第25話
今回は長くなりましたが纏めるのが下手だと改めて実感しました。
これからはもう少し綺麗に纏めれるように努力していかなければなりませんね。それにしてもコメディやシリアスを描くのは大変ですね。小説家や漫画家は良くもまあ、こんなに引きだしがあるものだ。
自分もそれだけの引き出しが欲しい物である。
それでは進展しているのか微妙な25話もどうぞよろしくお願いします!
王者の儀式に参加する決意をすると今すぐ国王にそれを表明しに城に戻ろうと平原を歩いている狼に似た魔物四体と遭遇した。
魔物と肉食動物類の獣の線引きは難しく人によって混同している者もいる。特にグリズリーや獅子のような凶暴な獣の場合は弱小の魔物を逆に自らの餌とし殺しては食べるぐらいだ。
四体の狼の大きさは獅子と同じ程度で商人や旅人の腕を食い千切る前例もある。それを兵士達の話からこっそり聞いた事があるエレスティスは強張った表情で身構えていた。今まで他国に出掛ける際も兵士達に守られてきたので今回が初の戦闘になる。
「あ、こいつら結構素早いんだよね! ボクには関係がないけど」
コルネット王国近辺に来てからは遭遇する率が高く双子は既に交戦もしている。特徴すべきは素早さにあるがアイルはそれを超えた瞬発力、速力、持続力を持つので剣を抜くと瞬く間に狼の頭蓋を貫き乱雑に抜くと、さらに加速してアイルは連続で別の狼の地点まで移動し魔物の体を左足で蹴り飛ばしていた。
あまりにもアッサリと行動に移すアイルにエレスティスは信じられないといった表情で見ていた。殆ど一瞬の出来事で既に二体を戦闘不能にまで追い詰め、アイラもまた蒼白く透明な矢を素早く撃ち、にじり寄る狼の図体を射抜いていた。
「はやっ!? もしかして二人とも戦い……慣れてる?」
「他の同年代と比べれば、多少ぐらいですけど」
既に三体を退治している双子に話しかけるとアイラは多少と恥ずかしそうにしながら返した。流石に一ヶ月という月日もあればアイラのように戦闘に消極的な人物でも人並みに戦えるようになる。単純にアイラがアイルと同じように戦いに関する才能がある事も大いに関係してくるのだが、アイラは肯定しようとはしないだろ。
「エレス、後ろだよっ!!」
「えっ……?」
戦闘だという事を忘れて喋っていたエレスティスを見て珍しく声を荒げるアイル。いまだ戦闘不能となっていない蹴り飛ばした狼に飛びつかれてそれを剣で薙ぎ払おうとした瞬間、エレスティスの背後に回り込んで飛び掛かっていた魔物を視界に映していた。
アイルの声に反応して振り向いたが戦闘経験のないエレスティスが対処出来るはずもなく悲鳴を上げてしまう。するとアイラは全身を使ってエレスティスを真横に押し倒した。すると、狼の体が突然にズタズタに裂かれていき獣特有の唸り声をあげて平原の地に落ちて緑の叢を赤く染めていった。
「今のって魔法!?」
三体目の狼を斬り倒したアイルは今の出来事に目を見開いていた。エレスティスでもアイラの攻撃でもない第三者の攻撃で魔法なのかと若干興奮もしている。
「だ、大丈夫ですかエレスさん?」
「っん……助けてくれてありがとう。そ、それよりも胸を揉むのはちょっと」
「ふえっ!? ち、違いますよ! たまたまです」
魔法が放たれた瞬間を垣間見たのでアイラは咄嗟の判断で飛びついて横に押し倒す事で魔法を受けずに済んだ。
しかし、アイラとエレスティスの身長には二十㎝弱の差があり丁度アイラの顔はエレスティスの胸に埋まっていたが、別にアイラに同性愛の癖はないので顔を上げてエレスティスに安否を確認する。馬乗りになっている状態でアイラの両手はエレスティスの胸の上に置かれており、つい無意識に揉んでいた。
「今の魔法は誰だったんだろ? 魔法を使った人が近くに居ないんだけど」
「う、うん……だけど今の……」
「なにか気になる事でもあったの? 何も言わずに居なくなるなんて恥ずかしがり屋なのかな」
「ち、違うと思うけど」
剣を鞘に収めるとアイラとエレスティスの方へと駆け寄って誰の魔法だったのか気にしていた。魔法を放つにしても狼を視界に映しておかなければ先程のように的確な攻撃にはなりえないからだ。
しかし、アイラは別の意味で気にしていた。助けてくれた事には感謝したいが素直に感謝できずに真面目に考えていた。それがアイルには分からず的外れな事を言うのでやんわりと否定した。
(今が飛びつかなかったらエレスさんも魔法の餌食に……気のせいだよね?)
狼が勢いよくエレスティスに飛びつこうとした高さはエレスティスの首筋を狙っており、アイラが横にに押し倒していなければエレスティスの首は魔法によって発生した見えない刃によって切り刻まれていた。
たまたま、本当に偶然なのか……それとも狙っていたのかアイラには見当つかなかったが、不安を煽られ嫌でも懸念してしまう。ただただ、アイラは自分の勝手な思い過ごしだと思い込もうとしていた。
「さっきの本当に誰なのか不思議ね。けど、油断しすぎたみたい」
「それは私もです……。もう少し緊張感を持つべきでした」
魔物をアイルが倒したと気を抜いて危険な目に遭い反省しているエレスティスとアイラ。特にアイラはまだまだ旅の初心者とは言え一ヶ月は旅を続けているので、エレスティス以上に自分の油断に反省をしていた。
(アイラ、大分変わったな~。昔は泣き虫だったけど今は魔物と普通に戦えるようになってるしお爺ちゃんが知ったら驚くだろうなぁ)
山奥の村で暮らしていた時は面白い位にアイルは泣く事が多いかったと思い返しつつ、今のアイラを見たらグランが吃驚するのではとアイルはそう思いながらエレスティスと一緒に立ち上がっているアイラを見ていた。
「どうしたのアイル? な、なにか変な事した?」
「ううん、昔はアイラって泣き虫だったよねって思ってただけだよ」
「な、泣き虫……確かにそうだけど、ストレートに言うものじゃないよ……」
包み隠すことなくストレートに発言するアイルにちょっぴり涙目になったアイラ。
しかし、その過去は事実なのでアイラは言い返す事はなできずに頬を小さく膨らませて機嫌が悪くなっていた。誰だってストレートに言われれば不機嫌にもなるだろう。
「うん? どうしたのアイラ?」
「別になんでもないもん……」
思いやりという名のフィルターを通さないアイルの言葉にむくているアイラの気持ちを感じ取れず首を傾げるアイル。
そんな微妙なすれ違いがあるアイルとアイラを見てエレスティスは隣で苦笑いを浮かべて見守っていた。
(ホントに仲良いんだ。アイラは怒っているようには全く見えないし、私もこんな弟や妹が欲しかったな。あ、そういえばアイルとアイラぐらいのときに何かを願ってたけどなんの願い事だったけ)
喧嘩していても本当に喧嘩しているわけではない、そんな双子を見てエレスティスは弟や妹が欲しいと願ってしまう。
腹違いの兄と姉はいても双子のように仲は良くない。それどころか王族という立場からふんぞり返っている者やエレスティスの出生から蔑んでいる者も少なくはない。そういう兄と姉しか知らぬエレスティスからすれば双子の関係は羨ましいものだった。
そして、双子と同じ年齢の時に既に周りから疎まれたり妬まれたりと様々な視線で見られるようになった頃――エレスティスは小さく儚い願いを望んだ記憶を思い出していた。だが、その願いの内容をエレスティスは思い出せないで考え込んでいた。
「ねえねえ、早くお城に戻らない? また魔物に襲われちゃうよ?」
「なんだったかな~。大切だったようなそうでなかったような……」
既に些細な口喧嘩は終わっていたアイルとアイラは考え中のエレスティスにお城に戻ろうと促すが届いていない。
「ねえってば!」
「えっ!? あっ、ごめん。考え事をしてたみたい」
「早くお城に戻ろうよ。ずっとここに立ち止まってたらまた魔物に遭遇しちゃうよ」
「そうね、それは確かに大変だから急ぎましょ」
エレスティスに反応をしてもらう為に大きな声で呼び掛けるアイルにの声で我に返ったエレスティスは慌てて謝る。するとアイルは要件だけを言う。
同じ場所に常に居続けるのは魔物に狙われやすく、時間の無駄や体力的問題――特にエレスティスの体力が。そういった面からエレスティスは納得すると双子と共にコルネット城へと戻る為に歩き始めた。
※
お城に戻ったエレスティス達はコルネット国王の書斎を訪れていた。執務に取りかかっている国王の机には膨大な書類の山が詰まれ様々な書が棚に並べられいる。
数名の大臣もまた忙しく動いており、あまり話しかけれる空気ではなかった。さらに国王の書斎に一般人や旅人が入れる事など稀有で、国王の仕事の忙しさを双子は垣間見ていた。
「うへえ~、王様大変そう」
「凄い量の書類だよね……」
書類の山に囲まれ到底理解出来ない内容の書籍の数々と高難度の試験を通り王に選ばれた高官達。アイルは頭が痛くなり書斎を出て行きたかった。
本好きのアイラとしては棚に並べられている本を読んでみたいと思いつつも書類の量に目を奪われていた。やはり一国を束ねる者の仕事の量は計り知れないのだとアイラは実感した。
「おお、エレスティスか。一体どうしたというのだアイル君とアイラちゃんを連れて」
「父上、あの時の言葉を取り消します。私はこの二人と共に王者の儀式に参加したいのです」
「……それは本当なのかエレスティスよ? 急に一体、頭でも打ってしまったのか!?」
「どうしてそうなるのですか? 確かに心変わりではありますけど、参加するのは今の私を変える為です」
忙しそうにしていてもコルネット国王はそのようには見えず、書類に目を通しながら羽根ペンを動かしていた。しかし、エレスティス達が入室している事には気づいており羽根ペンをペン立てに置くとエレスティス達に要件を訊ねる。
今回の話の中心人物はエレスティスなので双子は無理に口を出さずにエレスティスに任せていた。双子の前では恐らく素の状態で話していたのだろう。しかし、公の場ではエレスティスも敬語になって話していた。
玉座の広間では王者の儀式には参加したくないと宣言したが今度は参加したいと言ってきた。国王としては嬉しい事だがつい、変に物事を考えてしまい頭でも打ったのかと割と真面目に問いかけた。冗談かと思いたかったが国王の反応からそれはないかと感じて心中では苦笑いを浮かべつつも参加する理由を伝えた。
国王は参加したいというエレスティスの気持ちを汲みとり許諾しようと口を開こうとすると、頭髪が少し寂しくなりつつある太めの大臣が先に口を開き意見を述べ始めた。
「国王様、私のような者が口出しするのは失礼かと思いますが一つ言わせてください。私もエレスティス様の意欲に頷きたいのです。しかし、あのような身上が分からぬ、さらに子供に同行させても宜しいのでしょうか? みすみす自殺させに行かせるようなものではないのでしょうか」
「確かに私もそう思います国王様。いくらエレスティス様から気に入られたからと言ってもこの子達はまだ子供、同行させる事は反対です」
大臣の言い分は尤もで他の大臣達もまた反対していた。
「そんな事ないです。双子の見た目は確かに子供ですが普通の兵士よりも実力と才能はありますし、アイルに至っては恐らく王宮騎士団の中でも上位に組み込めると私は思います」
それこそがエレスティスが双子を選んだ理由でもある。
双子の実力は間違いなく大人顔負けでアイルに至っては王宮騎士団に入れるほどだとエレスティスが認めるほど。なのだが、エレスティスは戦闘の素人なので絶対的に信用出来る目利きの持ち主ではない。
「えへへ、そんな風に言われると照れちゃうな」
「わ、私はそんな褒められる程じゃないですよ? アイルは凄く強いですけど!」
エレスティスに実力を認められている事にアイルは素直に照れて、アイラは慌てて謙遜していたがまるで自分の事のようにアイルの実力だけは認めていた。
「ほう――エレスティスの言葉が事実か不実かはその子達の実力を確かめれば良い。アイル君とアイラちゃんはそれで良いかな? 私は二人の同行には賛成だが反対派もいるのが現実だ。それならば自分の実力を認めれば良いこと」
「ボクは構わないよ。それに対人戦は凄く久しぶりだからワクワクするよ!!」
コルネット国王はエレスティスだけの意見を聞き入れる事はせず、臣下の言葉にも耳を貸す。
確かにコルネット国王は双子が只者ではないと睨み、エレスティスと仲良くしてほしいと頼むほどに期待を抱いている。しかし、王者の儀式となると別の話であった。
コルネット王国の次期国王を決定する儀なだけあって相応の高い実力を求められる。エレスティス一人が肩入れをしても周囲はそれを「はい、そうですか」と言って賛同する筈もない。それは最初から双子も想定内なので驚きはしない。
アイルに至っては久しい対人戦――グランの修行を除けば実質初の対人戦となるので非常に胸を躍らせている。
(わ、私大丈夫なのかな? アイルの足を引っ張らない……?)
アイラは王者の儀式に共に参加したい気持ちがあるので何も言わなかったのだが、内心は非常に強い不安感を抱いていた。
「あ、気になる事があるんだけど今回の戦いってタッグ戦なの? それとも二対一? ボクとしてはタッグ戦が良いなぁ、二対一なんてなんだか卑怯みたいで嬉しくないもん」
「戦うからには正々堂々と戦いたいというのだな。よい心掛けだが負ければエレスティスに同行する事が出来ないがそれで良いのか?」
「それは困ったなー! アイラはタッグ戦で大丈夫?」
戦うからには正々堂々と戦いたいと願うアイルに心掛けは認めつつも負けた時はどうするのかと問われ、アイルは困った顔になってアイラに答えを求めた。
もっともアイルの答えは既に出ているので単にアイラの気持ちを確かめる為である。旅はアイル一人でしているわけではないのだが、あまりアイラが意見を言わないのでアイルがほいほいと決めてしまう事が多々ある。のだが、稀にアイルから意見を求める時がある、本当に極稀だが。
「だ、大丈夫! アイルの足を引っ張らないように頑張るから!」
アイルから意見を聞かれるとちょっと表情が引き攣っているものの笑顔を作り賛同した。
「それじゃ、タッグ戦で良いよ。きっとボク達が勝つからさ!」
アイラの了承を得た事なので国王にタッグ戦を求めた。アイル本人は既に勝つ前提で話しているので周りの大臣からは白い目で見られているが、本人は至って真面目なので全く気にしていない。
「おいおい……本当に大丈夫なのか?」
「無知ほど恐ろしいものはないと言うからな」
国王がどのような相手を選ぶのかは臣下にも謎だが、子供相手に負ける程弱い人物を選ぶとは臣下には考えられなかった。
子供特有の無知、怖いもの知らずとしか認識していない。
「ならば決定だ、明日の明朝に闘技場で戦ってもらう。今日はセレスティスと共にこの城で一日を過ごすと良い」
「わかった!」
模擬戦闘が決定し今日はコルネット城で過ごす許可を貰った。
すると大きな腹の虫が国王の書斎で鳴り、アイルが照れながら右手でお腹を擦っていた。
「あははっ、朝から何も食べてないからお腹減っちゃった」
早朝にコルネット城下町に到着した双子は結局、朝ご飯を市場で買う事もなく夕刻の時間まで飲み食いせずに過ごし今に至る。
「ふむ、後三時間もすれば夕食の時間だ。その時に一緒にアイル君とアイラちゃんも会食すれば良いな」
「え、えええっ!? 私達みたいな一般人が王族と食事をなされても宜しいですか!?」
「構わんだろう。エレスティスもきっとそれを望んでいるだろうしな」
お城に宿泊させてくれるだけでなく王族と食事もとれるという展開にアイラは驚嘆とした。
しがない旅人だと今の今まで、そう思っていたアイラはエレスティスの方へと黙って視線を向けた。
「うん、私も賛成! 二人とご飯を食べれるのは私も嬉しいもの」
「エレスさんがそう仰るのなら……私も嬉しいですし」
(なに、この子。すごく可愛いんだけど?)
そこには嬉しそうに微笑んでいるエレスティスがアイラを見て、一緒に食べれる事を楽しみにしていた。
そんなエレスティスを見てアイラも本音は嬉しいので頬を少しばかり紅潮させて小さな声で嬉しいと呟く。それがまるで小動物のようにも見えてエレスティスは父や臣下のいる書斎でアイラを抱きしめたい衝動に駆り立てられていた。
※
夕飯を一緒に食べるという事で双子はエレスティスと一緒にダイニングルームを訪れていた。
大人数で食べるのだろうかお洒落なダークブラウンのダイニングテーブルには白いテーブルクロスが敷かれ、その上に様々な料理を幾人もの王宮料理人に運び置いていた。今まで食べた事がないような料理も多々並べられており、アイルは既に涎を口から垂らしていた。
しかし、アイルとは逆にアイラは知らない者特に王族というこの世界において一番偉い位に当たる者たちが既に鎮座している事に緊張しまくりであった。
(ひ、ひぃ……偉い人がたくさん……! あ、アイルはもっと緊張しようよー!!)
王族。それは庶民が望んで容易く近づける存在ではない。
しかし、ダイニングルームで椅子に座り鎮座しているのは正真正銘のコルネット王国の王族達である。全員が参加しているわけではないがアイラにとっては相当な目上の存在。隣に立つアイルを見れば涎を垂らして今にも食事に飛び掛かろうな雰囲気でアイラはつい心の中でツッコミをいれてしまう。
「ああっ、君ってボク達に王様の場所まで教えてくれた人じゃん!」
テーブルの上に置かれている豪華な食事を眺めているとアイルは燕尾服を着こなしている青年を視界に映した。
双子がコルネット城に初めて訪れ迷っている時、親切に道を教えた執事が立っておりアイルは大きめの声を出した。
「ああ、君達はあの時の。国王様がご客人が来ると言っていたのは君達の事なのか。だが、君達は一体何者なんだい?」
若く爽やかなイメージのある執事も双子の事を覚えていたらしく、驚きと笑顔を一緒に見せた。そして、国王から一応、話を聞いていたらしいが国王の客人として迎えられている双子に疑問を抱いていた。
名前を国王から聞いたものの有名な人物ではない。見た目はこれ以上にないほど平凡な少年少女。
「どうだいアイル君。普段は食べる事が出来ない料理ばかりだろ?」
「すっごいよ!! こんな豪華な料理は生まれて初めて見る!!」
「うんうん、子供はやはり素直が一番だな」
絶賛、興奮中のアイルに国王は笑いながら近寄る。
本当に素直に自分の思っている事を口に出すのが懐かしいのか国王は満足そうに頷いていた。
だが、一番は国王がアイルを気に入っている事に周りの臣下らは驚いていた。
「あの子供は国王に一体何をしたというのだ? あの子をとても気に入っているようにも見えるぞ」
「俺もだ。どこをどう見ても普通の子供だよ、なぁ?」
誰がどう見ても不自然極まりない光景。
王国騎士団に所属する者達でも国王相手に丁寧語は当然だが、眼前の子供アイルは友達口調で気兼ねなく国王と談笑している。誰がどう見ても不自然。それは国王の息子や娘達も含まれ、寧ろ自分達よりも国王に近付いている事に若干の妬みが含まれる。
「早く食べよう! お腹が減って倒れちゃうよ」
「もうっ、私達はお客さんなんだよ? もうちょっと控えめに行動しないと」
「そうなの? でも、もうぺこぺこで力が入らないよ~」
「ち、力って別にご飯を食べてお風呂に入って寝るだけだよ?」
既にアイルの空腹は限界まで達しており国王に早く食べるよう促す。それを横で聞いたアイラは年上のお姉さんっぽくアイルに注意する。
それでもアイルは限界だとお腹を擦りながら力が出ないと言うのでアイラは小さな溜め息を一つ漏らし、後は入浴し就寝するだけだと説明する。そんな双子のやり取りが可笑しいのかエレスティスは小さく笑っている。
「ふふっ、こういう時はやっぱりアイラの方がしっかりしててお姉ちゃんなのね」
普段はアイルに振り回される立ち位置のアイラだが日常作法的な事となるとアイラの方が常識人だと改めてエレスティスは実感していた。
「えへへっ……褒められるとやっぱり嬉しいな」
やはり子供なだけあって褒められると素直に嬉しいもの。アイラはちょっぴり照れていた。
それぞれが席に座る事で夕食を食べ始めた。
空腹の限界に達していたアイルは口の中にお肉を頬張っていた。アイルの隣の席でフォークとナイフを使用して上品に食べていたアイラが苦笑いを浮かべて落ち着かせようとしていた。
「あ、アイル……落ち着いて食べないと」
「ほうだへど、へちゃくちゃぼいしい!」
「うん、何を言ってるか分からないよアイル。ちゃんと呑みこんで喋らないと汚い……」
口一杯に頬張ったまま喋るので何を言っているのかアイラには伝わらず、喋るたびに口の中のご飯粒が飛び散ってはアイラの顔に付着する。
「そんなに急がなくても食べる分は沢山あるから、ゆっくり食べなさいよアイル。アイラの顔にご飯粒が飛び散ってるよ」
「ほうだへど……ぶえっくちっ!」
流石にアイラが可哀想に思えてきたエレスティスは他にも料理は揃っていると説明する。
アイルとしては非常に美味しい料理を食べる事が精一杯のようだが、大きなくしゃみを一つ飛ばした。そのくちゃみを見ていた兵士や国王、その他大勢の者たちは呆気な言葉を漏らしてエレスティスへと視線を注いでいた。
くしゃみをしたアイルも流石に顔を青褪めて恐る恐るエレスティスの様子を見る。わなわなと震えているセレスティスにアイルは乾いた笑みを出しながら声を掛ける。
「あ、あははははっ……エレスごめん、ワザとじゃないんだよ」
「ふっ……ふふっ……」
「あ、あれ?」
謝るアイルだが不気味にエレスティスは笑っているだけ。
「燃やすっ!! もっと上品に食べなさいよアイル!!」
「いいいっ!? ちょっ、エレス落ち着いてー!」
「アイルにだけは言われたくない!!」
仮にも王族のエレスティスは食事のマナーにも気を付けている。アイラもアイルと同じ年齢だがきちんとテーブルマナーを守って食事をしているのだが、ただ一人美味しそうに上品も糞もない食べるアイルにとうとう痺れを切らした。
右手に真紅の炎を発生させて割と真面目に燃やそうとしているが威力自体は調整している筈。そして、国王はそんなアイルとエレスティスのやり取りを笑いながら涼しげに紅茶が注がれているTカップに口を付けていた。
(あのエレスティスがこんな風に自分の気持ちを曝け出すとは。出会って間もないのに本当にアイル君は特に不思議な子供だ)
黙って事の成り行きを見続ける国王。しかし、心中はエレスティスが気持ちを相手に曝け出す事が懐かしいと感じていた。
エレスティスの特異能力が周囲に露見し始めた頃から兄や姉から妬まれながら日々を過ごしていた。露骨に酷い事をされたわけではないが年を重ねる度にその視線の意味が分かり、聞きたくない嫌味も聞こえてくる。それを実感すればするほどにエレスティスは自分の気持ちを閉じ込めて生きてきた。
「わーわーっ、さすがにボクもそれは死んじゃうって!!」
「ふふふっ、悪い子にはお仕置きするのが世の道理よ!?」
「ぎゃーっ!! アイラ、助けてええっ!!」
何時の間にか追いかけっこになっていたアイルとエレスティス。
せめて髪や顔に付着した食べかすを拭いてから追いかければ良いものをエレスティスは椅子から離れてダイニングから出て行ったアイルを全速力で追いかけていった。
「は、はははっ……アイラちゃんも大変だな」
「あ、いえ。その――アイルがお騒がせして申し訳ございません」
ダイニングから去ったアイルとエレスティスを見送ると国王は疲れたような笑みを零して騒がしいアイルのお守で大変だと同情していた。同情されたアイラはそれよりも国王を前に見苦しい姿を見せた事に頭を下げて謝罪をしていた。
「気にしなくても良いさ。確かに騒がしいがこんな弾けた食事の会も本当に久しいからな。それに、あんな風に感情を表に出して見せてくれるのは親としてはとても嬉しいものだ。エレスティスを変えてくれていると私は思う」
「そう……なんですか。でも、アイルは多分何も考えてないと思いますよ?」
「そ、そうなのか」
自分の好きなように後先考えずに行動するのがアイルだからこそ、アイラはエレスティスを変える為に行動をしているわけではないと訂正を加える。
エレスティスを変えてくれる少年というイメージを抱いていた国王はアイラの言葉にやや驚きもあった。アイルからは不思議な魅力を感じて期待が大きいからだ。
「ハアハアッ……アイルってば走るのすばしっこい。それに身体能力も高いから追いつけない……」
アイルと五分程の鬼ごっこを堪能したエレスティスは疲れたのかダイニングに戻ってきていた。走った後に乱れた髪を整えながら追いつく事すら叶わないのでぶつぶつと独り言を呟いていた。
「もう疲れたのエレス? やっぱり年のせいかな体力ないね」
「だああっ、アイルはもう少しフォローという言葉を覚えなさい!! それにアイルに体力がないって言われるの侵害なんだけど!?」
そして疲れているエレスティスの後ろから何事もなかったかのようにひょっこりと現れて骨付き肉を頬張っているアイル。
やはりフォローという言葉がないアイルのストレートな言葉にエレスティスは王女という立場も忘れて素が出ていた。そもそも、エレスティスが今のような素を相手に見せる事は無いので臣下らは非常に驚いていた。
「エレスティスもアイル君も落ち着きなさい。今は食事中だという事を忘れているだろう、他にも食べている人は居る事を考えなさい」
「「ごめんなさい……」」
国王というよりも父親としてエレスティスとアイルに説教をしていた。
そして、今回はアイルとエレスティスが全面的に悪いので互いにシュンと小さくなって素直に謝罪をしていた。
「アイル君はテーブルマナーは習わなかったのかな?」
「う~ん……確か先生に習ったような。何時も授業中は寝てたり遊んでたから忘れちゃった!」
「えっと、アイラちゃん……アイル君は昔からこんな感じなのかな?」
アイラはしっかりとテーブルマナーが身についているのでアイルも習っているのではないかと思い確認すると、アイルは腕を組んで記憶を過去に遡っていた。
覚えているのは授業中に気持ち良く熟睡していた事やサボって他の子供達と一緒に野原や森を駆け回った事などの記憶を口にしていくアイル。それを聞くたびに国王の中でアイルは劣等生の印象が強くなる。
「えっと、事実……ですね」
残念ながら事実なのでアイラは否定出来ずに肯定してしまう。
それが本当なので臣下らは本当にこの子供に試合をさせて大丈夫なのかと不安を覚える。そもそも勝利出来るという期待は米粒にもしていないが。それでも、王女エレスティス自らが指名したのだ王族であるのならば人選手腕は当たり前のスキルで、これで情けない結果ならエレスティスの評価は一層落ちる事となる。
「お父様ったら本当にこんな劣等生に試合をなさるのかしら? そもそも私は認めてなんていないわよ、こんなそこら辺の兵士にも劣るような落ちこぼれに王者の儀式を受けさせるなんて!!」
「アーシアお姉さま……」
今の今まで黙ってアイルとエレスティスのやり取りを黙って見ていたコルネット王国第一王女のアーシアは不満を国王に述べていた。
やはり落ちこぼれという言葉にエレスティスは事実なので俯いてしまう。
「そうかな、ボクはエレスが王者の儀式を受けれるのは普通だと思うけどね! 後、ボクは劣等生なんかじゃないぞ!」
辛辣な言葉をアーシアに投げられ俯くエレスティスを黙ってみていたアイルが助け舟を出した。
自信満々にエレスティスが王者の儀式を受けれるのは普通だと宣言し、ついでに馬鹿にされたので右下まぶたを下げて舌を出してあっかんべぇをしながらそれを訂正する。
「ふんっ、生意気な子供ね! それなら明日の御前試合で貴方の実力を見せてもらうわ!」
「しっかり見てなよ。ボクの実力を思い知らせてやるぞ!」
他の者達が介入する事は出来ずにアイルとアーシアの二人だけで勝手に話が進められる。あまりにも生意気な態度なので忌々しそうにアイルを睨みつけながらもダイニングから早歩きで去って行った。
そして、アーシアが去って妙に静まり返ったダイニングルームで一番に開口したのは話題の中心人物であるエレスティスだった。アイルの双肩を両手で掴むと強めに揺さぶりながら慌てたように怒っていた。
「何を一人で決めてるのよ!? あんな発言して負けたらどうするのよ!?」
「ボク達は負けないよ。だってエレスはボク達が勝つって信じてるからあの時、本音を言ってくれたんでしょ?」
「そ、そうだけど……」
しかし、それはエレスティスが自分の気持ちを隠蔽しようとしている行動でアイルは真剣な表情でエレスティスを見上げ揺さぶられながらも口を開く。まるでそれは本音を隠すなと訴えかけているような。
あの時――それはエレスティスが双子に話した本音。尊敬する兄や自分を卑下する兄姉を認めさせたい見返したいという思いそして、自分を変えたいという強い気持ちを話した。それはアイルにとってエレスティスから信用されたからと受け取ったのだ。
だからこそアイルは負けないとハッキリと宣言した。先程までの馬鹿をやっていた少年とは違う不思議な雰囲気にエレスティスは言葉に詰まってしまう。
そして、アイルはにっこりと一つ笑みを零して言葉を紡ぐ。
「けど……」
「エレスが信じてくれればボクもアイラも負けない絶対に大丈夫!」
「はい! エレスさんが信じてくだされば私も頑張れますし」
アイルの飛び抜けた能力やアイラの特異な能力を見たエレスティスは確かにと思いつつもやはり不安で。
しかし、それでもアイルとアイラは温かい笑顔でエレスティスの事を励ましながら大丈夫だと安心させる。
「二人がそう言うなら……信じてあげる。だから絶対に勝ってよ」
「「もちろん!」」
やはり一抹の不安は残るものの双子を信じる事に決めたエレスティスは絶対に勝つことを約束させた。
それを聞いて双子はお互いの顔を見合わせながら再び笑顔になって力強く頷いた。




