第4話
第4話
飛び出していった光翼が、再び訪れた。先ほどまでのやる気のない顔はどこかへと吹き飛んで、今は頭部全体の筋肉を使って顔をゆがめているかのようだ。
「光翼、ここに来るということは、手詰まりなのか?」
「手詰まりというか……不可解な部分がある。容疑者はある程度絞れているんだが、どうにもわからない部分がある。そこがわかれば捜査も進展すると思うんだが」
「詳しく聞こうか」
一志は自分用のデスクから応接用のソファに移り、光翼の真正面に座った。新も一志の横に座る。
光翼は事件の説明を始めた。先ほど後輩から聞いたことを一字一句もらさず、丁寧に伝えた。そして、光翼の中にひっかかって事件の進展を遅らせている不可解な点についても。
一志はしばらく無言で考えていた。新にもロケットの写真を見せて表情で伺うが、彼も首をひねるばかりだ。
「ううん・・・・・・これだけじゃなぁ。この発射台が重要な鍵だということしかわからない。被害者を含めた四人の共通点はスポーツバーだけなんだろう?スポーツなら新の方が詳しいしなぁ」
話を振られた新が、困ったように頬を掻きながら写真を一度テーブルに戻す。
「指紋や血液が拭き取られた形跡があるのは発射台だけですか?」
「ああ。ロケット本体は何もない」
新はううんと唸ってソファの背もたれに全体重を預けた。
「スポーツの話なら今日していたんだけどね」
「そうなのか?」
「はい。僕が昨日野球の試合を見に行って、今日スポーツニュースでサッカーの試合結果を見ていたので、先生に笑われたんです」
朝、一志が事務所に入ると、新がすでにいた。本棚に入っている洋書を読んでいたようだ。
『新、光翼が追った事件の詳細はニュースで報じられているかい?』
『すみません、先生。僕、スポーツコーナーしか見ていないんです』
新が本を閉じて棚に戻しながら言うと、一志は腑に落ちない表情をした。
『野球なら昨日見に行っただろう?』
『気になったのはサッカーの結果ですよ。今日はさいたまダービーでしたから、どっちが勝ったか気になって』
一気に合点が行って、一志は思わず破顔した。
『ハハハ、全く新はスポーツが好きだな。そういえば、前の事件を解決したのも新のスポーツの知識だったね』
『たまたまですよ。先生もスポーツ一緒に見に行きませんか?来週、サッカーの試合を見に行くんです』
『いやぁ、やめておくよ。サッカーのファンは血の気が多いからね』
『先生、サッカーはファンではなくサポーターと言うんですよ』
『そういえばそうだったな』
新が説明していると、一志の目が急に鋭く力を帯びた。この時だけはいつも浮いている眼鏡が合って見える。
「ハル、私のデスクからパソコンを持ってきてくれないか」
「はい、先生」
新はすぐにノートパソコンを応接用のデスクに置いて電源を入れた。間もなくして待ち受け画面が表示された。
「何やっているんだ、一志?」
「私の記憶が正しいならば、そのロケットの意味がわかる。記憶が正しいか否かを今調べるところだ」
一志は言いながらマウスを操作し、インターネットにつないだ。キーボードで何かを入力して、何かのページを見ている。それを横から見ていた新が驚いた表情をする。一志と新は顔を合わせて笑った。