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双天のステルラ  作者: なまけもの
世界への旅立ち
24/49

第24話

いよいよ双子の冒険編も終盤に到達しました。と言ってもこれはまだ序章段階で物語は双子の冒険編が終わってから本格的に始動するのですが序章までに20話は使いすぎですね。


特に前書きって何を書けば良いのでしょうか? 一先ず、双天のステルラの裏話的な話をしましょうか。

双天のステルラの大元となる話は昨年の4月ぐらいにはありました。主人公が双子という事は変わりませんが名前は変わってますね。

そして、アイルは元々は二刀流でアイラは弓ではなく杖でした。さらに育ての親は老夫婦ではなく老婆一人だけでした。

と、実は少し変わった部分もありますね。


それでは24話も楽しんでいただければ幸いです。

 女性の荷物を盗り返す為に屋根の上を易々と飛び越えていくアイルは強盗犯らしき人物を見つけていた。


「あの人かな、なんだか急いで走ってるみたいだし」


 確証はないが周囲を特に背後を警戒している様子から何か隠し事でもあるのだろうかとアイルは疑っていた。

 まるで自分の物ではない物品を盗んだかのように隠しているので馬鹿でも見れば分かる。強盗犯だと確定していないがアイルの直観的に確定していた。移動速度は圧倒的にアイルが上回っているので追い越して屋根から飛び降りた。

 近々結婚する予定だった女性の荷物を盗んだ男は少し息を乱しながら走っていたが徐々に走るから歩くへと変わり、最終的に歩みを止めた。そして、盗んだ鞄を開くと男は中身を確認する。


「へへっ、楽勝だったな。俺の手に掛かれば余裕すぎるぜ」

「ねえ、君の盗んだ鞄を返してほしいんだけど素直に返してくれないかな」

「はっ、てめえ何処から出てきやがった!?」


 男はアイルが目の前に現れた事に非常に驚愕していた。先程まで追いかけてくる者が背後に居らず、眼前にも人は居なかったにも関わらず不意を突いたように現れたように見えた。単純に男よりも先回りして屋根の上から飛び降りるという単純な事だが、それを子供が実行していたとは考えないだろう。


「どこから来たか知らねえが、ガキがいっちょまえにいきがってんじゃねえよ!」


 突然、目の前に現れた事に男は驚きつつも相手が子供だと改めて冷静さを取り戻し懐から小型ナイフを取り出して切っ先をアイルへと向けた。相手が子供であれば小さなナイフそれだけでも鋭利な刃物を向けられている事に怯えるだろう。しかし、目の前にいるのは少々他の子供とは感性がずれているアイルなので。


「もしかしてそれって玩具?」


 としか見ていなかった。

 そんな呆気にとられるような感想をもらすアイルは無意識ながらも男のなけなしの小さなプライドに傷がつけた。一応、彼はこのコルネット城下町では有名な強盗犯なのだがそんな事をアイルが知る由もなく、相手が強盗犯だと分かると鞘に収まっている剣の柄を握る。


「玩具相手に悪いけどボクは本物の剣を使わせてもらうね。もし怪我させても怒らないでよ? 君って弱そうだし」

「てめっ……っっ!?」


 沸点が中々低めの強盗犯は子供に馬鹿にされてとうとう切れそうになったが表情を青褪めた。

 剣を抜くという動作をしつつ無神経な言葉を強盗犯の男に吐くアイル。その無神経な言葉の中に悪気など一切なく純粋にそう思っているので余計に質が悪い。だが、アイルが男に言った言葉はハッタリではない。

 完全に鞘から抜かれた剣は本物でナイフとは比較できない謎の強さを剣自体が発している。例え一般人で武器に詳しくなくとも、アイルが持つ剣が本物である事は察する事が出来る。


「そ、そんな体型に釣り合わない武器を持って脅したって意味が……!?」


 まるで突風が吹いたような感覚が男を襲い眼前に立っていた筈のアイルを見失う。


「えっ、はっ……」

「ちゃんと返してくれるよね? この鞄の中に大切な指輪があるみたいなんだけど」


 アイルの姿を見失った男だったが今の状態を把握すると上手く呼吸が出来なかった。

 刀身は男の右首筋に突き付け、アイルが左に振り抜けば強盗犯の首は足元へと落ちる。例え相手が子供でもそれだけの切れ味を誇る剣だ、否応なしに男は心拍数が駆け足となり緊張で息が乱れる。だが、男が恐れたのは相手に剣を向ける事に対する邪気がアイルから感じられない事であった。


(こいつ……人間相手に剣を突き付けるのに躊躇いがない……)


 大人でも人間を相手に刃物を向ける事に躊躇う者は決して少なくはない。それは兵士も同じで戦争は人と人の命の奪い合いが常識でその度に相手の鮮血を浴びては死臭を纏うのだが、それをすぐに受け入れる事が出来る程の強固な精神を持つ者は中々居ない。

 自国を守る為、君主の理想を叶える為に剣を振るっても人を殺したという事実は消えない。それは時に人を苦しめる事となるのだが、アイルには罪悪感というものが欠如していた。だからこそ男はアイルを精神的異常者としか見る事が出来なかった。


「それで返してくれるんだよね。君が素直に返してくれれば剣を引くけどダメかな」

(交渉ですらねえ……ただの脅しじゃねえかよ)


 このまま斬殺されるぐらいならばと考え素直に盗んだ鞄をアイルに手渡そうと差し出した。それを見てアイルは嬉しそうに貰おうと剣を引き、左手で受け取ろうとした。その瞬間を狙われてアイルの顔面に左ストレートを決めて殴り飛ばした。

 完璧に顔面を捉えておりアイルはアスファルトに倒れ込んだ。それを見た男は痛快な笑顔を見せる。


「剣を持ってても所詮は子供か! すんなりと騙される奴が悪いんだよっ、ははははっ!!」

「急に殴るなんてビックリするじゃないか! ボクだったから良いけど他の人だと血が出ちゃうよ?!」


 簡単に騙せた事に気分が良いのか高らかに笑う男だったが、特に変わった様子もなく平然と立ち上がるアイル。

 急に殴られた事にご立腹のアイルは文句を言っているが本当に鼻血どころか赤くも殴られた箇所は赤く腫れてなどいなかった。

 倒れた勢いで手放してしまった剣を拾うとアイルは目付きを変えた。それは魔物と戦う時のみに見せる相手を倒すという意思を灯した眼。それを向けられた男は金縛りにあったかのように体を動かす事が出来ずに顔を青褪めていた。


「アイル、走るのが速いよ」

「はぁはぁ……アイラも充分体力あるのね」


 漸くアイルに追いついたアイラとエレスティス。

 エレスティスは二人と比べて体力がないのか既に体力切れを起こして息が乱れ、なんとか落ち着こうとしていた。エレスティスから見たアイラは大人しいインドア派の子供かと思っていたが息切れを起こしていないアイラを見て体力あるんだと痛感していた。


(なんでこんな所にコルネット王国の姫さんが居るんだ。しかも、こんなガキどもと一緒に……けど、まっ、俺にとっては都合が良いけどな)


 王国の姫君が子供と何故行動を共にしているのか不思議に思いながらも打開策を男は練っていた。殴ってもまるで効いていない様子のアイルを相手に捕まらないという自信が僅かに喪失していたのだが、アイラとエレスティスの登場に希望を見出していた。


「その人がさ強盗犯だから女の人の鞄を返してほしいのに断るんだよ。強盗犯のくせに失礼な人だよねまったく」


 その強盗犯に躊躇わず切っ先を向けるのも十分失礼に値する。それ以上に他の人物が見れば殺す気なのかと疑われる勢いである。


「強盗犯って? この方が持っている鞄がさっきの女性の?」

「そうそう、だから取り返してるの。さっきは顔を思いっきり殴られたし酷いよねこの人!」

「人に剣を向けてる餓鬼に言われたくねえよ!!」


 アイルが強盗犯に対して抜刀している状況が分からず困惑しているとアイルが目の前に立つ男が強盗犯だと教えると、アイラは途中で出会った女性の事かとアイルに問い返す。そうだと頷きながら顔を殴られた事をアイカ達に教えて酷いと宣言するが、剣を突き付けられた男はアイルに強く言い返していた。

 

(あ、うん。確かに剣を向けられたら言い返したくなるかも)


 強盗犯の的確な反論に心中でつい賛同してしまうエレスティス。


「まっ、ふざけた餓鬼だったが俺を捕まえる事は無理だぜ!!」


 そう言ってアイルに背を向けるとナイフをアイラに突出しそのまま勢いよく駆け出す。そう、この強盗犯はアイラを人質にしようと企んでいた。

 だが、元より瞬発力に圧倒的な差というものが強盗犯とアイルにはあり、アイルは路上を蹴り大きく跳躍して強盗犯の背にとび蹴りを決めた。


「ボクから逃げようだなんてお兄さんの方がよっぽど無理だよ!」

「ぐえええっ!?」


 かなりの速度があり骨が軋むような音と共に強盗犯は勢いよく地面に倒れ込んだ。しかし、アイルにとっては完全に遊戯程度の認識しかなく今のは相手にとって非常に痛い攻撃、寧ろアイラ達が強盗犯に合掌したくなるほど。

 相当痛烈だったのか強盗犯は悲鳴を上げ路地裏の地面に倒れ込み埃が少々舞った。アイルはそのまま綺麗に着地したが。


「人の物を盗むからそういう目に遭うんだよ。ちゃんと鞄は返してもらうからねって……あれ? おーい!」


 蹴り飛ばした強盗犯に近寄って鞄を返してもらおうと声を掛けるも返事が返ってこずに首を傾げてしまう。

 最初は肩を軽く叩いて反応を見るつもりだったが反応しないので耳元で大きな声で呼びかけるもやはり反応せず、不思議に思ったアイルはうつ伏せに倒れていた強盗犯を仰向けに転がした。


「もしかして気絶しちゃったの!? うわわっ、ちょっとやり過ぎたのかな」

「大丈夫よ気絶してるだけで命に別状はないはずだから。多分、背中の骨はちょっと危険かもしれないけど」


 悶絶して倒れ込んでいる強盗犯を見て自分の攻撃でこうなった事にアイルは少し焦りを感じていると、エレスティスが強盗犯の口に手を当て呼吸をしているのかを確認しながら大丈夫だと言いアイルを落ち着かせていた。

 死亡していないとエレスティスから教えてもらったアイルは安心したのか胸を撫で下ろしていた。そして、気絶している強盗犯をこのまま放っておいて良いのかとアイルはエレスティスに訊いていた。


「良かった~。それでこの人ってどうなるの? やっぱり牢獄に入れられるのかな」

「街を警備隊の誰かに事情を説明すれば後は処理してくれるはずよ」

「そっか、それなら鞄を持ち主に返しに行こうよ」


 強盗犯を蹴り飛ばした勢いで少し飛ばされた鞄を拾いながら持ち主の場所に戻ろうとアイラとセレスティスに促すアイル。

 アイルに振り回されてはいるものの特に明確な目的をもって城下町に出てきたわけではないのでアイラとエレスティスにとっては非常に有難い事であった。アイルとエレスティスの二人とも仲良くなりたいという気持ちはあっても、どちらも他者と接する事が苦手で声を掛けづらそうにしている。


「あ、あの……」

「え、えっと……何かな?」

「い、いえ……」


 アイルの後を追って同じぐらいの速度で走るアイラとエレスティス。アイルはセレスティスに声を掛けようとするもやはり話題を決めれずに結局は会話をできずにいるアイラ。


(ぅぅっ、何を話したら良いんだろ……。す、好きな食べ物とかかな?)


 アイルと違いコミュニケーションをとるのが苦手なアイラは心中で何を質問すれば良いのかと頭を捻っていた。

 少しだけアイラとエレスティスの間に気まずい空気が漂っていた。

 


「はい、これがお姉さんの鞄で良いんだよね」

「ほ、ホントに取り返してくれたの!? っていうか危ない目に遭ってないの!?」

「これでもボクは強いんだから! 今度は盗られないようにしっかり鞄を持ってないといけないよ」

「ええっ、ホントにありがとう坊や!」


 路地裏で待っていた茶髪で長めの三つ編み女性に鞄を渡すと嬉しそうに笑顔を見せて喜んだ。

 そんな女性の姿を見てエレスティスは少しだけ双子に対して考えを改めていた。


(なんだ……アイルって凄く優しい子なんだ。お金が目的って言ってたけど何時もはそういうわけじゃないのね)


 女性の鞄を取り返しに行ったのはアイルの善意からの行動だと見直してエレスティスは、にこにこと笑うアイルの背を微笑みながら黙って見つめていた。

 ふと女性はそんな優しい目でアイルの事を見ているエレスティスに気付く。


「あのー、エレスティス様が何で子供達と一緒に居られるんですか?」

「な、なんでだろう? 私にもちょっと分からないんだけど」


 殆ど成り行きで行動しているので明確な理由はエレスティスにも分からず逆に首を傾げた。


「そういえば、エレスティス様」

「え、なにかしら?」

「王者の儀式頑張ってくださいね! 私、応援してますから!!」


 無知とは恐ろしいものである。さらに善意からの声援なのでエレスティスは何も言えずに黙り込んでしまう。

 アイルとアイラの二人も今の今まで王者の儀式の事を忘却していたのか女性の言葉を聞いてハッと思い出している始末。しかし、アイルの場合は王者の儀式を忘れていた程度のものでエレスティスが黙り込む理由までは到底考えられておらず逆にアイラはどう話を切り返せば良いのか分からずに女性とエレスティスを交互に見比べていた。


「応援、ありがと」


 短く女性に言うとエレスティスはこの場を逃げるように足早に表通りへと歩いて行く。急に雰囲気がガラリと変化したエレスティスに女性は訳分からずに少々吃驚しており、アイルに説明を求めた。


「エレスティス様、どうしたのかな?」

「う~ん……! なんでなのかな」


 そして問われたアイルも女性と同じように訳分からずに首を傾げており、それを隣で見ていたアイラは苦笑いを浮かべるしかできずにいた。


(アイルは気付いてあげようよ。エレスさんと一緒に居たんだから)


 女性がエレスティスの気持ちに気付いてあげる事が出来ないのは仕方ないと思う反面、アイルは気付くべきだとアイラは思う。


「追いかけないと離れ離れになっちゃうよ!」

「う、うん……そうだね」

「それじゃ、お姉さん」


 王様にエレスティスの事を任されているので離れ離れになるのは拙いと感じたアイルはアイラの右手を握り、助けた女性に別れの言葉を告げるとアイルもアイラを連れてその場から去って行く。

 女性から声援を貰ったエレスティスは沈んだ表情を浮かべながら城下町を当てもなく歩いていた。


(はぁ……なんで私って何時もこうなのかな。あの人はきっと素直な気持ちで言ってくれたんだろうし……)


 女性から励ましてもらったにも関わらず先程の失礼な態度をとってしまったエレスティス本人が一番気に病んでいた。

 そもそも王者の儀式に参加する事に迷いがあるのはエレスティス自身が自分にはそれを受けるだけの実力がないと消極的で、さらにコルネット王国第一王子の方が余程、国王になるだけの品格や才能があると期待しているからだ。エレスティスにとって第一王子は特別な存在でもある。


(でも――私なんかが本当に受けても良いのかな。王者の儀式を達成出来たら認めてくれるのかな……)


 少しでも憧れている人物に追いつけるのなら参加して達成したいという気持ちを僅かに抱いているエレスティスは清々しいほどに青い空を眺めて思い浸る。


(アイルとアイラは私の話を聞いても笑わないかな。話してみようかな……)


 親や近しい者にもいまだに打ち明けていないエレスティスの心。 

 エレスティスが思い浸っていると双子が走りながら近付いてくる。


「あのエレスさん……大丈夫、ですか?」

「ね、ねえ……もしもよ?」

「はい?」


 空を見上げているエレスティスにアイラはそっと声を掛けると、突然、エレスティスが頬を紅潮顔させながらもしもの話をし始めようとしていた。突然の事にアイラは目を点にしつつエレスティスの話を聞くことにした。


「ここじゃちょっと恥ずかしいから……人が居ない場所で話したいんだけど良いかな?」

「別にどこでも構わないよ。エレスの話しやすい場所で良いと思う」

「うん、ありがと」


 これから双子に話す事は少しばかり恥ずかしい内容らしく顔を紅潮させつつ、人気のない場所で話さないかとエレスティスは提案する。

 その提案にアイルは拒否をする理由もないので素直に頷いた。アイラもまたアイルと同じで特に何も言わないのでエレスティスは小さな声でお礼の言葉を囁いた。それが聞こえたアイルとアイラは互いの顔を見てにっこりと微笑む。



 人気の少ない場所という事で城下町を出て平原に来ていた。平原と言っても城下町は目と鼻の先で何時でも戻れる距離である。城下町を徘徊している間は大衆にエレスティスと一緒に居るのが怪しまれるので平原に来ていた。ちなみに平原を指示したのは双子ではなくエレスティス自身でその理由は護衛など堅苦しい状況ではなく自由な状態で城下町の外に出てみたかったと理由であった。

 平原に出ると座れそうな手頃の岩を見つけて三人は座り、アイルとアイラはセレスティスが話し始めるのを待っていた。


「私が王者の儀式に参加出来るのはこの力があるからなんだ」


 唐突に触りの部分を話し始めエレスティスは自分には他の者達が有していない特異能力がある事を正直に伝え、それを実際に双子に見せようとする。

 綺麗な右手から真紅の炎が渦を巻いて発生しアイルとアイラは目を見開いた。さらに魔法陣がどこにも見当たらないので本当に特異能力なのだと双子は認めた。


「魔法じゃない……ですよね?」

「私は魔法が使えないのよ。その代わり小さい頃からこの力があったんだけどね」


 どうやら炎の温度も変化させる事がエレスティスには可能で真紅の炎に双子が顔を近づけてもそれからは熱を感じなかった。


「かっこいいーっ!! アイラも炎じゃないけどこういう事出来るよね?」

「あ、うん。もしかしたら私のもエレスさんと同じ能力なのかも」

「えっ! アイラも私みたいな能力を持ってるの!?」


 真紅の炎を見て興奮しているアイルはアイラも似たような事が出来ると言った。それを聞いたエレスティスは意外そうな顔をしてアイラを見る。その表情は自分以外にも同じような人が居るんだという嬉しさも感じられた。

 今まで特異能力を持っている者に出会った事が一度もなく、自分だけが特別なのかもしれないと幼い頃は優越感に浸っていた事もあった。しかし、今ではその特異能力で蔑まれているので優越感に浸る事はなくなった。


「それで……この力があるから権利を貰ったの。本当は私が王者の儀式に参加できるはずがないのに」

「そう、なんですか」

「本当はディオールお兄様が権利を与えてもらえる筈だったの。だけど、私はそれを奪ってしまった」

「え? どうしてエレスが考え込まないとダメなの? 権利を与えられなかったのはその人には実力が足りなかっただけでしょ」


 聖なる炎があるから参加権利を与えられたと語り、そのせいで憧れる兄から権利を奪ってしまったと自責の念を抱いていた。

 しかし、アイルにはエレスの気持ちを理解するにはあまりにも難しかった。アイルはポジティブが人の形をしたようなもので権利を与えられたのは寧ろ誇るべきだと考えている。アイルの言い分を聞いてエレスティスは少し目付きを変えてアイルを睨む。


「違う! ディオールお兄様は歴代コルネット王族でも指折りの才能の持ち主で私みたいな凡人には遠い人なの!!」

「本当にエレスは凡人なの? 人にはない一芸を持ってるのにそれは凡人?」

「えっ――それは」

「ボクは人の才能とか分からないけどエレスが卑屈になる理由はないと思うな。それにボクだったらこのチャンスをものにして成功させてやるって思うよ!」


 声を荒げてアイルの言葉を強く否定するもアイルは特に気にも留めず逆に問い返していた。

 自分の事を凡人だと卑下するエレスティスを真っ直ぐに見ながら本当に凡人なのかと問いかける。それを問われたエレスティスはあまりにも核心的なアイルの言葉に悩む。

 そして、悩むエレスティスを励ますようにアイルは自分であれば王者の儀式に参加して成功させてやるという気持ちが芽生えると答えた。

 アイルの言葉を聞いてエレスティスは胸のつっかえがとれたのか本音を口走る。


「私が儀式に参加しても変じゃないのかな?」

「変じゃないですよ。それに、先程の女性の人も応援してたじゃないですか」

「成功したらディオールお兄様は私の事を認めてくれるよね!?」

「え、ええ? きっと認めてくれますよ!」


 時折、エレスティスの口から出てくるディオールという名前に「誰?」と疑問を抱いてしまう双子だがディオールについて追求する事はなく認めてくれるのか訊かれた事に笑顔で頷いた。


「そ、それなら……二人にお願いがあるんだけど」

「ボク達で叶えられる事なら任せなよ!」

「私の王者の儀式に同行して欲しい……のよ。他の旅人よりもアイルとアイラの方がずっと信用できるから」


 国王にも参加しないと宣言していたエレスティスがその気になっている事に双子は驚きつつも微笑む。


「もちろん、ボクとしては願ったりの事だよ!!」

「私達みたいなので良ければ。一緒にがんばりましょうエレスさん!」

「うん、二人ともありがとうっ!」


 アイル的には非常に強く望んでいた展開。それはアイラも同じで一気に世界が変わる、そんな不思議な気分になっていた。

 嫌がる事もなく寧ろ大喜びなアイルと健気なアイラを見てエレスティスは瞳に涙を溜めながらも嬉しそうに笑った。

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