第2話
双天のステルラは純度100%ほのぼの小説です。
重い話は私が苦手なのできっとあまり出てこないと思いますが、時折真面目になる時があります。
ちなみにアイルとアイラの年齢は十歳ぐらいで正確な年齢は実は決まってません。ただ見た目は子供です。ショタとロリとか言わないで下さい。私にそんな趣味は一切ございません。
寧ろ年上のお姉さまが好きです。クールビューティー最高!!
剣の稽古をする為に表に出て一定の距離を空けて互いに向き合っているアイルと老爺。学校で授業を受けていた時とは違い真剣な表情で構え老爺を見据えている。どちらも先に行動することは無くジリジリと詰め寄っている。稽古と言っても剣の素振りから始まるのではなく木刀で実戦を行うのだ。基本中の基本は既に習得済みなので後は経験という事もあり実戦ばかりである。
アイラと老婆の二人は安全そうな場所で表にある材質が樹の長椅子に座って二人の事を見ている。
先に動いたのはアイル。雑草が生えている地面を右足で蹴り一気に老爺へと詰め寄り、素早く振り下ろすが老爺には簡単に見抜かれて体を少し左に逸らされただけで避けられる。既に老爺は反撃に移っておりアイルの頭部を狙い横払いに振るっていたが、アイルは腰を曲げるようにして紙一重に避けそのままバク転して距離を取る。
「なかなか反応速度が早くなったのアイル。それじゃ準備運動はこれ位にして本番を始めようかの」
「いくよお爺ちゃん! 少しはボクも強くなってるんだよ」
次は同時に動き二つの木刀は何度も交差し合い鍔迫り合いが始まる。老人と子供という言葉はそこにはなく国に仕える一般兵士よりも高いレベルでの剣戟が家の前で繰り広げられている。実力は拮抗しており攻撃がお互いに決まらない状況。勿論、本当に攻撃を与えるのではなく寸止めで止める。
「アイルも強くなったね。お父さんも嬉しそうで…ふふ、もう思い残す事は無いわねぇ」
ハイレベルな稽古を見学している老婆はにこにこと微笑む。血の繋がった家族が居ない老夫婦にとってアイルとアイラは本当の孫のようなもので二人と出会った事に感謝の念を忘れた事は一度もない。
子供は居ないけれど本当の孫のようなアイルとアイラと出会い楽しい日々を送ってきた老婆にとってもう思い残す事はなかった。隣に座っているアイラは老婆の言葉はあまり耳に入っておらず二人の稽古を熱中して見ていた。
「でやあああっ!」
「甘いのアイル。高く跳躍したその落下速度で威力を上げるは良いが外せば大きな隙となる」
「うっ…ボクの負けだよ」
約五m程の高さから一気に斬撃を決めようと跳躍したアイルだが単調故に避けられやすく一気に首元まで切っ先を突き立てられた。これでアイルは潔く負けを認めた。身体能力は高いが老爺に劣るのは技術面や経験の部分がやはり大きいだろう。身体能力の面は恐らくほぼ互角と言っても過言ではない。
それでも数多くの兵士達を鍛え上げてきた老爺と互角に近い程に戦えるのはとても凄いことで、長椅子に座って観戦していたアイラは二人に惜しみない拍手を送る。
「アイルもお爺ちゃんも凄かったよ。前よりずっと強くなってる!」
「えへへっ、そう言ってもらえるのは嬉しいな…わっ」
「アイラの言う通りじゃの。めきめきと実力を付けてきておる。後は多くの経験を積めば高名な戦士になれるのアイルなら! わはははっ!!」
「お爺ちゃんがボクの師匠になるね!」
「そうじゃの、ワシに取っては光栄な事じゃ」
アイラから素直に褒められると嬉しいので若干照れるアイル。そんなアイルの頭に軽く手を乗せて撫でながら実力を付けてきたと賞讃して経験を積めば何れは名高い戦士になれると推して嬉しそうに笑いう。そんな老爺を横にアイルは本当にそうなったら老爺が自分の師匠になると答えた。それは老爺にとっても嬉しいもので二人ともほくほく顔だった。
「アイルみたいに…私にも勇気があればな……」
髪の色や身長など容姿的な部分は類似しているのだが性格だけは真逆であった。だからこそアイラはアイルの色々な事へ挑戦する勇気が羨ましく思えていた。
「どうしたのアイラ?」
「ううん、なんでもないよ」
ジッと見つめてくるアイラの視線に気付いたアイルは首を傾げて何かあったか訊ねるとアイラは首を横に振って何もないと答えた。どちらが劣っているというのはないが、アイラにとってアイルの心の持ち方は羨ましいものであった。
アイルと老爺の稽古が終わった頃には日も暮れて暗くなってきているので、老婆が椅子からゆっくりと腰を上げて立ち上がる。それを見てアイラは慌てて老婆に走り寄ってふら付きそうな体を支える。
「それじゃそろそろ夕ご飯にしましょうかねえ」
「あんまり無理しちゃ駄目だからねお婆ちゃん」
「ごはん、ごはん! 今日のご飯ってなに!?」
夕ご飯を食べれる事に夢中でアイルは老婆に夕ご飯のメニューを聞いていた。
「今日はきのこスパゲッティとシチューだよ」
「うええっ…きのこはいらないよ~。でもシチューは沢山おわかりしたいな」
「私は人参が駄目だから、アイル交換しよ」
「うん、そうしよそうしよ!」
夕飯のメニューを聞いたアイルだがきのこという単語に嫌そうな表情を見せた。決して好き嫌いが多いわけではないがアイルはきのこは嫌いな食べ物である。シチューには人参も入っているので人参が嫌いなアイラはアイルときのこと人参の交換を約束した。
老婆と老爺は当然隣で一緒に歩いているので聞こえており、二人に好き嫌いをせずにきちんと食べるように言われる。
「ちゃんと食べないと大きくなれないよ二人とも」
「そうじゃの。もしかしたらご飯が食べられなくなる時だってあるかもしれないしのう」
好き嫌いを咎めるわけではないが少しは食べてほしい気持ちは老婆と老爺の両者にはある。子供のアイルとアイラには分からないだろうが昔はあまり食糧がない時もあったので食べれる内に沢山食べたほうが良いと老爺は二人に教える。
「それじゃ、頑張ってちょっと食べてみるよ」
「私も人参を少しだけ」
老婆と老爺に説得されて少しだけ食べると決めたアイルとアイラ。その後、宣言通りに嫌いな茸と人参をアイルとアイラは他の食べ物と一緒には食べた。アイルは結局三杯ほどシチューをお代わりしていたが。
夕ご飯を食べ終わると二人は学校で出された宿題をやり終えて、殆どアイルがアイラに分からない問題を教えてもらう形になっていたが。その後、一緒にお風呂に入って二人はそのまま同じ部屋で寝た。
※
アイルとアイラが寝静まったのを扉を少し開いてこっそりと見る老爺。二人が寝ているのかを老爺に確認する為に老婆が杖をついてゆっくり歩いてきた。やはり足腰が少々弱くなってきているのか老爺が倒れない様に支えながら懐かしむようにアイルとアイラと出会ったのが五年前だと語り始めた。
「お父さんやアイルとアイラはもう寝たかい?」
「ああ、2人仲良く寝ておる。ワシ達がアイルとアイラと出会って、もう五年は月日が経ったんじゃのう」
「ええ…森の奥で二人で倒れていた時は吃驚しましたけどね」
今日のように青空が広がって太陽の光が大地を照らすそんな五年前に老夫婦はアイルとアイラの双子に出会った。老夫婦が何時ものように森に入って必要な分だけの樹を切り倒すだけの偶然でもあった。どちらも出会った時に互いに名前すらなくアイルとアイラという名前も老夫婦が名付けたものだが双子はえらく気に入り自分の名前となっていた。
両親の名前や顔、双子の生い立ちなどは全く分からないまま五年という月日が流れたが老婆はたまにふと思う事があった。
「最近思う事があるんですお父さん。本当は二人とも本当の両親に会いたいんじゃないのですかね」
五年間一緒に生きてきた中で二人の口からそういった言葉は一度も出てくる事はないのだが、本音はそう思っているのかもしれないと老婆は老爺に言ってみた。老爺は髭を擦りながら少し思案して老婆の考えへの答えを出した。
「分からんが少しはそういう気持ちはあるかもしれないの。それに二人が倒れていた所に落ちていた剣と弓らしきもの……アレは二人の物だろうしの」
決してそういう気持ちがないわけではないと答えを出した老爺。さらに二人が倒れていた時に落ちていた剣と弓の事を思い出す。まるで宝物と呼べるような輝きを放つ剣と弓なのだが、剣は鞘から抜けないようになっており弓に関しては弦がないので使い物にならない。だが、老爺はあの武器は二人の為にある物なのだろうと確信していた。
「私はもう充分幸せでしたよお父さん。アイルとアイラは本当に孫のようで……ぅぅっ」
「母さんやあんまり無理しちゃいかん!」
そして老婆はアイルとアイラと一緒に居られた事はとても幸せだったと言っている最中、心臓を押さえて苦しみ出す。決して急にではなく本当はアイルとアイラと出会っていた頃には患っており最近は顕著に現れてきた。だが、それをアイルとアイラの前で苦しまないのは二人を心配させない為である。
苦しむ老婆の背中を優しく擦りながら老爺は無理はしてはいかんと言う。無理をすればより病状は悪化して本当に双子が心配してしまうからだ。血の繋がりはなくとも家族なのだから双子は心配かけたくないのだ。