第3話
第3話
光翼は一旦外に出て新しい空気を吸った。殺人現場の空気というものは、どうにも荒んでいる。あんなところにずっといたら、息が詰まってしまう。本当ならば煙草が一本欲しいところだが、如何せん今は禁煙中で持ち歩いていない。
今日は帰ったら飲もうと決めたところに、先ほどの後輩の刑事がやってきた。何か新しい情報があるらしい。
「先輩、凶器が発見されたそうです。ここからしばらく行ったところの川岸に、ゴルフクラブが捨てられていました。誰のものかはまだわかりませんが、ゴルフクラブについている血液と、被害者の血液が一致したとのことです」
「そうか。よし、進歩だ」
「それと、不可解な点が一つ浮き出てきました」
「不可解な点?」
光翼が尋ねると、後輩の刑事は一枚の写真を見せた。学生が工作で作るような、小さなロケットだ。
「これは被害者が高校時代に作った小型ロケットなんですが、この発射台に指紋と血液が拭き取られた形跡があるんです」
「拭き取られた跡?」
「はい。解剖の結果からもわかっていますが、被害者は即死じゃありませんでした。最低でも数分は生きていたし、少しは動けました。つまり、被害者はこれを持っていたってことになります。それに犯人が気付き、痕跡を消して元に戻した……ってところでしょうか」
「つまり、これは見られると相当ヤバイものだったってことか……」
「そうなりますね」
「何を意味するんだ?」
「それがわかれば、苦労しません」
「全くだ」
ふぅ、とネクタイを緩めて溜息を吐き出すと、少し頭の中が楽になった気がする。
「そういや、被害者は何のスポーツが好きだったんだ?」
「特になかったみたいですよ。スポーツ全般が好きだったみたくて、贔屓にしてるチームや選手はいなかったそうです」
「そうか。ところで、このロケット、発射台に拭き取られた跡があるって言ってたが、発射台だけなのか?ロケット本体の方は何もなかったのか?」
「はい。だから余計におかしいんです」
「だな」
光翼は参ったという風に肩を落とした。どうやったら犯人と証拠を挙げられるか。
「世話になるかな……」