事実なので否定出来ない。さらに修道院で聞いた話では、たった一年半もの短期間でコルネット王国という国があった場所に新たな国を建国していることは信じられないものでアイラは納得のいかない表情を見せた。

 納得のいかない表情にキリエもその思いは分からなくもないといいたけだが、現実としてそうなっているのでキリエはその噂話を聞いたときにはすんなりと受け入れていた。


「お二人はそこに戻られるおつもりですか?」

「わ、分からない……でも、お爺ちゃんは心配……」


(当然ですよね。逆に迷いもせずに行くだなんて言うと神経を疑いますし、少し安心しました)


 セレナーデ大陸に戻るのかと問われたアイラはオレンジジュースが注がれているガラス製のコップを両手で優しく掴んで、目を瞑り下を向くと分からないと小さな声で囁いた。

 ファゴット王国とクレセリア帝国が交戦中だと聞いて戻ると決めていた心が揺らいでしまった。二つの国が争っているということは即ち、戦争が起きているというわけでそこに向かうというのは嵐の中に突っ込むのと同義。

 どのような規模で戦争が起きているのか現地人でないキリエには想像する他ないが、長い月日を生きており戦争に巻き込まれたこともあり、その壮絶さは身を以て知っている。もっともキリエの本気となった実力は軍団にも匹敵し一軍の将では相手にならないもののため、隙を見て立ち去って再び旅を続け、最終的に今に至る。だからこそ、アイラがその現実を知って躊躇ったことに安心をしていた。ただ、激情に身を任せて現実へ飛び込む必要はないのだから。

 しかも、二人は子供。経験なんてせずとも良い年齢なのだから、とキリエは思う。

 そんな事を思っていると横から少女が三人に話しかけた。


「この島からは出られないんだけどね結局は。貴方達、それを分かってるの?」


 右手を腰に組んで左手はビシッ!とアイル達の方を指して立つ十五歳前後の少女の登場に、アイルはオレンジジュースを飲み、キリエはクスリと小さく微笑み、アイラは迷っていたにも関わらず急の出来事にあんぐりとしていた。


「漸く来たようですね。ふふ、そちらの少年は貴方の彼氏でしょうか?」

「なっ!? あ、アイツは私の幼馴染なだけよ!!」

「あらあら、私のだなんて惚気けますね。お二人はこちらにお座りくださいませ」


 変な登場の仕方に少女の知人である少年は頭を抱えており、そいつを見ながらキリエは彼氏ですかと小悪魔っぽい微笑みを浮かべる。

 キリエからそんな事を言われた少女は顔を赤くして幼馴染だと必死に否定するがまんざらではなさそうにも見えた。

 双子はの長椅子に座っており、その対面に座っていたキリエは立ち上がると、少女と少年に席を譲り背筋を伸ばして綺麗に立つ。


「キリエも座れば良いのに。ボクとアイラが詰めれば大人一人ぐらい余裕で座れるでしょ?」

「そうだよ。せっかく、お昼ご飯を食べるのに」


 元々は昼食をとることが目的なため、キリエ一人立たせて自分達だけが食べるのは不本意のためアイルは壁の方に詰めてアイラも同じように詰め寄った。

 双子の心優しい行動にキリエはつい感動してしまい、軽く礼儀正しく一礼する。


「アイル様、アイラ様、まことに申し訳ございません。失礼いたしますね」

「だって一人だけ立っておくのって恥ずかしいよ。それに、キリエさんのお金で食べさせてもらっているのに」


 こうやってレストランで食事が出来るのもキリエがいるからこそで尚且つ、レストランで一人だけ立たせて食べるのは心が非常に痛む上に恥ずかしい行為なのもアイラの理由の一つ。

 そんなやり取りをしている間にアイル達が頼んでいた料理を店員が持ってきて、双子は目を輝かせる。

 鉄板の上に置かれているハンバーグをナイフでアイルが半分にすると中にトロッとしたチーズが含まれており、一層アイルの食欲を刺激する。さらにアイルが育ち盛りなのかパンの個数はアイラとキリエよりも多く、アイラは横目に多いくないのかと視線でコミュニケーションを取る。しかし、アイルにとっては丁度良い量らしく首を横に振って返事を返していた。

 アイラはトマトサラダとカルボナーラと相変わらず何時もと変わらないものを頼んでいた。というよりもカルボナーラがアイラの大好物なのだ。そして、キリエはワインを一本しか頼んでおらず食べ物は頼んでいない。

 食べながら話すと言っても話を聞くのはキリエとアイラで、アイルは話も聞かずに食べることに専念する。


「それでは簡単に自己紹介をしていただきましょうか。貴方達が私達を尾行していた理由も一緒に」

「もしかして、ずっと前からアンタ気付いてたの!?」

「勿論ですとも。常に向けられている視線に気付かないほど私は愚鈍な従者ではありませんから」

「そ、そうなの。なんだか、ハメられたような気がしてならないけど……」

「どうなされましたか、可愛いお嬢さん」


 尾行されていたことよりもハンバーグに夢中なアイルは最初から当てにしていないキリエは、さっさと話を進めるために備考していた理由を率直に問いかけた。もっとも、別に尾行されていたことに特別感情はないが理由だけは興味を抱いていた。

 少女の方は尾行を気づかれていたことに驚いていたが、キリエはずっと向けられていたから嫌でも分かると口にするとグラスに口をつけて赤ワインを口に少量含む。

 少女からすればキリエに手玉取られたようなもの。もっともキリエも少しはその気があったのか含みのある笑みを浮かべている。


「まあ、良いわ。私はルキナ、この島の長の娘よ。それでとなりに座っているのが幼馴染のザザ」

「もう少し下手に出ようぜ。俺達は依頼者みたいなものなんだからさ」


 手玉にとられたことに不服はあるもののそれを横に置き少女は幼馴染の少年のことを含めて自己紹介をした。

 少し言葉遣いが荒いルキナに幼馴染の少年ザザが咎める。とは言ってもあまり強く言えないでいるところから明らかにルキナの方が主導権を握っているのだろう。

 

「そのようなお方が何故、私に用があるのか理解しかねますね」


 ルキナが島の長の娘とまでは知らなかったキリエはやや驚くも、そんな人物から依頼されることが理解出来ずにいた。

 キリエ自身はこの島に滞在していたが正規の島人ではなく、滞在し始めてから一度たりとも税金を支払ったことはない。不気味な森を越えなければキリエの住む洋館に辿り着けないことから好き好んで来る者がいなかったのも理由のため誰も知人はいない。そんな自分に何故依頼をするのかと。

 理解出来ないと言われたルキナはニッと唇を釣り上げて口を開く。


「あの荒くれどもとの戦いを見させてもらったわその力もね。だから、私達にアンタの力を貸してくれない? イースからこの島を取り返すために!」


 尾行していた理由を堂々と言い切ったルキナ。それは、現在の島を統治している獣人イースから島を取り返すために強い力を持つキリエに仲間になってほしいものであった。

 少しの躊躇いもないルキナにキリエは何も言わずにただ赤ワインを口に含む。

 当然、アイラも食べながらとは言えキリエとルキナの話には耳を傾けていたので食べる行動が止まり、キリエとルキナを交互に見て様子を伺う。


(この島を取り返す――ってことはやっぱり反乱を起こすってことだよね? 確かに財政問題は重要だし、分からなくもないけど)


 この料理店のメニューが高いのも高額な納税義務が原因。そんな事は少し考えればアイラ程の察しの良い人物であれば分かること。

 反乱を起こすには充分な理由。


(どうするんだろうキリエさんは。確かにキリエさんなら獣人にだって負けないと思うけど)


 そして、キリエに依頼するのにも充分な納得がいく。

 紅いキリエも銀のキリエもどちらも戦闘能力は高く仲間であれば心強いだろう。さらに相当な美人で男性の士気も高まるもの。

 だからこそアイラはキリエはどう返事を返すのか疑問だった。


「その依頼は確かに受けたいものですね。私にとっても獣人を倒せばメリットが出ますし」

「なら!」

「ですが、私はアイル様とアイラ様の従者。私の勝手な一存では同意しかねません」

「そんな!?」


 赤ワインを味わったキリエはグラスを机に置くとルキナの依頼の返事を返す。

 受けて損することはない。寧ろイースを倒せばキリエにとってはメリットがあるぐらいでそれを聞いたルキナは嬉しそうな顔に変わる。しかし、キリエはそれを受けなかった。

 仮にも自分は今、アイルとアイラという双子の従者として付き添っている。そんな自分が勝手に決めるわけにはいかないと言いルキナの依頼をきっぱりと断った。

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