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双天のステルラ  作者: なまけもの
世界への旅立ち
29/49

第29話

一話完成させるのに二週間近く掛かってしまいました。

さて、今回の前半部分はアイル達の知らないところで動く世界の一部を書きましたが、なんなんだろう凄くいまいち。キャラクターを多く出すとキャラクターを忘れてしまいますし、逆にキャラクターが少なければ何か違う感じがしてしまう。

ゼルダの伝説ムジュラの仮面ではそういった部分も凄く完成されていた作品だなと改めて感じていました。ええ、執筆が遅れたの仕事が終わった後にムジュラの仮面をプレイしてたからです。

ホントにすみません。

 澄み渡る青空が続くセレナーデ大陸。そんなセレナーデ大陸のコルネット国領に足を踏み入れている一人の怪我人は覚束ない(おぼつかない)足取りで必死にコルネット城を目指していた。

 何故、この怪我人は必死にもコルネット城を目指しているのか。それは怪我人しか分からないが幾重にも巻かれた包帯は乱雑で医者がしたものではない。恐らく彼が急いで処置したもの。歩き続けながらもまるで言霊のように何度も何度も同じ事を呟いていた。


「伝え……なければ……絶対に……」


 辛うじて意識を保ち最後の使命を全うしようとするのは彼には生きなければならないからだ。


「我が王国……アナスタシアが僅かな時間で滅びた。たった数人によって……うっ」


 母国が滅亡した。その事実は余りにも残酷で思い出すだけでも怪我人が受けた傷や心の傷を疼かせる。

 しかし、それでも王国が滅亡した一大事を各国の王に伝えるよう託された怪我人は傷だからの身体に鞭を入れ足を進めてコルネット国王へと向かう。そして、王国滅亡の真実をコルネット国王に伝えなければならない。


「そうしなければ……いずれこの世界も……!!」


 怪我人が見た見てしまった壮絶な惨劇は世界全体に悪影響を齎すものだと。それだけ危険な存在達から怪我人は逃げて来た。

 そうやって怪我人がコルネット王国を目指していると突然、男の冷たい声が怪我人の耳に届き、何も前触れなく声の主が現れた。


「悪いがお前の使命は果たす事など出来ない」

「ッ!? ぁ、ぁぁっ!?」


 必死に生きながらえてせめて希望を託そうとする前に現れたのは黒色のローブを身に纏い白い仮面を装着している男と仮面を着けた男と同じローブを纏う男。

 怪我人は仮面を着けていない男の方を見て恐怖に支配された顔色で酷く怯えていた。すると白い仮面を着けていない男は怪我人に視線を向ける事な北東の巨大な山々が連なる場所へと向けた。それは双子とエレスティスが王者の儀式に向かっている王家の渓谷だ。


「ディオールよ少しばかり記憶を探らせてもらうぞ」

「構わんが余計な記憶は見るな……?」


 仮面を着けていない男は隣に立つディオールという仮面を着けた男の頭に右腕を伸ばすと瞼を閉じてディオールの記憶を探り始めた。記憶からは探るのはディオールが幼い頃に父親と共に足を踏み入れた王家の渓谷。もっとも渓谷の奥底には入っておらず、その直前までしか記憶にはない。だが、仮面を着けていない男にとってはそれでも十分な情報だったのかその光景を自らに記憶させるとディオールの頭から右手を離す。


「な、何故……!? 何故、貴様がこの場に居る!? い、一ヶ月前に貴様は仲間と共に我が王都アナスタシアを滅ぼした筈だ……な、なのにこの大陸に足を踏み入れている!? 最速で来ても最低三ヶ月は……掛かる筈じゃ」


 仮面を着けていない男が眼前に立つ事に疑問しか浮かんでこない怪我人は怪我の痛みなど忘れたかのように声を荒げる。自分を置いて話をしている仮面を着けていない男とディオールの関係は怪我人にとってはさぞどうでも良い事であった。だが、自国を滅ぼした張本人の一人がこの別大陸に立っている事が納得いかないでいた。


「簡単な話だ貴様はあの国王の転移魔法によって生き残った。そして、俺には空間を操る能力がある。ククッ、もっとも空間移動する場合は先ほどのように俺が知っている場所だけだがな」

「ま、まさかお前は特異点だとでも……言うのか?!」


 広大な海を渡らなければセレナーデ大陸には行き着く事が出来ない。そして、怪我人はその理由を男に訊くと素直に理由を吐いた。

 それを聞くとこの怪我人も特異点について知識を持ち驚愕を露わにしていた。そんな怪我人の言葉を聞き、男は少し物思いに耽て口を開く。


「貴様たち人間の言葉では特異点と言うのだろう。まぁ良いだろう、そろそろ御託はも終わりだ――今にも死にそうな貴様を永遠に眠らせてやる」


 どうやら男にとって特異点という言葉でも合っているらしいが、他にも別の呼称もあるらしいがそれを言う事はなく眼光を鋭くして怪我人を睨むと怪我人の視界にも映らない圧倒的な速度で男は消えた。そして、怪我人の視線に映ったのは体から鮮血が噴水のように噴出している姿で、痛みを感じないまま平原に倒れ伏せた。叢は怪我人が倒れ伏せた事によって赤く赤く染まり、攻撃をしたであろう男はその握っている物を容赦なく握りつぶした。

 それは怪我人に穴が空いている場所。血を酸素を運ぶポンプの役目をした非常に重要な臓器である心臓だ。既に心臓は停止しているが僅かに生暖かい温度と気持ち悪い感触が男の肌に伝わる。

 心臓を握り潰した事によってトマトを潰した時のように真っ赤な血が飛散し黒いローブに付着していく。普通の人間の思考ならば心臓を生で握る事に躊躇いすらするものを、この男は表情を一切変えない。


「ディオール、これは我らが陛下からのプレゼントだ“こいつ等”を使って国を滅ぼすと良い。さらに貴様の身にも“我らが神の力”を与えているんだ滅ぼせないわけがない」

「その為に俺は貴様たちと手を組んだのだからな、失敗する気は毛頭ない」

「ならば俺は俺の用を達成しに行く。忠告しておくが裏切る事があれば貴様もこの死人と同じ目に遭うと思え」


 迫るのはコルネット王国滅亡へのカウントダウン。国々を滅ぼそうと目論む男はディオールに黒く渦巻いている掌サイズの球を手渡した。それを受け取ったディオールは怪訝そうな表情で受け取った物を睨むが、すぐに己の目的の為に手を組んだのだと良い成功させる気でいた。

 それを聞いて満足したのか男もまた自身の目的を果たそうと空間移動を行おうとする。だが、最後にディオールに対して尋常ではない殺意を剥き出しにして忠告を言い渡した。裏切れば殺すと。それだけを伝えると瞬く間に男の姿はこの平原から消えた。

 残ったのはディオールと心臓を抜き取られた怪我人だけ。一陣の風が吹きディオールのローブが靡く。


(……あんな異常者を統べる陛下とは一体? 俺は恐ろしい組織と手を組んだのか)


 恐らくディオールは危険な思想を持つがあの男程の精神的な異常は見られない。だからこそディオールは身震いもした目的の為に危険な組織と手を組んだ事に。

 しかし、今更あれこれと考える必要はなくディオールはコルネット王国へと向かう為に少し足に力を入れて地面を蹴る。その瞬間、凄絶な速度で平原を駆け抜けた。自らの速度に気付いたディオールは疾走するのを止めて自らの体にある違和感に気付く。

 本来ならば馬に乗ってコルネット王国まで移動するのが主流だが、馬では数日は掛かる。だが、今の速度ならば一時間足らずで着くであろう。


(な、なんだこの力は? これがあの男が言っていた俺の力に埋め込まれた力なのか?!)


 自分の力とは別の力が身体の奥底から湧き出ている事に気付いたディオールは心中で酷く動揺していた。

 与えられたのは現在、右手に持つ黒く蠢く小さな球体と非常に類似したもの。それを胸に埋め込まれているディオールは冷や汗を額から流して最悪の予想を思い浮かべてしまう。


(もしもこの異質な力に取り込まれれば俺の意思が消える……?)


 それだけ危険を思わせる程に異質な力。だが、一国を滅ぼそうとするディオールにとっては力は特に必要な事であった。


「ふ、ふふっ……関係あるものか」


 危険だとディオール自身は勘付いていたが目的の為にコルネット王国へと再び疾走した。

 それを見ていた数人の行商人は言葉を失っていたが、ディオールの姿が消えるとざわめき始める。


「お、おい……今の魔物の大軍じゃないのか?! あんな魔物の大軍を引き連れて仮面を被っている奴は何をする気なんだ!?」

「あの方向だとコルネット王国じゃないのか!? アイツ戦争でも起こす気なのかよ!!」


 数百m程から離れた岩場で休憩をしていた行商人らはディオールの事を見て騒いでいた。ディオールの周りには数百、数千以上の黒く蠢く影が見えて、ディオールと共に疾走していた。さらにその数は数十体ではなく戦争でも起こすのかと疑うようなレベルだからだ。

 そして、ディオールが率いる魔物の大軍の行く先はコルネット王国が在り大勢の人々が暮らしている。どうするべきか頭では数人の行商人は嫌でも分かっている。


「い、言いに行かなければ……」

「伝えてどうすんだよ!? 俺達まで巻き込まれちまうぞ!!」

「けどよ伝えなきゃ沢山の人が死ぬかもしれないんだぜ?! 俺たちはその可能性を垣間見たんだ、伝えた方が良いに決まってるだろ!?」


 眼鏡をかけている行商人は震えながらもコルネット国王に向かう事を同業に提案した。

 しかし、小柄の男性はそれを拒否した。誰もが危険な事に巻き込まれる事を嫌い、王国に行くことを拒んでいた。それは巻き込まれて死亡してしまうかもしれないと考えているからだ。だからこそ小柄の男性は眼鏡をかけた商人仲間の提案を拒否した。

 それでも眼鏡をかけた商人の提案に賛成する身長の高い商人は小柄な商人に説得を試んでいた。


「仮に伝えに行っても多分、間に合わねえんだぞ!? あの変なローブを纏った男は数十分すればコルネット王国に着くんだぜ!? お前達だってさっきの速さを見ただろ?!」


 死ぬのも怖いが小柄な商人は頭で理解をしていた。全速力でコルネット国王に向かっても追い越すどころか追いつく事が出来ないのだと、ハッキリとその移動するスピードの違いを目に焼き付けていた。

 頑張れば間に合うような僅かな差ではなく化け物と人間の差がそこにはあり、現実的な問題を突き付けられた二人の行商人は言葉に詰まり何も言えなくなってしまう。


「間に合えば俺だって伝えに行くさ……けど間に合わない。そうなったら俺達も巻き込まれる可能性がずっと大きくなる。お前達には家庭があるだろ、一時の感情に任せたら大切な人が悲しむかもしれないんだぜ!?」


 この商人達は同じサークル内で仕事をしている仲間で長年一緒にいる腐れ縁でもある。だからこそ小柄な商人は善行をしようとしている仲間を止めていた。その善行を咎めているのではなくその者たちの環境を壊してほしくない仲間思いからくるものであった。

 眼鏡をかけた商人と長身の商人にはそれぞれ家庭も持っており、その商人が死亡すれば間違いなく商人らの家族は悲しみ絶望するだろう。子供はまだ幼いかもしれないし、奥さんのお腹には赤ん坊がいるかもしれない。そう考えれば考える程に小柄な商人は二人の商人を行かせたくない気持ちが湧いてしまう。



 その頃、王家の渓谷に向かった双子とエレスティスはと言うと二日を掛けて到着し一日はゆっくりと渓谷前で野宿し三日目の朝、王者の儀式に挑んでいた。

 コルネット王国を背負ってきた代々の国王が挑んではいるが整備をさせた形跡など見当たらない。自然がそのままに残っており、小川のせせらぎが鳥の鳴き声が至る所から聞こえてくる。木々は地面に強く根強いており何百年ものから残って、まるでそれらは王者の儀式に挑む挑戦者を迎えているようにも感じる。それでも剥き出しになっている巨大な岩が集まり一つの岩場にもなっている場所も多い。

 そして、その自然の渓谷に育まれ縄張りにしている獣や魔物もまた多く生息している。森の薫りを運ぶ風を全身で浴びながらエレスティスは両頬を両手で二度叩き気合を入れる。


「よしっ、頑張るわよ!!」

「はいっ、頑張りましょうエレスさん!」


 そんなエレスティスの隣でアイラもまた同じように気合を入れて王者の儀式に挑もうとしていた。


「ところでアイル君はどちらに行ったのですか? って聞いてないのですか……」


 気合を入れているアイラとエレスティスの横に居たアイルの姿が見えない事に気付いた執事アスペルが白手袋をしながら探していた。王家の渓谷に入った時点でそこは自然によってつくられた場所で割と一歩間違えれば大怪我に繋がるような地点が多いので執事アスペルは本気で心配していた。

 巨大な岩の影から魔物が突然現れてそのまま襲われる事もあるのだが、アイラとエレスティスの二人は特に気にした様子が見られないのでアスペルはどうすべきかと一人悩んでいた。


(まったくあの子はエレスティス様の事を考えているのでしょうか……)


 あくまでもエレスティスが主の催しの為、自分勝手な行動をしているアイルに憤りを覚えていた。

 そして、その当の本人はアイラ達とは離れた場所まで移動してこっそりと岩陰から様子を観察していた。


「うん、三人ともボクには気付いてないね。それじゃ、一人で楽しませてもらうよ」


 アイラ達が自分が何処に居るのか発見出来ていない事を確認すると軽やかな跳躍で岩から岩へと移動していく。


(王様のお願いだから怒らないでほしいな。でも……ボクはちょっと強い方かもしれないけど、買い被りすぎなような気がするなあ)


 岩の間を軽々と越えていく姿は傍から見れば可笑しく映る。そして、十mの跳躍など当然のようなアイルはコルネット国王の言いつけを忠実に守りながら自分の評価が少々高くないのかと思っていた。

 アイルがエレスティス達に一言も告げずに離れて行動をしている理由は王家の渓谷へと向かう二日前に時間は戻る。


――――


 馬車を城下町の表に用意してもらっていたアイル達はそれに乗り今すぐに王家の渓谷へと向かう気でいた。当然、そこには複数名の兵士達と共にコルネット国王が見送りに来ていた。案の定、エレスティスの兄姉は誰一人として見送りに来ておらず特にディオールには来て欲しかったと若干、思っていたエレスティスは少し表情が沈んでいた。馬車はキャラバンと呼ばれる物で主に商品の輸送などに使用されものだが、装飾や形は凝っておりこれだけでどれ位のお金を使っているのか不明だ。車輪は四つついてあり馬の数は一頭と四名を乗せるには大変なのではと思われるが荷物は三日分の食糧しかなく王者の儀式中はサバイバルのため自ら食糧や水分の保持をしなければならない事もあり荷物は然程多くない。その為、馬は一頭だけである。

 アスペルは馬車を引く役目があるので既に座席に座り乗車するのを待っていた。簡単にコルネット国王と話すとエレスティスはアイラ達と一緒に荷台の方に乗ろうとする。それを見てコルネット国王が静止をアイルにかける。


「アイル君、少し待ちたまえ」

「ん、どしたの王様?」


 呼び止められたアイルは小さく首を捻りながらコルネット国王へと振り返る。

 コルネット国王はアイルだけを連れてエレスティス達には聞こえない程度の小声である事を頼んでいた。


「今回の王者の儀式の事で一つ私の願いを聞いてもらっても良いだろうか?」

「うん、良いよ」


 色々とコルネット国王に聞くべきことがあるにも関わらず深く考えずに了承を出したアイル。

 疑う事を知らないのか単純に気にも留めていないのかコルネット国王には分かりかねないアイルの思考だが一先ず、自ら頼み事の内容とその理由をアイルに伝える。


「王家の渓谷に到着次第、アイラちゃんとエレスティスの二人から離れ別行動をしてほしいのだ。アイラちゃんも火力という面では君よりも上だと思うがやはり積極性には欠ける。だが、アイル君……君は違う」

「え、何か違うの?」

「子供とは思えないその実力と戦いに対する考え方だ。私の予想だが王家の渓谷に生息する魔物が出現したしても君は全て戦い勝つだろう……それではこの王者の儀式の意味はない」


 頼み事の内容はアイルだけアイラ達とは離れ単独で行動をしてほしいものであった。そして、その理由はアイルの実力がアイラ達と比較して頭一つ分は抜けていて、そんなアイルの性格がやや好戦的であるのでアイルと行動してはエレスティスの為にはならないというものであった。

 攻撃面だけならばもしかするとアイラの方がアイルよりも高い可能性もコルネット国王の中にはあるのだがアイラの心の在りようではエレスティスと一緒に行動しても問題はないだろうと考えている。

 あくまでも試練なのだ。王族という立場など魔物にとっては無関係の事で弱ければ食い殺される弱肉強食の場でエレスティスが自らの力で成し遂げなければならない。そこにアイルが居てはエレスティスの成長にも繋がらない。その事もあってコルネット国王はアイルにそう頼んでいた。


「そっか、そういう事なら仕方ないね。ボクはボクで王家の渓谷の魔物と戦うから大丈夫だよ!」

「うむ、この事はアイラちゃんとエレスティスには内密にな。終わった後はきちんと私からも説明をするつもりだ」


 きちんとコルネット王国の考えを真面目に聞くとアイルは納得した上でもう一度了承した。それを聞いて安心したコルネット国王は王者の儀式が終わって戻ってきた時にアイラとエレスティスの二人に納得してもらえるように説明をすると言い加えた。


――――


 岩の上に立つアイルはその上から下を見下ろしていた。山奥の村でも見た事のある馴染み深い魔物や初めて見る魔物が互いに攻撃し合っている姿があった。人間と人間が争うように魔物もまた魔物と争う事は当たり前の出来事で負ければ喰われ死ぬ。今もまた数m程の体躯を誇る獅子がゴブリンの首元に噛み付き、そのまま首を引き千切り殺した。そして、死んだ事を確認すると肉付きの良い腕や足を美味しそうに食べ始め、舌で口周りを舐める。

 それは正直、幼い子供が見て良い光景ではないがアイルは気にもせずに黙って見下ろしていた。だが、思う事は少しばかりはあるらしくこの場所を離れようとはしない。


「なんだか魔物が凶暴そうに見えるけど気のせいかなあ? って、そう言えば空の魔物も生息してるんだった!」


 平原に生息する魔物に比べてやや凶暴だと感じていると空から飛行する怪鳥の攻撃を他の岩へと跳躍し避けた。

 体躯はアイルよりも大きく足の鉤爪は鋭く人間の腸を一撃で引きずり出すと噂されるヒクイドリであった。飛ぶ速さもさることながら地上を走る速さも鳥の中では高いレベルにある。特にこの怪鳥はアイルが苦手とする空を飛んでいる事が挙げられ、アイルは地上に降りる事はせずに岩の上で立ったままであった。


(こんな足場が悪いと戦いにくいけど、地面に降りたら他の魔物とも戦う事になるし……一撃で斬り伏せれる自信はあるから別に良いけど)


 地面には無数の魔物が屯しており今のアイルと怪鳥のやり取りで他の魔物がアイルの事に気付き狙い始めた。一体のリザードマンが高く跳躍しアイルに斬りかかっていた。足場が狭い岩の上でアイルは剣を抜き受け止め、左手はリザードマンの腹部に拳を叩き込んでいた。

 そして、かなりの拳打だったのかリザードマンは苦しみの声を漏らす。が、アイルはそれを無視して左手でリザードマンの右腕を掴み上空を飛行している怪鳥へと投げ飛ばした。


「でりゃああっ!!」


 まるで剛速球のような勢いで飛んでいくリザードマンに当たれば相当な痛みを伴うが、それを受ける者など居らず怪鳥は簡単に避けるとアイルへと猛スピードで突っ込んで行く。それを見ながらアイルは身構えて怪鳥の鉤爪が当たりそうな瞬間、岩の下へとわざと落ちていく。怪鳥の足は強靭な脚力もあるのか岩を砕き、その破片がアイルと一緒に落下していく。


「うわあ、あんなの人間が受けたら一溜まりもないね! それじゃ、ボクもちょっとだけ本気だして戦うよ!」


 怪鳥の攻撃を見て少し驚くも直ぐに気を取り直して魔物の集団の中心に立つ。勿論、他の魔物と戦うのは必然でアイルは自分の周囲に居る魔物全てと戦う気でいた。ここからはアイルもまたちょっと本気を出して戦うと怪鳥だけでなく周りの魔物数十体に対して挑発と宣戦布告を発した。


 その頃、アイラ達はと言うとアイルと同様に魔物と遭遇していた。大小様々な大きさの魔物がアイラとエレスティス、アスペルを餌として睨みつけて徐々に距離を縮めて飛び掛かる隙を窺っている。

 だが、アイラとエレスティスはアイルに比べて性格面や実力面では戦闘には向かないが攻撃面ではお互い複数に対して有効な攻撃方法があるのでアイルよりも数を相手にするには楽ではあった。茶色の布で縫われた弓袋から金色の弓を取り出すアイラ。


(アイルは何処に行ったんだろ一人で大丈夫かな……? もうっ、エレスさんの為に戦うんじゃなかったの?)


「あまり時間を掛けるつもりは私はありません!」


 何も告げずに単独行動をしているアイルを心配しつつエレスとの約束を忘れたのではと心中で少々呆れていた。

 しかし、目の前には二十体以上は確実に見える魔物が鋭く睨んでいるのでアイラはアイルの心配するのを止めて攻撃をしようと淡い蒼白い光の矢を一本だけ作ると魔物ではなく上空へと放ち、百m上空へと一瞬で到達し一本の矢から数百以上の蒼白い矢の雨と化して魔物へと降り注いでいく。

 降り注ぐ矢一つ一つは人間の体よりも強靭な魔物の体を容易く貫いては息の根を止めて行く。それは魔法よりも性能の高いアイラだけが使える能力で同じ特異点らしいエレスティスも呆然とするほどで。


(なんて貫通精度なの。あんな大きな岩をもろともせずに貫いてるし、あの試合で今の使ってたらセルシルとガイルは大怪我を負ってるわ確実に)


 魔物に対して割と使う頻度の高い攻撃だがその貫通力はどれ程硬い物質をも容易く貫く貫通精度を誇り、対人ではアイラが使用しなかった攻撃。それを見たエレスティスは少しばかり背筋が凍っていた。驚異の威力を誇るが故に人に向ければ簡単に人を殺せる攻撃に変わるもので模擬試合で使っていなくて良かったと安心していた。


「ガアァァァアッ!!!」

「後ろですよエレスティス様!!」


 アイラに気を取られていたエレスティスの背後にガイルの数倍の巨体を誇る二足歩行の牛のような魔物はエレスティスを潰し殺そうと腕を振り上げていた。それを見たアスペルは声を張り上げて魔物が襲っている事を伝える。


「はぁぁあっ!!」


 それを聞き反応したエレスティスは即座に魔物へと視線を向くと牛のような魔物の足元から火柱が立ち体を包み燃やし尽くしていく。灼熱とも呼べるそれは周囲の落ち葉は発火し、岩は高熱を帯びていく。


「アスペル、教えてくれてありがとう」

「いえ、それよりも今のは素晴らしい攻撃でしたよ」


 後ろからの攻撃に対処出来たのは間違いなくアスペルが教えたからでエレスティスは素直にお礼を述べる。

 素直なエレスティスにアスペルは意外そうな表情に変わるも余計な一言を言わずに攻撃が素晴らしかったと称賛した。



 立ち昇った赤色の火柱を遠くから見たのはアイルだけでなく別の人物も居た。そのもう一人の人物は王家の渓谷の門番として立つ三名の兵士達に止められていた。


「貴様は一体何者だ。用がなければ早々と立ち去れ」

「連れないな。無論、俺の用はこの渓谷に居るエレスティスを一目見る事だ」


 コルネット王国直属の兵士は黒いローブを纏う男を不審者と見なして立ち入るのを禁止していた。

 男はエレスティスの事を知っており、一目見る事を目的にしていた。しかし、それを聞いて兵士が通らせるわけもなく三名の兵士は問答無用で槍を突き立てる。


「国王から命じられている。今は如何なる者も王家の渓谷に立ち入らせるなと」

「そうか、では俺は貴様たちを殺さなければ通れないと言う事か。貴様たちが通らせてくれれば怪我をすることもないのだがな」


 王家の渓谷に立ち入る事が許されているのはコルネット王国の王族と王者の儀式に挑む者達だけ。そして、王者の儀式に挑むのもまた王族なので実質、一般人は入る事は許されない。それは法にもあり兵士達は遵守の為、絶対に通らせようとはしなかった。

 そんな兵士達に呆れた男は表情を一切変えず殺す宣言をしていた。だが、すぐに手を出すような事はせずに今一度忠告を兵士達に言う。


「ふんっ、何を世迷い事を! お前みたいな不審者に殺されるとでも思っているのか?!」


 男の忠告を鼻で笑うと一人の兵士が槍を突き立てたまま貫こうと突進した。誰もが男の体は貫通したと思った。


「うぎいっ!?」

「な、な、なんだとお!?」


 槍は違う兵士の鎧にぶつかり金属音を奏でた。物理的に当たる事がない筈の場所に槍が届いている事に兵士達は驚愕の顔色に染まり男を見ていた。


「力が無さすぎる。ククッ、鎧を装備していて助かったな」

「貴様っ!! 一体何をしたというのだ!?」

「今から死ぬ貴様達には永劫関係のないことだ、さっさと死ね」


 そこからはただ一方的なまでの殺人だった。

 兵士達は男の姿を眼に映す事すら許されず手刀を浴びては腕を千切られ、身体を貫かれ何も出来ずにただただされるがまま殺された。黒いローブには至る所に返り血を浴びており、手に付着している血を舐めると殺した兵士達など捨て置いたまま王家の渓谷へと足を踏み入れる。


「ククッ、待っていろエレスティス」


 確実に黒いローブを纏う男はエレスティスへと近づいていた。

 これからが始まりなのか終わりなのか。少なくとも今の双子やエレスティスではどうにもならない事が三人の知らない間に起きている事は事実であった。

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