第43話
漸く43話です。
双子に新しく仲間が出来ました。一応、二人ですかね。
というわけでこの前書きでは仲間について語ろうかと思います。
名前である『キリエ』ですがこれは銀と紅の両名を指す言葉です。
名前の由来はラテン語のキリエで「主よ」という意味からきました。ちなみに名付けたのは少年の方ではなく少女の方です。
銀と紅のキリエの共通点
・吸血鬼という種族の特性上から使用できる血を操る能力(これに関しては特異点ではないです吸血鬼ならば誰もが持つ能力)
・日差しや水、十字架に強い
・長寿。現在は二百歳以上(BBA)
・ワインが好き
・吸血しなくとも生きていける
ここから先は違点
キリエ(銀)
・家事万能
・銀ナイフやフォーク、タガーなど武器を使った攻撃が得意
・従者としての意識が高い
・可愛いものが好き
・血を飲むことが好き
キリエ(紅)
・格闘術が得意
・血を見ることが好き
・従者としての意識はない。双子に対しては対等
・殺人衝動がキリエ(銀)よりも強い
・いつかアイルを真っ赤に染め上げることを目的にしたいと思っている(ぇ
といった感じです。
ちなみに吸血鬼には弱点が多いなど諸説ありますが、キリエは高位の吸血鬼なのでそういった弱点はありません。
血を飲むことはあくまでも本能。人が食欲を持つように血を飲む欲求があるだけです。
ってなわけでキリエが仲間になる43話をどうぞ!!
月は降り陽が昇リ始める時間帯、真紅の吸血鬼は白銀の吸血鬼へと変化した。
背まで長く伸びた流麗な髪は陽の光を浴びてまるで宝石のように煌めいているように映り、双子は口を大きく開けて呆然とその姿に目を奪われた。目の前に立つその女性は両手を胸に当て、呆然と見上げている双子を見下ろしている。双子同様、目を丸くして。
この場所に存在していることがまるで嘘なのではと僅かに疑いの目を向けているが。
「何故、アイル様とアイラ様がこの島に? いえ、何故――子供のままなのでしょうか?」
「いやー、ボクに訊かれてもなぁ。だって、ボクだってわけが分からないんだから」
「そうなのですか? では質問を変えさせてもらいます。二人は私のことを覚えていらっしゃいますか?」
「ぜんぜん知らない。記憶にあるないの問題じゃなくてボクは今日、君と初めて会ったんだよ」
「そう――ですか。やはり貴方達は私達に名を与えた子供達とは無縁の存在、なのですね」
白銀の吸血鬼もといキリエは双子の呆気にとられた表情を瞳に映し、頭の中で生まれる疑問をぶつけた。しかし、その疑問は双子にとっても疑問の一つでしかないため、アイルは悩む素振りすら見せず逆に問い返した。
訊かれても分からないと答えるアイルの言葉に動揺がキリエに走るも、別視点の質問に切り替えた。そして、その質問には覚えていてほしいという小さな願望がキリエにはありそれを問う。そして、そんなキリエの気持ちなど一切気付かない、気付けないアイルはまたも迷うことなく知らないと言い、続けて初めて会ったと断言する。罪悪感など感じられないアイルにキリエは俯き、囁くようなボリュームで眼前の双子は、自分の知る子供とは違うのだと無理矢理に納得しようとしていた。
その時、キリエの頭に声が響いた。どこかキリエに対して怒りの念が込められているが――
――貴方、何を勝手に違うって決め付けてるのよ? 約六十年も前なのに顔とか似すぎなのは可笑しいじゃない。
「そ、そうですけど――それよりも貴方は何故、驚かないのですか!?」
――アイルと戦ってたからに決まってるじゃない。その証拠に貴方の服も破れてるし、アイルも怪我を負っているけど。
「た、戦ったのですか!? それで、貴方の感想としてどうなのでしょうか?」
――悪くないわ。仮にあの子年齢が見た目相応であれば寧ろ超天才と言っても過言じゃないぐらいにわね。
「貴方が他者を認めるのはとても意外なのですが」
――うるさいわね! 別にわたしの勝手でしょ、それで貴方はどうするつもり? このまま過去を引き摺ったままなのか、自分から答えを見つけに行くか決めなさい。一応は貴方の肉体なのだから。
「…………」
キリエの声を掛けるのは同じ声色の。しかし、今のキリエに比べればハスキーボイスで。その声の主はキリエにこの先、どうするのかを問い詰めていた。双子が本物か偽物かその答えはまだ出てなく、相手が自分達の事を覚えていない、知らないというだけで目に見える類似点は無視して諦めるのかと。キリエのもう一つの人格がまるで自分の心に反論するかのように語りかけていた。
今のキリエの反応から以前から別人格と交信を行っていたのか驚きの様子は見られず、平然と話していた。だが、表に出ている人格の声だけは外側にも聞こえているわけで。
「一人で話し始めちゃった。も、もしかしてアイルと戦った後遺症かも!?」
もう一人の人格と話すキリエの状態はアイラにとって独語にしか見えず、アイルと戦った所為で可笑しくなったのではと勘違いをし狼狽えていた。
「いいっ!? ボクのせいなの? 別に頭とか顔は全く狙ってなかったと思うんだけどな~」
狼狽えてアイルが戦ったからと言ってくるアイラに別の意味で驚きに染まると、戦っていた時の事を思い返す。
必殺技を使っても差は大きくはなくキリエの強さは驚異的で頭など急所を狙う隙や暇はなく、ただ必死に攻撃を決めることばかりに気を取られていたなと自分の戦いを振り返っていた。
そして、出た答えはやはり。
「うん、やっぱりキリエは強かった。ディオール以外にも強い人はいるんだと実感出来たし最高だったよ!」
「ホントにアイルは変わらないよね。それがアイルの良いところだと思うよ」
楽しい戦いだったと眩しい笑顔で答える。
もう驚かないアイラは微笑みながらそれがアイルの良いところだと逆に褒めているぐらいだ。
(欲を言えばもう少し他のことも気にしてほしいな)
良いところではあるが反面、アイラにとっては改善をしてほしいところでもあった。
何時の間にか関係ない話に変わっていた頃、キリエは俯いていた顔を上げて申し訳なさそうに双子の会話に横槍を入れる。
「アイル様とアイラ様」
「あのさぁ、その様ってつけるのやめない? さっきから背中がムズ痒くて仕方ないんだよ」
「お二人が私達に名前を与え下さったあの時の子供なのか答えはまだ出てません。ですから、お二人の旅に同行させてはくださらないでしょうか? その旅の中で答えを見つけたいと思っておりまして」
名前を呼ばれた双子は話すのを一旦終わらせて呼ばれた人物の方へと振り向くと同時にアイルはやや困り顔で先程から気にしていた事について話題を振った。
それはキリエからの呼ばれ方。ことある毎に様付けされており、アイルはそのような呼ばれ方はとても苦手としていた。別に敬われるような呼び方が嫌いというわけではないが今までの生活が染み付いてるせいか、まるでご主人を相手にするように振るわられるアイルとしては慣れないもの。
そんなアイルの言葉を完全無視して自分の話を進めるキリエ。双子が本当にあの時の子供なのか答えは見つからないから、一緒に旅をしたい願い頼む。
「ボクの言葉は完全にスルーされちゃったよ。んで、キリエの同行は構わないよ。紅い髪のキリエめちゃくちゃ強かったし、一緒にいれば何時でも組手の相手をしてくれそう!」
「私も構いません。仲間が増えればそれだけ楽しくなりますし!!」
「え、えっとそんな簡単に決められても……?」
少しも戸惑う素振りがない双子に目を見開くキリエ。
一応、自分は吸血鬼という種族で人々からは危険者として後ろ指をさされてきたこともあったのだが。そんな事などお構いなしの二人の反応に少し肩透かしを食らう。
特にアイルは吸血鬼という事を恐るどころか楽しんでいるようにさえ見られた。だからこそ、つい反射的に本当に安易に頷いても良いのかキリエの方が確認するほど。
「だってダメな理由がないです。キリエさんは優しいじゃないですか。私にケーキや紅茶まで用意してくれましたし。今は崩れてますけどお部屋やお庭はとても綺麗に手入れされてて、そんな人が悪い人とは思えないです」
「そうそう! こういうときは素直にありがとうって言えば良いんだよキリエ。それに旅は道連れー……なんとかは情けっていうしね!」
再確認された双子は寧ろ何故と逆に疑問符を浮かべていた。
キリエが仲間になることに対して渋る理由は二人にはない。それどころかアイラはキリエのことを好意的に見ているぐらいでそこは非常に珍しい点ではあった。そして、そんなアイラの言い分をアイルは全面的に肯定しており完全に覚えていないことわざを使う。
そんな肯定的な双子にキリエはつい頬が緩んでしまう。
(ああ、なるほど似てますね。言われた通り、勝手に決め付けてしまうのは早計かもしれませんね)
初めて出逢った時の子供も僅かに軽い感じがあり名前がないから名前を考えるといった具合で、こちらに話しかけてきたことをふと思い返す。姿容や性格が類似している点の方が双子の曖昧な記憶よりも確かに信じられるとキリエは実感を覚える。
仲間になるのであれば自分が言うべき言葉は決まっている。そう思うとキリエは微笑みを浮かべて口を開く。
「不束者ですが宜しくお願いします」
「あははっ……こちらこそ色々迷惑ばかり掛けてしまいますけどお願いしますね」
それはまるでプロポーズを受けた女性の返答のようだった。
無論、それに気付いたのはアイラだけでつい苦笑いを浮かべるも、右手を差し出して互いに手を握る。
アイラとキリエが握手をしているとアイルが思い出したかのように声を出すとキリエに大切なことを訊ねる。
「あ! ずっと気になってたんだけど紅い髪の方のキリエはもう出てこないの? あんだけ強かったからさ寂しいもんなもう会えないのは」
「大丈夫ですよ。月が昇っている時間帯であればもう一人の私がきちんと出てきますので。ただ、満月の日だけは凶暴性が増してしまうので人格が切り替わる際に少々見苦しいところを見せてしまいますが」
「そっか! それならさそのキリエに伝えてほしいんだ、またボクと戦ってほしいって!」
「ええ、意思疎通であれば可能なのできちんともう一人の私に伝えておきますね」
大切な事とは真紅の方のキリエは出て来ないかの確認。アイルにとっては互角以上の相手が一緒に居るということはアイルの中の向上心を上げるには充分で是非とも再戦したいと考えているぐらいだ。
今のキリエが表人格であるならば夜に出てくる人格は裏。時間帯によって出てくる人格は異なっており、それは昔から変わらない。人格の切り替えも時間が来れば任意で可能らしいが、満月の夜だけは吸血鬼としての本質が強くなるためその時の人格変化は見苦しいものだとキリエは二人に語る。
説明を聞いた二人は「へえ~」と聞き、アイルはキリエに伝言を頼んだ。キリエから伝言を聞き受けてもらったアイルは洋館を訪れた道へと体を向けるて口を開く。
「夜も明けたし町に戻ろっか」
「町に? それは止めた方が良いと思うけど」
「ええっ、どうしてさ!? せめて何か食べ物を食べに行こうよ、戦ったからお腹減ってるんだから!」
「あのね、キリエさんはこの周辺じゃ危険な吸血鬼として恐怖の対象になってるんだよ。このまま準備なしに町を出歩いたら他の人から後ろ指を刺されちゃうし、そんなの私は嫌だよ」
「あ、あー。そんな事も言ってたね、すっかりその事を忘れてた」
目的を達した以上、この場に長居する必要がないと判断し町に戻ることをアイラとキリエの二人に勧める。だが、それを聞いたアイラは戻ることに反対した。
まさか反対されるとは思いもしなかったアイルは非常に驚いた様子。そして、自分の腹部を摩りながらお腹減ったと空腹を訴えて町に戻って朝食を取りたいと言う。しかし、アイルの訴えは何時ものことなのでアイラは軽くそれをスルーして反対する理由を述べた。
周辺ではキリエは危険視されているので町を出歩くと町民から非難されたり陰口をたたかれたりする可能性が大きく、アイラはキリエがそんな事に晒される事を嫌い反対していた。そして、それを聞いたアイルは忘れていたのか盲点だったといった表情をアイラに見せる。
「アイラ様、あまり気になさらないでください。風評自体は私達の行いが悪かったのが原因ですし、人間の血を吸っていたのも事実ですので仕方ありませんから。そのお言葉だけでも私は嬉しいものです」
「キリエさんがそういうのなら……。あと、その服装はどうにかしませんか? アイルとの戦いで肌の露出が多くなってこのままじゃ痴女だと思われちゃいますし」
「そうですね、このような見窄らしい格好ではお二人に申し訳ないですし。折角、ですので着替えましょうかアイル様とアイラ様も。子供用の服もきちんとありますので」
双子のやり取りを見聞きしていたキリエは自身の風評に関しては自業自得と認めており気配りしてもらえただけでも嬉しいものだと心情を語る。それを聞いたアイラは納得する。しかし、まだキリエが町中を出歩くには服装を変えることを勧める。実際、キリエの服はアイルとの戦いで裂かれたり破れたりして、女性が外を出歩くには余りに酷い服へと変貌している。
顔は狙っていないとアイルが言っていた事もあってキリエの顔などには目立った外傷は見当たらない。その分、腋や胸などが露になっており思春期の少年や成人した男性であれば間違いなく目が行く姿には変わりない。
服を新品にすることとなりキリエはせっかくだから双子も一緒にと提案する。子供用の服も持っていると言うのでそれを聞いたアイラは「なぜ、持ってるの?」とつい疑問を抱いてしまう。その疑問を問うことはなかったが。
「けどさ、ボクが洋館を壊しちゃったから服とかあるの? クローゼットとかが全部壊れたわけじゃないけど」
「そ、そうですね。庭まで全壊しちゃってますが」
「別にわざとじゃないんだよ! キリエが強かったからボクもつい本気でやっちゃったんだ。その、ごめんなさい」
朝日に照らされた洋館の跡地がどこか虚しく見えるアイル達。
洋館が崩れた事によってアイル達よりも高く積み上げられた瓦礫の山の中にはキリエの私物も多く埋まっているだろう。そして、大切に手入れされていた花の庭園も無残にも散っていて、流石のキリエも落ち込んでおりアイルは必死に弁解していた。
戦いに夢中になり周りが見えていなかったのは事実だが決して故意があったわけではない。寧ろ、ある方が可笑しい。そこはキリエも理解の範疇なのでアイルのことを咎めようとはしない。
「いえ、アイル様は知らなかったのですから仕方ありません。どちらにしろ旅をすれば庭を手入れすることは難しいので吹っ切れたといえば吹っ切れました」
「う、う~ん……」
アイルの事は許しているがやはり花の庭園が無残な状態にあるのは残念だといった雰囲気は消えていないので珍しくアイルは口を閉じて考え事をしていた。
十数秒ほど思い悩むとアイルは閃いたといった具合にグッと拳を握る。
「キリエはボクとアイラの旅に同行するんだよね?」
「はい。答えを見つけるためにお二人に付き従いますよ」
「一応、ボクとアイラはセレナーデ大陸にある山奥の村に戻る予定だから。その時にキリエのお願いを一つだけ叶えるよ勿論、ボクが叶えられる範囲じゃないと無理だけどさ。庭をぐちゃぐちゃにしたのはボクのせいだし」
「それはアイル様が叶えられる範囲であればどんな願いもということですか?」
「うん、だから村に戻るまでに考えていてね」
「分かりました。その代わり私は結構辛いお願いをするかもしれませんよ?」
「それはそれで困るけど叶えてみせるよ」
償いとしてキリエのお願いを一つだけ叶えるとアイルはキリエに提案した。
それを聞いてキリエは少し目を見開いた様子だったが意外にもその提案に食いついた。アイルに叶えられる範囲は割りと絞られそうな気がしてならないが、それでも出来る限り叶えてみせるとアイルは言う。
「よしっ! それじゃ、先ずはこの瓦礫を退かすぞ!」
「おおー!」
「分かりました」
「堅いな~。ボク達の方がずっと年下なんだから砕けた言葉遣いで良いのに」
「いえ、お二人があの時の子供であるのならば私はその子供達に一生を捧げると誓っているのでその可能性の高いお二人には当然の言葉遣いです」
「そうなの? キリエがそれが良いって言うならもう止めないよ。とにかく、瓦礫をどかそう」
瓦礫を退かす作業に入ろうと張り切るアイルとアイラ。そして、それに続いてキリエが畏まった言葉遣いで頷く。
出会ったばかりという事もあり双子とキリエにはまだ温度差がある。しかし、そこは時間が勝手に解決してくれることだろう。
そして、アイル達は積み上がった瓦礫をせっせと退かす作業に入った。瓦礫の大きさはそれぞれ拳サイズから子供の下半身程度の大きさの瓦礫など様々。重いものでは大人でも持ち上げられないものもあるが、アイルはなんなくそれを持ち上げ適当に投げ捨ててはクローゼットを探す。
アイルが重々しい瓦礫を投げ捨てる度に大きな衝撃音が鳴り、それを見る度にアイラは本当に強くなったんだなぁとつくづく実感していた。
(私も少しは力がついたのかな? 以前よりもずっと重い物が持てるようになったし)
旅を始めた頃と比べれば随分と成長したのでは?と自負が持てる位にはアイラも肉体的に成長を遂げている。
人間大の瓦礫ならば両手で持てば難なく遠くへ投げ飛ばせる程度には筋力もついている。時折、それを実感しては嬉しそうにする。
「どうなされたのですかアイラ様?」
「な、なんでもないよ! って、わわわっ!」
それをキリエに見られてしまい恥ずかしく感じたアイラは慌てて、足場の悪い瓦礫の上でバランスを崩してしまい落下しそうになる。
「お、落ち!」
「だいじょうぶですかアイラ様。私がついておりますので怪我などさせませんよ」
「は、わ、あ、ありがとうござます!」
「いえ、落ちなくて良かったです。足場には気をつけてくださいね」
「は、はい」
落ちそうになった所をキリエから助けられたアイラは落ちる事に動揺しながらもお礼を言う。
助けることは当たり前だとそんな風に微笑むキリエについ熱っぽい表情になるアイラ。
(格好良い――でも、こんなに高貴そうな人がなんで私達に敬うような言葉遣いなんだろ)
銀髪にしろ紅髪にしろどちらのキリエも大人の女性といった感想をアイラは受ける。
確かに少女のような雰囲気も感じられるが可愛いよりも綺麗という言葉がよく似合うもので、つい同性に対して頬を赤く染めてしまい憧れのようなものを抱いてしまい、言葉も短い。
紅い髪のキリエはワイルドな大人の女性といった感じで銀の髪のキリエはお淑やかな雰囲気を持つが、どちらもノーブルな雰囲気を醸し出す。そんな大人の女性から敬語と様付けに可笑しいなとつい不審に思ってしまう。
「もしかしてこれで良いの?」
アイラとキリエのやり取りなど興味なしのアイルは黙々とクローゼットを探していると、木製のクローゼットを片手で持ち上げてキリエに訊ねる。クローゼットは服を畳んで収納するタイプではなくワンピースやコートなど丈の長い衣類を収納するタイプ。
瓦礫に押しつぶされていたので戸は凹んでいたりしてインテリアにはもう使用できそうにない。
「はい、その中に私の服などを収納しています」
「そっか。それなら開けようか」
凹んでいたり表面が削れたりしているが中の衣類までは無事そうで、キリエはそのクローゼットで合っていると頷く。
キリエから相槌を貰うとクローゼットを両手で持ち上げ、そのまま瓦礫の上から地面へとアイルは飛び降りた。クローゼットが落ちないようにしっかりと持ち上げているので落とすことはなかったが約四m程からクローゼットごとの飛び降りでドスンッ!!という音がキリエとアイラの耳に届いた。
「うわっ、なんだこれ!? キリエって変な服を着るのが趣味なの?」
「か、勝手に女性のクローゼットを開くのはダメだよアイル!」
地面に置くとキリエの許可なくクローゼットの扉を開けるとその中身に驚嘆の声を漏らす。
女性の私物を許可なく見るのは男として失礼に値するわけでアイラはそれを咎める。
「けどさ、なんでメイド服なわけ。普通に旅人の服でいいんじゃないの?」
「め、メイド服? キリエさんの趣味ですか?」
咎められたアイルは特に気にせずその中身についてキリエに問う。メイド服はアイルにとっては変な服に入るのだろう。。それを耳にしたアイラもまた予想だにしなかった服の名前に呆気をとられキリエへと視線を向ける。
アイルとアイラからの視線に気付いたキリエは――
「私の趣味ですね。昔から可愛い服などを着るのが夢だったので自分で作ったりしました」
「自作なの!? なんだか呉服屋で売られているような完成度に見えるけど」
「趣味として数十年以上も続けていましたからね、技術も上がりますよ時間も掛ければ」
「え、じゃあキリエって何歳なの? 二十歳ぐらいじゃ」
「私の年齢は二百を超えていますよ。吸血鬼は人間の千倍は生きる種族ですから、もっとも私は吸血鬼の中では子供の分類にはなってしまいますが」
「それって、オバ――なんでもないです、ごめんなさい!!」
メイド服はキリエの自作で可愛い服を作るのもまた自分の趣味だと語る。だが、その完成度は専門家が縫うそれと同じレベルの域にあり、双子は微妙に信じられずにいた。一朝一夜の努力ではたどり着けないものだが、数十年も続けていると聞き納得する。
しかし、次にその年月にアイルは「ん?」と疑問を抱く。キリエの姿は二十歳前後の若い女性で数十年という年月はとてもじゃないが感じられない若さがある。それについてはキリエが吸血鬼の特性だと教える。
それを聞いたアイルはつい何時ものように失礼な単語オバさんと言いそうになる。既にオバまで出ていたが、アイルは顔を青褪めて即座に頭を下げた。普段のアイルからはとても考えられない姿なわけで。
「アイル様、あまり異性に対して失礼な事は言わない方が良いですよ。特に年齢や体重は御法度です」
「わ、わかったよ~……」
つまり失礼な事を危うく言いそうになったアイルはキリエの恐ろしい形相を見て謝ったわけである。
アイル曰く「この時のキリエは化け物に変化していくディオールよりもずっと恐ろしかった」とのこと。ディオール涙目である。
「それでは着替えましょうか。アイル様とアイラ様の服もそこに収納していますから」
というわけで三人はそれぞれ野外だが着替えを始めた。
本来ならば洋館で着替える筈だったが壊れているので致し方なく人里から離れているので野外で着替えることを妥協した。もっともアイルは気にもせずさっさと着替え終わった。また、アイラもアイルという異性がいるのだがやはりそこは以前と変わらず身内という事もあり羞恥心はなく特に気にせず着替えた。さらにキリエもアイルは子供ということもあり気兼ねなく着替えており、この三人羞恥心が割りと薄いメンバー。
「よっ、ほっ! おお、動きやすいねこれ!!」
軽い慣らしとして拳や足を突き出したり十m程度の跳躍をしてみせるアイル。動きにくい格好を嫌うアイルとしては今、着ている服は動きやすいものだった。さらにサイズもアイルに合っていてアイラは何故!?と当然のように疑問を抱くがもう聞かなかった。
アイルの服装は上着として風通しの良さそうな五分袖の紺色のシャツ。ズボンには灰色の長ズボンを履き、帯でしっかりと締めている。さらに腰回りに腰だれを金具で留めている。
「修道着はちょっと着続けるのは辛かったから新しいのが着れて良かった~」
神をあまり信仰していないアイラは修道院から借りていた修道着を着続けることには躊躇いがあったらしく、新しい普通の服に着替えれた事に安堵していた。
水色のノースリープワンピースにその上にはレースのある白色の薄いコートのようなものを羽織、腕もまたレースのついた白色のアームウォーマーをつけている。コートのような物は袖がレザーカットされており、可愛らしさをさらに強める。そんな、白と水色の色合いで着こなしているアイラの服装は非常に涼しそうに見せた。また、首元には薄いピンク色のチョーカーを装飾品として身につけている。
足の方は白色と桃色の二色の膝下まであるブーツを履いており、ブーツには桃色のリボンがお洒落としてついている。
「ふふ、気に入って頂ければ幸いです」
自分が編んで作った服を気に入っている姿を微笑みながら見るのはメイド服を着こなすキリエ。
ヴィクトリアンメイド服と呼ばれる王族や貴族などに使える由緒正しいメイド服で袖と丈どちらも長く、女性の処女性や純潔さを醸し出す。フロントには白色のV字カットのエプロンをかけており、頭には同色のレザーカットされたカチューシャをしている。そして、靴は黒の編み上げブーツを履いておりソックスとして黒色のニーソックスを履いている。
「はぁ~、なんだか本物のメイドみたい」
「しょうじき、私達なんかよりもエレスさんのような高貴な人に仕えてそうだよね」
その姿を見た二人の感想は自分達には勿体無い、持て余しそうなメイドという印象で二人同じように感嘆の溜め息を吐く。
流麗の長い銀髪にビー玉のように透き通っている瞳。身長も高くスラッとした体格。しかし、女性として出ている所はしっかりと出ており、このような気品溢れる女性に仕えてもらいたいと望んでしまう、想像してしまうそんな男が憧れる女性が二人の眼前にいる。
「まるで誰かに仕える気満々で用意したようにも見えるけど、私の気のせい、かな?」
そう、アイラがそう感じるのも無理はない。キリエが着ているのはヴィクトリアンメイド服で由緒正しいメイドの服。
自分の趣味などで着る分ではデザイン性をさらに重視したフレンチメイド服で充分である。
しかし、キリエが着ているヴィクトリアンメイド服は王族や貴族など上流階級を相手に仕事するスタイルで本気で誰かに仕えたいと思わなければ着ることはない代物。
つい心の声のつもりが表に出ておりそれをキリエはしっかりと耳にして――
「ええ、先程お話したようにアイル様とアイラ様によく似た子供達と再会して従者として仕えようと思い準備をしてきた物ですから」
その理由をキリエは包み隠さず答える。
「でも、それって私達じゃないかも……」
「そうかもしれません。ですが、その答えはまだ出ていないのでお二人が私達の会いたい子供だと信じることにしました」
名も無い吸血鬼だったキリエに名前を与えた子供達の従者になりたいが為にその思いを形にした服。そして、その人物の可能性があるのはアイルとアイラの双子だけなわけで。しかし、その可能性は薄いのではと捨てきれないアイラ。
もしも、自分達ではない別の者達がきちんと存在していたのであればキリエはどう思うのだろうか。勝手に勘違いをしてしまい傷つくのではないかと不安に思ってしまうアイラ。だが、その答えは出ていないのでキリエは二人こそが自分が会いたかった子供である事を信じると意識せずにアイラの不安を和らげる返答をする。
「そうなんだ。けど、私は主人みたいなこと出来ないよ?」
「そこは問題ありません。従者として仕えたいという私の我儘にお二人が付き合うことはないのです、あくまで私の願望ですからお二人はお二人らしく私達に接してくだされば充分ですよ」
「うん、そっか。それなら大丈夫」
完全に不安が拭えたわけではないがキリエがそう言っているのだからとアイラは一人その不安を仕舞いこんだ。そして、もう一つの不安を口にする。
それは分達がキリエの主人で本当に良いのかというもの。別に主人と従者という関係にしたいわけでも、なりたいわけでもない。仲間として一緒に旅をするのだからそういった関係は不要とさえ考えていたぐらいで。しかし、メイド服を着ているキリエは明らかに従者として振舞うだろう。ならば自分は従者が恥ずかしくない主人でなければならないのではと思い込んでしまっていた。
アイラのそんな他人に合わせようとする意識にキリエはまたもフォローをする。アイラはアイラらしく振舞って欲しい、自分の我儘に合わせなくても良いと言う。それを聞いてアイラは再び胸を撫で下ろす。
「それじゃあさ、そろそろ行こうよ!! 着替えも終わったし次はそうだなぁ、ブルゴーニュって大きな街にレッツゴー!!」
「おー!」
「分かりました。しかし、何故ブルゴーニュなのでしょうか?」
「それはね、ブルゴーニュの一番偉い人に会って島から出る許可をもらう為さ!」
「なるほど。確かにこの島は今、閉鎖されて外海には出れないようになっていますからね」
アイラとキリエのやり取りが終わるのを黙って待っていたアイルは二人の話が終わるのを見届けて口を開く。
次に目指す場所はブルゴーニュ。この島から外海に出ることが出来ない原因はそこにあると町で噂を聞いていたのでアイルはそこを目指す事にしていた。
二人共その意見には賛成で反対の意見はなかったので三人は丘の洋館を後にしてブルゴーニュを目指し足を進める。




