第23話
まさかの風邪。
私はあまり風邪をひかない体質なので久しぶりに咽頭が痛くなるとこれは、もしやと感じてしまいます。しかし、あれですね季節の変わり目が一番風邪をひきやすい!私の職場でも38℃を超える高熱を出されている方もいますし、症状が出ている方もいます。
皆さんも体調管理にはくれぐれも気を付けてください!!
赤い高級な絨毯が敷かれている廊下を一人で歩くのは相変わらず憂色の表情を浮かべるエレスティス。
彼女の心の中は双子に対して失望していた。あの双子だけは他の旅人とは違う、私利私欲の為だけじゃなく同行してくれると思っていた。だが、アイルは笑顔で金銭が目的と初めに答えておりそれを聞いてエレスティスは失望したのだった。もっとも続きを言っていたのだがその時には既にエレスティスはアイルに失望して話を聞いていないが。
大人が聞いていればエレスティスもまた自分勝手な子供だと判断されるが、そういう自分勝手な考えに変わったのも城内生活が原因である。しかし、そんな原因を第三者が知る由もなく立場に甘えているだけなのではと思う者も多々いるのは事実。
自室に戻ろうと曲がり角を曲がろうとエレスティスは歩いていると二十代前半の若い女性とぶつかった。
「あっ、ごめん……!!」
「いたぁ、ちょっとちゃんと前を見て歩きなさいよ!」
前を見てはいたが別の事を考えていたので前方不注意となってしまいエレスティスはぶつかってしまった相手に謝ろうとした。しかし、その人物の表情を見て言葉が詰まり少し体が震えていた。
ぶつかった相手は後ろに倒れそうになるがなんとか堪え、ぶつかった相手エレスティスに怒鳴り声を上げた。そして、その相手もまたエレスティスを見て驚くが反応は逆であった。エレスティスを見て唇が吊り上り笑みを浮かべるが、明らかに他人に向ける笑みではなかった。
「あらぁ~、話題のエレスティスちゃんはまだ王者の儀式にいかないのかしら?」
「そ、それは――」
触れられたくない内容だったのか王者の儀式について問われるとエレスティスは口籠ってしまう。
エレスティス自身が一番分かっている事だ。何時までも子供のように我が儘を貫き通せるわけがないと。だが、可能ならば参加せずに穏やかな日々を過ごしたいと願う。
「貴方は良いわよねぇ、特異な能力を持ってるから王者の儀式に特別に参加出来るんですもの」
「わ、私は……」
そんなエレスティスの本音など露知らず、いや知っていてもこの女性は嫌味を言ってくるだろう。口振りや表情それらがエレスティスを認めていないからだ。
エレスティスが嫌う自身の特異な能力はこの女性からすれば非常に嫉ましいものである。女性がエレスティスに対しての言葉遣いから同じ王族である事には違いないが、関係は最悪に感じ取れた。
「あ、居たよエレスティスが」
「ま、待って……他の人と話してる」
少し小走りでエレスティスを追いかけていた双子はエレスティスを見つける事が出来た。兵士や家臣、家令など沢山の者達が居る城の中でエレスティスの髪色は他の者と比べて少々派手な色合いで、簡単に見分けがついた。
しかし、エレスティスが女性と話しているので声を掛けないほうが良いと判断したアイラはアイルを止めて、少し離れた場所からやり取りを見る事に徹した。
年齢はエレスティスよりも年上で服装は高価な代物。平民では先ず手の届かない値段なのはアイラの目にも分かるが、それ以上に目に余るのが女性のエレスティスを見る目であった。
「羨ましいご身分だこと! 特異な能力があるから王者の儀式に参加出来るだけで貴方には何も才能がない落ちこぼれなのにねえ~」
「っ――!」
聖なる炎と呼称される特異な能力を有しているだけで王者の儀式を受ける事が出来る権利が与えられた事に納得していない女性はエレスティスを落ちこぼれだと称する。そもそも王者の儀式を受ける事が出来るのは国王が定めた基準値以上に達していなければ受ける権利は与えられない。だが、唯一の特例はエレスティスだけである。
そのせいか王族からエレスティスは目の敵とされる事になった。特異な能力がなければエレスティスはただの落ちこぼれ。基準値にも到底達していないそんな者が自分を差し置いて権利を与えられた事が気に入らないのだ。
それを直接言われたエレスティスは悔しさから拳を握るが、言い返す言葉が出ないでいた。それはセレスティス自身も分かっている事で権利を与えられたのは、間違いなく聖なる炎があるから。何度もそう自分に言い聞かせて生きてきたのだ。
「ねえねえ、エレスティスは王者の儀式に出たいわけじゃないでしょ?」
「えっ!? あ、貴方は――」
「にししっ、迎えに来たよー」
「ちょ、ちょっと?!」
何の音沙汰もなくエレスティスと女性の間に割って入ってきたアイルにエレスティスは不意を突かれたのか目を丸くして見下ろしていた。
そんなエレスティスを見上げて悪戯小僧のような笑みを浮かべるアイル。一体何を考えているのか分からないエレスティスは嫌な予感を感じ徐々に後ろに身が引いているが、アイルは有無を言わせぬ速度でエレスティスを横抱きした。
まさか自分よりも幼い少年に横抱き、別名お姫様抱っこをされるとは思いもしなかったエレスティスは驚きを隠せず今の状況に戸惑っていた。
「アイラー、そこから一階まで飛び降りるよ~」
「え、えええっ!? それ本気で言って……るんだよね」
エレスティス一人を抱えて一階まで飛び降りると言いのけるとアイラは驚愕を隠せずにはいられなかった。
高さ的には十mは確実にあるので間違いなく危険だ。しかも、アイルだけが飛び降りるのではなく他の人間を一人抱えた状態なので、アイラは不安で仕方がなかった。というか怪我をさせたら牢獄行きは確定で最悪処刑なのではと最悪の未来を思い描いてしまう。
しかしアイルの様子からまず冗談という事はなくアイラはもう流れに身を任せるしか出来ずに、アイラもまた三階から一階へと飛び降りようと手摺に身を乗り出そうとするも、アイルみたいに身軽でなければ頑丈ではないので飛び降りるのに尻込みしてしまう。
「や、やっぱり怖いよ……」
「ほら行くよアイラ、ちゃんとボクに掴まっててね」
「ふ、二人いっぺんに行く気なの貴方!?」
尻込みしているアイラを見てアイルはセレスティスを横抱きにした状態で背中に掴まるように指示する。
体が小さいアイルが二人も抱えて移動するというのがあまりに不自然なのでその場に居た女性は口を開けて固まっていた。
「それじゃいっくぞー!」
「「きゃああああっ!!」」
元気の良い掛け声と共に落下していくアイル達。もっともエレスティスとアイラは下手な落ち方すれば怪我を負いかねない高さからの落下の為、大きな悲鳴を上げていた。そして、一階で警備をしていた兵士や城を出ようとしていた旅人は口を大きく開け三階から飛び降りてきたアイル達を見ていた。
「う~ん、三階から飛び降りても危険じゃないなぁ~。今度はもっと高いところから挑戦しようかな」
「もう……アイルのバカ! 凄く怖かったんだよ!」
「わわっ、急に怒ってどうしたのさ?」
三階から一気に飛び降りて綺麗に着地したアイルはエレスティスとアイラを絨毯の上に降ろして、今度はより高い場所からで挑戦してみようなどと三階の渡り廊下を見上げ呟いた。
そして、背負われていたアイラは心拍数が早くなっていて、落ち着きを取り戻そうと深呼吸をすると怒った口調でアイルを叱っていた。アイラから強く叱られたのは本当に初だったのか非常に吃驚した様子だった。瞬きを数回してアイラを見ると、涙を堪えた状態でアイルの事をジッと見つめていた。
「急にじゃないよ! あんな危ない事して怪我したら大変だよ!?」
「う、うん……ごめん」
さすがのアイルもアイラから強く怒られると反省したのかしゅんとしており、心なしか逆立っているアイルの髪が垂れているようにも見えた。
「あ、あの……そんなに怒ってないからね?」
「う、うん……」
(アイルがへこんじゃった……。ど、どうしたら良いんだろ……)
いくら破天荒なアイルでも本気で怒られれば反省はするが、アイラから怒られる事は今までなかったので落ち込んでいる姿を見てアイラが困惑していた。
「え、エレスティスさんと一緒に遊びに行くって言ったよね?」
「そ、そうだった! すっかり忘れてたよー」
「……いつものアイルだ」
本来の目的を思い出すとへこんでいたのが嘘のように何時ものアイルに戻っていた。もう少し落ち込んでいても良いのではと思うアイラだが、周りは大慌てで兵士は国王に伝令に行ったりしている。
「それじゃ、エレスティスも行こうよ! お城にずっと居るよりも外に出た方が楽しいよ!!」
「えっ、あっ……」
あまり城から出た事がないアイルに右手を握られエレスティスは引っ張られて城門を出る。
何か言おうとするよりもアイルの方が先に行動に移っているのでエレスティスはただ黙って着いて行くことになってしまうが、その表情に嫌そうな色は見えず、不思議とアイルの手を握ってしまう。
※
「エレスティス様が城に出るというのはホントに珍しいな」
「ああ、けどなんであんな子供達と一緒に居るんだよ」
コルネット城を出たアイル達は城下町の中を歩いているのだが大衆の釘付けであった。
一応、コルネット王国の第三王女という立場は事実でコルネット城下町やその付近の町や村には広く知れ渡っている。逆に少年少女と一緒に城下町を歩いているのは何故だろうと思う事は同じである。流石に子供が城に乗り込んで王女を誘拐というのは考えにくく、それ以前に誘拐したようには見えない。
「エレスティス様は確か王者の儀式を受けるみたいだけど、もしかしてあの子供達と一緒に受けるって事かい?!」
「まさか、それはないでしょ。あんな子供と一緒に受けるなんて死にに行くようなものじゃない」
「そうよねえ、確か国王様から一心の期待を受けてるみたいだし」
立て札の事を知っている奥様方は幼い子供がエレスティスの儀式に同行するのかと勘違いしていた。そんな一人の奥様の思惟に違うのではと否定するもう一人の奥様。
やはり誰がどう考えても双子が王者の儀式に同行するのは可笑しいと発想してしまう。
自分達の前を仲良く何処に行こうなどと話しながら歩く双子を見ながらエレスティスは黙り込んでいた。
するとふとアイルが話すのを止めてセレスティスの方を向いて見上げる。アイルよりもエレスティスの方が身長は高いので必然的にそうなってしまう。
「良いなぁ、ボクも早く大きくなりたい」
「貴方達って何歳なの? 多分、九歳ぐらいだと思うけど」
「その位かなぁ、正確な年齢はボクもアイラも知らないんだよ」
「自分の年齢や誕生日を知らないの貴方達は?」
「そりゃ、捨て子だったからね~。それにお爺ちゃんとお婆ちゃんに拾われる前の事とかも知らないんだ。だからこの名前はお爺ちゃん達につけてもらったんだ」
身長が高くなりたいと願うアイルにふとエレスティスは当たり前の事を気になり質問した。それは双子の年齢だ。見た目や精神年齢もどちらも九歳前後に思えるが少々気になっていた。
するとアイルはそれ位だと言い、実年齢は知らないとキッパリと答えた。五歳ごろにグランとマーザの老夫婦に拾われたがそれ以前の記憶が双子には一切なく、その時は年齢だけでなく名前も知らないでいた。さらに双子には元々名前すらなかったと本人が説明した。
かなり重たい過去の筈だがべらべらとそれ程気にした様子もなく語るアイルにエレスティスは色々と悩んでしまう。
(この子たちって私が思う以上に重たいんじゃ。けど……この子はなんだか凄い気にした様子じゃないし)
話している内容は重い筈なのだが呑気に両手を後頭部に置いて話すアイルからは然程大した問題ではないのかと錯覚してしまうが、本来は決してそんな事はない。やはり話している当の本人が全く深く考えないからかもしれない。
「そんな事よりもさエレスティスってちょっと長いからセレスって呼んでも良い? あだ名を考えてみたんだ!」
「あだ……名?」
「そうだよ。なんでそんなに驚いた顔をするのさ」
あだ名を考えたんだと笑顔で言うアイルにエレスティスは戸惑いながらも復唱した。
復唱されたアイルは釈然とせず、何故そんなにも驚くのか理解出来ずにいた。だが、今までエレスティスは環境上からあだ名で呼ばれた事など一度もなく、そんな風にあだ名を考えてもらう事に嬉しさが込み上がっていた。
「べ、別に驚いてなんかない。ただ……」
「んー?」
「な、何でもないわよ! 少しは素直になれば良いのに……私ってホントに馬鹿」
嬉しいと素直に言えないエレスティスは頬を紅潮させソッポを向きアイルから視線を外す。
素直になれない恥ずかしがっている自分に言い聞かせるように小声で呟くエレスティス。反応的には喜んでいるのだがそれがアイル達には伝わっていない。
「やっぱり嫌なのかな?」
「どうなんだろ……? あの嫌でしたら普通に呼びますけど」
寧ろあだ名で呼ばれる事に嫌悪感を覚えているのではないかと、エレスティスの心の内とは正反対の事を思っている双子。アイラはあだ名で呼ぶにしろ呼ばないにしろ本音が聞きたいので恐る恐る声を掛けた。
「べ、別に貴方達の好きなように呼べば良いでしょ? 嫌とは言ってないんだから」
本当は嬉しいのだが素直になれないエレスティスはつんけんした態度をとる。
「それじゃ、エレスさんって呼びますね」
「わ、私もアイラって呼ぶから問題ないわ。アイルもそれで良い?」
つんけんした態度をとられるが嫌と言ってないのでアイラは小さく微笑んで今後はエレスさんと呼ぶと伝えた。
同年代ではないがあだ名を呼ばれる事に鼓動が高鳴っているエレスティスは双子に今の気持ちを気づかれないように必死に平常を保とうとしていた。
「きゃああああっ!?」
「「「!!?」」」
アイル達が城下町南通りの近くであだ名について話していると女性の叫び声が突然に聞こえてきた。その声にいち早く反応したのは野次馬根性丸出し否、面白い事を待っていたアイルですぐに声の元へと勢いよく駆け出した。
元々、山奥の村で暮らしていた時も軍馬と同じレベルでさらに小回りが効く機動力を持っていたアイルだが、その非常に卓越した瞬発力は旅を始めてから常に成長しており、駆ける為に地を蹴るそれだけで百mを一秒足らずで駆け抜ける事が出来るようになっていた。それはエレスティスを驚愕させるには充分でもあった
「な、何あの速さ?! 普通に初速度とか全体的に馬よりも勝ってるじゃない……」
「馬と同じぐらいの速さで走るのは前々からでしたけど、旅を始めてからは顕著なんです」
コルネット城下町で離れ離れになると探すのに手間が掛かるのでアイラとエレスティスはアイルが駆け出した方向へと追いかける。叫び声が聞こえた方向は二人も分かっているので寄り道する必要はなく一直線にその声の地点へと急ぐ。
※
誰よりも早く駆け出したアイルは裏通りで長めの茶髪を三つ編みに編み、眼鏡を掛けている女性が倒れているのを見つけていた。強く押し倒されたのか上着が少々破けており右腕には擦り傷があり僅かに血が流れていた。
「お姉さん、大丈夫? いったいどうしたのさ」
「だ、大丈夫よ。ちょっと荷物を盗られただけだから」
「その人はどっちに行ったの? 今からボクが取り返しに行くからさ」
「あ、危ないわ! 相手は大人だし刃物を持っているのよ?!」
「ボクも剣持ってるんだけど」
「そ、そういえばそうみたいね。ごめんなさい」
荷物を盗られた女性は取り返しに行くと宣言するアイルを止めた。
刃物を持っている大人を子供が相手するには危険過ぎるという判断は一般的なごく普通の感性で間違いない。アイルも刃物しかも騎士が持つような立派な剣を装備しているものの、女性からはただの護身用の飾り物としか見られていなかった。
「荷物って何が入ってるの?」
「今月分の給与と婚約者から貰った指輪。あはは、嬉しくて傷がつくのが嫌だから装飾してなかったんだけど……していれば指輪が盗られる事はなかったんだけどね……」
荷物の中身を女性に訊ねると女性は落ち込んだ様子で指輪の事をアイルに教えた。
「なるほど~、お姉さんの大切な物も荷物の中に一緒なんだね。それならやっぱり取り返した方が良いよ、今ならまだ普通に間に合うからね! それで強盗犯はどっちに行ったの?」
「この道を真っ直ぐに行ったけど……ってあら?!」
強盗犯が去った方向をアイルから問われると南通りのさらに奥へと去って行ったとアイルに情報を伝えてアイルの方を向くと既にアイルはその場に立っておらず、女性は何処に行ったのかと周囲を見渡していると漸く追いついたアイラとエレスティスは屋根の上に立つアイルを見つけ今の状況に首を捻っていた。
「いくらなんでも速すぎよ……それになんであんな高い場所に居るの?!」
「分かりませんが……多分、何か目的があると思うのですが」
漸くアイルに追いついた二人は屋根の上に立っているアイルを見て何故と首を傾げてしまう。
先に到着したのはアイルでその前後にどんな事があったのか二人は分からない。その為、願望だがアイルには何か目的があるとアイラはそう思いたかった。
(けど……そうじゃないんだろうなぁ)
と思っているうちにアイルは屋根と屋根の間を易々と跳躍しながら強盗犯を探しに行った。
アイラとエレスティスが追いついた事には全く気付いておらず一向に背後を見向きもしなかった。
「一先ず私も追いかけますけど、エレスさんはどうしますか?」
「私も行くわよ。さすがに子供だけ行かせるわけにはいかないし……」
待っていれば恐らくこの場には戻ってくるだろうが、新たに面白い物を見つけて寄り道をしかねないのでアイラは追いかけるとエレスティスに告げるとどうするのかと問い返した。
子供だけ行かせるのは罪悪感が残り、城下町を一人で歩いた事も指で数える程度のためエレスティスは少し怖いという思いはあった。もっとも自分を王族という立場と見ない、見ていない双子と一緒にいたいという感情がエレスティスの中では大きかった。




