第30話
一応、宣言通りの更新です。
本当はもっと早く更新するつもりだったのですが友人に遊びに誘われたのでつい行ってしまいました。
久しぶりに食い放題に行ったわけですが昔と比べて随分と食べる量が減ったと実感しました。それでも運動する機会が減っているわけで着々と体脂肪率は増加しているわけですけども。冬は寒くて外に出たくないので走ってません!!
はい、走らないといけませんね。少しずつ距離を増やしていこうかな。
それでは遅くなりました第三十話も楽しんでください!!
魔物数十体に囲まれていたアイルの足元には瀕死の魔物が積み上げられており、アイルの服装は何時の間にか血が大量に付着し慣れなければ嫌悪感を抱くような血生臭い臭いを漂わせていた。特に疲れた様子が見られないアイルは敵を倒した事を確認すると剣を鞘に収めて疾風如く岩場を駆け抜けていく。
アイルに斬られた魔物数十体は深手は負っているものの死んでいる魔物の方が実は少なく、今にも息絶えそうな状態にあった。そして、この場所からアイルが去って約十分後にアイラ達が遅れてやって来た。その光景を見るやエレスティスとアスペルは絶句してしまう。
「も、もしかしてこれアイルがやったの!? 私と組手したときは全然本気じゃなかったってこと?」
「子供が一人で……恐ろしい、斬る事に躊躇いはないのか?!」
エレスティスは単純にアイルの実力に驚愕をし、アスペルはアイルの精神面に畏怖していた。
アスペルもエレスティスと同様にアイルの実力は御前試合で十分に見ていたのだが何処か信じられないでいた。エレスティスと違いアスペルは双子との関わりは今回が初という事もあり顕著である。だが、この現状を見る限りはアイルが子供とは思えないえげつなさをアスペルに強く感じさせていた。
相手を刃物で斬れば問答無用で血飛沫が上がり肉や骨が見える事も多い。それらを生で見て平然としていられるのは長く戦い続け慣れてきた者や相手を傷つける事に一切の感情を受けないそういった者達だけだとアスペルは認識していた。
「アイラさん、でしたね?」
「え、そう……ですけど」
アスペルから話しかけられたアイラは戸惑いながらも耳を傾ける。
「私はアイルさんの事はエレスティス様よりも知りません。だからこそ聞きたいのですが、アイルさんは以前もこんな風に魔物を斬ったりしているのですか?」
「そうですけど……何か変ですか?」
「い、いえ……変というわけでは」
首元や胸部付近など致命傷に当たる部分に切創や殴打の痕が残っているので殺す気がヒシヒシと伝わってくる。そして、それを見たからこそアスペルはアイルに釈然としない心境でいた。馬車の中のアイルは何時も笑顔で普通の子供に見えてしまうからこそ、余計に釈然としないのかもしれない。
そんなアスペルの質問を聞いたアイラはアイルの攻撃に何処か可笑しな点があるのか検討つかず首を小さく傾げていた。そんなアイラの様子にアスペルが一番戸惑っていた。
(私が変なのだろうか……確かに魔物は危険な存在だがここまで容赦がないというのも)
アイルとアイラどちらも魔物を斬っている事を当然と思っている事にアスペルだけが変ではないのかと疑念を抱いていた。
「アイルの奴はどこに行ったのかしら? まったく意気込んでいた割には自由すぎるんだから!」
エレスティスは自分勝手に行動をしているアイルにご立腹であった。
もっともエレスティスが怒るのは自然で王者の儀式で手伝うと言ったのは他でもないアイルだ。エレスティスからすればその約束をナチュラルに破られたようなもの。
「エレスさん、ごめんなさい。あんなに約束したのにアイルが破ってしまって……」
「そ、そんなに気にしなくて良いのよ! 二人が一緒に来てくれただけでもすごく嬉しいから」
エレスティスが一人愚痴を零しているとアイラから謝れてしまう。アイラから謝辞を貰うとエレスティスは困ったように眉を潜めながら宥める。
アイルがエレスティスに謝罪するものだがアイラからされてもエレスティスにとっては困るものだ。何も悪い事を行っていないアイラから謝られるのは特にそうだ。アイラの性格上引きずりそうだと察したエレスティスは話を切り替える為に同行してくれた事に笑顔でお礼を述べた。
「私もエレスさんと同じで……変わりたいと思っているからすごくタイミングが良いんです」
「変わりたい?」
「いつか私もアイルみたいになりたいって……アイルは私の憧れだから」
「アイル……みたいにか」
絶対にアイルの前では露見しないアイラの心の奥底にある本音。それを語るときはどこか遠くを見るような空を眺めるような、遠いものを追いかけているようにもエレスティスには感じられた。
「な、何を言ってるんでしょうかね私!? あははっ、エレスさんもアスペルさんも今のは忘れてください!」
自分の言っている事に気付いたアイラは頬を紅潮させながら忘れるように頼んでいた。
流石に自分の本音を何時の間にか真剣に語っていた事が恥ずかしいのか非常に慌てており、この場から逃げたい衝動に駆られゆっくりと後ずさる。
「はうっ?!」
だがこれ以上は後退する事は出来ない。否、アイラの真後ろには黒いローブに血を付着させた男が立っていた。
「あ、あの……す、すみませ……」
軽く当たってしまったので反射的に頭を下げようとしたがそれを止めた。
真っ黒の筈のローブには返り血であろう赤に染まっている事に言葉が詰まってしまう。
「貴様がエレスティス・コルネットで合っているな」
「な、何故私の名前を知って……?」
「ククッ、あの国王も愚かだな貴様という第一級重要人をたかが執事一人と子供一人に護衛をさせるとは」
ぶつかったアイラなど一切目もくれずにエレスティスに視線を注がせ、エレスティス本人どうかを見極めていた。赤の他人の男から名前を知られている事にエレスティスは驚くも、その反応を見た男はまるで国王を馬鹿にするような微笑を零し、アスペルとアイラを蔑んだ。
「貴方は一体何者なのですか? ここはコルネット国王の許可なく入る事は許されていないのですが」
「姫君の前だ自己紹介ぐらいはしておこう。俺はフレインという者だが、そんな姫君に一つ言っておこう――コルネット王国は今日滅びる」
「ッ!? なにを馬鹿げた事を……一国が一日で滅びるとでも思っているの?!」
嘲笑う男に嫌悪感を抱きながらも一国の姫として厳然たる言葉で男の素性を聞いた。
すると意外にも男は自らの名をフレインと告げる。が、名前だけでその後はコルネット王国が今日滅びるという不吉な言葉でエレスティスはキッとフレインを睨みつけるがすぐに冷静になり冗談だと思い始めた。そもそも、一国が一日で滅ぶなど物語だけの話、信じられるわけもなく口調がきつくなった。
「俺の言葉が冗談と思うのならばそれも良い。何れにしろ貴様はここで死ぬ事となるのだからな」
「私が死ぬ……?」
「そう、死んで愚かな父を恨むが良い」
にわかには信じられない話だと言いたげなエレスティスを前に、フレインはエレスティスの感情など一切興味はなく、信じないのであればそれでも良いと告げた。そして、その理由は今この瞬間からエレスティスを殺す気だからだ。
初めて明確に殺すと宣言されたエレスティスだが、意外にも口から出た言葉に震えはなく冷静だった。いや、違う。今から自分が殺されるという事を受け入れられないのだ。
「無論、俺自ら手を下すわけではない。執事と子供一人を相手などする気にもならん」
殺す者は別に居ると比喩するような言葉をエレスティスに投げると高さ二十mの空間に黒く大きな穴をフレインは開ける。そこから見えたのは巨木のような腕なのだが、その腕からは赤い雫が止めどなく零れ落ちておりアイラ達は落ちてくるモノを凝視する。
「ひ、酷いっ……!!」
落ちてきたのはアイラ達の十倍以上はあるであろう巨体の魔物なのだが、その姿を見たアイラは右手で口を押さえ可哀想な目で魔物を見た。魔物が地面に力なく無造作に落ちると僅かに地が振動した。それだけの重さは誇る。
その姿は全身を痛めつけられた姿で今にも死に絶えそうなもの。体には腕一つ分の穴が幾つも空けられ、腕や足は変な方向に曲げられている。だが、それでもただ唯一だけ無事な箇所だけがあった。
「こ、この魔物が私が戦うべき魔物……。なのに、なんでこんなボロボロ……」
「貴様を一目見る前に狩らせてもらった。ククッ、コイツは陛下の実験体に過ぎん」
満身創痍その言葉を体現している虫の息の魔物を見るが何故、こんな姿にと倒すべき相手ではあったが触れようとするとくぐもった笑みを浮かべながら、この魔物を一つの生き物とすら見ておらずただのマルモットだと言う。その言葉に怒りを覚えたエレスティスはこれから自分が殺されるというのを忘れ、両腕を前に突き出し赤く燃え上がる炎を集束させていく。
「アンタ、どこまで外道なのよ!!」
「貴様の特異点としての能力は炎か。所詮はただの炎――俺の能力の前では無力に過ぎん」
「だったら受けてみれば分かるでしょっ!!」
外道という言葉に反論はせずエレスティスの能力が炎だと判断し、無駄だと言い切るフレイン。
そんなフレインの売り言葉を買ったエレスティスは自身の目の前で集束させた炎を球体に形を変化させ、両手を前に突き出した状態のままフレインへと放った。その大きさは大人一人分はあるであろうもので威力は現状では窺え知れないが周囲の岩が天然のフライパンのような熱を発していた。
しかし、放たれた炎弾はフレインに当たる事なくフレインの眼前に空いた黒い穴に突入した。それを見てエレスティス達は目を大きく見開き驚愕を隠せずにいた。
「エレスさんの炎が消えた……!? それに魔法でもありません……」
「まさか……アンタも私達と同じ特異点だと言うの!?」
今、この目の前で起きた現象は自然ではないとアイラやエレスティスでも理解出来ること。
魔法陣が発生していないという事はそれは特異点のみ許された能力。つまり眼前に居る男はエレスティスとアイラの二人と同じ特異点だということ。そして、そんな特異点をエレスティスはこの一週間弱で二人も見た事に何かを感じ取っていた。
(世界で数えるぐらいしかいない筈の特異点と二人も会うなんて可笑しいわよ絶対!)
行動を起こさないフレインに対してアイラ達は警戒を強めている中、フレインは放っておいた魔物の事を思い出していた。
「おっと、このまま放っておけばこの魔物は死んでしまうな。最期は我ら“天壌なる星々”の実験体として終わらせてやろう」
人間であれば致死量にあたる程に血を流しておりもう短い命である事には変わらない。
「や、やめてください! 何をされるかわかりませんけど、実験体としてでなくこのまま死なせてあげてください!!」
「さて、この力は果たして即効性もあるのか」
魔物に対してなにをするのか決して善行でない事はフレインの様子から見てとれるのでアイラはフレインに制止を呼びかける。
しかし、フレインはアイラの制止の言葉など無視して懐から黒く澱んだ掌サイズの丸い球を魔物へと零す。すると黒く澱みきった球体は液体のように魔物の全身へと染み渡り覆い尽くしていく。一体、何が起きるのか予想出来ない状況にアイラ達は逃げるという行動にも移れない。
そして、黒く染まった魔物の体は光輝し始め動く事すらままならない筈の体を自ら起こした。
「ギヤアアアアアッ!!!!」
ゆっくりと体を起こした魔物は空を見上げて激しい雄叫びを上げた。その瞬間、魔物の全身から突風が吹き荒れ木々を激しく揺らす。強い風圧を全身に受けたアイラ達は飛ばされてしまいそうになるが何とかその場で踏ん張り耐える。
「ふむ、傷も癒えた。つまり“混沌の聖櫃”は再生能力も持つというわけか」
混沌の聖櫃と呼ばれる黒い球体によって魔物は再起不能から復活し、さらに姿を別の存在へと変化させていった。黒く染まった皮膚に罅が走り始めては黒い皮膚のよなものは剥がれ落ちていく。
「この感じは……あの変な場所で感じた怖い感じに似てる……!」
魔物から感じる全身を震わせる殺意にアイラは小さな恐怖を感じていた。だが、初めて感じたわけではなく一度、不思議な異空間で垣間見た姿形も識別出来ない謎の存在から感じた圧力に似ていた。しかし、あの時の威圧感と比べれば優しいもので平常心は保てていた。
背中からは無数の触手が蠢くように生え、魔物の両肘にはまるで剣のような刃物が突きだし再び天に向けて雄叫びを上げる。だか、雄叫びと言うよりも悲鳴に近い。
「生物の生態を変えた!?」
まるで神に喧嘩を売るようなそんな事象。アスペルは今、目の前の現実に己を疑ってしまう。
この魔物は力と頑丈さが売りの王家の渓谷に生息する二足歩行が特徴的な魔獣。他の魔物と比べて非常に強く、対策無しに挑めば蟻のように殺されてしまうそういう生物。それでも、体に触手や肘に鋭利な刃物のようなものは生えていない個体。つまり、フレインが与えた力は生物を無理矢理別の生物へと変化させる代物で、アスペルはフレインを睨みつけた。
「怖い執事だ。死にかけていた魔物が復活したんだ寧ろ喜ぶべきではないのか?」
「喜ぶ? 貴方が何もしなければこの魔物はこんな姿にならずに済んだ筈ですがね」
「だが、いずれは死ぬ命だ、我々の役に立ち命を落とせば光栄だと思えるだろう」
睨みつけてくるアスペルを小馬鹿にするように肩を竦めるフレイン。フレインは魔物の気持ちなど無下にして、ただ道具として見ては使い捨てようとしていた。
「グガアアアアアッ!!」
「は、速いっ!?」
魔物の目に見えるエレスティス達が邪魔だと言わんばかりの勢いで右腕を勢いよく横に振り抜き、殴り飛ばそうとするも紙一重に三人ともしゃがみ込み避ける。
「凶暴性が増すか。ククッ、せいぜいそのモルモットと遊んでいると良い――生きていても貴様たち、姫に待つのは悪夢だけだろうがな」
「ま、待ちなさいっ!!」
目的は達成したのか不敵な笑みを見せて、意味深な言葉だけを残して瞬時にエレスティス達の眼前から姿を消した。消える直前にフレインを呼び止めようと声を荒げて追いかけようとするが手を伸ばそうとした時にはフレインの姿は無かった。
悔しそうにするエレスティスだったが、エレスティスの四肢に黒い触手が忍び寄り巻きつくと勢いよく振り回し始めた。掴まったエレスティスを助ける為にアイラは弓を構えて矢を放とうとするが振り回す速度が速くアイラには撃つ事が出来ずに躊躇っていた。外せば最悪エレスティスの体を蜂の巣に変える威力を持つので無暗に撃てない。
「ガアアアアアッ!!」
勢いを乗せたまま魔物は絶壁となっている場所へとエレスティスを投げつける。
当たれば激痛がエレスティスを襲う、それ程の勢いでエレスティスは当たると覚悟を決めて目を瞑り痛みを享受しようとする。
「きゃあっ!? い、今のは風!?」
「草がなんで舞って……」
激突する前に助けようと、例えそれが無理だと分かっていても行動に移そうとするアイラとアスペル。
その瞬間、アイルとアスペルの間をいとも容易く通り抜ける風が吹き荒れる。それが一体何か二人の目には移らず、ただ何かが駆け抜けた痕として雑草などが空を舞っていた。
「えっ……」
「ギリギリセーフ! もう少しで叩きつけられるところだったねエレス」
壁に叩きつけられる衝撃は体を襲う事は無くエレスティスは奇妙な浮遊感を味わっていた。
そして、浮遊感と共にエレスティスは己を助けた存在を紅い瞳に映す。そう、今の今まで別行動をとっていたアイルが壁とエレスティスの間に割り込み、お姫様抱っこをした状態で空中を跳んでいた。無論、空を浮いているわけでなくスピードに物を言わせた幅とび。
横百mは確実に跳んでいるであろうその勢いにアイラとアスペルはただ呆然とし、魔物は突然現れたアイルに対して雄叫びを上げ威嚇する。
「うわあー、でかい魔物だな。へへ、なんだか燃えてきたぞ!」
綺麗に着地し終えるとアイルはエレスティスを手離し見上げなければ全体像が掴めない魔物を見る。
魔物の拳は子供のアイルなど丸ごと握れる程でその太い腕や足は巨木よりも逞しい。そんな体格差にアイルは一切の揺らぎはなく寧ろ、今この状況を楽しんでいるようにエレスティスには見えた。
アイルが見据える魔物は血眼になってアイル達を睨みつけては耳を塞ぎたくなるような雄叫びをあげ、すぐに腕を大きく振り上げてアイル達に拳を打ち込む。その拳が決まる前にアイルは高く跳躍しエレスティスは右に、アイラは左へと走って回り込む。跳躍したアイルは地面を殴っていた魔物の拳に着地し、拳を引き戻される前に一気に駆け上がり魔物の額に目掛けて剣を振るう。
しかし、アイルの剣の刃は魔物の額に当たる事なく僅かな隙間だが触手を二本自在に妨げられる。が、その触手をアイルは両断するも威力を落とされた状況のまま額に刃が通る。
「かったあ!?」
刃を伝って感じ魔物の強固さ。威力は落とされたが決して加減をしたわけではないアイルは僅かな斬り痕すら残せない事に驚く。それでも、戦っているのはアイルだけでなくアイラとエレスティス、アスペルがいる。
筋力や腕力ではこの四人を大きく上回るかもしれない魔物だが体型はアイラやエレスティスからすれば外す事は無い的で、アイラは秒間百発以上もの蒼白い光の矢を一斉掃射し、エレスティスは火炎放射を魔物に対して放つ。
左右からの攻撃に魔物は避けるという行動はせずに背から無数に生える触手を伸ばし、それらを捨て駒のように扱い防ぐ。勿論、全ての攻撃を防げているわけではなく触手は千切られ、焼かれ使い物にならなくなってしまう。それでも触手は背から再び生え伸びる。
「はあああっ!!」
それでも数は圧倒的にアイル達が上でアスペルはダガーを二本投げる。執事として常日頃から主を守れるように鍛えられてきたアスペルが投げるダガーは岩さえ突き刺すほど。それでもだ、アスペルよりも全ての身体能力が圧倒的に上回るアイルの一撃すら通さない頑丈な魔物の皮膚はアスペルが投げ放った二本のダガーを弾く。
もしも、この魔物が生物として本来の姿のままであれば四人の攻撃で大きなダメージを受けていた。だが、フレインが与えた謎の力によって元来の能力値を大きく上回り、攻撃方法も異なり厄介な相手をなっていた。
「今のボクじゃ攻撃が通じないのか。それなら新しく考えた技を見せてやる!!」
(はわぁ……どんなのだろう?)
「アイルは何をする気なの?」
今の力では通じないと悟ると王者の儀式前に作っていた必殺技の途中で生み出した新技を披露すると宣言した。
アイルがこれから何をするのか興味を持ったアイラとエレスティスは右手で剣を構えるアイルに視線だけを移す。反撃すら許さない怒涛の連続攻撃かそれとも魔法なのか、そはアイラ達には不明なものだが攻撃があまり通じない中の打開策になればという期待がそれぞれにあった。
「いくぞっ! これがボクの新技だ!!」
アイルの元気な掛け声と共に金色の粒子を発生させ続ける白銀の刀身は空色に光輝する。ただ、それだけそれ以上に大きな変化はないが、アイルにとってはそれだけで充分で少し屈むと地を蹴り魔物やアイラ達の視界からかき消える。飛び散るのは鮮血だが、それは瞬く間に数を増えていき魔物の視線が完全にぶれていた。
魔物の動体視力ではアイルを目で追う事が出来ず、我武者羅に両腕を振り続けては空振りに終わってしまう。だが、魔物の腕が大岩に当たればそれだけで豆腐のように粉砕してしまう。それを見てアイラ達は表情を強張らせアイルが攻撃を受けない事を願う。
十数秒間はアイルの怒涛の斬撃が続いていると魔物は腕でアイルを殴り飛ばそうと躍起になっていたが、行動パターンを変えて背に生える触手を魔物を中心に半径二十m内で地面に突き刺していく。触手の先は尖っていないものの地面に当たる度に地面が陥没している。
「じゃまじゃまぁー! そんなのでボクの攻撃は防げないぞ?」
邪魔をする触手ではアイルの猛攻は止まる事はなく易々と斬り裂く。
それを見てアイラ達はこの期を逃す事はなかった。大勢で攻撃をするのは魔物に対して若干、罪悪感を感じつつも早く眠らせてあげようという思いがアイラとエレスティスの心中にあり、アイラは空気中に遍在する淡い光を灯している光子を一点に集束させ、エレスティスは今の自分が出せる最高の威力で火炎は地を這うように魔物へと猛烈な速度で向かう。光の矢が空間を疾走するだけで地を抉るような異常な衝撃を発し、炎が通った地は酷く焦げて魔物に直撃する凄まじい爆発が発生し衝撃を周囲にまき散らす。
光の矢は魔物の心臓を貫くどころかその威力は一切削られる事はなく巨大な絶壁となっている崖を貫いていく。まるで壁の硬さなど取るに足らないと言いたげなほど強力な威力。これで魔物も死亡したとそう感じたアイル達は全身が燃えながら倒れていく姿を見る。
「安らかに眠ってください……」
フレインから無理矢理に別の生物に変えられた魔物が無事に天国へ逝けるようアイラは瞼を閉じて祈る。
事情を知らないアイルはアイラ達が可哀想な目で死にゆく魔物を見つめているのか分からずに首を傾げているが、その理由までは聞こうとしていなかった。
「グルッ……」
「まだ生きているのですか……?!」
微かに残っている生気で魔物は小さな鳴き声をもらし、それを耳にしたアスペルは生命力の高さに脅威を感じていた。
心臓を貫かれ全身を超高熱の炎で燃やされているにも関わらず息絶えないそんな姿にアイルは警戒する。何故、心臓に穴が空いて生きているのか理解出来ないでいるアイル達だが、嫌な予感しかアイル達にはなかった。穴の空いた服を縫って戻すように穴の内側から黒い線のようなものが傷を塞いでいく。まるで別の存在が死にかけている生物を無理矢理生かそうとしているようにも窺えた。
今の光景に三者三様の反応を見せるが一つ同じ事はあった。流石に有り得ないだろうと。
「うっわ、コイツ再生してるんじゃないの!?」
アイルは若干、気持ち悪がっているが何処か期待に満ちた表情をしていた。
「また、あの感じ。さっきよりも濃くなったような気がする……。ぅぅっ、アレを見てると頭が……」
魔物が倒れた時には消えた筈の強く黒い感じのする力がより一層濃くなったと感じていたアイラは頭痛を伴い始め右手を頭を触っていた。今にも意識を手放してしまいそうな強い頭痛にアイラは膝をつき苦しみ始める。
そんな突然の異変にアイル達は魔物の方からアイラへと気が移ってしまう。何時もの変わらない体調のアイラがあまりにも突然に頭を抱え苦しみ始めた事にアイルは慌てていた。
「え、え!? 急にどうしたのさアイラ! っ、エレスとアスペルはアイラを連れて離れて、コイツはボクが倒す!!」
慌てふためくアイルだが全身に感じる強烈な殺意に息を呑むと何時もの纏う雰囲気と違い、緊迫とした雰囲気でエレスティス達に告げる。何故、アイラが急に苦しみだしたのかアイルに知る術はないがこの魔物が再生した瞬間からそうなったと考えれば原因は魔物にあるとアイルは考え離れる様に指示した。
両肘に一本ずつ生えていた鋭利な刃物を魔物自ら引き抜くと血飛沫を上げながら血の雨のようにアイル達へと降り注ぎ髪や服に付着していく。
「ぅぅっ……痛いよ……頭が割れ……る」
表情を青くして悶えるように苦しむアイラ。
「本当に一人でこの魔物と戦う気なのアイル?!」
「もちろん! 二人はアイラを連れて早く遠くへ行って」
一人で戦おうとするアイルに正気なのかと確認するエレスティスだが振り向きもせず当然だと言い、遠くへ行くようにと促すアイル。そんなアイルの態度を見て本気なのだと察したエレスティスは何も言わずにアイラを背負うと一層凶暴化した魔物に背を向けて走り出した。
「さあ、来い魔物! 君がどれだけ強いか知らないけど倒してやる!!」
「グゥゥォオオオオオォォオオオオッ!!」
鋭い眼光で魔物を見据え剣を構えるアイルに対して耳を塞ぎたくなるような猛々しい雄叫びを上げる黒い皮膚に覆われている魔物は先程、自ら引き抜いた巨大な刃物のようなものをアイルに勢いよく振り下げていた。
※
エレスティス達が王家の渓谷で王者の儀式を受けている頃、コルネット国王は書斎にていそいそと書類に目を通していた。毎日どれだけサインを記そうともその書類の数は減る事はなく、逆に増えているであろう。
一通り目を通し終わったコルネット国王はメイドが持ってきた紅茶を口にして一息休んでいた。カップを置くと小さな溜め息を吐く。それを見た中年の臣下はコルネット国王の体調を気にする。
「どうなさいましたか国王様?」
「いや、エレスティスは上手くやっているだろうかと心配でな。何故か、嫌な予感がするのだ……この二日間特に」
「コルネット国王様!! 突然の無礼申しあ訳ありません……!!」
そんな予感の話をコルネット国王と中年の臣下がしていると書斎の扉が乱雑に開けられた。あまりにも突然で大きな音にコルネット国王は少しばかり驚く。そして、入ってきた兵士の姿を見て怒ろうと立ち上がるも入ってきた兵士の慌てた様子に怒れなかった。
何かあったのだろう。それはコルネット国王から見てもハッキリと何かあったと違和感を覚えるレベルで。
「申し上げます……! コルネット城下町に魔物の大軍が攻め寄っております!!」
「……今、なんと言った?」
それは余りにも信じられない言葉。その言葉を聞いたコルネット国王は少しばかり目を点にし思考が停止して兵士をジッと立ったまま見つめていた。しかし、思考回路が正常に戻ると再度その真実を確認する。
「ですから魔物の大軍が押し寄せて来ているのです!! 既に何体かの城下町には魔物が入り込んでいる様子で城下町を警備していた兵はそれぞれ戦っております!!」
「そんな馬鹿げた事があると言うのか……!? いや、疑っている場合ではないな。休暇を取っている兵士にも早急に連絡し魔物を駆逐するのだ。そして、城下町で暮らしている女子供老人をコルネット城と闘技場に避難させるんだ!!」
「はっ、了解しました!!」
信じられない気持ちが大きいコルネット国王は疑いかけていたすぐにその思考を切り捨て、するべき事を兵士に伝えて臣下と共に書斎を後にした。
書斎を後にすると臣下はコルネット国王にこれからをどうするべきかを確認していた。勿論、臣下にも考えはあるがやはり国王の命なくして行動には移せない。それを最初に臣下は聞いていた。
「我々はどうしますか?」
「決まっている。まずは見晴らしにいる兵士に魔物の数を確かめなければならない。ただの魔物の軍勢ならば圧倒的な数で攻めればなんとでもなるだろう。だが、もしも人間の将が束ねているとすれば非常に厄介なのだからな」
ただの魔物が大軍を成して攻めているだけならば真っ向から物量をぶつければ殲滅できるわけだが、一人でも智将がその軍勢の中に参加しているのならば物量をぶつけただけでは崩せない可能性も出てくる。だが、どちらにしろ敵の数は知らなければならないので一番近い屋上にいる兵士に国王は確かめに行こうとしていた。
(しかし、何故魔物が一国の中枢に攻めてきている? 野生の魔物ならば辺境の村などを襲う筈だが)
屋上を目指し廊下を走りながらコルネット国王はこの突然の襲撃に違和感を感じていた。
今まで野生の魔物達が大軍を成して一国を襲うという行動は前例が極めて稀なのだ。それも一文明が終わるそういう時代の節目にのみ見られる事件。野生の魔物は人間に比べて知は圧倒的に劣るが本能的に人間の大きなコミュニティには近寄らない。近寄ったとしても動物と同様に人間に慣れているものぐらいだ。それ故にコルネット国王は信じられないと今でも心の片隅で思っている。




