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双天のステルラ  作者: なまけもの
世界への旅立ち
31/49

第31話

メリークリスマス!!

はい、私は三日前ぐらいに風邪をひいていました。勿論、仕事は休んではいませんが相当辛く殆ど仕事が上手くいきませんでした。

ちなみに私は咽喉から風邪を引きやすいタイプです。咽喉が痛いだけで最初は頭痛や鼻水もなかったのですが、ちょっとばかり鼻水が出始めました。

熱自体はそれ程高くないのがとても幸いでしたね。


それでは今年最後の更新です!!

残り4か5話ぐらいで双子の冒険編は終わります。

 巨像と蟻の戦いのようなが渓谷で繰り広げられており、巨体の方が激しく動くとそれだけで周辺の地面が揺れてしまう。それでも巨体を相手にしている者は怯みもせずに攻撃を全て紙一重で避けている。

 それを離れた地点の岩陰に隠れてエレスティス達はアイラの看病をしながらアイルを応援していた。魔物が手にする大きな刃は巨大な岩を豆腐のようにスライスにしている様は見る者に恐怖を与えてしまう。それはエレスティスやアスペルも同じで僅かに額から冷や汗を垂らしているのが分かる。そして、そんな攻撃に向かいながら避けるという行為に走るアイルを見て余計に緊張していた。

 今までアイルの動きに錯乱させられていた魔物が急に対応し始めておりアイルは何度か攻撃を防がれ、そのまま弾かれてしまう事が多くなってきていた。その度に地面を転がったりするもすぐに態勢を整え反撃に入っていた。そんな戦い方もアイルが出来る事にエレスティスは意外そうにしていた。


「ギィギィ……」


 ふと魔物の怯えた様な声が聞こえてきた。それはアイルが一度だけ戦った怪鳥の同種だが、そんな魔物が怯えている事にエレスティスやアスペルは唖然としていた。この魔物がどんな習性を持つか長年コルネット領地で暮らしてきた二人は知識としてきちんと保有している。 


 非常に凶暴で人肉を好む魔物として知られており、アイラのように一番狙われやすい状態の少女が近場にいながら狙わない事に疑問を感じていた。だが、すぐに狙わない理由が分かり何も言わずにそっとしておいた。


「くっそー、こっちの攻撃が全部防がれてる! 後ろから攻撃をしてもあの触手でボクの攻撃は防がれるしかなり強いなあ」


 魔物の背に生える無数の触手はアイルを捕えようと勢いよく伸びてくるが、アイルはそれを見極めながら素早く岩から岩へと跳躍したり岩を壁代わりにしていた。しかし、触手はそんな大岩をもろ共せずに破壊してしまうほどの威力でアイルは背後からの攻撃には移れずにいた。

 戦っている場所も最初の崖が近い場所から木々や小川が流れている森林地帯に近付きつつあった。風が吹き荒れたような衝撃が発生すると太い木々がゆっくりと倒れ、剣を振り抜くと魔物の腕から鮮血が噴き出るが傷を負っても痛みを感じないのか一本の触手が十mほどの跳躍をしていたアイルの腹部を殴られ川の方へと勢いよく落とされる。火薬を使った投石機(カタパルト)で打ち出される球よりも遥かに速い速度と高い威力でそれを見たエレスティスは口元を咄嗟に押さえてしまう。

 川岸付近の岩場に思いっきり直撃すると岩に簡単な罅が走り、アイルを下敷きにし崩れてしまう。だが、相当な力を持った腕力に秀でているような人物でも持ち上げる事が難しそうな岩の瓦礫を両手で持ち上げているアイルが立っていた。腕や足は擦り傷が出来て髪や服はあし川の水を被ったせいで濡れている。


「こんにゃろー、これでも喰らえっ!!」

「グルルッ!!」


 持っていた剣はアイルの足元に落ちているがすぐには拾おうとはせずに両手で持ち上げている大人三人分ぐらいの岩石を勢いよく魔物へと投げつけるアイル。それは大砲よりも勢いのある速度で魔物へと飛んでいくが、無数の触手がアイルの投げた岩石を貫き砕く。そして、砕かれた岩の破片を触手は先を丸めて掴み一発ずつアイルへと投げつける。一斉に投げつけるのではなく数発は同時、しかし残った破片は一拍おいてアイルへと投げつける。

 弾丸のように撃ちだされたそれらをアイルは小さな動作、それこそ僅かに足の軸だけを動かして避ける。そして、足元に落ちていた自身の剣を拾うとその場所からかき消えた。


「はああああっ!!」


 かき消えたと思えば既に魔物の頭上へと移動しており刀身を再度空色の光輝を発生させて頭部を斬り裂く。

 アイルの今の速度に魔物は全く反応出来ずに斬られ、流石に頭部にはダメージが入るのか痛みに耐えきれずけたたましい悲鳴をあげよろける。

 その機を逃すまいとアイルはさらに目にも止まらぬ速さで魔物の全身を斬り続ける。しかし、魔物はよろけるばかりで倒れそうにはなく流石のアイルも可笑しいと判断して攻撃の手を休め魔物を見据える。


「斬っても斬っても倒れない、ホントに生物なわけ?!」


 幾度となく斬った魔物の全身から血は人間であるならば致死量に値する量で血だまりが無数に出来ている。戦い初めて十数分、どちらも体力は化け物なのか息一つ乱さずに戦い続けている。


「グルッ……」

「いっ!? こんなに攻撃したのに全部傷が塞がれていくわけ!?」


 ボコボコと黒く濁った泡を吹きだしながらアイルによって残された創傷が全て塞がれ始め、アイルは我が目を疑っていた。攻撃をしても倒れず傷を塞ぐ異常な体質にアイルはほとほと困り果てるも、さらに気を引き締める為にアイルは剣を地面に刺して両手で両頬を数回叩く。そして、地面に刺していた剣を抜くと傷を塞ぎ終えた魔物を見上げる形のまま睨みつける。


「よしっ! 君が倒れるまでとことん付き合ってやる!!」


 まだまだアイルは戦える余裕は見られるもアイルの無事を願って隠れながら応援しているエレスティスの方が余裕はなかった。


「アイルの奴、アイラの事を忘れてるんじゃないの!? あんなに今を楽しそうに笑ってるなんて!」

「確かにそれもあると思いますが、私の考えではアイル君ではあの魔物に留めは刺せないのだと思います」

「えっ、それってどういう事なの?」


 相手が回復するのを悠長に待っていたり戦いを楽しんでいる様子が表面的に表れているアイルを見てやきもきしているエレスティス。そんなエレスティスを横にアスペルは冷静そうにアイルが何故、魔物を倒そうとしないのかを観察するとエレスティスの考えに少しばかり訂正した。勿論、エレスティスが考えている通り今この戦いを楽しんでいるのも事実でそこまでは否定はしなかった。

 アスペルの言葉に何故?と疑問を抱いたエレスティスはアスペルへと視線を移す。エレスティスは正座をして苦しんでいるアイラを自分の膝に頭を寝かせて介抱していた。


「恐らくですがアイル君は魔法が使えないのです。そして、エレスティス様やアイラちゃんのように再生すら追いつかないような全身を覆うほどの攻撃手段がないのだと思われますよ。もしも、そのような手段があるのならばアイル君は即座にその攻撃を使っているはず」

「そ、そういえば――確かに相手の致命傷になる場所には的確に攻撃しているから倒す事に怖気ついているわけじゃないのよね」


 今までのアイルの攻撃手段は全て近距離からの斬撃や打撃という攻撃のみでそれ以外の攻撃方法は一切していない事をエレスティスは思い出す。

 攻撃している箇所は頭部や胸部など致命傷になりうる所を狙っているのでむやみやたらと戦闘時間を伸ばしているという考えを除外するエレスティス。同時にどうすれば眼前の敵を倒せるのかという問題に行き着いていた。


「じゃあ、アイルを助けないとダメじゃない!」

「ですが、アイラちゃんを放っておくわけには」


 アイルを助けなければ体力が削がれてきた方が負ける可能性が大きく見え焦燥していた。助けに行きたい気持ちはあるが周りには数多の魔物が屯しており迂闊に手助けできない状況にいる。



 目を覚ますと周りは金色に煌く光が瞬いていた。ここは何処なのだろうと疑問を抱きながらアイラはただ辺りを見渡す。

 広い、ただただ無限に続く空間が眼前に広がっており今まで見た事のない景色。普段のアイラならば一人で未知の場所に居る事に慄く筈だが、今回はそういう事は無く不思議そうにしているだけだった。


「ここはどこなんだろ……。見た事ない場所だけど、なんだかすごく綺麗」


 まるで星空の内部に居るようでアイラは見惚れていた。

 十数秒間程、この景色に見惚れていたアイラだが漸く一歩だけ足を踏み出そうとしていた。しかし、地を踏む感触はなく浮いているような感覚に襲われた。


(まただ、あの時と同じようなのかな。でも、今度は前みたいに危険なものはないみたいだけど……)


 見知らぬ人物達の死闘を垣間見るよりかは遥かに良いので安心はしていた。一先ず歩行や走行動作は可能なのでひたすらにアイラは煌く星々の中を進んでいく。歩けど歩けど景色は変わらず延々と続いているのだが歩き続けるのが嫌になってきた頃になるとアイラは大きさ二m程のクリスタルを見つけた。そして、その中には刺繍に使用されるような非常に綺麗な金色の髪を持つ十歳前後の少女が瞳を閉じた状態で閉じ込められていた。

 しかし、アイラがつい呆然と見てしまうのは綺麗な髪でもなければクリスタルに閉じ込められている事にではなかった。


(誰だろ……白い翼が生えてて、なんで片翼なの?)


 クリスタルに閉じ込められている少女、もしかすると閉じ籠もっているだけなのかもしれない。そんな少女の右背上部には純白の翼が生えておりアイラは目を奪われていた。

 片翼の生物など居ただろうかと思いながらも、つい気になるので透明な赤色のクリスタルに触れたり、軽く叩いたりして調べる。


「あの、私の声が聞こえますか? 聞こえたら返事をくださーい」


 小さな声でクリスタルの中の少女に語り掛けるアイラ。ここにアイラ以外の者が居れば声が小さいので正直、本当は聞こえてほしくないのではと疑ってしまうだろう。

 反応がないのでアイラはその場から離れようと後退しようと右足を後ろに出そうとすると、アイラの頭に少女の声が響いた。


――来てしまったの……?


「今の貴方の声なの……?」


――正確には貴方自身の声。貴方は私で、私は貴方。


「あ、あの……それはどういう意味なの?」


――まだ知らなくても大丈夫。来るべき時になれば分かるから。


 聞こえた少女はアイラ自身だと口にする。唐突に意味不明な事を告げられたアイラは戸惑いながらもその言葉の意味を問いかける。しかし、アイラ自身だと名乗る少女はアイラの質問には答える気がなく教えることはなかった。教えて貰えなかったアイラは残念そうな表情に変わるが幾つも疑問があるので別の質問をする。


「そ、それじゃ私はどうしてこんな場所に?」


――ここは貴方の世界だから。けど、何も知らない今の未完成な貴方じゃどうやっても訪れる事なんて無理な筈なのに。やっぱりあの存在が貴方を無理矢理ここに引き寄せたみたい。


(私の事は無視……か。それに私こんな性格じゃないと思うんだけどなぁ)


 アイラの質問には答えてはいるもののその説明でアイラは理解しておらず少女は一人で納得しているだけだった。アイラ自身だと言われたアイラだが正直、そんな少女を見て流石に私はこんな性格じゃないと心中で不満を抱いていた。


「って、私の世界? なんだかさらりと大切な事を言われたような」


 ふと非常に重要な言葉を言われたアイラは流そうとしていたがそれを止めて、クリスタルに閉じ籠もっている少女に三度目の質問をする。問答ばかりになってしまうのは仕方ない事であろう、アイラにはあまりにも知識が足らなさすぎるのだから。


――ここはこの世全て。貴方が住まう世界では様々な呼称で語り継がれていますが、強いて呼称するのならば根源の渦とも呼ぶべき場所。同時に時間や星々、生命など森羅万象の在る超越空間。様々な人々の祈り、願い、野望、欲望などを現実にする場所ね。


「それってお金持ちになりたいや好きな人から告白されたいとか、極論には世界を支配したいとかでも?」


――それを願った者が叶えるだけの資質や力、顔があればの話だけど。ただの人間が世界を変えたいと願っても未来永劫、世界は変わらないもの。


 とても大切で重要な場所。そう少女に語られる中でアイラは自分が存在しているこの場所がそれ程までに壮大な世界である事に驚嘆としながらも、願いを実現出来る場所という事もあって非常に強い興味を抱いた。

 何故か。それは関所を通って初めて訪れた町で仲良くなった少女エルネから貰った小説の内容に似通っているからだ。もっともその小説の内容を読んでアイラは星天のエルトリアの外伝と判断していた。

 しかし、内容はエルトリアの恋人エトワールが全世界を滅ぼそうとする悪魔を倒す為に壮大な願望を願ったという内容ではあったが。小説の結末では悪魔を倒すまでには至らず封印という形になり、壮大な願いを叶える為にエトワールは代償として星となったと描かれている。


「まるで星降るの夜みたい……。もしかして、貴方が沢山の人達の望みを実現させるような存在という事になるの、かな?」


――言ったでしょ、願いを現実にするにはそれを可能にするだけの資質や力が必要になるのだと。それを叶える為に人々は努力を重ねるの。そこに私の手助けなどないの。手助けをするとすれば切り開ける道を作るぐらい。


「そう、なんだ。最後に教えてほしいんだ。貴方は一人でここに居て寂しくないの、楽しいの?」


 どれくらいアイラはこの世界に居続けているのか明確な時間は分からないが長くも短くも感じていた。

 自分自身だと名乗る少女と少しばかりの会話をしたアイラは最後に別の質問を投げた。この世界についてや自分自身についてではなく、単純にこの世界で一人ただ存在するだけの少女に対する質問で、アイラから投げかけられた質問に少女は暫くアイラの頭に語り掛ける事はなかった。

 すると今まで目蓋を閉じていた少女はゆっくりと瞼を開け、クリスタル越しにアイラの方を見つめた。瞳の色は空色に近い青色でどこかその瞳の色はアイルのようでアイラは吸い込まれそうになっていた。


――昔は寂しくて、楽しくもなかった。けど、貴方が私が独りである事を嫌悪しあの子を誕生させたから今はとても楽しい。あの子は何時も私を振り回してくれるから。


「あの子……?」


――そう、貴方の良く知る子。自由で裏表がなくて、私を振り回してくれてるから今はとても楽しい。


 美しい世界とは思えるが無限に続く広大な世界で独りぼっちは寂しくないのか楽しいのかとの質問に少女は、今までのような事務的な声色ではなく、どこか感情の色が感じられる声色で語り掛けてきた。そして、少女が口にするあの子の事を口にするとどこか恋慕の情にも似ていた。

 そして、その人物はアイラも知る人物であると伝えるとアイラは勘付いたのかハッとした表情で少女を見つめていた。


「もしかして――」


――これ以上は秘密だよ。そろそろお別れだね、次にここを訪れる時はきちんと真実を伝えれると良いな。


 そして、その人物が分かってしまったアイラはその名前を出そうとするも少女に制止される。


「わ、私の体が消えて……く? ま、待って……!!」


 早くここから立ち去れと言っているのかアイラの体が薄く半透明になりこの特殊な空間から消えて行く。

 せめて、名前を聞きたかったアイラは急いで手を伸ばそうとするも消失していた。


――大丈夫、必ずまた会えるから。


 眼前からアイラを消失させると再び目蓋を閉じて、クリスタルの少女は意識を一時的に絶つ。



「うおおおおっ!!」

「ギガアアアアアッ!!」


 互いに交差しあう刃と刃。魔物が持つ巨大な刃を受け止めるのは傍から見れば矮小な枝にしか見えない剣。その持ち手もまた幼い子供なのだが、体格差や筋力差などまるで無視しているかのようにアイルは逆に魔物を押し返そうとしていた。アイルが足腰に力を入れると踏み締めている大地が僅かに砕け無数の小さな破片が浮いては落ちていた。剣で魔物を押し返そうとしていたが左足を僅かに左へと一歩横に動かし、なんと剣を手放した。今までアイルという力と真っ向から力の勝負をしていた魔物は突然、消えた力にバランスを崩してしまう。

 剣を手放したアイルは強靭な脚力を持って高く跳躍し剣を収める鞘を右手で掴み、それを使い魔物のでこにあたいする顔面に直接たたき込んだ。さらに、落下しながらアイルは右足で左肩部にかかと落としを決める。


「強くなってる……確かに魔物も別生物へと無理矢理変化させられて強くなってるけど、アイルがさらに強くなってる、速度も攻撃も防御も全部……」


 戦い初めて三十分弱。時間が経てば経つほどに動く生物は体力を失い普段よりも出せる力を落としてしまう。

 それはアイルも同じ筈であった。勿論、体力が他の者達よりもかけ離れてはいるだろう。それでも逆に全ての能力が戦闘開始前よりも目に見えて上昇していた。それに気付いていたエレスティスは既にアイルの動きに着いていけていなかった。


「うわああああっ!!」


 だが、やはり肉体に大きな欠損を与える事が出来ないアイルに魔物を打倒することは出来ずに攻撃をしても反撃を受けてしまう。今もまた魔物の乱暴なまでの腕の一振りを受けてアイルは岩を貫き地面に激突してしまう。それでも、すぐに起き上がり魔物を睨みつける。やはり殴るよりも斬るという攻撃の方が明らかに威力はあり魔物には堪えているだろう。それを分かっているが剣を簡単に手放して別の攻撃手段に走るアイルは剣士としてはまだまだ未熟という証拠。

 泥まみれになっている服を叩き泥を落としてアイルは自分と剣の距離を測る。ざっと見定めても距離は四百m弱。


(大丈夫。今のボクなら一秒、一蹴りであの場所まで移動できる。そして、今度はあの技のさらに上を行く!!)


 心中で一瞬あれば取りに行ける距離だと判断するとアイルは地面を強く蹴ると一気に距離を詰め、落ちている剣を掴むと魔物の両足の間を滑るように抜けた。まさに一瞬、瞬きすらアイルの動きを見失うほどの速度でエレスティスの視線は殴り飛ばされて態勢を整えた場所から動いていない。


(一瞬であそこまで移動したわけ? 初めて会った時は100mを一秒切れる速度だってアイラちゃんが言ってたけど、たった一週間で今の四倍ぐらい速度が速くなってる?)


 初めての邂逅の時もまたアイルの身体能力には度肝を抜かされたエレスティスだが、さらにその上に行っている事に心中では驚愕していた。


「あの子はまさに原石なのでしょうね。生まれながらにもった素質は恐らく天井知らず、技術面も基礎は完成されて、そしてエレスティス様と同じ特異点のはず。居るものなんですね、天賦の才を持った存在がこの世界には」

「そうなのよね……同じ特異点でもここまで差があるんだもの。特異点のなかにもさらに化け物が居るのね、あのフレインって奴みたいなのが……そうだ、コルネットはどうなってるの?!」


 驚愕を隠しきれていないエレスティスを横目にどこか妬みが含まれた声色で一人話し始めるアスペル。それを世で聞いた、いや、聞こえていたエレスティスは賛同していた。

 一週間みっちりと修行に明け暮れてアイルとの大きな差を少しでも埋めたと、そう自負していたエレスティスはより大きな差を見せられて非常にへこんでいた。アイラと似た事が可能であり、さらに特異点の可能性すらあるアイルはまさに特異点の中でもさらに天才だと呼ぶべき存在。そういった者は否応なしに人から距離を取られたり、妬まれたりするだろう。勿論、それを羨む者もいる。

 アスペルはそれに近い感情を今、アイルに対して抱いている。そして、エレスティスは羨ましいではなくどうしてそんなに強くなれるのかという疑問だった。のだが、同時にフレインの事を思い出し、そのフレインが残した言葉もまた然り。故に完全に忘れていた事を思い出したエレスティスはコルネット王国の事を心配し始めていた。


「風が……? どうして風がアイルの方に集まっているの? もしかして、風を操る事がアイルの能力?」


 穏やかな風だが一人に集中して吹くなど不自然でしかなく特異点としての能力は風を操る事なのかと疑ってしまう。


「違う……光の粒子がアイルの剣に集まってる……」

「もう大丈夫なのアイラ?」

「あ、はい。心配をかけて申し訳、ありません。 それよりもアイルが今、行っているのは私と同じこの空間に蔓延している光を一点に集める事みたいです……」

「そっか、アイラにも見えるのよね」

「はい……ですが、私が普段集めている量よりもずっと多くて濃いんですよ」


 目覚めたアイラには見えているのか光の粒子が集まっているとエレスティスに伝える。それを聞き、見えると教わった事を思い出す。

 しかし、アイラが言うにはアイルの集めている光は普段のアイラが集める量よりも多く濃いもの。まるで渦を巻くようにアイルを中心に光の粒子が集中しアイルが持つ剣へと吸収されていく。そして、それをアイルは意のままに解放する。


「うん、成功したね」


 吸収した光子は溢れ約十m程のオーラの剣へと姿を変えて軽く動作を確かめるように横に一振りする。

 すると凄絶な突風が吹き荒れ、届きもしない筈の森林地帯の一部を風圧だけで根っこから木々を吹き飛ばし、さらにアイルが立つ大地に生えていた雑草など容易く消え、土壌の表面が露になってしまう。たった一振り、周りの力だけで地形を変えようとするその力にエレスティス達は唖然とした。


「は、はは……なんて威力なの。まだ軽く振っただけなのに木々が風圧だけで吹き飛んだじゃない」


 最早、苦笑いしか出ないエレスティスはいまだ止むことのない風を全身で浴びながらアイルを見ていた。

 軽く振っただけ。そして、その真の威力は受けた相手が初めて分かるもので魔物は強大な力を前に残された本能から体が後ろに少しずつ下がり距離を取ろうとしていた。


「グルルッ……!」

「流石の君もこれを受ければ再生なんて追いつかないだろっ!」


 逃がさないと言いたげなアイルは大きなオーラの剣を操っているにも関わらず変わらない機動力で確実に攻撃を決める事が出来る地点まで詰め寄り、さらに地を蹴り上げて軽々と十倍以上ある魔物の頭上へと跳躍。そして、両手でアイルが発動したオーラの剣の中核となる部分。今までアイルが持っていた剣の剣柄を握ると大きく振り上げて一気に魔物の全身を真っ二つに切り裂く。だが、アイルの攻撃はそれだけで終わらず綺麗に着地すると横一閃に薙ぎ払うように振り、魔物の縦に斬り裂かれた体はさらに四つへと斬られ風圧に負け浮かぶ。最後に下から上へと吹き飛ばすようにアイルはオーラの剣を振り上げバラバラとなった魔物の体を消滅させていく。


「うおおあああああああああっ!!」


 再生させる隙も与えず完全に魔物を消滅し終える頃にはアイルの持つ剣から溢れ出る空色の輝きは消えていた。

 確かな勝利を実感するには少しばかり時間を置く必要はあるがエレスティス達は隠れるのをやめてアイルに駆け寄る。駆け寄るエレスティス達の姿を見て一番ボロボロとなっていたアイルは安心した表情を見せていた。


「アイラも目が覚めたんだ、これで一安心だね」

「あ、うん。心配かけて……ごめんね」

「そんな気にする事ないのに落ち込まないでよー!」

「い、いたいよ……」


 戦いの最中に急な頭痛で意識を失ったことに罪悪感を感じていたアイラは顔を下に落としてしまう。そんなアイラを励ますようにアイルはアイラの肩を叩きながら気にするなと元気付ける。戦闘中に成長していたアイルの力は継続されておりアイラの肩に僅かな痛みを与えていた。


「それにしても凄い生命力だったよね、あんな魔物生まれて初めて見たよ」

「その魔物の事なのですが――」


 やはり倒した魔物の事をアイルは気にしていた。それをアスペルがフレインの事やその魔物を無理矢理を変化させた事など詳しく説明する。


「ボクがここに来る前にそんな事があったんだ。それにしてもフレインって人は何を考えているんだろ?」

「それは分からないけど、とても危険な事を企んでると思うんだ……」


 アスペルの説明だけでは理解出来ないアイルは自分の頭にフレインという特異点の事を刻んだ。

 そして、魔物を使って神の所業を行って何をしようとしているのかと想像してみたがとても想像出来ず、アイルは腕を組んで悩む。それはアイラにも分からないが価値観や思想から何か人々の役に立つような事ではないと断言はしていた。


「それにフレインって人はエレスにコルネット王国が今日滅びるって言ってたわけでしょ? 嘘かどうか分からないけど確かめに行こうよ、ここでジッとしてても始まらないし」

「そうだよね、もしかしたら止めれる可能性だってあるもんね」


 フレインが告げた不吉な言葉が現実になるかは現状では不明だが王家の渓谷で待つよりも効率的だと考えたアイルはコルネット王国に戻る事を勧める。そして、それはアイラも同じでそれが現実となっていても止める事が出来るかもしれないとポジティブに考えていた。


「え、二人も行くわけ? もしもアイツの言っていた事が本当なら危険な目に遭う可能性だってあるのよ!?」

「そうだよ。王様にはお世話になってたし助けに行かないとね!」

「危険な目に遭うのは少し怖いですけど、私もコルネット王国の事が心配です」


 コルネット王国に行く気満々なアイルとアイラにエレスティスは非常に意外そうな顔で双子を見つめてしまう。逆にアイルからすれば当然なのか、何をそんなに驚いているわけ?と眉を潜めていた。アイラもまた心配だからという理由で行く気だった。


「だ、だって二人は故郷でもないのよ?」

「確かにそうですけど、エレスさんが心配なんですよ。私とアイルにとってはエレスさんは友達、お姉ちゃんそんな感じがして、だから一人では行かせませんよ」

「そ、そうなんだ。なんだかちょっと顔がにやけちゃうんだけど」


 エレスティスの言うように双子にとってコルネット王国は祖国でもなければ思い深い国でもない。だからこそ危険な目に遭うかもしれない事を承知で着いて来ると公言した事に信じられずにいた。

 その理由の大半は仲良くなったエレスティスの事が心配だからというとても個人的な理由でそれをアイラの口から聞いたエレスティスは嬉しく思ってしまい頬を緩くしてしまう。


(こんな風に笑われているエレスティス様を見るのは何時振りだろうか。ディオール王子と仲睦まじいころだったはず。ですが、エレスティス様が特異点だと分かると見る目が変わり……)


 久しく嬉しそうにしているエレスティスを見たアスペルは懐かしいと感じていた。

 そして、何時から周りに心を閉ざし始めたのかと思っていると


「わわっ!? だ、大地が揺れたよ!?」

「あ、アレを見てください!!」


 大きな地響きが起きてアイル達は驚愕する。そして、その地響きの原因が目に見える形で表れアイラが指差す。

 指差した場所はコルネット王国が建国されている方角でそこには巨大なエネルギーが爆ぜていた瞬間そのものでエレスティスはその光景に言葉を失ってしまう。


『生きいたとしても、待っているのは悪夢だけ』

『今日、コルネット王国は滅ぶ』


 幾度となくエレスティスの頭の中で反響するフレインの声。


「嫌だ……あそこは私にとっての故郷……」


 妬まれた蔑まれたり嫌な記憶も多いがエレスティスにとって長年暮らしてきた祖国でそれを破壊されているとう現実を目のあたりにし、口を金魚のようにパクパクと動かしていた。


「エレス、悲しんでる暇ないよ。急ごう」


 エレスティスと比べれば双子は些か冷静ではいるが心境としては焦燥感に(さいな)まれている。

 悠長にしている時間など最初からなかった。

 今のアイルが全速力でコルネット王国に向かって走行すれば5時間も経たずに到着出来るが、それはあくまでもアイル単体での話。アイラ達はそんな速度では動けないので馬車で疲れを癒しながら向かう事となる。


「お父様、お兄様、お姉さま……無事でいて」


 嫌いな兄姉だが命の心配をしていたエレスティスは胸に手をあて王家の渓谷の入り口に停めてある馬車を目指す。

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