第1部 並木道
名前 藤岡敦士
年齢 17歳 高2
主張 只々自由に生きる事
現在家を出てマンションで一人暮らし
高校は一時停学中
―2005年 春
「ありがとうございましたー」
ガーッ
朝 6時30分。
こんな速い時間帯にコンビニから一人の青年が出てきた。
手には沢山の食材が入っているビニール袋を提げている。
やはり眠いのだろうあくびをし目を擦っている。
ルックスは中々。
女子ウケしそうな顔立ち。
だが、「格好良い」と言うより「可愛い」と言った方があっているだろう。
髪はサラサラストレートヘア、染めたわけではないがほんのり赤みがかかっている。
今時の高校生男子とは違い、服装もわりときちんとしていた。
そう、それが「藤岡敦士」
敦士は長い並木道を歩きながら携帯電話をいじくっていた。
並木道の周りにはきれいなマンション、アパートが並んでいる。
すると一本の電話がかかってきた。
「・・・・・もしもし?」
『もしもし』
「もしもし藤岡ですが。」
『もしもし』
「・・・・切りますよ。」
敦士が携帯電話に向かって言った。
『あははー、怒るな怒るな!これはちょっとしたジョークだよっ』
「ったく。ジョークって言ってもなぁ・・
俺がこんなジョークにいつも引っかかると?」
呆れた顔で敦士が言う。
そして今会話中の相手は渡邉悠月。
家が隣どうしであった為か幼い頃から仲が良く、兄妹のような関係だ。
現在地元の高校2年生。部活は空手部に所属している。
空手は小学1年生の頃、親に護身用として習わされていたため中学、高校と
ずっと空手を続けてきていたのだ。
流石に約10年も続けてきただけある。この間の県大会では、見事に組手の部
の方で優勝して帰ってきた。形の部の方では第3位だったという。
『敦士はさぁ普通の女の子よりも可愛いんだから・・
そのガサツな口調、やめた方が良いよ?』
「お前は顔も口調もガサツだな。やめた方が身の為だぞ?」
『・・・・』
(あ・・・)と思いつつも敦士は本来の話に戻した。
悠月の怒りを抑えるには話の話題をすぐに変えるのが一番効果的。
何故かと言うと、悠月は一度話していた話題を急に違う話題にされると
変えた話題に集中してしまい、前に話していた事を忘れてしまうのだ。
「んで?こんな朝早くから何か用?どうぞご用件を。」
『え、あぁ特には無いんだけど。あのな、この間本屋さん行ったんだよ。
そしたら、ピアノピティナコンペティションって言うピアノのコンクール
のチラシが置いてあって・・敦士は出ないかなーって思ってさ!』
「・・・・」
敦士は歩いていた足を2、3歩ゆっくりとペースを落とす。
足を止めた。
しんと黙り込んでしまう敦士。木の葉がはらはらと落ちてくる。
『あ・・・そっか。そうだったね、ごめん』
はっとしたように悠月が言った。
「・・良いよ、別に。・・・それじゃ、な」
『あ、敦――』
ピッ
悠月が言い終らない内に携帯電話を切ってしまった。
「ふ・・・。」とため息をつく。そして歩き始めた。
長い並木道。
きれいに並んでいる沢山のマンション、アパート。
設備の良い図書館。
敦士はその内、一軒アパートの階段を上って行った。
そのアパートの名前は
「ピアニシモ」