第36話
この回で結構登場人物を出しましたが再登場になるのは何時になる事やら。
そして、徐々に?世界の全容が明らかになってきた回だと私的には思いますが――双子に関しては今だに謎だらけだと思いますが、まだまだ双子に関しては話せません。
っというかエレスティスが超空気になっている。ヤバい、これでは空気姫でしかない。一応、エレスティスがこの物語の準主人公にしてある意味主人公の予定なので。予定はあくまでも予定だが。
さて、アイラが強い。というか強すぎて話にならない。もう、アイラだけで良いんじゃないのかな?だなんて思っているそこの貴方、はい、その通りです。
それでは!!
灰色の雲に覆われていた天空も今は純白の白に染められていた。セレナーデ大陸だけでなく海の先にある全ての大陸からも天空が白に染まった事は分かる。何せ世界全体がそうなっているからで、だが誰も知らない。それは一人の少女によって起きた現象だという事には。
そして、セレナーデ大陸の辺境に位置する山奥の村で暮らすグランもまたその光景を見上げていた。だが、グランだけは違った。他の者達は世界の終焉だとか騒ぎ立てる中で冷静だった。
(こ、これはあの時の救世主が翼を羽ばたかせた時に染まったのと同じ)
数十年前の事を思い返すグラン。その時も今と同じように世界全体が白色に――
(だが、あの時は黒色も世界を染めていた)
黒色も一緒に世界を染めていた。黒色が足りないが過去と同じ現象が起きている事にグランは心音が強く打っていて、どこかその表情には過去に出会った少年少女との再臨に喜びを見出していた。
そんなグランの立つ道には双子の同年代の子供達が大慌てで、それを見たグランが子供達を落ち着かせようと声を掛ける。
「大丈夫じゃ。アレはワシたちを守ってくれる力なのじゃから」
「そう、なの? でも、さっきは凄い爆発が遠くで起きたよ!?」
「戦っておるからの。ワシたちに出来る事は祈るぐらい――」
安心させる為にグランはその力は守る為に戦っているのだと子供達に伝える。その時の表情はどこか悲しい色もあって、嬉しさと混同されていた。
(あの力は神話の世界。他の追随を許さない事で共闘すらさせない――だからこそ、それを知ってしまったら頼りきってしまう)
強い故にそれを他者が知ると、よすがとし依存してしまう。そして、その強者が姿を消したら次はどうなる――
きっと何も知らない者は憤慨するかもしれない。力を振るうのも振るわないのも、その力の持ち主にだけ選べる権利で、誰にもそれに対して言及する権利などない。
力ある者をない者が批難するのは酷く可笑しな話で依存してしまえば、何時か神罰が下り滅びる事にもなる。
仮に今、この現象を引き起こしているのが過去に出会った少女であるならば――グランはこのまま誰にも姿が見つからないように去って欲しい思いがあった。
温暖な気候のセレナーデ大陸と変わって、寒帯の気候に属するイヴェール大陸。
平均気温が十度未満の地域で、イヴェール大陸の中でもさらに北の冷帯に属する土地は常に雪が降り大地は大雪原という美しい自然の景色を作り出していた。そのイヴェール大陸の冷帯に位置する場所には世界三大学院の一つに含まれるアステール学院。王宮もしくは神殿と思われる建物は学生達の学び舎と共に宿舎で、その土地にはアステール大図書館と呼ばれる天高く聳え立つ図書館がある。
そのアステール大図書館の最上階に位置する場所には、冷帯で咲くことがない花々や木々が生えており、人によってはどこか異端のようにも見える部屋。。部屋には数多の文献や魔道書などが並べられており、非常に高級そうなソファーの上には双子と同じような年齢の少女が一冊の本を開き文字の羅列を目に映していた。
黒を基調とした貴族が着込んでいるような服が特徴で、髪は青く長い。瞳は紫色。しかし、見た目以上に何か言い知れない力を持っており窓から見える世界を見て目を細める。
「この力はエルトリア? けれど、エルトリアは数千年も前に消えている筈なのに」
ページを捲る手は止まり世界に起きている現象に違和感を覚える青い髪の少女。
窓を開けてそこから顔を出す少女。冷たい風が少女を通り抜けて行くが部屋の温度は常に一定で変わる事がない。少女の部屋一面には魔法陣が描かれておりこの部屋の気候と外の気候を別々に切っている。
「違う、これは六十年前の大災厄に現れた救世主の力だけど――あの時に比べて遥かに弱い。それでも、どうしてこの時代に現れたの?」
見た目以上に永い時を生きている少女もグランと同じように大災厄から世界を救済した存在の事を知っていた。しかし、その時と比較すれば力は衰えている事を感知していた。
だが、それ以上に強大な力の出現に少女はとある女性の心配をしていた。
(エトワールは良いのかしら、このまま力を振るわせていれば間違いなく私達の今までの時間や計画が水の泡になってしまうのに。それに、今の私は此処を離れる予定はないのに)
星霊エトワールの事を指す名前で少女はエトワールと深く関わりがあるらしく、彼女と共に少女は永い時を浪費し計画を企てている。その計画もこのままでは台無しになってしまう危惧の念を抱いていた。
※
双子が暮らす世界とは別位相に位置する世界。
既に本や空想上にしか存在しない妖精やエルフといった種族が数多く暮らす異世界。そこは妖精の女王によって統治される世界で、双子が暮らす世界と比べて非常に平穏に包まれている世界。その世界の大陸は全て同じ四季である。妖精の女王が統治する大陸が春ならば別の大陸もまた春。
世界の中心にある妖精の女王が統治する大陸、自然と共に暮らす妖精は巨大な樹木や岩に住まう。そして、世界最大の樹木と言っても良い、巨大な樹には妖精の女王が住まい、双子達の暮らす世界を見ている。
巨大な樹木――世界樹の最も高い位置には神社のようなものが建てられ、そこには妖精達が妖精の女王の間を訪れていた。その中には、双子の前に現れた妖精ルリカも混ざっていた。しかし、笛を吹き楽しい日々を送れる世界でありながら、妖精達は顔を引きつらせていた。
「てぃ、ティターニアさまー! ど、どうなされたのですか!?」
「あの双子を見る事が出来ない、みたいです。水晶玉には白色の世界しか映りませんし」
双子達を常に監視しているのは、妖精と比べて体格は人間サイズと同じ妖精の女王。桃色の長い髪を伸ばして椅子に座り台座に置いている水晶玉を見つめる。しかし、水晶玉の周囲には激しい放電現象が起きており白色の世界しか映せず、他は一切が遮断されている状態にあった。本来、この水晶玉は双子の動向を必ず映しティターニアが絶対に双子の行方を見逃さないようにする為のもの。
だからこそ、今――双子が何を行っているのか分からなくなった事はティターニアにとって異常な現象で、表情は非常に固く妖精達の問いにも答えていない。
そんな妖精の女王ティターニアの心の変化に妖精達は不安になり周囲を飛び回る。
(エトワール、貴方――このままこの異常を放っておくの? 私達の敵は天壌なる星々と“存在しないモノ”だけの筈よ? その敵を倒す為に貴方は双子の誕生を待っていたはず――!)
ティターニアが心中でエトワールに対して問いかける。そして、問いかけるときにティターニアが向く遥か彼方に一つの大陸とも言えるような巨大な城が天空に浮いていた。
世界樹は最低でも一万kmもの高さを誇るもので、そこと同じ高さで浮遊している巨大な城。その奥、そこには双子が見た夢に姿を見せた女性が巨大な空間に浮いていた。まるで、その光景はアイラが不思議な空間で見た自分と似た少女と同じ光景。しかし、異なる点と言えば幾つかある。
先ず、クリスタルには閉じ篭っておらず髪色や長さ、姿容がまるで異なる。さらに、周囲の空間は岩ばかりが浮いており、似ても似つかない空間だった。そして、この空間は有限で一つの巨大な室内でしかない。その壁から金色の鎖が伸び、女性の四肢を縛り付けている。
瞼を閉じていた女性エトワールはゆっくりと瞼を開き、この肌で感じられる強大な力に遣る瀬無い表情を見せていた。感じられるのは力だけ、その力の正体までは判別出来ない。
――こんな強い力、まるで六十年前のときと同じ。あの時も力は感じれたけれど姿は見えなかった。けど、あの時と比べて力は弱いからまだ干渉出来るけれど。
力を使おうとするとエトワールの右腕に向かった新たに黄金の鎖が伸びて巻き付く。
――止まってくれるとは思えない。それならば、いっそ別の場所へ移動させるしかない。
すると黄金の鎖は力を使う代償として与えられてしまうエトワールが受けるべき罪の鎖。
力を使う事に一本だけ四肢のどれかに巻きつくが、今回は一本だけでは許されずに四肢にそれぞれ二本ずつ巻きついていく。鎖が巻き付くたびに苦しそうな声を漏らし表情を苦痛に歪ませる。鎖は彼女が背負うべき苦しみとも言うかのように締め付ける力が鎖の数が増える度に強くなる。
※
距離は十数m程だがディオールにはその距離が酷く遠く感じられた。届こうと必死にが抗おうとも全く届かない、そんな精神的にな距離があった。
エネルギー系の攻撃では絶対に及ばない――そう判断したディオールは暴力をもってアイラを殺そうとする。大きく振り翳した右腕は、アイラに残り数cmで届くというのに一気に距離を離される。軽くアイラが虫を払うように腕を横に振るっただけでディオールを吹き飛ば威力で、今までのアイラとは全ての能力が異なっていた。
「うおおおおおっ!!」
「力で私をねじ伏せれる。そう思ったことが貴方の愚かしさを表してる」
「ぐふあああっ!?」
アイラの攻撃自体はディオールには掠ってすらないが見えない衝撃がディオールの全身を襲い吹き飛ばしていた。倒れ込んだディオールは歯を食いしばりながら蔑む目色で見下ろしているアイラを睨みつける。
そんなディオールの視線がとても変なのかアイラは珍しくクスクスと微笑していた。
「その目は、今――この状況があまりにも可笑しいと言いたげ。でも、これが普通――貴方なんてただの凡人に過ぎないのに」
「凡人だとっ?」
「そう、ドーピングしてやっとここまで強くなれた。そして、そのドーピングも本当は自分の力が解放されたわけでもない。貴方の力なんて既に底に行き着いているというのに」
声に感情はあまり込められていない。ただ、淡々と事実だけを述べているアイラに対してフレインは空間を開きアイラの背後から右腕で突き刺そうとしていた。
「ぐあああっ!?」
「なっ、しまった!?」
右腕でアイラの心臓を貫こうとしたにも関わらずフレインの右腕は上半身を起こしていたディオールの腹部を貫通していた。フレインが空間を越えてアイラに攻撃しようとするが、その攻撃を決める箇所にアイラも別空間へ繋ぐ空間を作っており、そこに入ってしまったフレインの腕はディオールを貫く形となっており、結果ディオールは口から吐血しアイラのワンピースに似た服に飛び散り汚す。
「これ以上はつまらない。本当は色々な能力で貴方を壊すつもりだったけどこんなに弱いなら、もう壊れて良いよ」
フレインの右腕が貫通しているままのディオールに怖い事を言うと白い片翼を羽ばたかせると雲の上まで瞬く間に飛翔した。空高く優雅に舞う姿は天使のようで、しかし――戦っているディオールとフレインにとっては悪魔にしか見えなかった。
なんとかフレインの腹部から腕を引き抜こうとするが強い何かに固定されており、抜くのに必死だった。
「ぐっ、空間固定をされていて抜くことが出来ない!? 貴様は兎に角、あのエネルギーを形成して上空に放て!」
「がはっ、ごほっ! 何を考えている!?」
「エネルギーをあの糞餓鬼の周囲まで移動させて爆発させる。流石のあの威力も耐えれまい……」
無理矢理引き抜こうとするも空間と空間を繋ぐ通り道が固定されており引き抜けないでいた。
このままでは間違いなく殺されると悟ったフレインは、ディオールに最高の一撃を放てと指示すると、吐血しながらも何を企んでいるのか問う。それは直径数百kmを巻き込む自然災害級の一撃までは耐えれないと考えているからだ。そして、そのまま放っても空間を操られ無効化されるだけなのでギリギリまで放ち、その後空間移動させてアイラの周囲で爆発させようとしていた。
そんな企みを知っているのか知らないのか、雲の上に浮かぶアイラは下を向きながら攻撃にも転じずに気になる事を考えていた。
(私を呼び起こしたのはアイルを強くする為みたいね。本当に数千年前から何を考えているのか分からない奴――)
誰に対して思っているのかそれは今のアイラにしか分からぬ事で、これ以上の事は考えないようにしていた。
すると、アイラに対して何者かが干渉をしてきた。白色に染まった空、そのアイラの真上に針を刺す程度の穴を作り徐々に大きく開いていく。しかし、アイラの力が強いせいかその速度は余りにも遅く、影響も弱いがアイラは干渉されている事に感づいた。
「今の私だから干渉出来るものを。エトワール、この程度の事で力を使って良いの? ホントにお馬鹿な人――もう人でもない、か。その頑張りに報いて今回は自ら退いて上げる」
今まで蔑んだような表情が哀切極まりない表情になっていた。そして、そんなエトワールを馬鹿な人だと罵るが既に人でなくなったのか自らアイラはエトワールが人である事を否定した。
天壌なる星々の一人をこの場で倒せば寧ろエトワール側にとっては面倒な敵が一人消えるので、寧ろ好都合の筈だがその機会を取り逃がしてまで今のアイラを退かせようとするエトワールの無駄な頑張りを評してこの場から退こうとする。
するとアイラの四方に空間が歪み開く。上下左右逃げられないようにされている状況下の中でアイラは大きな溜め息を一つ吐く。
「はぁ、そろそろ退こうと思っているところなのに。本当に邪魔をする事だけが生きがい?」
認める気もない相手からの小細工や邪魔に苛立ちを覚え始め、右手を下に向けると白色の粒子が右手に集まり放電を起こしながら三叉の槍へと形を変えていく。そのエネルギーが強いのか白い稲妻を纏った三m程の三叉の槍を大きく振りかぶって、真下に立つ愚かな者達に天罰を下す。
雷光如き速度で大地に急降下すると大陸全体を覆うような灰色の雲をかき消して、大地に直撃すると三叉の槍は白い稲妻を激しく迸らせて大地を疾走する。稲妻が奔る地は黒くそして、深く抉れ焦がされていく。
「驕り過ぎだ糞餓鬼!!」
「なるほど、最大の一撃で私を倒そうと考えているのね。でも――残念」
雲よりも高い位置に浮くアイラの周囲に空いた空間からフレインの声が聞こえてくる。今の声で避けていたのがアイラにも丸分かりだったが、フレインとディオールはこれでこの戦いは終わりにしようと溜めていた力を練り固め、アイラに放っていた。出てきたのは右側の空いた空間からで他の空間は全て閉じられていた。
黒く染まったエネルギーは直径十m弱の巨大な光球に変わりアイラへと直撃する寸前にそれを眼に捉えたアイラは右手を伸ばして、ディオールの最大の一撃を受け止めようとしていた。
別空間に潜み攻撃の余波が全く届かないようにして、時が経つのを黙って待つ。膨大なエネルギーが弾け大気を激しく揺るがしながら空間を歪ませていく。爆発は地上にまで影響を与え地表は抉れて巨大な傷跡を作り、海は大きな津波を起こし港町を襲っている。
爆発の余波はセレナーデ大陸を襲っているが爆発を起こした上空は既に決着が着いていた。正確には決着が着こうとしていた。黒いエネルギーが充満している上空は晴れていきフレインが空間を開きその内側に潜みディオールと共に行方を見守るが、アイラの無傷の姿が見えた瞬間に二人は顔を顰めた。
「くそったれがっ!! まるでダメージを受けていないだと!!」
「もしかして私が能力だけの出来損ないとでも思っていたの? 貴方達とは存在そのものが違うの、だからそんな攻撃じゃ傷一つ付かない」
「くっ、もう勝ち目はないのか……」
最初からディオールとフレインに勝ち目などなかった。僅かな米粒程度の可能性もなく絶対の結果。それ故にアイラには喜びが見い出せない。勝てて当然の戦いなど意味がないから。
今のアイラはフレインやディオールからすれば雲の上の存在であり、最も危惧しなければならない相手。このまま放っておけば間違いなく目的の障害どころか最大級の壁となる。しかし、力の差は歴然としており国を滅びしたディオールさえもう諦めている状況。
だが、アイラは既にこれ以上は戦闘を行う気が一切ないのかディオールやフレインなど見向きもせずに、時間停止させていたアイルの時間を正常に戻して自らの元へと引き寄せ抱くとエトワールによって開いた穴へと入って行った。
空間内は黒色と白色が互いに混ざり合っておりアイラは途中まで雷光如き速度で飛行していると、右背にしか発生していなかった白い片翼が左背にも同じのが発生して、さらに速度は光の速度へと到達しさらに加速していく。
「折角、アイルと旅をしているのに妖精の女王が監視しているから楽しめない。それならいっそ、あの水晶玉を壊してあげる」
何処に居ても隠れていても次元の隔たりが在ったとしても今のアイラには全て感知が出来、妖精の女王ティターニアに見張られている事に気付くと煩わしさを感じて見張るために使用している水晶玉を次元を超えて干渉し意識一つで破壊した。
「このまま別の大陸に移動してもきっと天壌なる星々が世界中を探すだろうから――ふふ、時間跳躍しちゃおう」
必死に世界を変えようとしている組織の裏をかき引っ掻き回す事を考えている時のアイラは悪戯を考える子供のようでどこか可愛らしい。
白い片翼の姿では時間停止以外の時間操作は出来ないが、白い両翼の姿になると完全な時間操作すら出来るようになるアイラ。そのままアイルを抱きかかえた状態で未来へと時間跳躍を行う。
そして、白と黒によって構成された亜空間からアイルとアイラの姿は消失する。それはエトワールすらも予想しない出来事で、妖精の世界ではティターニアとエトワールのどちらも驚愕をしていた。こちらの行動を全て感知し掌の上で自分達を弄んでいるという事だけを悟るしかできなかった。
※
未来へとアイラが時間移動した事によって現在の世界は元通りの澄んだ青空に戻っていた。しかし、アイラが攻撃した痕やコルネット王国が滅んだ事は現実でしっかりと痕を残している。
約十五分程の間、この世界には太陽の日差しが届かない世界となっていたが今は大地を大海を照らし、人々は目を細めて空を見上げていた。それは、ディオールとフレインも久しぶりに感じる太陽を全身に浴びていた。
「奴は一体何をするつもりだったんだ――!」
取り残されたにも等しいディオールは歯を食いしばりながら立ち尽くしていた。ただ状況を乱して忽然と消えたアイラはまるでサイクロンのようで。
頭に過ぎるは数々の罵声。そして、ディオールが最も嫌う言葉を吐き残したアイラに憎悪を抱く。
しかし、それでも力の差は歴然で手も足も出なかった状況で言い返す言葉すら浮かばずにただ悔しさに押し潰されそうになっていた。
妹のエレスティスは特異点としての才能を持つがディオールは死に物狂いによる訓練の積み重ねた経験と実力しか持たない。そして、それを看破しているアイラに吐き捨てられた『凡人にすぎない』という言葉はより一層、ディオールに憎悪を生み出す要因となる。
「今もう気にするな。アレが一体何者なのかは陛下に問えば問題はない」
「――ああ、そうだったな」
フレインとしてもディオールと同じ思いではあったが、本来の目的は遂行し終えているので感情的にならずにディオールを宥める。ディオールも冷静に戻り今だけはアイラの事は考えないようにした。
セレナーデ大陸に用がなくなった以上、フレインとディオールが居る意味は失くなり――ディオールを引き連れて別の大陸へと移動した。
再び場面は妖精の世界へと戻り、その妖精の世界に存在する浮遊城の奥地へと変わる。
四肢は黄金の鎖によって巻き付かれて白い美しい肌は見えなくなっていた。
――確かに私は数千年前に悪魔をこの世から消したいという願いから力ある者を全世界に望んだ。そして、私はその代償として永遠という時間に縛られる事になり、その力ある者が誰なのかを知る事も出来た。
過去に力ある者の誕生を望んだエトワールだが一つだけ誤算もあった。
それは、六十年前に姿を現した力ある者と類似した力を振るう者が登場したことに――そして、その力は六十年前には劣るが時間移動した時に感じた力は全く同じ強さで、六十年前の同一人物だと推測される。しかし、その力は数千年前に現れた悪魔をも遥かに凌ぐ実力で、エトワールは危険視していた。仮に悪魔を倒しても今度はこの力ある者が敵となってしまうのではないのかと。
あくまでもその力は自分達の手元に置いていたかったモノ。この世界に異常事態が起きればそれを止める抑止力として出来るなら存在してほしいという思いが強いエトワール。そう思ってはいるが、力ある者は我が道を行き、思う通りに戦ってくれないでいる事にも悩んでいた。
――例え何者にも私の考えが受け入れられないとしても、私はその道を行くと決めた。
きっとそれは烏滸がましく双子の心情など無視した最低な考えで、それはエトワール自身も理解はしている事だろうが自分が暮らしていた世界を壊すぐらいならばと天秤に掛けて無理矢理我を通そうとしていた。
――何時か双子には謝らなければならない。私は貴方達に最低な事を求めているのだから。
己の正義の為に双子には戦う存在として人柱になってもらう。決して遠くない未来にエトワールは再び瞼を閉じて永い束縛を受け続ける。仮にエトワールの願いが叶ったのならエトワールはどうなるのだろうか、束縛から解放されるのか、数千年もの時束縛された事から死亡してしまうのか、エトワール自身にも分からない未来。例え願いが叶い死亡したとしてもエトワールは満足にそれを受け入れられるのだろうか。
――エルトリア。貴方は今、何をしているの? 早く貴方に会いたい。
閉じられた瞼から一筋の雫が落ちて、エトワールに残された本当の願いだけが小さく出ていた。




