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双天のステルラ  作者: なまけもの
世界への旅立ち
28/49

第28話

いよいよ王者の儀式が始まります。ここまでに約8話を浪費するっていくらなんでもあり得ないだろうに。それとも最初らへんの部分は一つに纏めても良いかもしれませんね。

暇な時にでもしてみようか。

とまぁ、王者の儀式から多分、怒涛の展開になると思います。ホントになるんですかね。読者を置いてけぼりをしていきそうな感じになりそうで怖いです。


それでは28話も楽しんでいただければ幸いです。

感想など頂けたらとても助かります。特に誤字・脱字が酷そうだ。

 朝露が地面に一滴と落ちる時間帯。それは一国を守る為に日々兵士達が訓練を行っている頃である。

 コルネット王城を離れて三日前に試合を催した円形の闘技場を少し遠ざかった場所には闘技場と同じぐらいに広いグラウンドがあった。

 そのグラウンドでは数百名以上の兵士がお腹から声を出しランニングを続けていた。日々、毎日訓練を続けている事もあって汗は流しているものの走る速度は変わらない。

 しかし、その数百の人の集まりから数m程離れた位置にコルネット王国第三王女エレスティア・コルネットが必死に追いかけている姿が見えた。普段、見繕いする公的なドレスなどではなく動きやすいトレーニング用の服を着用している。


「ふぅ……ハアッハアッ……」


 温室育ちだけあって体力はからっきしのエレスティスは既に立ち止まって息を整えようとしていた。

 そんなエレスティスを見て兵士達は心配となり走り込みを中断しタオルと水の入った筒を持って来た。


「エレスティス様、あまり無理をなされない方が宜しいかと思いますけど」

「ありがとう。でも、い、良いの……これ位しなきゃ二人に迷惑を掛けちゃうもの……」


 心配する二等兵の言葉に感謝しつつエレスティスは額から流れる汗を右腕で払いながら再び走り出した。

 今にも倒れそうな勢いのエレスティスが無理して兵士と同じ訓練を行っているのには理由がある。


(アイルと……アイラが私の為に頑張ってくれたんだから……私も頑張らないと……)


 思い返すは三日前の試合。子供とは思えない実力を見せつけた双子を見てエレスティアは迷惑を掛けられないと強く責任を感じていた。

 あくまでも王者の儀式の主役はエレスティス。エレスティスが頑張らなければ儀式の意味はない。王の座に就きたいという望みはエレスティスには毛頭ないが見返したい願いはある。だが、今のエレスティスがこのまま王者の儀式に行って達成出来ても双子の力としか見られない。それ程までに今のエレスティスは弱いのだ。

 元々、他の兄姉と比べてコルネット国王から過保護に育てられたエレスティスは英才教育を施された事がない。その事もエレスティスが兄姉から妬まれる要因ともなっている。コルネット王族では一番の末っ子にあたる。


 今にも倒れそうなエレスティスを遠くから見ているコルネット国王とアイルとアイラ。双子はまだ眠たそうにしているがコルネット国王は目を細めてエレスティスを見ていた。


「――アイル君とアイラちゃんはこの国に来てから疑問に感じた事はあるかい?」

「ふわぁ……特にないよ」


 走り続けるエレスティスを見ながらコルネット国王からこの国で疑問に感じた事があるのかと問いを投げかれられる。アイルは本当に何も感じていないので小さく欠伸をかきながら特にないと答えた。

 しかし、アイラはアイルと違う割と鋭い。当たっているのか外れているのか分からないがゆっくりと言葉にする。ゆっくりと話すのはまだ国王と話す事に慣れていない証拠。


「エレスさんの母親を私は見ていません……。他の王子や王女さんの母親はこの三日間の内に見ましたが」


 末っ子のエレスティスの母親を一度も見た事がないのだ。そうコルネット国王に言うアイラ。理由はアイラには見当つかないでいるが今のエレスティスに深く関わっているという事だけはアイラにも察する事は出来ていた。が、だからと言って無暗に真相をエレスティスを聞こうとはアイラは思わなかったし、聞いてはエレスティスを傷つけるのではないかと思うと聞こうにも聞けなかったというのもアイラにはあった。


「あの子の母親はこの国の侍女だったんだ。今はもうあの子が幼い頃に病気で亡くなってしまったが……」

「そう……なんですか」


 朝から重い話を聞かされたアイラは既に心が沈んでいた。

 だが、家族病気で亡くなったという事実は自分達にも通じるところがあってアイラはエレスティスの気持ちも共感出来ていた。

 そんな風にコルネット国王とアイラが話をしているとアイルはエレスティスの方に駆け寄ろうとする。


「ボクも一緒に訓練してくるよ、もっともっと強くなりたいしね!」


 まだまだ高みへと昇りたいという気持ちが強いアイルは自分も参加してくると告げてエレスティスが走る場所へと走って行く。そんなアイルの姿を見たコルネット国王は呼びとめようとするもそれが出来ずに小さく溜め息を吐く。


「はぁ、もう少しエレスティスの気持ちに気付いてあげればよいものを……」


 無理してエレスティスが特訓を始めたのかをアイルには察して欲しいと言葉を漏らすもアイルには届かない。

 ついつい落胆してしまうコルネット国王を横にアイラも同意見なため、苦笑いだけを浮かべた。


(私もエレスさんと同じ特異点らしいけど特異点じゃないアイルに実力の差を見せられたら……へこむよ。隠してても本音では)


 アイラもまたエレスティスと同じ特異点だと認めつつあるが弟のアイルの方が、余程潜在性が高い事にエレスティス程ではないが本音では落ち込んでいた。以前からもアイラはアイルとの違いを感じていたが、ここまで違うものなのかと思う事も時折ある。


「あの……双子でも才能に大きな差は出たり、するのでしょうか?」


 ふと感じた疑問をアイラはコルネット国王に質問した。


「どうだろうか――だが、アイラちゃんはアイル君との間に大きな差があるとは思えるのか?」

「そ、そんな事は! 少しは思っていますけど……」


 質問されたコルネット国王は少し考えを巡らせるが答えは言わずにアイラの心の内を見透かした。

 見透かされたアイラは最初は動揺し否定しようとするが小さく縦に頷き肯定した。心の持ち様からアイルとの間に差を感じ、迷いや不安、心配など見せないポジティブなアイルを羨ましいと思う事は幾度とあり、アイラもそれを欲している。

 どこかアイルのようにはなれないと既に諦めているような、そんな表情を浮かべるアイラを横にコルネット国王は優しい口調で言葉を掛ける。


「アイル君はそんな風に思っていないと私は思うが? それに私から見ればアイル君にも出来ない事は多いと感じたけれども。アイル君は近距離は確かに得意中の得意ではあるがアイラちゃんのような相手は苦手だと感じたけどな」

「そ、そうですよね! それに落ち込んでばっかりだったらもっともっと差が広がっちゃいますし、私も頑張ってきます!!」


 くよくよと悩むアイラにそんな事はないとコルネット国王は諭す。そして、アイルが出来ない事をアイラは出来るのではないかと教える。

 それを黙って聞いたアイラは自分も頑張るという意思表示をして、アイルと同じ方へと足を運ぶ。


「うむ、頑張ってきなさい。さてと、私も仕事に戻るかな」


 エレスティスの事は双子に任せておけば安心だと判断しアイラを見送ると、コルネット国王は自身の責務を果たすために訓練場を後にし王城へと戻る。



 走り込みを終えたエレスティスは水を飲んでタオルで汗を拭いていた。

 顔色は悪くはないがやはり無理をしているのではないかとアイラは心配そうな表情を見せて無理だけはしないようにと諭しつつもエレスの気持ちも分かるアイラは一緒に修行をしようと提案する。


「あの、エレスさん。あんまり無理をしたらダメですよ? それと私達と一緒に修行しましょう」

「え、あ、私は二人の邪魔にならないかな……?」


 嬉しい誘いだがエレスティスは二人に着いて行けるのかと不安に思いそれを言葉にした。


「そんな事ないですよ。私も不思議な力はあっても普通の人程度ですから」

「アイラがそう言うなら、私の方こそ宜しく」


 前回の試合を戦っていたのはアイルでアイラ本人は応戦していただけである。それを自覚しているアイラは不思議な力を持つだけとしか自分を認識していない。


「ねえねえ、エレスはどんなことが出来るの? 魔力を使わずに炎を出せる事は知ってるけどそれ以外はボクもアイラも知らないんだよね」

「炎の形を変えて武器にしたり炎で壁を作ったり……とかかな。一応、今の私が出来る範囲でだけど」


 一緒に特訓するにあたってエレスティスに出来る事を問うアイル。それを聞いて魔法のように扱えるとエレスティスは簡潔に説明する。


「なんだか魔法みたいだね。魔法よりも使い勝手は凄くよさそうだけど」


 セルシルの扱う魔法を見る限りでは魔法は決して万能なものではないと見ているが、エレスの話を聞く限りでは魔法よりも使いやすそうだということ。


「学者達の間では特異点の能力はこの世界の精霊の力の源を扱っているのではないかと言われてるからね」

「精霊? 星霊エトワールとは違うの?」


 知らない存在の事を聞いたアイルとアイラは互いに頭の上で疑問符を幾つも浮かべる。


「もしかして神話学とか学んでないの?」

「そんなの知らないよ!! ボクが習ったのは文字や数ぐらいだもん」

「私も神話学というのは全く知らないです」


 双子が山奥の村で勉強した事は生きていくのに必要な文字の読み書きや算数だけ。アイラの場合は図鑑や辞書、小説などの書から知識を積み重ねてきたが専門的な勉強は学んでいない。

 やはりそこは王族と村人の育ちの違いをエレスティスに痛感させる。


「簡単に言えば星霊エトワール様は万物の王にしてこの世界の主たる存在で精霊はその眷属といったところね。そして、精霊というのは炎や水、雷、地とか色々な自然を擬人化したようなものよ。だから私の炎は炎の精霊の力という見方もあるの。私も勉強で教えて貰った程度の知識しかないけれども」

「そうなんですか、世の中ってのはそういう世界の仕組みになってるんですなぁ」

「え、ええ。っていうか他の皆も集まっているだなんて」


 双子に説明しているつもりが何時の間にやら幾人もの兵士達も集い話を聞いていた。

 戸惑いつつも普通に自分と接してくれている事に嬉しさが込み上がって涙を流しそうになるも、それが他の者にばれない様に気合を入れる。


「それじゃ休憩終わり! 王者の儀式まで後四日だから頑張らないといけないわね!」

「その意気だよ!」


 休憩を終わらせて王者の儀式まで残り僅かだという事を胸に残し特訓の再開に入るエレスティス。

 次はアイルと共に組手を始める事にした。今日までは他の一般兵士を相手に組手をしていたがアイルも一緒に訓練を始める事となったので単純に実力が上のアイルと組手をする事となった。

 無論、真剣は使用せず木材で作られた剣を用いてだ。ただし、木材と言えどもアイルの力があれば恐らく人一人殺す事は難しい事ではない。

 そして、アイルはエレスティスに特異点としての能力を使う事を許している。実際はアイルが特異点の能力はどんなのかを知りたいだけ。力の差だとかエレスティスを見下しているのではなくアイルがその力を見たい欲求に駆り立てられエレスティスに望んだに過ぎない。


「本気で来ないと許さないからねエレス」

「当たり前じゃない。アイルに手加減なんて出来やしないもの」


 アイラも離れた場所で兵士と共に対峙し合うアイラとエレスティスを見守る。やはり、見る者も緊張する。

 しかし、アイルは相変わらずの自然体に構えておりエレスティスを見据える。反対方向で対峙するエレスティスはまるで達人と試合をするような感覚に襲われ緊張し木刀を握る拳に嫌でも力が入る。

 一瞬の気の緩みがアイルの姿を見失う程だというのはあの試合で察する事が可能なレベル。

 ざわめく風の音を耳にしながら先に動いたのはエレスティスだった。行動の選択肢は先ずアイルを近づけさせないに至り、素早く自身の力である赤く燃え上がる炎をまるで波のようにして放った。それも一度ではなく連続で近づけせない連続攻撃。大きさは大人など容易く呑みこめる大きさでアイルなど簡単に呑みこめる。

 まるで津波のように押し寄せる炎の波にアイルは目を見開くが地を強く蹴り真横へと疾走しエレスティスの真横へとほぼ一瞬の出来事かのように攻め寄る。まさに風を切る速さで兵士達は驚愕の声をもらすがエレスティスはあくまでも予想の内だというかのようにエレスティスとアイラの間に城を支える柱ぐらいの火柱を発生させて動きを止める。


「な、なんでもありなのそれって?! 魔法と違ってほいほいと放てるし……そりゃ、王様が期待するのは当たり前だよ」


(やっぱりアイルは遠距離攻撃が出来ない。アイルの攻撃が通る範囲に入れなければなんとかなるかも……けど、アイルはまだ本気のスピードを出していない)


 アイルの反応や動きを見る限りでは今の戦闘方法は決して間違いではないと実感するエレスティスだが一抹の不安を覚える。あくまでもアイルの今の速度は普通にしているもので、試合で見せた姿をかき消すほどの速度ではない。それを出されてしまえばどんな攻撃も避けられる。特に障害物がない広い場所だとアイルにとって全力で出せる条件下。

 津波のようにアイルを襲っていた炎は地面に激突して広く焦がし、いまだに残り火が残っている。それを見てエレスティスは自分が発生させた攻撃によって残された火の形を長い槍に変えて遠隔操作のようにしてアイルへと放つ。矢を射るような速さでアイルへと向かうが後ろへとバックステップをし避けると足が地に着いた瞬間、炎の槍へと駆け手を伸ばす。


「う、嘘?! 今の死角から攻撃したのに避けて……それを握った!?」


 握った。間違いなく目の疑いようはなくアイルは炎によって形成された槍を握っている。

 炎の温度はお風呂の湯や料理を作り熱の温度とは比較出来ない熱量を誇るがそれを問答無用で握りそれを持ったまま、アイルは驚愕するエレスティスへと接近する。

 組手は終わっていない。それこそ城の外に出れば何を仕出かすか分からない魔物も多く、驚愕をしている暇すらないであろう。一度でも驚愕に気を取られれば命を落とす結果にもなる。


「ッ!!」


 目を見開いた時には剣でいう白刃の部分がエレスティスの首元にまで届いていた。それに気付いたエレスティスは息を呑む。

 そして、ゆっくりと口を開き言葉を紡ぐ。それは組手の終わりを告げるもの。


「私の負け」


 素直に負けを認めたエレスティス。あまりにもあっさりとした終わりだ。

 それを聞いたアイルはにっこりと笑みを浮かべて木刀をエレスティスの首元から離すと同時にアイルが剣を持つ逆の手つまり左手にある炎の槍は霧散した。


「意外とやれば出来るもんだね。最初は掴めないかもとは思ったけど以外に掴めるものなんだね、ちょっと熱いけど」


 掴めるなんていう絶対はアイルにはなかった。だが、掴めるかもしれないという可能性に迷う事なく飛びついたアイルはまるで独り言のように呟きながら少し赤くなった左手を見ていた。


「聞きたいことがあるんだけどアイラは何時も魔法みたいに魔力を使わずに光を集めて矢を放ってたよね? あれってどんな感じなの?」

「えっと、急にどうしたの? っていうかどういうこと?」


 脈絡も糞もない突然投げかけられた質問にアイラは再び疑問符を浮かべて質問の意図を聞き返す。


「アイラが出来る事みたいにはボクは出来ないけど、それを似たような事はもしかしたら出来るかもしれないと思ってね。アイラの力って魔法じゃないのにどこからその攻撃に変える力を集めてるのか気になったんだよ」

「そういう事なんだ。えっと、私の場合はこの世界に満ちる光り輝くホントに小さい光子を集まるみたいな感じだよ。えっと、例えるならアイルの持つ剣から発生する金色の粒子みたいなものが見えるんだ。それを集めて放つって感じだよ」


 アイラの力の源は一体何かと疑問に思ったと素直に言う。それは旅を始めた頃にも感じたアイルの疑問。

 質問の意図を理解したアイラは納得して説明を始める。

 魔法であればその個人に宿る魔力を消費するという手段があり、アイラにはこの空間内に満ち光輝する光子または粒子が見えてそれを使っていると言う。それを聞いたアイルは驚愕を露わにしてアイラを見る。


「えっ、アイラもその光の粒子って見えるの?」

「もってアイルももしかして見えてたの?」

「うん、見え始めたのは蜘蛛の化け物を倒した後の日からだけど。特に気にする必要もないかなって思って何も言わなかったんだ」


 どうやら空間に満ちる光の粒子はアイラだけでなくアイルも視覚出来ると割と衝撃的な事実を口にした。

 見えていた事に驚きの表情へと変えるアイラに見え始めた時期も告げた。それは、アイルの異常な回復力を見せた同時期である。


「そ、そうなんだ」

「そうなんだよ」


 勝手に話を終わらせようとする双子。だが、あまりにも話は不自然でエレスティス達からすればツッコミどころ満載であった。


(この子達には私達には見えない何かがあって……それを使えるってこと? ホントにこの子達は何者なの?)


 次々と増えていく疑問の数々。出生、実力、今の会話、年齢さまざまなものをエレスティスが知る限りで答えを導こうとするものの出てこない。

 出てくるのは異端者や不思議少年少女即ち、不明なのである。

 そして、その全ての事柄を双子も知らない事もあってこれ以上の無暗な問答は意味を持たないとエレスティスは感じ、質問を投げかける事はなかった。


「それならボクも普段とは違う練習をしようかな!!」

「なにをするの? 教えてよアイル」

「へへーん、まだ秘密だよー。成功したらアイラにも教えてあげるよ」

「むうっ……アイルのいけずー」


 少し顔を顰めて双子について考え込むエレスティスは楽しげに話しているアイルを黙って見る。

 アイルはアイルで自分の中にある“想像している事”が出来るようにしようと決意しており、それが何か気になるアイラは聞くも秘密だと言われて少々不満げにして口を尖らせていた。

 

 

 さらに四日の月日が経ち双子はエレスティスと共に乗っていた。目指すは王者の儀式が行われる王家の渓谷と呼ばれる地でコルネット王国数代の者達が挑戦し乗り越えた場所である。当然、現コルネット王国の王にしてエレスティスの父もまたこの試練を乗り越えている。

 馬車を引くのはエレスティスの執事とも言える青年だが最近は双子が執事の変わりになっていた事もあってか、若干気まずい雰囲気が流れている。お目付け役とも言うべき存在なのか、エレスティスを守る為に一緒に居るのかは青年しか知らない心である。

 馬車が動く度に青年の新緑の若葉のような色の髪は靡く。それを後ろの荷台に乗っている三人も同じである。


「ねえねえ、お兄さんの名前を教えてよ」

「私の名前はアスペル・ディノートです。エレスティス様の執事をさせていただいています」

「アスペルかー、よろしくね!」

「ええ、こちらこそ宜しくお願いします」


 青年の名はアスペルと言いエレスティスの執事。見た目や口調は優しく礼儀正しくまさに好青年と言ったところ。

 簡単で短い自己紹介が終わるとアイル達は荷台から眺められる景色を堪能していた。叢が生い茂っている平原を馬車で約二日間走らせると王家の渓谷に到着する。もっとも寄り道する予定はなく一直線に王家の渓谷へと向かっている。


「はぁ~、遂にこの日が来たのね。なんだか凄い緊張してきたんだけど」

「ですね……どんな事が待っているのか分かりませんが成功させたいですし」

「まだ着いてもないのに緊張のし過ぎだよ。あ、でもワクワクはするよね!」


 アイラとエレスティスの二人は緊張するとぼやくがアイルは笑いながらワクワクすると言葉にする。


「うん、アイルはそういう人だもんね。なんかもう想像しやすい」


 緊張や不安よりもワクワクが先行しているアイルにエレスティスは若干、呆れた表情を見せるが一人ポジティブなアイルがいるだけでも二人の抱く不安も和らぐ。


「そういえば何をすれば王者の儀式は合格になるわけ?」

「なんでも王家の渓谷に生息する獣の角を手に入れれば良いみたい。角は赤い宝石のように美しいものだって聞いてるわ」

「なら案外楽勝じゃないのかな。それにちょっとだけ新技が出来ちゃったもんねー!」


 王家の渓谷に生息している稀有な獣に宿る角を持って帰る事が条件となっており、それを聞いたアイルは案外楽勝だなと口にした。さらに新技が出来たと嬉しそうに語る。


「ずっと秘密って言ってたアレ?」

「そうそう! でも、この新技はあくまでもその過程で出来たもので秘密のアレはまだ未完成なんだよ。やっぱり中々難しくてね」


 新技が秘密にしている事と言うわけではないみたいだがその過程で作られた技なので否定はしなかった。

 しかし、秘密にしている事だけはまだ未完成で難しいとアイルにしては珍しく弱音を吐くがアイルを見る限りでは全く落ち込んでいる様子は見られない。それも新技が出来たからというのもあるだろう。

 そんな新技が出来たと聞くとやはりどんなものなのか知りたくなってしまうのはアイラもまだ子供だからであろう。


「早く見たいなぁー」

「王家の渓谷ではちゃんと使う場面がある筈だから見せれるよ!」


「は、はは――」


 技と言う以上は攻撃手段ではあると予想出来るものの、それがどのようなものなのか分からないアイラは本心を呟いていた。それをアイラの横で座り荷物と一緒に揺れているアイルは使う場面があるから大丈夫だと安心させていた。

 しかし、技である以上は戦闘で発揮させるもので安心させる方向性が合っているようで間違っていた。無論、それに一々エレスティスはツッコミを入れる気など毛ほどもない。


(でも、本当にこんな日が来るだなんて思いもしなかった。昔の私は何時も周りとの距離を作って逃げてただけだったのに。この王者の儀式も成功させてお兄様やお姉様達を見返してやるんだ! それこれもアイルとアイラのお陰かな)


 それぞれが期待や不安を抱く中でエレスティスは今日という日に様々な思いを抱いていた。

 双子と出会うまでは他者との間に壁を作り王者の儀式からも逃げていた。だが、そんな日々も双子と出会った時からまるで今までの事が嘘かのような日々に変わっていた。二週間も満たないのに何時の間にか双子が近くに居るのはエレスティスにとっては普遍だった。

 そんな事を一人思いながら絶対に成功させて自分を馬鹿にしてきた兄や姉を見返すのだと意気込む。


(アイルとアイラが居たから私の世界は変わったのよ。だから、必ず私は頑張るから) 


 自分が変わった事がまるで世界が変わったかのように感じるエレスティスは心中で双子には聞こえないように約束をする。

 だが――双子がエレスティスが何も知らない平穏な日々を送る今でさえも世界は常に大きく動いている。それは当たり前の事だ。

 そこに様々な人種が思想が理想がこの世界には在り続けているのだから――

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