第27話
ガイルとセルシルも一応、双子の冒険編ではまだ登場すると思われます。
作者が忘れない限り絶対に!! え、作者が忘れた場合は登場しませんね頑張って覚えましょうか。
さて今回の話で登場した単語は双天のステルラでは重要な用語となります。さらにアイルの見境なしの成長もまた双子の出生に深く関わってきます。
果たしてその真実に辿り着くまで現実世界で何年掛かるのか――長くても三年はいきそうで怖いですね。ええ、そうならないように私も努力していきたいと考えております。
それでは27話も楽しんであげてください!!
穏やかな風が世界を翔ける。そんな風を受けながら一人の老人は大空を見上げる。
清々しいまでの青空はまるで一ヶ月前まで共に暮らしていた子供の一人を想起させ、歩くのが少し疲れたのか溜め息を吐く。
「グランさん、アイルとアイラが旅立ってもう一ヶ月以上が経つのですね」
大空を仰ぎ見るグランの背後から優しく声を掛けたのは山奥の村唯一の教会の神父であった。
声を掛けられるとゆっくりと振り向きながら返事を返す。
「うむ、元気にしていると良いんだがのう。アイラはあまり意思の伝達は苦手でアイルはこれでもかと言うぐらいにマイペースを貫き通しているから心配じゃ」
「は、はははっ……」
心配なのか少々思いつめた表情のまま言葉をもらすグランに神父は否定出来ずに乾いた笑みしか出せずに立ち尽くす。
双子の性格面は既に山奥の村では周知の事実であり、だからこそ神父は無理に否定はしない。寧ろ気休め程度の否定ならばいっそ肯定した方が清々しい。
「ですがまぁ、あの双子の事ですから楽しく旅を続けてはいそうですけどね」
「それもそうじゃが、特にアイルは常識がないから余計に心配じゃ。あの子はあまり物事を深く考えないからのう」
「それで何度も同じ年代の子供達と喧嘩になっていましたしね。悪意のない本音って本当に怖いですから……いや、ホントに」
心配されるも上手くやっていそうだと確信にも似た思いが神父にはあり、グランもまた同意できるものであった。
しかし、アイルの事を考えるとその心配は余計に膨れ上がるばかり。常識がない上に思案するという行動にあまりしないので余計にだ。それが原因で山奥の村の数少ない子供達と喧嘩など日常茶飯事なのだが、それはもう見る事のない光景。
それでどれだけの子供達が大人達が泣かされてきたのかは数知れず。神父もまたその内の一人である。
「本当に……はぁ」
旅に出る前にきちんと常識を叩き込んでおくべきだったと慨嘆する。
※
リングの中心部で斧と剣が交錯し互いに押し合い、金属と金属の擦れる微かな音がアイルとガイルの耳に入る。
見た目通りの豪快な一撃は傍から見れば強力なもので子供が受けるには難しい。だが、アイルはそれを難なく防ぎ交錯した状態を維持し続ける。
一番に驚愕しているのはガイルだ。一撃されどその一撃を当たり前のように防ぎ尚且つ、押し返そうとしているのだ。
「ぐ、ぐぐぐっ!!」
一向に押し返す事が出来ない。まるで巨大な壁がそこにあるかのようにアイルがビクともしないのだ。
相手は子供だ。見た目から見間違う事はなく、だからこそ余計にガイルの心を徐々に追い詰めていく。力は圧倒的に上回っているという自負が脆くも崩れ去った瞬間、ガイルの視界からアイルの姿が消えた。ガイルは一度たりともアイルから目は離さなかった。
理由は簡単だ。アイルにしか眼中にないからだ。
戦闘が始まる前から戦々恐々としているアイラなどガイルからすれば相手にするまでもないのだ。だからこそ、アイルにのみ完全に集中していた。それでも、アイルの姿を見失ってしまう。
「後ろですよガイル!」
見失ったガイルに気付かせるセルシル。セルシルは魔法を放つ準備をしているのか足元に淡い赤色の輝きを放つ魔法陣を展開していた。だが、これはあくまでも魔法使用者にとって発生させる第一段階に過ぎない。
それでもアイルとアイラは何も行動を移そうとはせずに黙ってセルシルに行動を許している。
だが、二人にはそれぞれ行動しない理由は異なる。アイルは単に魔法を生で見たいだけでアイラは何をすれば良いのか分からないのだ。そもそも、双子はどちらも魔法の発生条件を知らない。だからこそセルシルに攻撃を仕掛けられいし仕掛けようともしない。
「でりゃああっ!」
「ぐおっ!?」
アイルの声と共にガイルの横腹に蹴りが決まり苦痛に顔を歪ませる。それでも倒れる事はなく耐え、勢いよく右手に持つ斧を左から真横に振り抜いた。高さ的には丁度アイルの目線に当たる場所。地に着いている左足でタイル式の床を蹴り後退し紙一重に避けた。
斧を振った勢いで風が起こりアイルの髪を靡かせる。しかしガイルは避けられた事に悔しがる素振りは見せずに寧ろ笑って後退したアイルを見据えていた。そんなガイルにアイルは不審に思いつつも斧を避けるとさらに速度を上げてガイルへと接近しようとする。
刹那、周辺の温度が上昇した事に気付く。それでもアイルは気にとめずにガイルへと剣を振り上げる。
「余所見をしていると痛い目に遭うということを思い知ると良い少年」
「さ、させません!」
容赦なくガイルを斬り裂こうとしているアイルに対し握り拳二つ分の火炎弾を数発放つセルシル。
しかし、数発の矢が目にも止まらぬ速度でセルシルとアイルの間を翔け抜ける。完璧に数発の火炎弾を貫くとリングと観客席を隔てる高い壁に激突し爆発を起こす。それだけでなくその威力は火炎弾を消すのみならず壁を破壊し瓦礫が積み上がっていく。
「なっ、なっ……!?」
セルシルの目には何か蒼白い閃光が放たれたとしか映っておらず破壊音を齎した壁へと視線をゆっくりと向けると壁は数回の爆発によって抉られており埃が蔓延している。だが、威力としてはアイラの中ではまだ弱い攻撃分類に入る。
観客席で観戦していた者達もまた言葉を失い一点にアイラへと視線を向けていた。それぞれが驚愕の顔色の中、エレスティスはこれがアイラの特異能力なんだと素直に認めていた。
「嘘だろ……あの女の子がエレスティス様と同じ特異点?!」
「嘘だと思いたいが、あの子は魔法は使っていない……!!」
この世界の魔法は必ず魔法陣が展開されるので魔法陣が出ていない特殊な攻撃は基本的に魔法とされない。
勿論、魔物や人間以外の種族には火を吐く等の種族が存在しているので一概に特異点と決める事は難しいがアイラは姿形ともに人間なので観戦者達はアイラを特異点ではと疑って見ていた。
「え、え、えっ!? ど、どうして私はこんなに見られてるの……?」
アイルを除く全ての者から視線を集めているアイラは戸惑いながら周りをきょろきょろと見回していた。
まるで世紀の大発見でもしたかのように模擬試合など既にどうでも良くなっている雰囲気で、ガイルやセルシルもアイラを黙って見ていた。
「うう~ん? 急に戦いを止めてどうしたのさ」
「皆がアイラの力を見て驚いているんだと思う。今、私もアイラの力を見たけど間違いなく特異点扱いされるもの」
まだまだこれから楽しめると思った矢先に戦闘中断となってしまいアイルは壁の近くに立ち観戦しているエレスティスに理由を訊いていた。
アイラの力に驚いている事とそれによってアイラが特異点として見られている事をアイルに教える。エレスティスの口から出た特異点という単語にアイルは首を捻っていた。
「特異点? なにそれボクは一度も聞いたことがないよ」
一度も聞いたことがないと素直に言うアイル。当然だアイラがこの力を周囲に露見したのはこれで二度目で一度目はまだ世間を知らない同世代の子供達だけだ。
だからこそ特異点という単語を誰も口には出さないし、出してくるはずもない。
特異点について教えてほしいと表情で語るアイルに何とも言えない表情でエレスティスは見つめていた。それはエレスティス自身が特異点という事もあってか、あまり周りからの評価は決して高くないので言い難い様子。
「そうね……簡単に言えば、特異点は遥か昔の時代に栄えていたとされる少数民族が有していた特殊能力を扱える者っていうのが通説ね。この世界で特異点はほんの一握りで誰がどんな能力を有しているか分からないけれども、特異点であれば非常に周りから優遇される事が多いとは思う」
「なるほどー、つまり魔法じゃないアイラの力は特別的なことだから特異点なのかどうか疑われているんだ」
特異点は非常に稀少な存在で能力に差はあれども総じて周りから優遇される対象だとアイルに教えるエレスティス。その説明で理解したアイルは一人で納得して置いてけぼりをくらってオロオロとしているアイラへと視線を向ける。実際にエレスティスも特異能力を有している為に本来受ける事が出来ない王者の儀式を受ける権利を与えられている。
そして、特異点かもしれないアイラを黙って見つめるアイルにエレスティスは少し後悔していた。
(やっぱり教えない方が良かったかも……アイルがアーシアお姉さまや他の兄姉のようにアイラを妬む事はないと思うけど)
他の人間に比べて存在の価値が高い存在だと知れば兄弟姉妹は皆、羨ましがりそれが妬みに変わったりしてしまう事は決して無い話ではない。そして、エレスティスもまたその境遇の一人である。
「と、特異点……わわ、私みたいなのが……?」
話題の中心人物のアイラは他の人物よりも秀でた存在という事に対し逆に萎縮していた。
アイラの性格上、謙遜は当たり前すぎてアイラ自身が納得していない。そんなアイラを見てアイルは目を輝かせていた。
「じゃあ、アイラって勇者みたいなものじゃん!!」
「ゆ、勇者!? そ、そうかなぁ? 私なんかよりもずっと……アイルの方が勇者らしいと思うけど」
特別な能力を持っている=特別な存在=勇者という短絡的思考のアイルは寧ろ喜んでいるようにも見えた。
しかし、当のアイラはやはり謙遜してアイルの方がともごもごと言うがアイルには全く聞こえていない。それでも自分の事のように嬉しそうにしているアイルの姿を見てエレスティスはほっとしていた。
(良かった……あんまり気にした様子じゃなくて)
心の中でそう思いながらコルネット国王へと向ける。
やはり他の観客達と同じように驚きは隠しきれずに立ち上がっていた。そもそも一握り程度の存在が今まさに発覚したのは相当レアな場面である。
「そんな事はどうでも良いけど戦いはどうなるのさ? 流石にこのまま攻撃するのは卑怯だと思うしボクとしては不完全燃焼なんだよ」
「そ、そうですよ! 私とアイルはエレスさんの王者の儀式に同行する為にし、試合をしてるのですから」
話が逸れていたがアイルは戦いの事を覚えていたのでどうするのかガイルとセルシルに確かめていた。さらに戦い初めたばかりという事もありまだ続けたいという意思を見せていた。
アイラもまたエレスティスとの約束を守る為にも試合の続行を求めた。もっとも早めにアイラは終わらせたい気持ちで一杯だが。
「あの女の子が特異点と分かった以上、半端な戦いは出来ねえなセルシル!」
「全くですね。それにあの少年の方も速度は間違いなく私達よりも高いですから気を付けてくださいよ」
正当な評価をするのならば既に双子の能力は子供を基準にするのならば合格点を超えている。しかし、戦闘技術はいまだに不明なので戦闘は続行のまま。
だが周囲のアイルとアイラを見ていた評価は正反対だった。いや、それは当たり前だ。
誰がどう見ても神童とも呼べる子供が眼前に立つのだから。特にアイルは速度が先ず誰よりも秀でている事もあって一度でも気を抜きアイルから視線を外せば見失う事となる。これは戦っている相手にとって面倒な相手である。
その事もあってかガイルはすぐに攻撃を仕掛ける事はなく徐々に詰め寄る。だが、アイルは相手の思惑など関係なしに即座に動く。アイルは真正面ではなくガイルの真横に移動しその勢いを乗せたまま剣を横一閃に振っていた。それを横目でしっかりと見ていたガイルはアイルの身の丈以上はある大きな斧をリングの床に勢いよく突き刺しアイルの一撃を防ぐ。斧を突き刺した衝撃で床が砕かれアイルに向かって砕けた破片が飛び散り膝や体に数回程当たっていた。
痛いとまでは思わないがつい怯んでしまったアイル。それは隙でしかなくガイルから強烈な回し蹴りを腹部に受けアイルはリングの上を勢いよく転がっていく。アイルとガイルでは筋肉の量が違いアイルの腕が三本あってもガイルの腕や脚の太さには及ばない。そんなものを子供が受けた事に観客席は口を塞ぐが、アイルは何事もなかったかのように起き上がる。
「ぺっ、ぺっ! 今のはちょっと痛かったよ」
少し砂が口の中に入ったのか唾を吐いて口の中の違和感を取り除きながら少々痛かったと口にする。
「今のは目で追えるのならまだボクは速くなっても大丈夫だよね。これからどんどん上げていくからきっちり追いついてきてよ?」
「おいおい、まだ速力が上がるっていうのかお前は? 冗談は口だけにっ!?」
「あ、避けられた」
まだスピード上げると宣言するアイルに表情を顰めるガイルだが筋肉質な体の割に結構柔らかく上半身を後ろに曲げアイルの回し蹴りを紙一重に避ける。空振りに終わった事に若干、呆気ない感じがするが着地した瞬間に再び飛び掛かる
だが、アイルが飛び掛かった時にガイルはアイルに背を向けたまま左側へと横跳びしておりガイルが立っていた方向から短剣の形を模した炎が五発アイルへと向かい速度は非常に早くアイルの上腕部や脛辺りを裂いた。
「うっ!? い、今のも魔法なの?!」
「そ、そうみたい……あの人は炎系の魔法が得意なのかな? アイルは大丈夫なの?」
袖が切れた箇所からは赤い血が滲み染みついていき、今のも魔法なのかとセルシルを瞳に映す。
まだセルシルの眼前に展開されている半径四十㎝の赤い魔法陣を見てアイラは予想だが魔法の一種だと言う。それでもアイラはアイルの心配ばかりで滲み出ている血に視線を向ける。
「これくらいは別に問題ないさ。それよりも結構なスピードだったから今のにも気を付けないと避けれないね」
「また魔法? いまいち魔法の事がよく分からない」
再びアイルとアイラに向けて放たれた短剣を模した炎の攻撃。セルシルと双子の距離を瞬く間に埋めるように疾走するがアイラも蒼白い矢を同じ数だけ放ち相殺する。
アイルはガイルの立つ場所を横目で確認する。先ずは魔法を放てるセルシルから倒す事を一番に考える。
ガイルの実力はある程度は見て勝てるという自信がアイルにはありアイルの戦闘方法上、中距離や遠距離タイプの相手が苦手で先に倒そうと企んでいる。
アイラはアイラで魔法の特性が分からずに相殺という形でセルシルの魔法を無効化している。
(なんという事だ。私が魔法を放つのに約十秒の溜めが必要にも関わらず、あの子は同じ威力同じ数の矢を瞬く間に放ってくる……。もっともあの子の性格から私が攻撃をしない限りは攻撃には入らないのだろうが)
焦りや驚きを表情には出さないがセルシルはアイラの攻撃に脅威を覚えていた。
アイラの攻撃はセルシルの攻撃よりも先に攻撃も出来、それ以上の威力や速度を併せ持つ。それだけでセルシルはアイラよりも劣っている事を認めるしかなかった。だが、アイラの性格上自分から攻撃する事はなくあくまでも迎撃という形をとっているので決定打にはなり得ない。
(だが……あの少年は違う。あれは戦いを楽しんでいる目だ、幼い身でありながらあの身体的能力は……)
アイラは放っておいても大丈夫だと思いつつ、アイルを危険な存在だと判断していた。
アイルには普通の人間が持ち合わせる感性が欠けている。例えば試合と言えども流血など当たり前のこの戦いにも緊張は見られず恐怖心も感じられない。そんな子供は極めて劣悪な環境下の中で過ごさなければ、精神面に欠陥など持たない。さらにこの場を楽しんでいるという表情は冷静沈着で顔色が普段変化しない相手よりも些か戦い辛い。
感情を失くした存在などこの世界には居ない。感情が無い存在はそれこそただのマリオネット、人形だけだ。だからこそ、アイルはある意味戦い難い相手でもある。
「なによあの子、剣を鞘に戻して諦めたのかしら」
「それは分からないけど何か意図があるんじゃないのか?」
観客席にはエレスティスの兄姉も観戦しに来ていた。それぞれ執事やメイドを付き添わせているが、アイルが剣を鞘に戻した事を不審に感じていた。
諦めたと決めつけるには早すぎる。そもそも、現状ではアイルが精神的にも他の者よりもやや優位に立っている状況下の中で諦める事はないだろうと少しぽっちゃりとした体型のコルネット王国第二王子が首を捻ってアイルを観察していた。
リングの上では剣を鞘に戻して屈伸運動を行っているアイルが居り、周りの観客席はどよめきに包まれる。
そして、コルネット国王もまた皇帝席に座ったまま静かにアイルの事を見ていた。
ガイルとセルシルとの距離はせいぜい五m程で対してアイルとセルシルとの距離は三十m近くある。
だが、ガイルは風を感じた。いや、闘技場内にも外からの風は吹いているが今、髪を靡かせたのは別の風である。
「がはあっ!?」
唐突にセルシルが展開していた魔法陣が幻影のように乱れかき消えた。だが、その前に聞こえたのはセルシルの苦痛の声。
蹴り飛ばされた姿だけをガイルは視界に映し、口を開けたまま、さらに二撃目をセルシルが受けた事を漸く見る事が出来た。いや、既に無数の打撃をセルシルの体に与えていたかのようにも見えた。
「だりゃああああっ!!」
アイルが剣を鞘に戻したのは疾風の如き速度でセルシルに数多の乱撃を与える為だった。
最後に決めた渾身の拳はセルシルの腹部に決まりセルシルは苦渋の表情で蹲る。力強い咆哮が虚空に消えるとアイルは攻撃の手を止めた。
「どうだ、追い付けなきゃボクに魔法を放てないだろ!」
得意気な表情でアイルは右手でVサインを作りセルシルに見せつける。
そんなアイルを見てセルシルは無数の打撃を与えられた箇所から感じる痛みに表情を顰めながら苦しそうに問いかける。
「き、君は……剣士じゃ……?」
「え、全然違うけど? 確かに剣は使うけど剣だけってわけがボクの戦いじゃないもん」
今の今まで剣を主体に戦っていた少年が突然、武術まで使っている事に信じられないと言いたげな表情で。さらに剣術以外は教わったものではなくアイルが自ら組み上げたもの。その為、どんな攻撃をするのかセルシルには不明で意外性は大いにあっただろう。
セルシルの問いかけを聞いて呆気らかんに答えるアイル。剣士である事を完全に否定した瞬間だ。
「けど見た目以上に君ってタフだね。手刀や掌底とか合わせて七発攻撃を与えたのに倒れないなんて」
「な、七回? アイルは今の七回も攻撃したの? 私には二発しか攻撃してないように見えたよ?」
剣士ではないとアイルは否定をするとセルシルが倒れない事に驚いていた。そして、アイルは七回攻撃をしたと言いアイラは耳を疑っていた。少し離れた場所に居るので聞き間違いだと自分に言い聞かせながらアイラは二回しか攻撃を見てないと言う。
「少し頑張ったもんねー! でも、中々連続で攻撃をするのは難しいね。ホントは剣術もこの中で組み込むつもりだけど剣を持ったままじゃないとちょっと無理だったよ」
相変わらず面白いのか笑いながら本音を語るアイルにアイラは「そうなんだー」と呆然とするしかなかった。
リングの外でアイルとアイラの戦いをを黙って見守っていたエレスティスは少しだけ胸にチクリと痛みを感じて右手で押さえていた。
(アイルはあんなにも本当は強いんだ……。アイラだって性格から消極的だけど魔法相手に優位に立てるのに。私の方が二人の足手まといになるんじゃないの……?)
恐らく観客席に腰かけている者は双子の実力を認めているとエレスティスは予想出来た。それはとても嬉しいものだが、同時に王者の儀式に挑む時に双子の足手まといになるのではないかと不安もまた確かに募っていた。
※
「ふむ、潮時だな。アイルとアイラの実力や能力は垣間見れた、これ以上無理に戦う事もなかろう」
あくまでも双子の実力を計るための試合で、これ以上の戦闘は大怪我に繋がると判断したコルネット国王はスッと皇帝席から立ち上がる。
皇帝席は回りの観客席に比べ豪華絢爛で高い位置にあり、双子の元へ行くのには少々遠回りしなければならないが国王は凛とした声で試合を止めた。
「アイルとアイラそしてガイルにセルシルの四名は武器を収めるのだ」
国王の声を耳にすると双子とガイルそしてセルシルは一斉にコルネット国王へと視線を向けた。
「アイルとアイラの実力は十分に見る事が出来た。これをもって試合は終了とする!!」
国王の言葉によって試合は終わりを告げた。蹲っていたセルシルにアイルは右手を差し伸ばす。
「すまない。私としたことが完璧にやられたよ、あれ程の速度を出せる者が居るとは思いもしなかった」
「魔法とか使えないボクの取り柄の一つだよ」
セルシルからスピードを褒められたアイルはにこにことした表情で自分の取り柄の一つだと言う。
同時にアイラやセレスティスのように特異点ではない上に魔法も使えない事はアイルにとってはある意味の欠点である。アイルの実力に魔法や特異能力があれば鬼に金棒といったところ。
「あのスピードは大の大人でもそうそう出せるようなものじゃないぞ。相当鍛えているんだなアイル」
「えっと、旅をして魔物と戦ってるぐらいでずっと修行ってのはやってないよ全然。なんていうのかな勝手に体の内から力が湧き出ているような感じなのかな」
「そんな事が……いや、まあ良いか」
ガイルからもまた褒められ鍛えているのではと言われるが実戦以外にアイルは特に修行を課しているわけではない。寧ろ旅をしているので道を進むぐらいだろう。
だが、アイルは勝手に力が溢れていると表現した。それを聞いて怪訝そうな表情をするガイルだが深くは追求しなかった。と言うよりも子供の言葉なのだから、力が湧き出るなんて事は信じていなかった。
双子がガイルとセルシルと話をしている間にコルネット国王が二名の兵士を連れてリングへと歩み寄ってきていた。
「素晴らしい実力だったぞ二人とも。エレスティスの王者の儀式に同行したいといっていたが実力も充分。エレスティスと共に受けるのも一興だろう」
「って事は!!」
コルネット国王が歩いている姿を見ると双子はリングから降りて、国王の元へと駆け寄る。エレスティスも双子の元へと駆け寄って国王の言葉を待つ。
しっかりと戦いを目に焼き付けた国王はエレスティスが受ける王者の儀式に同行するのは面白いかもしれないと判断しておりその趣旨を言葉にするとアイルは見る見るうちに笑顔になっていく。
「うむ、王者の儀式に同行することを認める」
「やったああああ!!」
「やったね、アイル!」
実力を認められた双子はお互いに手を取り合ってぴょんぴょんと跳ねていた。やはり誰かに認められるというのは嬉しい物で双子は満面の笑みを見せていた。
「アイル君がもっと大人であれば私の側近にしたいぐらいだ」
そうポツリと呟くコルネット国王だが感極まっているアイルには聞こえない。
それでもはしゃいでいる双子を優しい顔色でコルネット国王は見守っていた。まるでそれは幼い子供を持つ父のようなそれである。
普段、中々見せない国王の隣に立つエレスティスは何か決心をしたかのような顔つきで父でもあるコルネット国王に声を掛けた。
「父上、少し宜しいでしょうか?」
「エレスティスも双子であれば不満はなかろうに、何かあるのか?」
「いえ、確かに私としても嬉しい限りですが――一週間だけ私に時間をください」
「なに――?」
エレスティスもまた双子が認められた事は嬉しいものだったが心の底から何故か喜べなかった。
それはエレスティス自身が理解している心だからこそ、エレスティスはコルネット国王に一週間の猶予を望んだ。その意図が分からないコルネット国王は怪訝そうな表情で覚悟を決めたような表情のエレスティスを見る。
王者の儀式に同行する事が認められると観客席に座っていたものの半数以上の者が双子に拍手を送っていた。そして、エレスティスを妬んでいた王子や王女達は何も言わずに観客席からさっさと去っていた。
拍手を送られている事に気付くとアイルは大きく手を振り、アイラは急に恥ずかしくなったのかアイルの背に隠れる。無論、双子と戦ったガイルとセルシルも双子に盛大な拍手を惜しみなく送っている。
「詳しい話は私の書斎でしよう。それで良いなエレスティスよ」
「はい、その時はアイルとアイラも一緒で宜しいでしょうか?」
拍手喝采を浴びている双子に聞こえない程度でコルネット国王とエレスティスは話を進めていた。
その後、コルネット国王の言葉により解散となり観客席に座っていた臣下や兵士達は席を外して円形闘技場を出て行った。




