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双天のステルラ  作者: なまけもの
変わり始めた世界
38/49

第38話

二週間ぶりですかね?

いよいよ新章突入です!!けど、やはり最初なので話自体は全く進みません。

この章で双子に仲間が増えます。ですがもう少しだけ先ですね、二話ぐらい先かな?頑張れ、俺!!


それでは新章第38話宜しくお願いします!!

 浜辺の修道院でアイラが目覚めて早1週間の月日が流れていた。しかし、アイラはアイルが療養している部屋から出る事は殆どなく、せいぜい風呂桶に汲んでいる水を替える時ぐらいに部屋を出るぐらいだった。

 修道院で拾われ三日も経てばアイルの傷は完治に近づき修道女達を大いに驚かせていた。肉体内や人骨に関しては修道女達には判別出来なかったが、腕や脚そして顔など目に見える外傷は塞がりつつあり、何も知らない第三者が見ればただ転んで出来た怪我にしか見えない。

 さらに四日が経ちアイルの傷が全て塞がった事もあり、アイラは修道女から借りた子供用の修道服をアイルに着せ上半身だけ脱がしていた。決してやましい事はせずに巻かれている包帯を解いている途中だ。女子供用の修道服だが元々髪が濡れていればアイラと見間違う顔立ちのアイルには充分似合っていた。


「まだ、目を覚まさないの……?」

「んっ……」

「ふふっ、かわいい~」


 顔色や呼吸も正常で今にも起きそうなアイルの右頬を右手の人差し指で小突くアイラ。

 小突く度にアイルがもぞもぞと小さく動くその姿を見てつい微笑んでしまうアイラ。早く目覚めて欲しい気持ちとまだ少しだけこの姿を見ていたいという思いがアイラの中で互いに競り合っていた。

 生きているのだが目覚めない事に不安も少なからずアイラを襲い、目の下には隈が出来ており寝ていないのが分かる。それもあってか修道女から心配されるも、あまり言葉は交わさずに適当な相槌ぐらいで済ませていた。


「傷も癒えているのに全く起きませんねあの少年」

「生きている事がとても不思議な状態だったもの……」


 傷は回復したにも関わらず意識不明の状態。しかし、呼吸器は平常通り動いているので死んでいるわけではない。それ自体が奇跡的だとも修道女の一人が心配そうな表情で呟く。

 教会の宿泊室のベッドに使用していたシーツはアイルを運び寝かせた時点で真っ赤に染め上がってしまい、手洗いで汚れを落としても完全には落とせないので破棄となった。


――ぐぅ~っ


 目覚めないアイルを心配そうに見つめている静かな一室の中で、小さな腹の虫が鳴った。それを耳にした者達は互いに顔を見合わせるが、誰も違うと首を横に振る。

 無論、アイラも小さく周囲を見渡していたので違う。この中の誰もが違うと分かるとアイラは期待に満ちた表情で眠っているアイルを覆うように顔を見つめる。その刹那、アイルの眉がピクリと小さな動きを見せて元気な少年の声と共に体を起こす。


「お腹減ったああああ!」

「ひゃあっ―――!?」


 目を覚ますだろう、そうアイラは予想した。だが、その目覚め方はアイラにとって予想外で驚き可愛いらしい悲鳴を上げながら床に尻餅をつく。


「んん? なんだなんだ、ここはどこだ? それよりも君達はだれ?!」


 起きて早々に元気な姿を見せたアイルは周囲をきょろきょろと見渡す。知らない部屋、知らない人物、知ってはいるが色が違う少女。色々と疑問に思うことがあるのだが――


「でも、やっぱりお腹減ったよお~……」


 疑問だかけの部屋でも今、アイルに必要なのは食事。寝込んでいて一週間ぶりの少年とは思えないので修道女達はポカーンと口を開き固まっている。

 そんな以前までは当たり前のように見ていたアイラはアイルの声を聞いて嬉しそうに笑っていた。


「あれ、アイラは何でそんなところに座ってるのさ」

「な、なんでもないよっ。ほ、ホントにアイルなんだよねもう体は大丈夫なの?」

「そりゃボクだけどなんでそんな事を? 体はもう大丈夫だよめちゃくちゃ快調さ!!」


 久しく話している感覚に陥っているアイラはどこかぎこちなく視線はアイルの顔を見てはいない。とは言えやはり目覚めたもののアイルの体調が気になり再度確かめる。そんな質問をしてくるアイラに当然のように自分自身だと返答する。そして、右腕を曲げ左手で右上腕筋を二度叩き快調だと笑顔を見せる。

 一週間前までの平常運転な姿のアイルを見てアイラは(ようや)く実感して涙を流し始めた。最後に見たアイルの姿は満身創痍で死に体に近いもの。だが、今はそんなものは見られない。

 涙と共にアイラの胸中にあった思いが溢れ出てくる。


「私……」

「え、どうしたの?」

「心配したんだよ! 死んじゃうかもしれないって、なんであんな無茶をしたの馬鹿アイル!! 心配して心配して……でも生きてるの嬉しくて!!」

「え、えっと……」

「えっと、だから違うっ! その、私が言いたいのは……無茶した事とかじゃなくて……」


 涙を流し口を開くと声を荒げて伝えたい言の葉を紡ぐ。しかし、言いたい事や思っていた事が混ざってしまいアイルは首を傾げてアイラの言葉をジッと待つ。

 人の言葉を無視して無茶して死にかけた事に怒っている、それもアイラの中の本心だ。だが、伝えたい事はそれではなく別にある。だが、それを上手く言えずに他の本音をアイルにぶつけてしまう。もう何が何だか分からなくなってきたアイラは修道院から借りた服の袖で流れ出る涙を振り払っている。

 そして、そんなアイラの姿を見てアイルは何を伝えたいのかまでは完全に理解はしなかったが、少しだけ泣いている理由がアイルは分かり言葉をゆっくりと紡ぐ。


「心配かけたんだよねボク。自分の感情に任せてアイラが不安になったんだよね、ごめん」


 一週間は眠っていたが決して前後の話が見えないわけではない。特にディオール相手に敗れた事はアイルの中で鮮明に残っている事なので自分のせいでアイラに心配させていたのだと意識はしていた。そんな、珍しく自分に非がある事を意識しているアイルに僅かに驚くもこれ以上、混乱する事もなくなった。


「ううん、アイルが生きてて安心したよ」

「そっか! それよりもさどうしてそんな髪色や目の色になってるの?」


 もうあれこれと言いたい事を考えるのを止めたアイラは、一言だけアイルに安心したと告げた。

 一つの事に拘るような性格でないアイルは笑顔一つで納得しそれ以上は追求はしなかった。しかし、ある意味一番気になるアイラの変化を本人に指摘する。

 アイラの髪色は金色で瞳も蒼色だったのだが、現在は白髪に銀灰色となっている。元々、(はかな)げな雰囲気を持っているのだが白髪となってしまい一層それを強調させてしまっている。だが、白髪は老人のような白色でなくどこか美しさも感じられる。


「えっ、私は変わりないと思うよ?」

「そんな事ないよ。白いよ髪の色が」

「え、え!? か、からかってるの?」


 今日まで鏡を見ていないアイラはアイルの言っている事を信じられずに両手で髪を触れる。触り心地は以前と然程変化がなく脱色した覚えもない。

 だから、これはアイルがからかっているのだと思い、あどけない微笑みを浮かべながら問い直す。だが、もうアイルは答えない。ならばいっそ、確かめてやると思うとアイラは部屋に置かれているクローゼットの鏡をで確認する。

 鏡に反射して映るのは身長130cm程の幼い体。顔を見れば隈が出来ていて涙が出ていた事もあって少し醜い。髪もボサボサで女の子というには些か整容面に意識が行き届いていない。こんな姿をアイルに晒していたのだと今更、実感して後悔をするがそれ以上に気になる事が鏡に映っている。

 髪は白色というには美しいが銀色ではない、瞳は銀灰色っぽくどちらも自分の色ではない。金髪蒼目がアイラだ。


「ええええっ!? ど、どうして色が変わってるの!? ぅぅっ、全然思い出せないよー!!」


 あまり大きなリアクションをとらないアイラも自分のこの変化には驚愕を隠しきれずに頭を抱えた。


(ディオールとフレインという人と少し話をした記憶はあるけど、その後の事が全く覚えてないよ!?)


 話した内容も覚えているがその先の記憶が一切ないのでアイラは悩んでいた。


「そんな事よりさここってどこなのか知ってる?」

「そ、そんな事!? 私にとってはそんな事じゃないよアイル……」


 髪と瞳の色素が薄くなっている事はそんな事では済まない話だが、相変わらず無頓着なアイルに肩を落とすアイラ。

 アイラにとってアイルと同じ髪や瞳の色が変わってしまったのは重大な事である。


「アイルにとって私なんて……」


 などとぶつぶつと誰にも聞こえない程度に呟き始めたアイラ。

 ネガティブな状態に入ったアイラを放っておいて、アイルは自分達のやり取りを見ていた修道女達へと視線を移す。今、アイラに聞くよりも確かな情報を得られる。


「ねえねえ、ここは一体どこなの?」

「その話はお食事でもしながら話しませんか? 貴方達が一体何者なのかとても気になりますし」

「ご飯!? やった、すごくお腹空いてたんだー!!」


 アイルから話しかけられた修道女は若い修道女の中では年配の方でどこか穏やかな雰囲気が彼女から見え隠れする。そして、その彼女からの言葉を聞いたアイルはお腹を右手で摩りながら目を輝かせる。

 嬉しそうなアイルを見て修道女達は皆、微笑んでいるのだが――

 突然、扉を乱暴に開く音がアイル達の居る部屋まで届いた。何事かと一人沈んでいたアイラも物音に気付いて、表情を固くする。


「金目の物を渡せ女どもっ!!」

「それよりも俺達でここの女どもを食えば良くねえか?」


 凶悪な人相で部屋に押し入って来た数名の賊。その姿を見て修道女達は背筋を伸ばして硬直してしまう。

 その手に持つのは斧や鎖鎌といった武器。脅し文句を吐き捨てる柄の悪い男と合わさって余計に恐怖が増加しているのだが、アイルは笑みを浮かべて右足を一歩前に出す。


「もしかして勝負でもするの!? それだったらボクが戦うよ!!」


 怖がる修道女達を他所に目を輝かせて挙手するアイル。しかし、賊達は怪訝な表情をしていた。


「ハアッ!? この餓鬼は何を言っているんだ?」

「しらねえよ。おい坊主、死にたくなけりゃ出しゃばるのはやめときな!」


 子供の戯言だろうと真面目にアイルの言葉には耳を貸さずに寧ろ大きく笑い出す賊達。当然だ賊達の前に立つのは神への信仰を説く女性ばかりでアイル自身もまた町民の子供にも紛れ込めれるような存在。

 無論、それは外見的なもので中身は一般人では括れない程度には強い少年。それはアイラ以外知らぬ真実で知らなければアイルをただの少年としか見れない。アイルには博愛騎士のような神聖さや覇王のような凄みというものが欠けているのだから。


「そりゃあっ!」

「ぐふうっ!?」


 分からないのであれば教えれば良い。とでも言いたいのかアイルは右腕を素早く突き出してその拳圧で斧を装備している男を吹き飛ばす。アイルの拳は全く男には触れていないがその強靭な力から発生した拳圧に重い一撃を受けたかのように顔を歪ませて男は部屋の壁へと叩きつけられる。

 それを見た修道女や賊の男達は皆、口を開き唖然としながら吹き飛ばされた男へと視線を移す。一発で気絶した男性は目を回しながら壁に寄りかかっている。


「え、こんなので気絶するの!? これじゃ戦いにもならないよ!?」


 まさか一撃でダウンするとは思いもしなかったアイルは落胆の声を吐きもらしていた。非常にガッカリとした様子で倒れた男性を見て、たったそれだけの出来事でアイルは簡単に悟る。


「これ以上やっても君達が傷つくだけだからさっさと逃げなよ。君達が何もしなければボクも攻撃はしないから」


 賊は所詮、同じ力量程度の集まりに過ぎない。賊達の反応から見てもそれは明らかでアイルは立ち去る事を勧める。


「てめえっ、糞餓鬼が大人を舐めてんじゃねえぞこらっ!!」

「やっちまおうぜ!!」


 誰が子供の言葉をそのまま受け止めて行動するだろうか。それどころかアイルの言葉は火に油を注ぐだけで賊達は激昂して武器を大きく振り翳して五月蝿くアイルに攻め寄っていく。

 だが、ディオールから感じた威圧感を比べれば対した威圧感ではないのでアイルは狭い部屋の中でも関わらず賊達へ迎撃する。大人数名で相手は武器を持ち、対してアイルは武器を持たないちょっと強い子供の戦い。修道女達はオロオロと当惑していた。


 振りかざされる賊の大剣だがアイルの手刀を手首に決められて床に落とし、鎖鎌の鎌の方でアイルを傷つけようとするも鎖をアイルに掴まれて強く引っ張られ引き寄せられる賊。

 引き寄せた賊の腹部に左拳を叩き込むと、その賊の頭を掴み残っている賊達へと投げつける。攻撃仕掛けようとした最中、同胞とも言える者が飛ばされてきたので攻撃を中断してしまう。その隙を衝いて小さく跳躍し右掌底を大柄な男の顔面に決めて再び殴り飛ばし壁を突き破り外へと出してしまう。


「あ、壊しちゃった!」


 つい勢い余って部屋を破損させてしまった事に気付いたアイルは罰の悪い表情になってしまう。

 既に部屋に押し入って来た賊達は全員気絶させられており立っているのはアイルとアイラ、修道女達だけでアイラは蚊帳の外のように何もしていない。


「つ、強~い! この子、めちゃくちゃ強いじゃない!!」

「全然、手の動きとか見えなかったんだけど!?」

「貴方、サイコーよ!!」


「む~~っ!!? むーっ!!」


(なんだろこの感じ。アイルが女の人に抱きしめられてるの凄く嫌だ……けど、ううっ! どうして私には胸がないの……?)


 ものの数秒程度で終わった小さな争いに修道女達はそれぞれ感嘆の声をもらし、一人は拍手を一人はアイルに飛びついて抱きしめていた。抱きつけられたアイルは修道女の胸の辺りに蹲る形となっていた。

 豊満な胸に顔を押し付けられているアイルは慌てた様子で手足を動かしていた。そんなアイルの姿を見てアイラは少しムッとした表情をするがその修道女の胸を見て己の胸部を触れる。修道女にはあり自分には足りない胸に心の中で涙を流してしまう。



 時刻は既に日が傾いている時間帯でアイルとアイラは修道女達と一緒に食卓の椅子に座って夕飯を食べていた。

 賊とのひと騒動後に意識を取り戻した賊達はアイルの姿を見るや修道院から逃げるように立ち去ってしまった。壁に穴が空いたなどはあったが死者や負傷者がいないので修道女達は一安心し、部屋の掃除を滞りなく済まし食事にしていた。

 アイルが目覚めた時間は夕暮れ時で修道女達と一緒に晩御飯を頂く事となっていた。久方ぶりの食事という事もあってかアイルは普段よりも多く食事を摂取し、アイラも沢山食べていた。しかし、アイルと比べれば非常に自重している。


「そろそろ貴方達の事を聞かせてもらおうかな。貴方達は一体どこからこの浜辺の修道院に来たのか教えてもらっても大丈夫?」

「えっと、あ……私達は……」


 この修道院を管理している修道女から話題を振られたアイラは若干、言葉を濁らせながら口を開く。決して疚しい事はないし真実を告げれば良いだけの話。なのだが、隣に座ってオカズを食べる事に没頭していて話を全く聞いていないアイルを酷く困惑しながら横目で見ていた。

 歯止めがないかのように晩御飯を食べるアイル。相当空腹だったのだろう、アイルの前には幾つもの皿が重なっていた。それでも、止まらずにおかわりを要求している。少しは自重してほしいと願うアイラにとっては悩みの種であった。


「うん、この子の事は気にしてないから貴方も気にしないで」

「あ、ありがとうございます。でも、何から……」


 アイラの目線から察した修道女はアイルの事は放っておく事に決めた。

 修道女の言葉にアイラは安堵し、一体何から話せばと少し悩む。やはり長らく世話になっていたのでお礼からなのか、自己紹介からなのかと色々と頭の中で考えていた。話の要点だけを言えば手早く終わるが、セレナーデ大陸で起きた事を話すのは少々気が引けるものであった。


「私はアイラって言います。隣でご飯を食べているのが弟のアイルで、えっと私達はコルネット王国に居たんですが、ここもコルネット国領ですか?」

「……い、いえ。アイラさんが今言われた内容は事実なのでしょうか?」

「そうですけど、どうして顔が引き攣っているのですか……?」


 名前だけを教えて自分達が今まで居た場所コルネット王国だという事を伝えるアイラ。なのだが、アイラの口から出てきた言葉に修道女達は目を見開き食事の手も止まっていた。

 だが、そんな修道女達の態度が不可解でアイラは率直に質問してしまう。


「コルネット王国は一年と半年前に滅んで現在は別の帝国が創設されたのですが……?」

「い……一年も前? え、えっと何を言ってるのですか!? 私とアイルはコルネット王国が滅んだ日まではずっとそこに居た筈……ですけど」


 修道女の言っている事は理解出来る。しかし、自分達が居るこの世界は未来であるという事に戸惑いを隠せず受け入れるには余りにも唐突過ぎた。

 時間軸で例えるならば未来にあたり世界の中で経過した時間は一年と半年。決して些細な問題ではない。

 コルネット王国の件を考えれば世界は一年半もあれば大きく変化していても不思議ではない。少なくとも小さな双子にとって一年半とはとても大きな空白でしかない。


「ぷはーっ、美味しかったああ!!」


 あれこれ悩み続けているアイラの隣で食べる事に専念していたアイルの声がリビングで寂しく響く。

 アイル以外は必死に悩んでいるにも関わらず当事者の内の一人でありながら全く話に関与しないアイルに呆れ返っていた。


「アイル、今の話聞いてた?」

「なんかボクとアイラは未来に居るんだよね。それがどうかしたの?」

「あ、話は聞いてたんだ。け、けど一年半も先の時代に来てるんだよ!? ちょ、ちょっとは戸惑わないの!?」

「別に戸惑うことはなにもないよ? そりゃ、ちょっと吃驚はしてるけど嘆く程でもないからね」

「そ、そんなもの……なのかなぁ?」


 食事に集中し過ぎて現状把握出来ていないのでは、と感じて食べ終わったアイルに今の話題を振る。話自体はシッカリと聞いていた。しかし、それが問題あるのかと素っ頓狂な表情をアイラに見せていた。

 話を聞いていたので説明する手間が省けたと思いつつも、全く動揺した様子がないアイルに困惑した顔色で問い詰めてしまう。精神的に余裕があるのかはたまた、単に開きなおっているのかはアイラ達には分からないがこれ以上は何も言わないようにした。

 特にアイラはアイルの言葉を聞いてそこまで気にする事でもないのかと、つい考えが改まっている。


「あのこの一年半で世界はどう変わったのでしょうか……? あまり聞きたくはないのですが……」


 嫌な予感しかしないが、世界はどう変わったのかこの先必要になるのではと思い内容を訊く。


「半年程前に旧コルネットの地には新たにクルセリア帝国というものが創設されました……。そのクレセリア帝国なのですが、それはある強大な帝国と繋がっていると言われています。それが、バビロン帝国と呼ばれる世界を揺るがしている国家です」

「クルセリア帝国とバビロン帝国、ですか? 一度も耳にしたことがない国です」


 本で世界に点在する国々の名前は知識として入っているが今まで一度も聞いた事のないアイラはクルセリア帝国とバビロン帝国という国名に首を小さく傾げてしまう。半信半疑ながらも双子が過去から来たのであれば認知していなくても変ではないと修道女は安心させる。


「アイラちゃんが過去から現在に来たというのが真実であれば知らなくても可笑しくはないですね。話の続きなのですがバビロン帝国が水面下から世界に姿を見せた頃から、世界中にその影響を及ぼしています。例えば魔物の凶悪化や先ほどのような無法者(むほうもの)が増加したこと。他にも別地方に勢力を伸ばし世界を支配しかけているのが現状ですね。私も知らない事の方が遥かに多いですから――」


(ぅぅっ、やっぱり緊張するよ~)


 新たに出現した二カ国により世界が変化した事柄をアイラに説明する修道女。子供相手に礼儀正しい言葉遣いなのは修道院で生活を過ごしているからであろう。基本的に他の修道女達も同じように砕けた口調では話さない。

 それが少しばかり(くすぐ)ったいのかアイラはモジモジと体を小さく動かしている。特に年上が相手という事もあってそれが顕著だ。


「どうしたのですかアイラちゃん?」

「あ、いえ、なんでもないです!」


 モジモジと体を小さくくねらせるアイラに気付いた修道女は心配そうな声色で声を掛け、アイラはつい大きめの口調で答えてしまう。

 特に心配する事はないとアイラから聞くと、修道女はアイラに泊まるように促す。

 

「そうですか。今日はもう夜も遅いですし泊まってくださいね」

「ぁ、お言葉に甘えさせてもらいます」


 普段であれば慌てて断る事から始まるのだが頭の中を整理したいので素直に甘える事にした。



 世界は常に移り変わって行くが夜に瞬く星空は変わらず煌く。

 波音を聴きながらアイルとアイラは夜の砂浜を仲良く並んで歩いていた。修道院の近くという事とアイルの強さが認められた事に気分転換に出歩くことを許可されて今に至る。

 生まれてこのかた一度も海を見た事がない双子は海というものを初めて見て感嘆に思いを浸していたが、アイラからアイルに一つ気になる事を質問していた。


「ねえアイル。アイルは戦って死にかけたのに戦うのは怖くないの……? 賊の人達と戦った時も全然戦う事に堪えてなかったし……」

「う~ん、確かに戦ってボロボロにされたけど寧ろ嬉しかったよ」

「う、嬉しいの!? もしかしてマゾヒストなの……?」

「マゾヒスト? それが何か分からないけど、あんなに強い人がいるんだよ! 世界中にはそんな強い人が一杯いるんだと思うと寧ろワクワクしてくるよ!! そんな強い人と戦えたらきっと楽しいんだろうなあってそんな風にボクは思うんだ!!」

「そ、そっちね、そうだよね。で、でもアイルがマゾでも私はちゃんと受け入れるからね!!」

「え? うん?」


 強者と戦いそして、敗北した事が嬉しいと語るアイルにアイラは勘違いでマゾヒストだと思い込んでしまう。アイル本人はマゾヒストの意味を知らないので同意も否定もせずにスルーし、嬉しかった理由をアイラにきちんと説明する。その時のアイルは年相応に笑顔が溢れていて、ちょっとだけアイラは頬を紅潮させて聞いていた。

 戦いに喜びを見出していることも充分に異常なのだが、アイラはそこは寧ろ自然に受け入れていた。ついでにアイルがマゾヒストであっても受容するとハッキリとした口調でアイルに伝える。が、やはりアイルにはそのマゾヒストが分かっていないので微妙にお互いの考えが噛み合っていない。


「でも、負けたのは悔しいなぁ! やっぱり戦うなら勝ちたいし負けたくないもんな~」


 強者と戦えた事はアイルにとって歓喜ものではあったが負けた事に関しては悔しいという思いがしっかりと残っていた。戦闘は勝負ものなのでやるからには勝ちたいという思いがアイルは強い。


「確かことわざで……井の中のオタマジャクシ大海を知らずってやつだね」

「アイル、オタマジャクシじゃなくて(かわず)だよ」

「そう、それそれ! また色んな場所を見て強くなって今度こそアイツと再戦するんだ。そういえば名前なんだったけな、戦う事に夢中で名前を聞くのを忘れてたや」


 微妙に間違っていたのをアイラに訂正を受けて納得するアイル。

 そして、ふと大事な事に気付く。それは戦った相手の名前を知らないということ。

 戦闘中は相手の仕草や攻撃方法などを知る事に集中し過ぎて名前を訊くことを失念していたとちょっぴりアイルは落ち込んでいたが、傍から見れば全く落ち込んでいるようには見えない。


「――ディオール。それがアイルの戦った相手の名前だよ」

「そういう名前なのか! んんっ!? でも、ボクはその名前をどこかで聞いた事があるぞ!」


 対戦相手の名前が分からないと嘆くアイルにアイラは顔を下に向けたまま名前を告げる。だが、その名前を口には出したくないのかアイラには似つかわしくない声色でどこか怒りが込められていた。

 そんなアイラの口調などには気付かないアイルはディオールという名前を聞いて記憶の片隅にある名前だと、無い脳をフル回転させていた。


「エレスさんが憧れている男性の名前でコルネット王国第一王子。そして、コルネット王国を滅ぼした張本人」

「え――?」


 どこか冷たさが宿るアイラの口調からディオールという人物の素性を聞くとアイルは二度瞬きを行いアイラを見つめる――

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