第35話
まさか1月31日更新出来るとは思いもしませんでした。
さて、いよいよアイラに大きな変化が起きる回なのですがちょっとやり過ぎたと書いていて思いました。が、中盤まではこのアイラを越える強さの奴は出てきそうにないですし、ま良いですよね。中盤から終盤に掛けては何人かこのアイラを超える存在が登場していきますが。
それでは35話もどうぞ!
移り変わる天候を見上げながらグランは不安そうな表情で山奥の村にある教会へと足を運んでいた。
双子が旅立った後、グランは毎日一回は教会に足を運び神に祈りを捧げる事が日課となっている。そして、今日もまた教会に通い祈りを捧げる予定である。
我が道を行くアイルに振り回される消極的なアイラの事を考えれば胃に穴が空く思いだが、今日という日は違った。大陸全体が大きく揺れる地震と吹き荒れる風にグランは一層心配をしていた。
「グランさん、ホントに毎日来てますね。今日は三回目ですけど」
「それは分かっておるんじゃが、どうも胸騒ぎがしてならんのじゃ」
「数時間前のあの地震ですね。確かにあの地震は可笑しいですね。この大陸には活火山があるわけではないのですが」
あれだけ双子に旅を奨めて納得していたにも関わらず毎日欠かさず教会を訪れるグランに感心していた神父。
しかし、今日は三回も教会を訪れていた。それは妙な胸騒ぎで、神父もまたグランと同じ気持ちを抱いていた。セレナーデ大陸は活火山がなく所謂、平穏な大陸だと海を越えた国々からは言われている。そんな土地で大陸全体が揺れる地震は不自然だと神父は違和感を抱いていた。
「突然に地形が変わったのも何か世界に良くない事が再び起きているのやもしれん……」
「確か数十年前にも世界を揺るがした大事件がありましたよね。剣神グランさん」
「懐かしい名じゃ。今はもうそんな力持ってもおらんよワシは。じゃが、あの事件は双子の名前のルーツではあるが」
今回の大陸を震わせる揺れは、再び世界を巻き込もうとする強大な力が働いているのだとグランは長い経験から積んだ一つの経験則から未来を読んでいた。
数十年も昔、グランやマーザがまだ若かりし頃の時代。その時、世界がひっくり返る程の巨大な敵が現れ人類を滅ぼそうとした事件が起きた。その際、剣神と呼ばれる程の実力者を過去に持っていたグランが深く関わっていた。
「かつて世界を救った少年少女。“黒い翼”と“白い翼”を羽ばたかせ世界に現れた幼い救世主達――アイルとアイラ。その子供から双子の名を貰ったのじゃ。ワシとマーザさんがまだ結婚したての頃に出会い、僅かな時間を共に過ごした子供たちに双子が良く似ておるからの」
「似ている。と言うよりも髪や瞳の色以外はほぼ類似していたのですよね? でしたらその子供達が双子の血縁者なのでは?」
「ふむ、確かにそれも考えられるの。しかし――今はアイルとアイラの事が心配じゃ」
「貴方がた夫婦は二人を孫。違いますね、我が子のように可愛がられていましたからね」
ちょっとばかりの過去への追想。
双子の周りには謎が多く渦巻いており、その関係者が双子に太く結びついているのか。そして、双子への推測は正解なのか、はたまたその推測は曲解なのか。まるでそれは手探りで世界の真理を探っているようなもの。
だが、今はそんな問題よりも双子の安否の方がグランにとっては非常に重要な事であった。そんな心配で仕方がないグランを見ながら神父は紅茶をカップに淹れながらグランとマーザが双子にどんな思いを抱いていたのか思い返す。
数十年前の事件で全ての家族を失くした老夫婦にとって姿を現した双子は、グランとマーザにとって血縁者の壁を越えた本当の子供のようなものだった。アイルが悪い事をすればきちんと説教をし正しい事をすれば褒めて、共に生きてきたその姿を見てきた神父には本物の家族のように映っていたのだから。
激しい爆発が大気を振動させ、それは発生地より現時点でも離れて行くアイラ達にも伝わるほどで。アイラは、必死にこの馬から降りる方法を考えていた。
アイルが強いと言ってもそれは、人間や魔物よりも強いという事に過ぎない。勿論、これから強くなっていくのだとアイラは思っているが、現時点のアイルが怪物に勝てるわけがないとアイラは不安を拭えきれない。
「ガイルさん、アスペルさん、私を降ろしてください。やっぱり……アイルを置いていけないです」
「ダメだ。その頼みだけは聞けない」
「そ、それならもう私は無理矢理でも行きます!」
これ以上頼み込んでもきっと引き返してはくれないと分かるとアイラは体を大きく右に傾かせて、なんと馬から落ちた。馬から落ちただけでも骨折など割と当然なのだがアイルに隠れてアイラも頑丈な方で直ぐに起き上がると埃も落とさずアイルが戦っているであろう場所に向かって全力で走る。
「なっ、油断していた!!」
アイラは大人しく無謀な行動は自らしないものばかりと決め付けていた。だが、そのアイラが危険行為を冒してまで助けに行こうとするのは本当に危惧すべき相手だからなのかもしれない。
「それよりもアイラちゃんも、足が速いみたいですね……」
「だ、な。アイルの影に隠れてはいるが馬よりも遥かに速い」
常人の身体能力と比べるとアイラも充分に高い能力を有していて、その意外さに二人は目を丸くして呆然と遠ざかるアイラを見ていた。このままアイラを追いかけても追いつくどころか差を広げられるだけで、ガイル達はエレスティスを逃亡させる為に馬を再び走らせた。
「待っててアイル。必ず助けに行くから」
既に攻撃態勢で到着次第手助けをするつもりのアイラは平原を駆け抜けていく。
※
周囲直径15km程の荒野に点在していた岩山は激しい破壊音を奏でながら雪崩るように崩れていく。
瓦礫と化した大人一人分はあるであろう岩を片手で掴み思いっきり投げ飛ばしたのは血を垂れ流すアイルで、岩の欠片を投げ飛ばした先には無傷で立ち、異形の右腕で蠅を払うように振るい防ぐ。その動作をディオールがしている間に詰め寄ると切っ先をディオールの頭部を狙い突き刺そうとしていた。それを喰らう事もなくディオールは体を右横に逸らすだけで充分で、アイルの剣が岩を突き刺した瞬間に岩は崩れディオールは岩を攻撃してしまいアイルが停止する僅かな時間を衝き、強烈なパンチをアイルの腹部に叩き込み、上空へと浮かばせる。
「がっ! こんのっ――!?」
「ふん、剣で岩山を崩すなど巫山戯た奴だが今の俺には無意味に過ぎん威力だ」
上空高くに殴られたアイルは苦痛に顔を歪ませるが背後に感じた殺気に目を見開く。殴られた部分を痛いと感じている間に地上から100m近くまで上に殴り飛ばされ、自分よりも高い位置に跳躍していたディオールからは落胆の言葉を投げられた。
「流石の神童でも化け物になった俺には勝てんだろうな」
「へへっ、みたいだね~……。でも、ボクは別に神童なんて言われる程の才能なんてないけど」
力の差を思い知らされたアイルはディオールの強さを実感していた。しかし、声色に諦めたようなものは感じられず、まだ戦う気力は大いに残っていた。さらに周りから神童と賞賛されている事をディオールに皮肉られるも、神童と呼ばれていた事は知らないのでそんなことはないと謙虚な姿勢だった。
実際、今のアイルは負けているのと同じで、とてもじゃないが神童と呼べるような実力は第三者からすれば見られない。そして、それはアイルもまた受け入れている現実でもあった。
「無謀な行為に走った己を死に悔やむがいい」
「後悔はしてないんだけどね。それにまだ死ぬなんて決まってないよ!!」
「ちっ、無駄な事を」
地上へと落下していきながらもアイルは空中で方向転換しディオールを見上げる形になると、鞘を左手に握り投げ飛ばした。鞘と言えども岩を砕く程の速度に変われば弓で矢を放つよりも鋭く速い一撃に変化する。だが、アイルの攻撃ではディオールには届く事がなくやはり片手でたやすく払われた。
(やっぱりそうだ。コイツは攻撃も防御もあの右腕でしてる。けど、あのエネルギー系の攻撃は別にあの右腕だから撃てるわけではないんだ)
攻撃は通らずともディオールの戦闘方法を徐々に読めてきたアイルは落下しながら観察していた。
なんとか地上に着地したアイルは大きく息を吸ってゆっくりと吐く。全ての面でディオールに劣っているアイルは既に体力も大幅に削られており長時間の戦闘は恐らく出来ないであろう。
「は、はあっ……はあっ」
「それだけ血を流していながらまだ戦うか!」
「死んでないからね……ぎっ!?」
口や額、腕、足、体の至る箇所から血は流れており拭っても止まらない。本来ならば視界が霞んで倒れても決して不思議でない状況で、空中から降りてきたディオールは虚空を蹴るとアイルの眼前まで迫りアイルの右腕を手刀で打つ。その反動でアイルは剣を手放してしまう。
「何故、そこまで戦う事に拘る? エレスティスをそれ程までに生かしたいのか!!」
「ぐああああっ!!」
簡単に攻撃を決めれるぐらいに弱体化しているアイルに黒い光球を放ちつディオール。
避ける事が出来ないアイルは爆ぜたエネルギーに巻き込まれて岩場に大きなクレーターの痕を残し、クレーターの中心で倒れ込んでいるアイルを蔑むようにディオールは見下ろしていた。
クレーターの真下まで一気に移動するとアイルの髪を掴み持ち上げる。
「君、ホントに強いね……甘く見てたよ」
「ならば、さっさと息絶えると良い。もう分かっただろう、勝ち目などないとな!!」
「ぶへあああっ!?」
髪を掴んだままアイルを再び地面に強く叩きつけると大地に衝撃が走り亀裂が大きく走っていく。アイルは顔面から叩きつけられたので口から血を吐き、両手で打ち付けられた顔を押さえて痛がる。
苦痛に悶えるアイルを見ながらディオールが異形の右腕を強く振ると凄絶な突風が吹き荒れて周囲の瓦礫ごとアイルを数十m程吹き飛ばす。吹き飛ばされたアイルは地面を抉るように滑り途中の岩にぶつかり止まる。
「げほっ、ごほっ! こ、このままじゃ勝てない……そ、それなら――!!」
今の実力では勝てないとそう実感したアイルは、まだ未完成の必殺技を実行しようとしていた。
「まだ戦うのかお前?」
ゴソゴソと何かを企んでいるアイルにいい加減苛立ちを隠せずにいるディオールは舌打ちをした。そろそろ死んでも不思議でない程の流血、殴打を受けていながら命の灯火が消えていないアイルに本当に止めを刺そうと黒い粒子を集束し始めた。
それはコルネット王国を丸ごと覆い尽くし完全に消し飛ばした凶悪な一撃。それは天候を変える程に大きなエネルギーの動きで晴天だった空は曇天としていく。しかし、そんな澱んだ場所に蒼白い淡い光が発生していた。
(コツはアレと一緒だ。それを体に留めて発生させ続けるだけなんだから)
ディオールがアイルを倒そうと黒いエネルギーを集束させるのと同じようにアイルも蒼く煌くエネルギーを自分の体に集束させていた。
自分に蒐める事によってアイルの体は淡い光を帯び始めて幻想的にも見えた。ゆっくりと起き上がるとアイルは右足で大地を強く踏み込み、アイルは蒼い線を作りながらディオールとの距離を一気に詰め寄ると目にも止まらぬ速度で拳打と蹴りの乱撃をディオールの全身に叩き込んでいく。
「だりゃあああっ!!」
「がはあっ!? 莫迦なスピードとパワーが上がっただと!?」
「まだまだあああっ!!」
それは先程までのアイルとは全く別格の能力でディオールが全く防御に入れない速度と強力な力で怒涛の連続攻撃を続ける。一撃一撃が途轍もなく重く速い攻撃でダメージを与えていくアイルは右足で回し蹴りをディオールに決めようとする。それを捉えたディオールは異形の右腕で防ごうとするが、激しい音と共にぶつかり合いディオールが押し負けて勢い良く蹴り飛ばされる。回し蹴りを防げなかったディオールは大きな岩を貫通していきその度に大きな岩は崩壊していく。
「これで最後だあああっ!!」
蹴り飛ばしたディオールよりも先に移動し終えていたアイルは右手に溜めた蒼白い光を巨大な竜の爪の形に変化させたそれを大きく右下から左上へと斜めに振り上げた。刹那、激しい衝撃と突風がアイルの前方に見える岩を粉微塵に変え大地に巨大な爪で引っ掻いた痕を残す。
アイルの一撃を受けたディオールの全身には酷い創傷を残り地面へと倒れ伏せた。落ちるディオールを目にしながら、アイルの眼前には自身の攻撃によって周囲の地形を深く削り抉った光景が残る。
「ハアッ、ハアッ、す、少しだけ完成した……」
しかし、アイルにも相当な反動があったのか先程よりも一層息遣いが荒く座り込む。雲は今も青空を覆い尽くしておりポツポツと小雨が降り出した。
「いちちっ、雨が降ってきたんだ。傷口に入って滲みるっ」
とても子供が負うような傷痕ではなく小雨に当たるだけでも電流が体に流れたような痛みを感じていた。それでも倒したという感覚がアイルには残り表情は嬉しそうにしていた。
「へへっ、体力が全開ならアレは30分ぐらい持つかなー。それにまだまだ上昇させられるし」
軋む躰に鞭を打って立とうと足に力を入れるアイル。その度に痛みが全身を駆け巡り表情歪む。
やはり無理をし過ぎたのか余程堪えたのだろう。そもそも、アイルが最初から体力全開から発動するべき技で、まだ未完成だった為に仕方がない結果であった。しかし、既に要領は掴んでいるので後は修練で技に磨きをかけるだけである。
ディオールに背を向けると先に港町へ行かせたエレスティス達を追おうと一歩前に右足を踏み出した瞬間、アイルは殺意を感じ取った。
「! コイツもあの魔物と同じで再生するの?!」
倒れているディオールの体から黒い泡がぶくぶくとお湯が沸騰したかのように泡立ち始め、アイルは目を疑い細める。泡立つ箇所は再生しまるで別の肉体に変化していき、とてもじゃないが人間というには遠くなっていく。それは王家の渓谷で戦った魔物と同じ現象でアイルは忌々しそうに倒れているディオールを睨みつける。いくら攻撃が高まっても再生されては意味がない。
ボコボコと音を立てて傷口が塞がりディオールはまるで何事もなかったかのように立ち上がり、異形の右腕で自身の左腕を掴む。一体何をするつもりなのかと様子をアイルは見ていると、ディオールは右腕で自分の左腕を引きちぎった。
「いいっ!? な、なんで自分の腕を引きちぎったんだ!?」
流石にこれはアイルも予想外で目を疑う。
引きちぎられた左腕からは赤い鮮血が噴水のように噴き出して荒野を赤い大地に染めていく。出鱈目な事をしでかしたディオールにアイルも言葉が出せないで、ただ黙ってディオールを見据えるだけで攻撃に転じようともしない。否、既に戦う力が残っていないだけである。せいぜい、ゆっくりと歩けるだけの余力しか残されていない。
ディオールの左腕もまた右腕と同じく悪魔と言うべき太く雄々しい異形の腕と変化してしまい、アイルは困惑顔で声をもらす。
「はは、参った……流石にもう勝てないや」
目の前の敵を前にアイルは初めて降参の言葉を漏らした。少なくとも今までの戦いで諦める事はなかったし、実力差は寧ろアイルの方が上手だった為に今回はアイルにとって大きな黒星となった。
もしも、今のアイルに反撃する余力が残されていれば抗っていた。しかし、もうそれすらも出来ない程に瀕死で、特に最後の反撃で発動させた技はアイルに追い討ちを掛けるように残りの力を奪い去っていた。
立つ、歩くという行動すらままらない状態だと分かっているアイルには悟るしかなかった。例えば根性論でどうにかなるわけでもないし、友情パワーなどと巫山戯た事も起きはしない。アイルの完全な失態である。どうにかなるという甘く見すぎた結果。
「うがあっ!?」
軽く体を払われただけでもアイルは耐え切れず、地面に転がり倒れて埃が辺りに広がる。
そして、仰向けに倒れたアイル腹部に右足を乗せて徐々に力を強めていき、アイルは悲痛の叫びを上げてる。
「あああああっ!?」
骨が砕かれていく感覚、既にボロボロだった体に更なる追いうちを掛けていくディオールの足をなんとか払おうと両手で掴もうとするが左足で軽く蹴り払われ、そのまま左足で左腕を思いっ切り踏み潰した。
「うぐっ、あああああああああ!?」
左腕を踏み潰されたアイルは大きく口を開けて絶叫を上げる。
踏み砕かれた左腕の骨。もはや、感覚すら残されていないだろう。腹部に乗せられた右足によって肋骨も幾つも逝って――
既に朦朧としている意識を手放そうとするアイルを持ち上げると、まるでゴミを捨てるかのように適当な場所へと投棄するディオール。空中を浮かび地面に落ちていくアイルを見たのは――助けに来たアイラで。
「アイル……? アイルッ!?」
偶然か運命か――
助けに来たアイラの丁度目の前で投棄されたアイルは落ちて、その光景を見たアイラには周りの全ては見えなくなり落ちるアイルだけがスローモーションで見えた。
落ちたアイルに恐々と両手を伸ばすアイラ。今まで以上に酷い傷でアイラにはアイルが生きている事にも不思議なくらいで、だが血だらけのアイルを抱き抱える。
「うっ……ぁ、アイラ……」
「だ、駄目だよアイル!? 喋ったら悪くなっちゃう!」
「なんで……来ちゃった……の?」
もう喋る力も残されていない筈なのに声も掠れていて聞こえづらくて、アイラは涙を流して喋らないでと懇願する。アイルの脈や心拍数は大きな間隔があるのに対して、アイラの脈や心拍数は酷く速く打っており、焦燥にかれていた。
「近くの診療所に連れて行くから――私が今から」
「ククッ、もうその餓鬼は死ぬだろう。そして、お前も同じく死ねるんだ寧ろ都合良かっただろう」
アイルを近くの診療所に連れて行って治療してもらうと無理だと分かっていながらアイラは行動に移そうとする。しかし、アイラがアイルを背負おうとした瞬間にアイラの眼前に広がる荒野が酷く歪み始めた。この大陸に来てから何度見たであろう現象。
「貴方は――」
空間が歪み大きな黒い穴が出現しそこから出てきたのはフレインで――
アイラはその姿を見て今まで見せたことがない程に鋭い眼光で睨みつけていた。エレスティスを悲しませた元凶は間違いなくフレインで決して許す事が出来ない相手。
さらに今までアイルが戦っていたであろう相手。両腕は異形と化して体の半分以上が悪魔の体で、しかし、眼前の敵を見た事があるアイラは今正に全てを繋げる事が出来た。
「貴方がエレスさんの国を――あの時もエレスさんの首を狙って放たれた魔法も貴方が!!」
「ご名答。我が妹エレスティスと行動を共にしていた双子の片割れか」
「妹ってそんな――貴方は?!」」
確かに全ては繋がったがエレスティスとの関係者だとは想像だにしていなかったアイラは言葉に詰まる。
「コルネット王国を滅ぼした張本人にして元第一王子ディオール。それがコイツの名だ」
答えたのはフレインで驚愕を隠しきれていないアイラを見て嘲笑う。
ディオール。その名前を聞いてアイラはエレスティスの事を思い出す。何故、エレスティスが王者の儀式を受けたのか、それはディオールという尊敬する兄に認めてもらいたいが一心で。だけど、その兄はコルネット王国を滅ぼした本人で。
まるでそれが全て嘘であれば良いとアイラは思ってしまう。そして、それはアイラの中に潜む禁断の扉を開けてしまう形となってしまう。
――開けてしまった。ふふ、もう止められないよディオール、フレイン。貴方達はもう後悔するしかない。
「もう――許さない」
誰の声だったのだろうか。もう今のアイラにはそんな事を考える心の余裕などなかった。
だが、その声はまるで待ち望んでいたかのように、楽しそうな声色で。アイラの全身から全てを白色に、今まで起きた事が何もなかったかのようにしたい思いから純白のエネルギーを強く発生させた。
それは全てを塗り替える白色で世界を繋げる空をアイラから発生した白色のエネルギーが侵食して、アイラの右背からは純白の翼が生えて、髪も瞳も白色へと変色していく。
「な、なんだ!? この力は!?」
有り得ないと言いたげな表情で大きな変化を齎したアイラを睨むフレイン。
世界全体を覆うほどの白色に常識が覆されていく。これはアイラの変身だったのだろうか、変化した姿はとても儚げで美しい白い力そのもの。
白い翼を一度だけ大きく羽ばたかせる。
「あ……アイラ……?」
消えゆく意識の中でアイラに起きた変化にアイルは首を傾げた。
姿はアイラだがその力はまるで別人、別次元の力。薄れゆく意識のなかアイルはその白い姿を瞳に刻み込む。
「何が起きたか知らんが消えろおっ!!」
常識を覆す変化を見せたアイラに怒り心頭のディオールは異形の右腕から巨大な黒いエネルギーの閃光を放った。右手から放たれたそれは一直線にアイラへと進みアイラごと荒野を呑み込むと激しい爆発を起こし大地を震撼させる。
確実に決まった、そう実感出来るだけの威力は込めていたし、普通は耐える事など難しい。膨大な粉塵が舞う中で突風が吹き荒れ砂埃が四散した。砂埃が消えるとディオールとフレインの眼には無傷のアイラが映っていた。
「ば、莫迦な。今のが無傷だと!?」
「今のが攻撃? 攻撃はこうするの――」
攻撃が聞いていない事実に驚愕するディオール。その姿を見て漸くアイラは理解した。今程度のものが攻撃のつもりだったんだと。だから避けもしないし、防ごうともしなかった。最初からダメージなど受けないのだから。
そして、攻撃はこうするのだとディオールを皮肉るように右手をディオールへと向ける。すると一発の白いエネルギーを塊をディオールへと放つ。それはフットボールという球技で使用されるボールよりも一回り小さい程度の大きさ。しかし、それはディオールに当たる事なく空間を疾走しながら地平の彼方まで瞬く間に消えて、最後に凄絶な爆発を起こした。
超絶的な威力を秘めたアイラの一撃はディオールを無理やり空間移動させたフレインと空間移動をし終えたディオールを圧巻させる程の一撃。もしもこの周辺に直撃していれば街一つ容易く塵に返すもので、アイラにとって攻撃はこれが普通だと言う。
「もっと苦しみたいの? 貴方達程度じゃ私には勝てないのに――」
既に勝負の行方など決まっている。なのに挑もうとする憐れな男二人を蔑むアイラ。
今のを受けて死んでおけば苦しまないで済むのにと、寧ろ死んでおくのが当然だとも言いたげな物言いで、とても今までのアイラとは思えない言動。
「ディオール、今は逃げるぞ。ここで死ぬのは馬鹿馬鹿しい」
「ぐぐっ――!!」
眼前に立つのは悪魔とも言うべき少女で、既に目的を果たしている以上――フレインとディオールは悪魔を相手にする必要などない。瞬時に遠く離れた地点への移動が可能なフレインの空間操作能力で王都アナスタシアへと一気に空間跳躍しようとする。
そう、この刹那があれば本来は既に空間跳躍は終わっていて、もう逃げきれていた筈なのだ。
しかし――それは出来ていなかった。
「無様。空間を操作出来れば私から逃げれるなんて頭が悪いね」
「まさかお前――空間を」
「そうだよ、空間能力も私の能力。貴方達の能力はオリジナルじゃなくてレプリカなだけ」
空間跳躍する予定の地点をアイラは同じ空間能力でフレインの空間跳躍先の地点をこの場所に変更させていた。
認められない現実を前にフレインは歯を食いしばるしかなかった。空間能力は使い方次第で途轍もなく凶悪な能力で、それを同じように扱えるアイラ。そして、フレインの能力はオリジナルではなくレプリカだと口にする。
ただ立つだけで一歩も動こうとはしないアイラ。その後ろにはアイルが倒れ込んでおり、恐らく動かない理由はこれだろう。そして、初めてアイラは動く。だが、それはフレインやディオールにではなく倒れているアイルに。
「ちょっとだけ待っててね。ちゃんと私が守るから」
二人に対しての声色とは全く異なる、優しい声色で倒れているアイルに話しかけるアイラ。
するとアイラの流血はまるで時が停止したかのように流れなくなった。流血だけでなく穏やかに吹く風に靡く筈の髪も流れない。
「時間操作も行えるというのか、この化け物は――」
「流石に時間操作ばかりは“この姿”では停止しか出来ないけど――貴方達程度にはこの姿でも充分だから」
アイルの変化を見たフレインは忌々しそうにアイラを睨みつける。最早、瀕死の重傷を負っているアイルをこのまま放っておけば間違いなく死ぬ。そもそも、診療所に見せてどうにかなる傷でもない。だが、時間を停止させればこれ以上の悪化はないのだから。
しかし、時間操作ばかりは今のアイラにも少しだけ難しい能力であるらしく時間停止のみしか出来ない。それでもその力はフレインとディオールの二人掛りでも無謀としか言い様のない差が明らかで、アイラは充分だと宣言した。




