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2月13日 バレンタイン前日

 今年もまた、バレンタインの季節がやってきた。我が家に菜摘、蘭がやってきて、チョコづくりをすることになった。

 去年と違うのは、そこにひまわりも参加していることだ。

「うわ。こんなになっちゃったよ」

 ひまわりは初のチョコつくりに苦戦している。溶かして型に入れるだけなんだけど、手もそのへんも、チョコだらけにして慌てている。


「大丈夫だよ。ひまわりちゃん。あとは型に入れるだけなんだから」

 菜摘が余裕の発言をした。菜摘と蘭と私は、チョコブラウニーというのを作っている。

「ねえ。蘭」

 私はちらっと蘭を見ながら、

「基樹君と仲いいよね」

と言ってみた。


「え?」

「聖君もよく言ってるんだ。蘭ちゃんと基樹、たまに店に来るけど、べたべただよって」

「聖君が?」

「うん」

「そ、そんなに私らべたべたしてないよ」


「え~~~。そうかな。クリスマス会でもべたべたしてたじゃん」

 菜摘もそう言いだした。

「菜摘と葉君だって、仲いいじゃん」

「私たちは前から、変わってないよ。葉君って前と変わんないもん」

 そういえば、仲いいけど、べたべたくっつくことはないな。葉君と菜摘。


「桃子と聖君には、うちらも負けるって」

 蘭が私を見て、わざと腕を私にぶつけたりした。

「ね?ひまわりちゃん。聖君と桃子、家でも仲いいんでしょ?」

「う~~ん。最近はあまり、いちゃついてないかなあ」

「え?」


 菜摘と蘭が同時にひまわりを見た。

「け、倦怠期とか?」

 菜摘が今度は私の顔を、申し訳なさそうに見ながら、そう聞いてきた。

「違うよ。ね?お姉ちゃん。お姉ちゃんのお腹大きいから、お兄ちゃんもべたべたしなくなったっていうか」


「お腹大きいから、べたべたしないって、やっぱり、倦怠期」

 蘭も私に申し訳なさそうに聞いた。

「仲はいいよ。ただ、お兄ちゃん、お姉ちゃんのお腹をすごく気遣ってる。お姉ちゃんが少しでもお腹をさすっていると、桃子ちゃん、お腹張ってるの?大丈夫?って言って、お姉ちゃんの周りをうろちょろしてるんだよね」


「うろちょろ?兄貴が?」

「そうなんだよねえ。聖君、そういう時にどうしていいかわかんないみたいで。だから前みたいに、抱きしめてくれたりしなくなっちゃったし」

「え?抱きしめる?」

 菜摘が目を点にして聞いてきた。


「おかえり!ただいま!のハグも玄関でしてないよね」

 ひまわりが私に言った。

「うん。玄関に私がたどりつく前に、リビングのほうに来ちゃうんだもん」

「ハグ?じゃ、今まではいつも、ハグしてたってこと?」

 蘭が目を丸くして聞いてきた。


「あ、でも、いまだにお風呂は一緒に入ってるよね」

 ひまわりがしれっとそう言った。

「一緒に、お風呂~~~?!」

 菜摘と蘭が同時に叫んだ。ああ、ひまわり。この二人には内緒にしていたのに~~。


「ひまわりちゃん。2人って一緒にお風呂に入ってるの?」

 菜摘がこそこそとひまわりに聞いた。でも、その声、こそこそしたって私に筒抜けなんだけどな。

「結婚してからずうっと、毎日一緒に入ってるよ」

 またひまわりは、しれっとした顔でばらしてくれた。


「きゃ~~。一緒にお風呂!それは基樹ともしたことないなあ」

 蘭が顔を赤くしてそう言った。

「え?蘭、してみたいの?」

 菜摘はちょっと青ざめて、蘭に聞いた。

「菜摘は葉君と、一緒に入りたくないの?」

 逆に蘭がそう菜摘に聞いた。


「わ、私は」

 菜摘は思い切り戸惑っている。

「まあ、お兄ちゃんとお姉ちゃんは夫婦なんだから、一緒にお風呂もありだよね、全然」

 ひまわりは、大人ぶってそんなことを言いだした。


 チョコレートも仕上がり、キッチンをきれいに片づけて、リビングに行き、私たちはまたガールズトークに盛り上がった。

「最近よく家に、ひまわりちゃんの彼、来るんだって?」

 菜摘が聞いた。


「兄貴が言ってたよ。けっこう気のいいやつなんだよって」

「うん。かんちゃん、お兄ちゃんのことすごく気に入ってて、それでよくうちにもやってくるの」

「え?じゃ、兄貴に会いに来てるの?」

「そうだよ。じゃなかったら、来ないよ」

「え?ひまわりちゃんに会いには?」


「え~~。だって、ほとんど毎日バイトで顔合わせてるんだよ?」

 ひまわりがそう言うと、

「デートはしないの?」

と蘭が聞いた。

「してるよ。バイトのお休みも、同じ曜日にしてるもん」


「ひまわりちゃんも仲いいんだ」

 菜摘がそう言った。

「う…。でも最近ちょっと」

 ひまわりが言葉を濁した。そうなんだよ。ひまわりは最近、悩んでるんだよね。


「どうしたの?」

 蘭が心配そうに聞いた。

「…クリスマスイブにかんちゃんと、初めてキスをしたの」

「うんうん」

 蘭も菜摘も目を輝かせた。おいおい…。


「それから、よくキスをしてくるようになって」

「うんうん」

「それで、バレンタインに、私のことが欲しいって言い出したんだよね」

「え?!」

 蘭も菜摘もいきなり、赤くなった。


「ひまわりちゃん、高校1年だよね?それはちょっと、早いんじゃない?」

 菜摘がそう言った。

「でもさあ、付き合ってもう長いよね。じゃ、そろそろ彼氏のほうもしびれ切らす時期だよね」

 そう言ったのは蘭だ。


「桃子はどう思う?」

 2人に同時に聞かれてしまった。

「私?」

 う。なんて言っていいものやら。私もさすがに高校1年じゃ早いよって言ったけど、高校3年で妊娠したり、結婚までしちゃったお姉ちゃんに言われたくないと、ひまわりについこの前言われたばかりだ。


「お兄ちゃんにも相談したの」

「え?聖君にも聞いちゃったの?」

 それ、初耳。聖君、何も言ってなかったよ?

「兄貴、なんだって?」

 菜摘が聞いた。


「…まだ、早すぎる。もっと、じらしてあげなさいって言われた」

「なんだ、そりゃあ。よく言うよ。桃子にさっさと手を出したくせして」

 菜摘がそう言って、呆れたって顔をした。

「だけど、それもいいかも」

 蘭が真面目な顔をしてそう言いだした。


「え?どうして?」

 ひまわりが聞いた。

「ちゃんとひまわりちゃんのことを大事に思ってるかどうか、わかるじゃん?大事にしてくれる人と結ばれたほうが絶対にいいよ」

 蘭、なんだか説得力ありありなんですけど。


「基樹、大事にしてくれてるもん。やっぱり、元彼とは全然違うって思うんだよね」

「へえ。そうなんだ。基樹君、大事にしてくれてるんだ」

 菜摘がそう言った。

「それに、蘭にメロメロなんだってね?」

 私がそう言うと蘭が、

「それも、聖君が言ってたの?」

と真っ赤になって聞いてきた。


「うん」

「もう~~。聖君め。今度会ったらとっちめる!」

 と、とっちめる?ってどうやって?


 菜摘と蘭はチョコを持って帰って行った。

「明日かんちゃんに渡すの?」

 ひまわりに聞くと、

「うん。バイトの帰りに渡す予定」

とひまわりは言った。それから、顔をこわばらせ、

「私のことは、プレゼントできなくて、ごめんって言うつもりなんだけど、かんちゃん、じゃあ別れようとか言ったりしないかなあ」

と聞いてきた。


「それで別れるような男なら、別れたほうがいいと思うけど」

「あ、お兄ちゃんと一緒のこと言ってる」

「聖君もそう言ってた?」

「うん」

 そうか。


「でもかんちゃんなら、大丈夫だよって、お兄ちゃんは言ってたけど」

「…そうなの?」

「うん」

 私はあまり、かんちゃんと話したことがないから、今いち性格とかつかめてないけど、聖君はかんちゃんの性格もわかってるみたいだし、聖君がそう言うなら間違いないかなあ。


 私はというと、今日さっそく聖君が帰ってきたら、チョコをあげるつもりだ。今年も多めに作ったから、明日れいんどろっぷすにも持って行ってもらおう。


 聖君。私のことはプレゼントできなくて、ごめんなさい。と謝って、チョコだけをあげようかな。私も。


 なんて思っていたのに、聖君は帰ってくるなり、

「あ。すげえチョコの匂い。今日作ってたんでしょ?どこ?」

と突然聞いてきた。

 どこって、あのね。そんな簡単に催促されても…。


 するとひまわりが、聖君ようにラッピングしたものを先に、

「はい!私から」

と言って、渡してしまった。

「え?ひまわりちゃんの手作り?」

「うん」


「すげえ。俺、もらってもいいの?」

「うん」

「サンキュー。ひまわりちゃん」

 聖君、それ、最高の笑顔じゃない?ひどい。私がチョコをあげて、その笑顔でサンキューと言ってもらうつもりだったのに!


 なんか悔しいかも。

「桃子ちゃんのは?」

「あげない」

「え?」

 聖君が青ざめた。


「だって、ひまわりからので十分でしょ?」

 そう意地悪も言ってみた。

「え?じゅ、十分って?」

「…まだバレンタインデーじゃないもん。明日あげる」

「あ、そっか」

 聖君がほっとしていた。


 本当はバレンタインの前日でも、今日あげるつもりだったのにな。

「じゃ、お風呂に入りに行こうよ。桃子ちゃん」

 なんだか、悔しいし、断っちゃおうかな。

「俺、先に入ってるよ」

 聖君はさっさとお風呂に行ってしまった。


 バカ。あほ。そりゃね、ひまわりが作ったチョコを、無愛想に受け取ったりしたら、それもそれで怒っちゃうと思うけど、あんなに喜んで受け取らなくたっていいじゃん。それも、最上級の笑顔で…。

 なんか、やっぱり悔しいかも。


 お風呂に入っても、何も言わずに私はふくれていた。でも、まったく気がつかない様子。

「背中から洗っちゃうね?」

と言って、私の体を洗い出してる。

 それから聖君は私の前に立って、お腹を洗い出そうとして、

「うわ。これ、凪の足?」

と私のお腹を触ってきた。


「え?うん。凪の足の裏だ…」

 私のお腹に凪の足の裏が、ぼこってでっぱっているのが見えた。どうりでお腹が痛かったわけだ。今、お腹の中で足をのばしてるんだな…。


「固い。凪の足の裏」

「うん」

「すげ~~。凪の足だ~~~」

 聖君が目を輝かせて見ている。


「おへそ」

「へ?」

「私のおへそ、なくなっちゃった」

「あ、そうだね。おへそってやっぱり、ただへっこんでるだけなんだねえ。お腹が大きくなると、おへそ消えちゃうんだねえ…」

 聖君はそう言った後に、今度は凪の足の裏をつついた。


「これ、つつかれてるのって、凪もわかるかな」

「さあ?」

「凪~~。パパでちゅよ~~」

 お腹に今度は話しかけた。ああ、もう。凪に夢中になっちゃったよ。嬉しいって言えば、嬉しいけど、きっと生まれてきたらこんなもんじゃないよね。私、ほっておかれちゃうんじゃないかな。ちょこっと不安だな。


「お腹、痛くない?」

「時々痛いよ。凪が動くと」

「…お腹、重くない?」

「重いよ」

「……」

 聖君が優しい目で私を見た。そしてすごく優しく、チュッてキスをした。


「…聖君」

「ん?」

 聖君は優しく、私のお腹を洗い出した。

「ごめんね」

「え?何が?」


 いきなり謝られて、聖君は驚いている。

「バレンタインだけど、チョコしかあげられない」

「へ?ど、どういうこと?」

「私はプレゼントできなくて…」

「…あ。そういうことか」


 聖君はようやく理解できたって顔をして、

「いいよ。桃子ちゃんが作ってくれたチョコだけで、もう十分」

 聖君はそう言うと、私の鼻の頭にキスをした。それからほっぺにも、おでこにも。

「くす。桃子ちゃん、そんなこと思ってたの?」

「うん」


「可愛いよね。本当にさ」

 聖君にぐにって鼻をつままれた。

「体冷えちゃうね。さっさと洗わないとね」

 聖君はそう言って私の体を洗うと、あったかいシャワーで流し、髪も洗ってくれた。


 私はよっこらしょとバスタブに入った。そして鼻歌を歌いながら体を洗っている聖君を見た。

 ちょこっと夏よりも、日に焼けた肌の色が薄くなったような気もするけど、聖君は冬でも肌が真っ白になることはない。

 それから、背中も肩も胸も、またたくましくなったかもしれない。


 たまの土曜日、聖君にくっついてお店に行くことがある。そこで紗枝さんがいると、いろいろと教えてくれる。

 今、毎日のように来ている近所のコンビニでバイトをしてる子は、絶対に聖君目当てだとか、だけどきっと、聖君が結婚してることも知らないでいるよとか。


 クリスマスもプレゼントを、聖君はもらっていたらしい。明日のバレンタインも絶対にチョコを持って来る子がいるんだろうな。

 聖君は最近、バシって断らず、やんわりと断っているってそう紗枝さん言ってたっけ。でも、しっかりと直接告白してくる子には、

「俺、結婚してるし、春に子供も生まれるんだ。悪いけど、気持ちには答えられない」

とズバッて言っちゃってるらしい。


「え?結婚?こ、子供が生まれる?」

とたいていの子は困惑して、ごめんなさいと謝って、とっとと店を出て行くらしいけど、たま~~に、

「それでもいいです。会いに来てもいいですか?」

とあきらめの悪い子もいるようで。それでも聖君は、

「ごめん。会いに来られても、どうしてあげることもできないから」

と頭を下げているって、紗枝さんが教えてくれた。


「聖君」

「ん?」

 聖君は髪も体も洗い終え、私のほうを向いた。水が髪から滴り落ちた。聖君は前髪を手であげると、もう一回私に、

「なに?お腹張っちゃった?」

と聞いてきた。


「ううん。今日もかっこいいなあって思って」

「え~?見惚れてたの?」

「うん」

「まったく。お風呂で俺に見惚れてたら絶対に、のぼせちゃうよ。桃子ちゃん、もうお風呂から出る?」

「うん」


 聖君は私がお風呂から出るのをいつも、背中を支えたり腰を支えてくれて、サポートしてくれる。

 そして私がお風呂から無事に出ると、聖君はバスタブにつかる。

 洗面所で体を拭いていると、聖君の鼻歌がよく聞こえてくる。今日もご機嫌なんだなあ。

 ぐに~~。あ。お腹の凪も元気に動き出した。きっと凪も、ご機嫌なんだなあ。


 もう9か月になった。来月には凪が生まれるんだ。

 ベッドに寝るのもやっとこだし、寝返りもうてないくらいだ。夜中には必ず、トイレに行きたくなって起きてしまう。

 聖君はそんな私を見ていて、優しくキスをしてくれることはあるが、それ以上は何も求めなくなった。それどころか、起き上がるのを手伝ってくれたり、たまに腰が痛いとさすってくれたりしている。


 足の先がまったく見えず、足の爪は聖君が切ってくれている。ついでになぜか、手の爪まで切ってくれる。

 そして夜、寝る時には聖君は私のお腹に顔を当て、凪に話しかける。それもすご~~く優しく。

 そんなだから、私は凪にやきもちを妬いちゃうんだよね。だけど、そんな優しい聖君も大好きなんだけど。


「いよいよ来月か」

 聖君はぼそりと、凪に日記を書きながらそう言った。

 チュ。聖君の横顔がいきなり愛しくなり、ほっぺにキスをした。

「…桃子ちゃん」

「え?」


「凪が生まれて落ち着いたらね」

「え?」

「それまで我慢ね?」

「へ?」

 何が?


「俺、いっぱいまた、愛しちゃうから」

 え?あ、そういうこと?

「今は、俺に抱かれたくなっちゃっても、ちょっと我慢してね?俺も我慢するから」

「…」

 もう。そんなこと言って。私は別に…。別に…。


 ムギュ。聖君の腕にしがみついた。う~~。やっぱり、寂しがってるのは私のほうか。

「聖君」

「ん?」

「明日、チョコあげるからね?」

「うん。楽しみにしてるよ」

 聖君は私の髪にチュってキスをして、そっと私を抱きしめた。


 聖君の匂いに包まれた。ああ、これ。やっぱり落ち着くの。しばらく私はその聖君の優しいオーラに包まれていたくって、聖君にべったりとくっついていた。まる。


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