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双天のステルラ  作者: なまけもの
変わり始めた世界
41/49

第41話

遂に40話越えを果たしました!!パチパチ、皆さん拍手をお願いします!!

この41話でも双子について少し触れたりしていますよ。皆さんに分かりますかなー?まあ、これが本当に双子に関係するのかはもっと先にならないと分かりませんけどもね。

そろそろ登場人物の紹介とかしたほうが良いんでしょうかね?

あんまりそういうのはしない方が良かったりするんでしょうか。まあ、いつかはしましょうかね。いつか、ですけど。


それでは41話もお願いします!!

 月の下、真紅と金色が互いに睨み合う。

 何故、この深夜帯にアイルが起床し助けてくれたのかは腰を抜かした少年一名と少女二名には理解出来ずにいたが助けてくれたという事に安堵(あんど)の溜め息を吐く。兵士を瞬く間に気絶させるだけの実力を有する少年が居る、それを野次馬の中で見ていた少女達にとっては充分な安心感ではあった。

 夜の冷ややかな風が真紅と金色の髪を靡かせる。真紅の吸血鬼はアイルに掴まえられている右腕を払い、アイルとの間合いを空ける。払われたアイルは真紅の吸血鬼の右腕を掴んだ方の手へと視線を向けて不敵な笑みをやはり浮かべたまま。


(かなり力強いやあの人。きっと、ものすごく強いんだろうね)


 無理矢理攻撃を妨げるように割り込んだ時に相手の純粋な腕力が強い事に嬉しさを感じていた。

 だからこそなのか不敵な笑みが嬉しそうな微笑みに変化していて、それを真紅の吸血鬼が(いぶか)しげに口を開いた。


「貴方は何を笑っているのかしら? それとも今になって怖くなったのかしら」

「逆だよ。君みたいな強い人と戦えるんだって思ったらね、ドキドキしてくるよ。ボクはもっと強くなりたいだから本気でこい!!」


 漸く恐怖(きょうふ)が芽生えてきたのかと疑問をぶつける真紅の吸血鬼。だが、アイルは相変わらず笑みを浮かべるばかり。

 しかし、アイルは瞼を閉じてその瞬間には笑みは消えて――


「へえ? 子供なのに凄い気迫を見せてくれるのね」

「これでもボクは結構強いからね」

「その自信はどこまで保てるのか楽しみで仕方ないわ。わたし、貴方みたいな自信家の鼻をへし折って真っ赤に染め上げるのが大好きなのよ」

「どうかな、君は今までの倒した人達のようにボクが負けると思っるみたいだけど」


 瞼を開けた最中、真紅の吸血鬼はアイルから強い気迫を感じていた。

 だからこそか真紅の吸血鬼はアイルを面白そうな存在として見ており、自意識が高いアイルの言葉にへし折ってあげると、その根性を叩き直すと言う。

 互いに睨み合っている状況でどちらもジリジリと僅かに距離を詰めるだけで、攻撃に移ろうとはしない。緊迫した空気が支配する夜の町。未だ(おび)え離れられない青年グループは震えながら終わるのを待つしかなかった。

 先に痺れを切らしたのはアイル。右足に力を込めて瞬く間に真紅の吸血鬼の背後をとると右腕による手刀で薙ぎ払おうとするも、真紅の吸血鬼は見向きもせず僅かに体を左に動かして避けるとアイルの右腕を掴む。


「ぎっ!?」

「遅いのよ。そんなスピードでわたしを捉えられるとでも思って? 舐められたものね!」

「うわあああっ!?」


 まるでゴミ袋を乱雑に投げるかのようにアイルをコンクリートの壁へと投棄(とうき)する真紅の吸血鬼。

 剛速球のように投げ飛ばされたアイルはコンクリートの壁を貫通して木材で建てられた家の壁を破壊し家の中へと入っていってしまった。

 入眠に入っていた一家も今の破壊音で目を覚まして何事かと様子を見に来る。


「あああっ! 壁が壊されてるだなんて!」

「誰がこんな事をしたっていうんだよ、ちきしょうふざけんな!!」

「ホントよ、壁を直すのにも金が掛かるっていうのに!!」


 家の壁には大人二人分ぐらいの穴が空いており粉砕された箇所から夜道が見える。しかし、家主からすれば壁を壊された事に怒りが有頂天に達しそうだった。修理するのにもお金が掛かるのだがフォンニャに税を払っているので家計は火の車。

 そんな時に追い討ちをかけるように家の一部を破壊されたのだ。怒っても仕方あるまい。


「だれがこんなことをしたんだ!!」

「人間風情がわたしに文句があるのかしら?」

「し、真紅のきゅ、吸血鬼!?」

「そう、死にたくなければ消えなさい。子供! 今ので気絶しただなんて言わないでしょうね、あんなのじゃ貴方の実力なんて感じられないわよ?」


 壊した元凶に説教をしようと一家の大黒柱が立ち上がるが圧倒的な殺意を撒き散らしながら隣に立つ美しい真紅の吸血鬼を見て先程の気迫は一気に消沈した。

 そんな情けない大黒柱など興味がない真紅の吸血鬼は眼前から消えろと冷たく言い放つだけ。一心に目を逸らさず投げ飛ばした先にいるであろうアイルを挑発する。だが、アイルからの返事は来ない上にアイルが攻めてくる様子はないので苛立ちを覚え自ら攻撃に転じる。

 床を強く蹴ると真紅の吸血鬼は家具を右手で切り裂くように一蹴し外の瓦礫が積もった場所に拳を叩き込もうとする。


「うひいっ!? 疾っ!」


 家と家の間を隔てる壁が粉砕されておりその瓦礫に埋もれたアイルは既に目の前に迫っている真紅の吸血鬼に驚いていた。すぐに飛び上がり近くの家の屋根へと跳躍して攻撃を避けて、真紅の吸血鬼を睨みつける。

 単純なパワーやスピードだけでも常人とかけ離れており今の吸血鬼の拳が地面に決まると激しい音と共に地面の一部が粉砕して欠片が周囲に飛散(ひさん)している。


「本気で戦う気があるのかしら貴方? さっきの気迫もまるで嘘のようね!!」

「いやぁ、気迫ってそんな維持出来るものじゃないし。それに場所がなぁ」


 初めて出会った時の不敵な笑みや戦う直前に見せた気迫がまるで嘘のような雰囲気しか纏っていないアイルを煽る真紅の吸血鬼。煽られるアイルは煽られていてもどちらかと言うと戦う場所に不満があるのか納得のいかない表情をしている。


「だったらさっさと本気でやりなさいっ!!」

「ハアッ、ハアッ、アレが真紅の吸血鬼……」

「なっ!? あ、貴方は!?」


 銀髪の頃よりも伸びている爪でアイルを切り裂こうと跳躍しようと足に力を込めた時、アイラが姿を見せて吸血鬼を睨む。しかし、吸血鬼はアイラの姿を見ると以前から知っているのか驚愕を隠しきれず攻撃の手を止めていた。

 アイルも迎撃に入っていたのか屋根を蹴り高速の速度で蹴りを叩き込もうとしていた。しかし、あまりにも突然に攻撃の手を吸血鬼が止めるのでアイルもつい急停車してしまう。


「何故、貴方がここに居るのよ!? しかも全く成長した姿を見せずに!!」

「え、え? あ、あの誰かと間違っているんじゃないですかね……?」


 そこに見える感情は怒りよりも驚きの方が大きくアイラは何事かと首を傾げるだけ。


「子供、貴方への興味は失せたわ。今は貴方に聞かなければならない事がたくさんあるのよ!!」

「ひっ!?」


 真紅の吸血鬼に目をつけられたアイラは恐怖で小さな悲鳴を上げてしまう。


「ちょっ、君の相手はボクだろ!? なんでアイラを狙うんだよ!!」

「消えなさい、今は貴方に構ってやる時間はないのよっ!!」


 真紅の吸血鬼がアイラに接近する前にアイルが先回りして間に入って行かせないように構えていた。

 しかし、戦いに割く余裕がないのか目にも止まらぬ速度でアイルの眼前から姿を消した。その瞬間、アイルの全身に凄絶な衝撃が走った。


「がっ!?」

「聞き分けのない子供は嫌いなのよ! 後、ガッカリだったわ言葉だけで対して強くもない、わたしの勘違いみたいね」


 ただの蹴りだ。そうただの蹴りを腹部に受けたアイルはその威力に血反吐(ちへど)を吐き、数百m程先まで飛ばされていく。その先に壁や家があろうともそれら全てを粉砕しながら吹き飛んで行く様は吸血鬼の戦闘能力の高さを垣間見せる。

 蹴り飛ばしたアイルへの興味はもう消えたのか見向きもせずに長い真紅の髪を掻き分けてアイラへとその凛とした真紅の瞳を見せる。


「アイルっ!?」


 視界に映らない程に遠くへと蹴り飛ばされたアイルを見て名前を叫ぶが届くことはない。

 眼前にはアイラが今まで最強の存在として見ていた人物を簡単に一蹴した存在が立ち、自分は殺されるのだと恐怖を覚え一歩後ずさる。


「こんな場所じゃ話もまともにできないわね。貴方には聞かなければならないことが沢山あるの、少しわたしの家まで来てもらうわ」

「は、放してください!」

「貴方程度なら簡単に押さえつけられるのよ諦めなさい」


 周囲を粉砕する激しい音を聞き、野次馬が多く確認しにきた。それを真紅の吸血鬼は確認するとアイラの体を抱き抱えるとアイルに勝るとも劣らないスピードで町から立ち去っていく。

 アイラがジタバタと暴れても真紅の吸血鬼にとっては子供が暴れているに過ぎず、家と家の間を越えていく速度に変化はない。それどころか更に加速して町を出て西の方へと夜に消えていく。

 騒ぎを見に来た町民はアイラが連れ去られたのは確認しても誰一人として助けに行こうとはしない。当然だ、相手は子供と言えども人一人を数百メートル以上先まで蹴り飛ばせる程の力を持つ相手。普通なら内蔵すら潰されている程の蹴りには違いないのだから。


 真紅の吸血鬼に蹴り飛ばされたアイルは半壊した家の瓦礫から()い出て服に付着した(ほこり)を両手で叩いて落としていた。服はボロボロで所々切れておりお世辞にも人前で着るような服ではなくなっている。


「はぁ、凄い蹴りだった。それにしても何で吸血鬼はアイラの事を見てビックリしてたんだ? 村にあんな綺麗な人はいなかったと思うんだけど」


 蹴りを受けたがあまり堪えた様子なく、軽く腰を曲げるなど身体運動をして体を慣らせているアイルは先ほどの瞬間を考えていた。

 双子が暮らしていた村はまさに辺境とも言うべき場所で村人口百人弱のド田舎。当然、アイルも誰が住んでいたのか顔も覚えているので真紅の吸血鬼が村で住んでいた人物という考えは除外していた。アレだけ綺麗な人ならアイルだって記憶に残っているのだから。


「君……大丈夫なのかね?」

「これくらい全然大丈夫さ! それにしても家や壁が粉々になっちゃったなあ、だからあまり町中じゃ戦いたくなかったんだよ」


 砂利道を歩くアイルの姿を見て一人の男性が身を(あん)じ声を掛けるとアイルは一つ微笑みを見せて無傷だという事を伝える。そして、アイル自身は破壊された痕を見て町中では戦いたくなかったと露見した。

 地面は削られていたり木材や石材はアイルが衝突した事が原因で積み上げられていたり、転がっていたりする。やはりと言えばそうだが町中で戦えば被害は免れない。


「でも、意外と驚いたりしてたから話を聞いてくれれば町の外で戦ってくれそうだ」


 戦うには全力を出して戦いたいアイルからすればこの町中だと存分には発揮出来ないでいた。

 だが、戦っている間やアイラを見た反応を見る限りでは話を聞いてくれそうな人物という評価。下手に暴れれば町を破壊し尽くしかねないアイルはそれを避けるため真紅の吸血鬼に交渉しようと企んでいた。蹴られた場所まで矢を射るような速度で移動するも、そこには真紅の吸血鬼の姿はなくなっていた。


「あれ!? 吸血鬼は何処に行ったんだ、それとアイラも消えちゃってるじゃん」


 ものの数秒で元居た場所まで移動し終えるも到着した頃には真紅の吸血鬼及びアイラの姿は見当たらず、アイルは周囲を見渡して探し始めた。屋根の上からだったり瓦礫を地道に退かしたり、民家に無断侵入したりと探し回るがやはり何処にも居ない。

 十数分程探し続けるとアイルの中で一つの予測が生まれる。


「もしかして――連れて行かれた?」


 これだけ探しても見つからないということは町を立ち去ったということ。そして、アイラの姿が見当たらないという事は真紅の吸血鬼に連行されたということ。


「君は女の子の知り合いなんでしょ?」

「え、君達はさっき吸血鬼に襲われてる人達だね。アイラが何処に行ったのか知らない?」

「あの子なら吸血鬼に連れて行かれたけど」

「それってつまり誘拐をされたってこと? うげっ、それじゃ直ぐに追いかけないと吸血鬼にされるかもしれないじゃん!!」

「きゃああっ!? な、なんて速度なのあっと言う間に姿が見えなくなるなんて……もう人間超えてるじゃん」


 吸血鬼に襲われていた若者組の内一人の少女がアイルにアイラの事を確かめる。

 一応、少女の事をアイルは覚えていたのでアイラが何処に行ったのか問う。そして、連れ去られたと返答が女性から返ってくると、やはり誘拐された事にドキッとしたのか地面を普段よりもさらに強く踏み込んで一気に町を駆け抜けて行く。

 その蹴り込んだ事によって発生した衝撃が少女を襲い、少女は目も開けられなく次に目を開けた時にはアイルの姿は何処にもなく、ただ人間の枠を超えてるなと呆然と呟くしかなかった。しかし、バック走しながらアイルは少女の所へ戻ってきた。


「って、戻ってきてどうしたのよ」

「ところでさ、吸血鬼はどっちに行ったか分かる?」

「あ、ああ……西の方に軽やかに走っていくのは見えたけど」

「そっか、ありがとうお姉さん! それとそこに倒れてる人だけどまだ死んでないから処置して上げてね」


 急ぐように足踏みをしながら少女から吸血鬼が去った方向を訊くと一言お礼を言い、倒れている少年はまだ生きてる事を教えると再び猛烈な速度で町を駆け抜けて行った。


「それは良いんだけど、今の説明で何処に行くのか分かったのあの子って」


 西の方に行ったとは教えたが果たしてそれだけで見つける事が出来るのかと残された少女は首を傾げるほかなかった。



 真夜中の平原を西側へと疾走するアイル。時折、夜になると凶暴化する魔物が現れたりするがそれを一蹴しながらアイルはとある地へと向かう。

 西の方へと猛烈な速度で平原を駆け抜けていると薄暗い森に行き着き。それでも走る速度は変わらない。


「吸血鬼って言うぐらいなら絶対に豪華なお屋敷とかに住んでいるはず!」


 勝手な推測で大きな建築物を探し回っているアイル。森林地帯には無理矢理に木々をへし折っていたり、グリズリーに似た魔物などが血に染まって死んでいる姿が目に入る。まるで鋭い爪のようなもので裂かれた痕や酷く強い力で殴られたかのような痕も所々に残されており。


「多分、あの吸血鬼かな。って事はボクの推測も当たってるかも」


 まだ真新しい血でここを通った人物によって受けた攻撃跡。吸血鬼の攻撃手段を全て見たわけではないが実力的には簡単な事で吸血鬼ではないかと確信へと逆に決めていた。途中で修道女が被っている白色のベールが森に落ちておりアイルはそれを見つけて一度だけ立ち止まる。


(これはアイラが被ってた。落ちたのかそれともアイラが道しるべに落としてくれたのか、けど道はあってるみたいだしいっか!!)


 ワザと道標として残した可能性も考えうるが少なくとも吸血鬼がここを通った事は正解でアイルは周囲を撒き散らしながら再び駆ける。


 薄暗い森を抜けると丘が見え、そこには古ぼけた洋館が建てられている。

 平原で現れる魔物よりも個体値が上の魔物が多く生息する森を抜けなければ行き着く事が出来ない丘の上の洋館には人が暮らしているようには見えず、(からす)の鳴き声や羽を羽ばたかせる音が不気味に聞こえてくる。

 森を駆け抜け終えたアイルは少し息を乱しながらも怪しい雰囲気に包まれる洋館の全容を視界に映す。


「ははっ、なんだか面白そうな場所! ここにもアイラが履いていた靴が落ちてるし正解だ!」


 烏だけでなく蝙蝠(こうもり)が羽ばたき冷ややかな風がアイルの頬を撫でるようにすり抜け、若干身震いするもアイルは持ち前の好奇心を逆に刺激されたのか表情が明るい。

 怪しげな雰囲気を醸し出す割には洋館の周囲は綺麗に掃除されており正門も時の風化を除けば新しくも感じられる。だが、それが解せないのかアイルは首を捻ってしまう。


(あの人が掃除してるのかな? にしては丁寧に掃除されてるような気がするけど……性格的になんだか似合わないなあ)


 真紅の吸血鬼のあの尊大な性格からは感じられない程に几帳面だとアイルには思えた。


「まっ、良いか。どうせボクはあの吸血鬼と戦いに来ただけだし!」


 疑問には思うがすぐに考えるのを止めて正門を開け洋館の庭に足を踏み入れる。

 そして、既に洋館の中に戻っているのか真紅の吸血鬼は窓際から、庭に足を踏み入れたアイルを黙って観察していた。


(へぇ、頭の悪そうな子供だと思ったけれどそれなりに推測も出来るみたいね。ふふ、早く上がってらっしゃいそこでケリを着けてあげるわ)


 三階の廊下窓際から意気揚々(いきようよう)と侵入して来たアイルを見て不敵な笑みを浮かべる。その手には銀のトレイを持ち、トレイの上には紅茶が注がれている割りとお洒落なティーカップと苺が乗ったショートケーキがひと切れ乗せられていた。

 アイルが辿り着くまでの暇潰しに用意した代物なのかそれは分からないが真紅の吸血鬼は窓際から離れて近くの扉を開き中に入っていった。

 真紅の吸血鬼が入った部屋は書斎だった。元々、吸血鬼以外が住んでいたのか昔の領主が仕事に使うような書物など本棚に閉まってある。さらに面会も行えるように椅子やリビングにも置かれるような机も設置されている。そして、椅子には無傷のアイラがぽつんと座っていた。


(えっと……私は連れ去られたと思ったけど。別に何も酷い事をされてない、んだよね)


 椅子に腰を下ろしいるアイラは自分の状況に戸惑いを感じていた。

 用意されたのは適当に吸血鬼が選んだ本。これは少しの間、暇潰しに読む事を勧められてアイラは警戒心を削がされた。のだが、吸血鬼が部屋から出て行った際に再び警戒を高めて一先ず周囲を見回して怪しい所はないか探して時間を潰していた。

 だが、そんな不安も杞憂(きゆう)に終わり特に怪しい置物など何一つなかった。寧ろ、生活感が溢れ非常に掃除が行き届いておりアイラは逆に感心すらしていた。


(あの人が掃除してるのかな。アイルと戦ってたときは怖いイメージしかなかったけど、細かいところにも気づいて実は綺麗好きな人?)


 洋館の庭やエントランスホール、階段などきちんと掃除が行き届いておりその手の職なのかとも連れて来られた時は勘違いしたもの。

 連れて行かれた。つまり、自分は誘拐されたのだと逆に疑いたくなるような対応。

 そんな事を考えていると扉が開く音が聴こえた。


「あら、本読んでなかったの?」

「い、いえ……それよりも何をしてたのか気になって」

「そう。はい、これ。魔物にも襲われて危ない目に遭わせてごめんなさいね、お詫びのしるしとまではいかないけど食べて」

「紅茶とケーキ――なんでっ!?」


 全く寛いでいないアイラを見て訝しげに目を細める真紅の吸血鬼。

 噂で聞いた真紅の吸血鬼。目の前に立てば噂の事を思い出してしまい声が震えてしまうアイラ。しかし、アイラが脅える事など意にも介さず真紅の吸血鬼は机の上に丸い銀のトレイを置く。そう、真紅の吸血鬼はアイラにお詫びのしるしという意味も込めて紅茶とショートケーキを用意していた。

 やはりと言うべきか目の前に置かれた紅茶とケーキのセットにアイラはつい素っ頓狂な声を出してしまう。あまりにも相手が起こした予想外の行動はアイラにツッコミをさせるほど。


「言ったでしょ。わたしは貴方に聞きたいことがあるの、それを食べながら色々と聞かせてもらうわ」

「な、なるほど。で、ですけど私は貴方の事は全く知らないのですが。その誰かと勘違いをしているのでは?」

「ふふ、そう。どこまでもシラを切るというのね。約六十年前のことよ?」


 何故、紅茶とケーキを用意したのか理由が思いつかないアイラはつい大袈裟に驚く。

 もっと残虐的に痛い目に遭うものだと想像していただけに余計に困惑してしまうのだが、真紅の吸血鬼はあくまで穏便(おんびん)に済ませる気なのかケーキと紅茶はどうやら落ち着かせる為に用意したらしい。

 それを聞いたアイラは割りと簡単に納得する。だが、やはりアイラは真紅の吸血鬼の素性(すじょう)など何一つ知らない。会ったのも今日が初めてで、アイラは勘違いではと口にする。

 だが、真紅の吸血鬼はあくまでもアイラが知らないふりをしているのだと思っているのか鼻で笑い、出会った時間軸を言葉にした。


(ろ、六十年ぐらい前……? そんな昔なんて私存在すらしてないよ!? でも、私とその人を勘違いするってことはその人が私と似てるわけで、六十年ぐらい前ならその人はお爺ちゃんやお婆ちゃんと同世代。もしかしたら私の血縁のある人かも)


 そうアイルとアイラのどちらも誕生すらしていない時代。だが、その人物と勘違いをするということは双子にとって血縁者と考察する事が出来、アイラは出生を知る機会(きかい)なのではと(あわ)い希望を抱く。

 取り敢えず相手を怒らせないように下手に出て情報を聞き出そうとアイラは真紅の吸血鬼の顔色を(うかが)いながら問う。


「その人の名前は分かりますか? もしかしたら姿が似てるだけで、私と名前は違うかもしれないですし」

「――かもしれないと言いたいところだけど貴方の名前はアイラでしょ。金髪の子が貴方の名前を口にしてたから知ってるわ。それに、その時に出会った少女の名前も同じアイラで貴方と同じ白髪。そして、隣に立っていた漆黒の髪の少年はアイルだと名乗っていた。金髪の子もアイル――これは偶然かしら?」

「――っ!?」


 名前はきっと違う。そう考えていたアイラの考えは簡単に覆されてしまいアイラは何も言えずに口を閉じていた。

 真紅の吸血鬼に出会った少年少女の名前は自分達と同じで唯一異なる点はアイルと名乗った少年の髪色が黒色だということ。だが、その真意を確かめる術はアイラにはなく、正しいと思えるのは真紅の吸血鬼の言葉の方で何も言い返せない。


「けど、貴方のその様子だと覚えてないみたいね。貴方はその子と一緒に孤独だった“わたし達”に大切な名前をくれたのよ何一つ覚えてないの!? ずっとわたし達は貴方とそのアイルって子に再会するのを何十年も待っていたのよ!!」


 かつて真紅の吸血鬼にあった事柄を聞くアイラ。それは、やはりと言っても良く身に覚えがないことばかり。

 それどころか約六十年前――真紅の吸血鬼に名前を与えた。そう命名したのだと爆弾発言をおとされてしまう。まるで親しい者から忘れられてしまった虚しさ、憤りをぶつけるように叫ぶ。再会することを待っていたのだと。


「わ、わたし達? ぜ、全然身に覚えが……名前を私がつけたって?」

「本当に何も覚えてないの? 記憶喪失なのかもしれないわね、貴方とその少年は六十年前に全世界の歴史を守るために戦ったのだから、もしかするとその後遺症(こういしょう)


 バンッ!!と机を叩いた音が書斎に行き渡り、アイラはその音に驚き胸を鳴らしてしまうが記憶にないことなので知らないと首を横にふる。

 憤りを感じ興奮してしまった真紅の吸血鬼は冷静になるために一度小さく深呼吸を行う。そして、覚えてないと貫くアイラを見て、一つの仮定を生み出した。記憶喪失なのではないのかと。真紅の吸血鬼が出逢った少年アイルと少女アイラは全世界の歴史を守ったことが原因ではと案を出した。


(こ、この人――別人だとは思わない気なんだ)


 絶対に別人だとは思う気が感じられない。まるでアイラがその時出逢ったアイラであってほしいという願望にも感じ取れた。


「まぁ、良いわ。それにもう話をする時間もなさそうだもの――ねぇ、子供ぉ」


(ッ!? なにこの殺気、話していた時とは全然違う!! それに誰のことを見てるの?)


 会話の時には全く感じなかった殺意が今は溢れんばかりに感じ取れ、しかし、真紅の吸血鬼の視線はアイラではなく別の方向。つい、アイラも気になり椅子から立ち上がって真紅の吸血鬼が睨み付ける先を見る。

 その先は書斎唯一の出入口で別に誰も立っていない。つい、アイラは瞬きをしては右手で目を擦り再確認を行う。が、やはり誰も居ない。


「もうすぐよ。ふふ、今度は言葉に見合った実力をみせてくれるのかしらねえ――」

「あ――」


「おじゃましまーすっ!!」


 真紅の吸血鬼に頭を撫でられたアイラは何とも言い切れない表情をしてしまう。久しぶりに頭を撫でられたことに嬉しさもあり、それ以上に真紅の吸血鬼は噂のような人物ではないと感じた。

 そして、アイラがそんな事を思っているとドアノブが下に下がって扉は開かれる。開いた扉からは元気な声。その主、アイルが書斎に入って来た。


「来たわね」

「吸血鬼、もう一度戦おう。今度はきちんと全力で行くから、さ」


(あ、別に私を助けに来たわけじゃないんだね――うん、知ってた)


 助けに来てくれたのだと笑顔になったが第一声を聞いてその笑顔を崩してジト目でアイルを見てしまう。

 なんとなく予想は出来ていた。出来ていたが予想を外して欲しかったのがアイラの乙女心である。

 そして、そんなアイラの心中など知らないアイルと真紅の吸血鬼は互いに不敵な笑みを浮かべながら対峙した。

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