第13話
お化け退治編の始まりです。このお化け退治編も双子に関する事を少しだけでも出して行きたいなあと考えている鈴乖です。
そろそろ本格的に物語を進めないといけないのですがまだまだ双子の冒険篇は続きますよ~、後20話ぐらいは確実に。長いですけど、あっさりと次の章にはいけないんですよね。
さて、十三話も楽しんでもらえれば幸いです
雨に濡れながらも町に到着した双子は眠っている間に見知らぬ家で目を覚まし、エルネという少女と一緒に居間へと足を運んだ。居間には年の若い妻がエプロンを着て料理を作っており、シチューの甘い匂いがエルネと双子の食欲を刺激する。
エルネが母親に声を掛けようと口を開こうとした時、お腹の音が聞こえてエルネとアイラはその根源へと視線を向けると笑いながら自分のお腹を擦っているアイルがいた。
「あははっ、シチューの匂いがしてお腹空いちゃった!」
町に到着するまでは木の実などしか食べていなかった事もありアイルの空腹は限界が近かった。そんな時にシチューの甘い匂いが一層空腹感を刺激しお腹の音が鳴ったのである。
「あらあら、それなら皆で昼食を食べましょうかね」
「やったー! なんだか久しぶりに普通のご飯を食べれるよ」
「あの…本当に良いんですか? 見ず知らずの私達にもご飯を……」
アイルの腹の音を聞いたエルネの母親は木で作られたお椀にシチューを注ぎながらこの場にる全員で昼食を食べようと勧めてアイルは嬉しそうに喜ぶ。しかし、部屋を借りて一泊させてもらった上に昼食まで食べさせてもらうのは図々しいのではないのだろうかとアイラは思ってしまい、エルネの母親の提案を快く呑めなかった。すると優しげな表情を見せながらエルネの母親は昼食を一緒に食べるように勧める。
「大丈夫よ、子供二人分ぐらい何ともないから気にしないで食べてちょうだいね」
「それでしたらお言葉に甘えさせてもらいます。アイル、ちゃんと考えてから食べてね」
逆に勧められたのでアイラは厚意に甘える事にした。それでもお客という立場である事にはなんら変わりないので、量を考えるようにと注意だけをした。
「分かってるよー、ボクだってそこまで図々しくないよ」
「ホントかなぁ……」
ご飯を勧められた時は迷う事なく食べようと思い椅子を引いて座ろうとしていたのでアイラは白い目で見ていた。そんな二人を見ながらエルネがおどおどとしながら話しかけてきた。
「ど、どうして二人は家の前で寝てたのかな……?」
「関所からずっと歩いてて…そのまま町に着いた安堵で…かな」
話の内容は双子が家の前の壁に寄り掛かって眠っていたのかという点についてだった。実際、傍から見れば不自然極まりない姿ではあったので理由だけを訊くとアイラはやや恥ずかしそうに赤面しながら寝ていた理由を答えた。溜まった疲労と町に着いた安心感で場所を選ばずに眠ってしまった事は今思い返せば非常にみっともないものだと実感してしまうアイラ。
関所を通って来たという言葉にエルネは興味を持ったのか続けて質問を出した。
「二人は旅人なの?」
「そうだよ、もう一週間ぐらい経つんじゃないのかな。そういえば僕の剣はどこにいったの?!」
今更だが剣が手元にない事に気付いたアイルは少々焦った。寝ている間に盗まれてしまったのかと勘違いしてしまうのも無理はない。アイルが持つ剣は売れば相当な額、下手すると宝具認定もなるかもしれない程に装飾されたしかし、その斬れ味は本物という武器なので決して盗まれないとは言い切れない。
アイルの剣がないと騒いでいるとエルネの母親が壁に立てている剣を指差す。
「もしかしてあの立派な剣のこと?」
「うん、そうだよ! よかった~誰かに盗まれてたのかと思っちゃったよ」
「星天のエルトリアに登場する剣に良く似てるわね」
壁に立ててある剣が自分の物だと分かると剣の方へと歩み寄る。エルネの母親はその剣が星天のエルトリアという叙事詩に登場する剣と似ていると口にする。しかし、星天のエルトリアという本を知らない双子は疑問符しか出なかった。
「「星天のエルトリア?」」
山奥の村では本が売られる事はあまりなく双子は世界的に有名な叙事詩を知らず、それが意外なのかエルネはちょっぴり驚いた目をして双子を見ていた。
「それなら後で見せてあげるね」
「でもボクはあんまり字を読むの好きじゃないんだよね」
「私はちょっと読んでみたいかな……」
星天のエルトリアを知らないというのでエルネは双子に食後に見せると約束するが、アイルは少し憂鬱そうにしていた。元々あまり活字を見ないので小説系は苦手なのだ。逆にアイラは暇さえあればグランやマーザが昔から持っていた本を読んでいたので星天のエルトリアに興味を抱いていた。
「ふふ、それじゃお昼ご飯を食べましょうかシチューも冷めちゃうもの」
エルネが楽しそうに話している姿を見て嬉しそうに微笑みながらシチューが冷めるのでそろそろ食べるように勧める。やはりシチューなどは温かい方が一層美味しさが増すというもので、アイル達は両手の掌を合わせてご飯を食べる前の常套句を口にする。
「「「いただきまーす」」」
「はい、じゃんじゃん食べてね」
バゲットと呼ばれるパンをナイフで切り分けるとエルネの母親は小皿に小さなバターの欠片と一緒に置いてアイルとアイラに渡す。切り分けられたパンを貰うとアイルは目を輝かせて嬉しそうにそのままかぶりつき、アイラは小さく頭を下げ、パンを手で小さく千切ってシチューに浸して口にいれる。
※
昼食を食べ終わる頃には雨音も小さくなっており土砂降りから小雨へと変わっていた。双子は約束通りエルネの部屋に着いて星天のエルトリアの本を見せてもらっていた。羊皮紙本で全十集という長編小説でアイラは何時もと違い目を輝かせて本を見ていた。表紙には天使の翼が一対描かれており題名は黒色で星天のエルトリアと書かれている。
「星天のエルトリアは作者によって少し内容が違うんだよ本筋は同じなんだけど。多分、大きな町にある図書館に行けば色んなのがあると思うんだけど」
「作者が複数名いるの…?」
創作系でありながら同じタイトルを扱う作者が複数いる事にアイラはつい不思議に感じ首を傾げてしまう。普通は作者は一名の筈だが同じ作品を幾人もの人によって書かれる事は滅多に無い。
「私も詳しくは知らないけど」
「そうなんだ、教えてくれてありがと」
(何時か図書館を訪れた時に読んでみたいなぁ、今はそんな事無理だけど)
面白そうな本を見付ける事が出来たアイラはエルネにお礼を述べながら、図書館のある町を訪れる機会があるのならば一度読んでみようと決めた。
アイラとエルネが本について語っているとドアを叩く音が二度聞こえてきて、その直後にエルネの母の声が聞こえてきた。
「エルネ、お願いがあるのだけれどアジを買って来てくれないかしら。今日は魚料理にしたいのだけど材料がなくてね」
「う、うん分かったー」
「ボク達も着いて行くよ。その時に僕達も旅立ちの準備をしたいから」
「長旅の準備ちゃんとしないと、また同じ繰り返しになっちゃうもんね」
夕飯の材料を買うように頼まれるのを聞いた双子は旅立ちの準備を一緒にしようと立つ。旅を舐めていたわけではないがもう少し道具を揃えておくべきだったと反省している双子。特に雨に濡れている間は服が体に張り付いて動きにくい事もあったのだ。ファゴット王国の城下町で買った煙玉も体力が限界に近い時に現れた魔物から逃げる際に使用した為にもうない。だが、煙玉も結構逃亡するのに使用出来る事が判明出来たので少し多めに買おうと考えているのだ。
「えっ…二人は、もう旅立っちゃうの? まだゆっくりしても良いのに……」
旅立つを準備も兼ねて買い物に同行すると言うとそれが双子の旅立ちだという事を察し、寂しそうな表情を浮かべていた。
「遊びたいけど迷惑を掛けるわけにはいかないよ。お金だってそんなにないから宿代ばかりに使えないもん」
「アイルが堅実的な事を言ってる……明日も雨かも」
まさかアイルが律儀な事を言うとは思わなかったアイラは意外そうに見ており、明日も雨なのではないかと疑ってしまう。
実際、宿代も決して安いわけではなく双子も金銭面に関しては慎重である。時折、魔物が持つ宝石類を持っておりそれを売って現金にする事もあるが、宝石よりもガラクタ類の方が圧倒的に多いので運に左右される。
「そう…だよね。そういえば二人はなんで旅を…?」
「ボク達のお父さんとお母さんを探してるんだ。一度も顔を見た事がないから、世界を旅すればきっと会えると思ってね」
ずっと気になっていたエルネの疑問。それは同じ年代ぐらいの双子が危険を冒してまで何故旅をしているのか。それを問われるたアイルは何の躊躇も無く、まだ見ぬ両親の事を話す。
「一度も顔を見たことが…ないの?」
「ないかな。どんな人達なのかも聞いたことがないから…」
「そんな…事ってあるの?」
理由を教えてもらったエルネは非常に驚いた表情を見せてアイラに確認をとると、アイラもアイルの言っている事は本当だと肯定した。アイラにまで肯定されたエルネは呆然と考えていた。普通、子供には両親がいるものではないのかと色々と頭の中で考えてしまう。さらにどんな人だったのかも聞いたことがないと言うのだからエルネが呆然とするのも無理はなかった。
「辛気臭い話は終わり! それじゃ、買い物に行こうよ」
「それが良いね、エルネちゃん行こ」
「う、うん……」
辛気臭い話を無理矢理終わらせたアイル。にっこりと微笑みながら手を差しだすアイラの手を掴んで立ち上がって二人の背中を見つめる。
両親の顔も知らないという可哀想な境遇に居ながら何故、あんなにも元気でいられるのかエルネには分からなかった。自分ならばきっと悲しくて泣いていると考えながら双子の後を着いて行く。
※
夕食のお使いを頼まれたエルネに同行する双子は市場を訪れていた。市場には小道具屋や魚屋、肉屋などが立ち並んでおり客を呼び寄せている。この市場にも旅の為の道具は売られているので双子もどれにするか迷っていた。道具屋によって値段は多少前後するのでしっかりと吟味している。もっともプロのような目利きできるわけはないので殆ど安い物を買う事に拘ってはいるが。
食糧も生物ではない果物や木の実などを多く買っている。特に果物には栄養分が多く含まれているので長旅には持って来いではある。もっとも肉や魚も食べなければ体力はつかないのだが、動物を狩れる程そこまで双子は非情にはなれていない。
「あーっ、エルネじゃん!」
「ほんとだー、そんな所でなにしてんの~?」
双子と一緒に買い物をしていると町の少年少女がエルネに声を掛けながら走ってきた。しかし、エルネは何故か嫌そうな表情を見せていた。いや、どこか拒絶しているのが分かる。
「……ギンタ君」
(エルネちゃん……の姿何処かで?)
アイラは僅かに体が震えているエルネを見逃さなかった。その姿を見てアイラは既視感を感じていた。以前にも誰かも同じ様に震えていた姿。
「あ……」
(私と同じなんだ……。両親が居ない事を理由に苛められていた頃と同じ私と)
そう双子がグランとマーザの老夫婦に出会って数ヶ月後ぐらいの頃、両親が居ない事を理由に苛められていた頃と同じ感じであった。そのアイラが他の者達と仲良くなれたのはやはりアイルの存在が大きかった。
「エルネ、ちゃんと今夜行けよ! お化け退治に!」
「お化け退治?! お化けがこの町には出るの?!」
「お、お前誰だよ?!」
少年ギンタがエルネにお化け退治に行くように強い口調で言うとそれに反応したアイルが目の色を輝かせて食いついた。急に知らないアイルが食いついてきたのでギンタは後ろに身を引いていた。
「ボク? ボクはアイルでこっちがお姉ちゃんのアイラ! そんでエルネの友達だよ」
「あ、宜しくお願いします……」
勝手に自己紹介をし始めたアイルに釣られてアイラも小さく会釈した。
「あの一人で…エルネちゃんがお化け退治に行くの?」
「ああ、そうだ! そうすればエルネは俺達の仲間になれるんだからな」
「そんなの酷いよ…! お化け退治を一人だなんて!」
「べ、別にお前には関係無いだろ! そもそもよそ者がしゃしゃり出るなよな!!」
そして一人でお化け退治に行かせようとするギンタに最低だと文句を言うアイラにギンタも負けじと言い返す。そんな論争があっているとアイルが小さな疑問をぶつけた。
「君達はなんで一緒にいかないの? もしかしてお化けが怖い?」
決して馬鹿にして言ったわけではない。しかし、あまりにも無垢な笑顔でそれはとても輝いていて少年少女は馬鹿にされたと勘違いしてしまった。
「こ、怖いわけないよなあ!」
「そ、そうだよ!」
「でも君達はお化け退治したことないでしょ。お化け退治をエルネにさせようとしてるんだから、やっぱり怖いんじゃないの?」
(アイルのペースに引きずり込まれてるような……)
明らかにアイルのペースに呑まれているのではないかとアイラは横目で見ていた。口が回るでのはなく単純に言いたい事を言っているだけなので特に考えはないのだが、それでも子供には充分効果的である、特にギンタのようなガキ大将は簡単に引っ掛かる。
「ならお前も来いよ! 俺がお化けなんて怖くない事を証明してやる!!」
「勿論だよ。楽しみだもんね、お化け退治だなんてワクワクするよ~」
(み、見事に釣られちゃったね…あの子。……あれ何か私忘れてる?)
元々お化け退治に行く気満々だったアイルは寧ろワクワクしていた。
この時はやっぱり釣られたと思ってみていたアイラだが大切な何かを忘れており、それを必死に考えていた。




