異世界へ消える弟へ。狂った姉からの贈り物は「愛」という名の武器(ちしき)だった
これは、異世界へ旅立つ弟と、彼を送り出す姉の、二つの物語のエピローグであり、プロローグです。
後述する二つのシリーズを知らない方でも「エピソード0」として、お楽しみいただける内容となっています。
『うちの姉ちゃんは古代文明を実践したい』をお読みの皆様。
なぜ真綾があれほどまでに古代の知識に執着するのか。その「理由」がここにあります。
そして『武器物語』をお読みの皆様。
匠の魂が、どのようにして鍛えられたのか。その「源流」に触れてください。
狂気と紙一重の愛が、最強の武器を生み出すまでの、短くも永遠のような日々の物語。
どうか、最後までお付き合いください。
『異世界へ消える弟へ。狂った姉からの贈り物は「愛」という名の武器だった』
※
【第一部:境界の誓約 ―白梟と叡智の種火―】
1.白梟の契約
『無垢なる午後』
世界がまだ、パステルカラーの優しさに満ちていた頃の話だ。
真綾が五歳になった時、彼女の世界の中心には、すでに一歳の弟『匠』がいた。
生まれたばかりの弟は、言葉を持たない。
「あー」とか「うー」とか、意味の形を成さない音色を奏でるばかりの、小さな生き物。
けれどその存在は、マシュマロのように柔らかく、抱きしめればミルクと日向の匂いがした。
指先で頬を突けば、壊れそうなほど繊細で、それでいて熱い生命の弾力が返ってくる。
真綾にとって、それは守るべき宝物であり、世界のすべてだった。
近所の公園は、午後の日差しに包まれていた。
滑り台の赤、ブランコの青、砂場の白。子供の視界に広がる鮮やかな色彩の中で、真綾は弟の揺りかごを揺らすのに忙しかった。
両親は少し離れたベンチにいるはずだ。けれど真綾の意識は、目の前の弟が笑うか泣くか、その一点にのみ注がれていた。
だから、気付くのが遅れた。
世界から、ふっと音が消えたことに。
それは、錆びついたジャングルジムの天辺にいた。
音もなく舞い降りた、純白の塊。
昼下がりの陽光を吸い込んで、自らが発光しているかのような白銀の羽毛。
真綾は揺りかごの手を止め、ぽかんと口を開ける。
(真っ白でふさふさした、大きな鳥さん……どこから来たんだろう。大きくて凄く可愛い。ぬいぐるみみたい)
警戒心よりも先に、好奇心が勝った。
五歳の少女にとって、目の前の存在は「不思議な友達」候補でしかなかったからだ。
「私が珍しいかね? お嬢さん」
くるりと首を百八十度回転させて、それは唐突に話しかけてきた。その声は、老人のようでもあり、少年のようでもあった。あるいは風の音や、本のページを捲る音のようにも聞こえた。
黄金色の真ん丸な瞳。
そこに映り込んでいるのは、幼い真綾の姿と、その背後に広がる世界の理。過去から未来へと流れる、膨大な時間の奔流。
ギョッとして目を見開く真綾。
だが、驚いたのもつかの間、ふわふわの愛らしい鳥に真綾は嬉しくなった。子供特有の柔軟な適応力で、彼女は「喋る鳥」という異常事態を、絵本の中の出来事のように受け入れたのだ。
「お話できる鳥さんなんてめずらしいわ」
真綾はジャングルジムに歩み寄る。
「でもパパとママは今いないの。あっちのベンチでお話ししてるから」
白い梟は、値踏みするように首を傾げて真綾を見下ろした。その視線は、真綾の魂の形を測っているようだった。
「両親は……好きかね?」
「うん、大好き。ママの作るケーキを食べたら、あなたも大好きになるわ」
「弟は……好きかね?」
真綾は、さも当たり前のように小さな胸を張って自信満々に即答する。
迷いなんて、一ミリもなかった。
「匠のこと? だーい好きよ。あなたも可愛いけど、匠には負けるわ。だって世界一可愛いもの」
その言葉を聞いた瞬間、梟の黄金の瞳が、すうっと細められた。
まるで、探していた答えを見つけたかのように。
「そうか……君の名前を教えてもらっても?」
「知らない人に名前を教えちゃいけないの。常識よ?」
真綾は大人びた口調で言い返す。
「ならば、私から名乗るとしよう……『歴史』という言葉は知っているかい?」
「レキシ? あなたはレキシっていうのね」
「ふふ、人間というのは面白い解釈をする。……さぁ、君の番だ」
「だから知らない人に―――」
「私は鳥だよ。それに、もう知っている鳥だろ?」
「そ、それもそうね。私の名前は……真綾よ」
これが喋る白梟『レキシ』と、のちに「狂気の姉」と呼ばれる少女の出会いだった。
それは、まるで契約の儀式のようだった。
互いの名を呼び合った瞬間から、運命の歯車は、きしりと音を立てて回り始める。
レキシは、真綾が六歳になった時に再び現れた。
同じ公園、同じ時間、同じジャングルジムの上で。
「真綾、君は将来なりたいものはあるかい?」
唐突な問いに、真綾は遊んでいたシャベルを放り出して答えた。
「決まってるわ! ショートケーキよ!」
「……君は、ケーキになりたいのか?」
さしもの「歴史」も、子供の論理には意表を突かれたようだ。
「レキシ、あなたケーキ食べた事ないでしょ。一度食べたらあなたもなりたくなるわよ。白くてふわふわで、甘くて、ママのケーキはみんなを笑顔にするの」
真綾がポケットから取り出した、ラップに包まれた手作りのカステラを差し出すと、レキシはもったいぶってそれをついばんだ。
「……なるほど。これは確かに、真綾がケーキになりたいと願うのも無理はない」
レキシは毎年一度、ふらりと現れては他愛のない会話をして飛び去っていく。
梟と話すなんて魔法使いみたい!
幼い真綾はそんな風に思っていたかもしれない。彼女は年に一度、不思議な友人レキシが訪れるのを、サンタクロースを待つように楽しみにしていた。
―――その出会いが、残酷な未来への布石だとも知らずに。
『断絶』
運命の歯車が狂い始めたのは、真綾が一〇歳になったある日のことだ。
玄関先には、旅行鞄が二つ並んでいた。
両親が一泊旅行に行くことになったのだ。
匠も六歳になって、ようやく手がかからなくなり、二人にも一息つきたいという思いがあったのだろう。
「真綾、匠をお願いね。冷蔵庫にハンバーグが入ってるから」
「戸締まりちゃんとするんだぞ」
真綾は少しお姉さんぶって「任せてよ」と請け負った。
両親がいない夜。それは子供にとって、少しの不安と、それ以上の冒険心をくすぐるイベントだ。
匠の世話もちょっと面倒くさいけど、家の電話で友達と長話ができるチャンスだとも思っていた。
受話器を肩に挟んで友達と話しながら、玄関を出ていく二人の背中をぞんざいに見送ろうとした。
「あ、うん、そうそう。今日ね、パパたちがいないからさ――」
その時―――
「真綾、君の大好きなパパとママに、最後の挨拶をするんだ」
振り返れば、キッチンのカウンターにレキシがいた。
いつものように唐突に。音もなく。
けれど、いつもとは違う、厳かな声で。
黄金の瞳は、底知れぬ深淵の色を湛えていた。
「ごめ、ちょっと急用ができた……またね」
真綾は慌てて電話を切る。心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。
「どういう事? レキシ……」
「君のパパは優しくて、ママのケーキは君がなりたいほど美味しい……そう言っていたね?」
「え、なに……? やめてよ、怖いこと言わないで」
真綾の声が震える。
本能が警鐘を鳴らしていた。
レキシの言葉は、ただの忠告ではない。確定した未来の通達だ。
「なら、最後の挨拶をしてくるといい。時は、待ってはくれない。砂時計の砂は、もう落ちきろうとしている」
喋る白梟の友達『レキシ』。彼がおかしな存在だなんて事くらい、とっくに気付いてた。
この鳥は、ただの鳥じゃない。
もっと恐ろしい、大きな理そのものだ。
そんな人外の友達からの宣告。
真綾は「最後」という言葉に、背筋が凍るような不吉な予感を覚えた。
受話器を放り出し、フローリングを蹴って玄関へ走る。
「待って! パパ、ママ! 行かないで!」
靴も履かずに飛び出した。
コンクリートの冷たさが靴下越しに足の裏を刺す。
けれど、車のエンジン音はすでに遠ざかっていた。
角を曲がっていくファミリーカーの赤いテールランプ。
それが、網膜に焼き付いた最後の光景。
「いかないでええぇぇぇッ!!」
彼女は何度も叫んだ。
喉が裂けるほど、何度も、何度も。
夕暮れの空に、少女の悲痛な叫びだけが吸い込まれていく。
返事はなかった。二人が戻ってくることも、二度となかった。
―――これが、この物語における「幸福な子供時代」の終わり。
そして真綾が、二度と「大切な人の出発」を軽んじないと、血の涙で誓った理由だ。
『決意』
事故の知らせはその日の夜に届いた。
それからの日々は、灰色の霧の中にいるようだった。
黒い服を着た大人たちが入れ代わり立ち代わりやってきては、お悔やみを言い、線香をあげ、そして別室で遺産や子供たちの処遇について揉め始めた。
「施設に入れるべきか」
「いや、家はどうする」
「養育費は」
襖の向こうから漏れ聞こえる、乾いた現実の音。
真綾は、匠の手を強く握りしめていた。
六歳の匠は、まだ死というものを理解できていないようだった。
「パパとママ、遅いね」と無邪気に呟く弟の言葉が、真綾の心をナイフのように抉った。
(私が守らなきゃ。匠には、私しかいないんだから)
そんなある夜、レキシは再び現れた。
喪服を着たまま、膝を抱えて座る真綾の部屋の窓辺に。
「君は、匠が好きかね?」
その問いかけに、真綾は弾かれたように顔を上げた。一年前とは違う。今の彼女はその問いの意味を知っている。
これは確認ではない。宣告だ。
真綾は戦慄する。
喪服を着る機会にも、涙を流すことにも慣れてしまった少女の心臓を、その言葉は鷲掴みにした。
「レキシ! 匠になにか起きるの?! お願い! 匠を助けて! パパとママみたいに連れていかないで! あの子までいなくなったら、私……っ!」
畳に額を擦り付けて懇願する。
プライドも、常識もかなぐり捨てて。
ただ、唯一残された温もりを守りたくて。
悲痛な懇願に、レキシは首をかしげるような仕草で応えた。その黄金の瞳は、哀れみとも、慈しみとも、あるいは無慈悲な観察者とも取れる光を宿して、幼い姉弟を見つめている。
「運命という大河の流れは、私であっても変えることはできない。匠は……いずれ遠くへ行く」
「そんな……!」
絶望で視界が真っ暗になる。
「だが、君は私に大切なケーキをくれたね。そのお返しをしよう」
レキシは翼を広げ、音もなく滑空し、真綾の震える肩に舞い降りた。ずしりとした重み。
それは猛禽類の質量ではなく、数千年の時を見つめてきた「歴史」そのものの重みのようだった。
「何時の日か君の弟は、この世界とは異なる理で動く、古代文明によく似た世界で暮らす事になる。そこは力が全てを支配する野蛮な世界だ。剣と魔法、そして死が日常にある場所だ」
レキシは真綾の耳元で囁く。悪魔の囁きのように甘く、そして冷酷に。
「だが、知恵と知識があれば、運命の刃くらいは折ることができるかもしれない」
「……え?」
「もし彼を助けたいなら、彼に『武器』を与えなさい。剣や槍ではない。数千年の時を超えて積み上げられた、人類最強の叡智という名の武器を」
突拍子もない内容だった。
異世界? 古代文明?
普段なら笑い飛ばしていただろう。
けれど、両親がいなくなったあの日、彼の予言が的中したことを真綾は知っている。
彼女はもう、レキシを疑うことはできなかった。
藁にもすがる思いだった。それが悪魔の契約書であっても、匠が助かるならサインをしただろう。
真綾は涙を拭い、充血した目でレキシを睨み返した。
「やるわ。何でもやる。匠が助かるなら。あの子が……あの子が痛い思いをしないですむなら、私、なんにだってなる」
「よろしい。ならば教えよう。魔法のない、この世界で人間が積み上げた『物理』という奇跡を。梃子の原理を、熱力学を、流体力学を……」
レキシの瞳が、妖しく輝く。
「覚悟するがいい。これからの君の人生は、すべて弟のための礎となる。君は青春を捨て、恋を捨て、ただ知識を貪るだけの『狂った姉』にならねばならない」
「構わない」
真綾は唇を噛み切りそうなほど強く結んだ。
「私が普通のお姉ちゃんでいたって、匠は守れない。なら、狂ってやるわ。世界一愛の重い、最強のシスコン姉ちゃんになってやる」
§§§
その日から真綾は、変わった。
ファッション誌を捨て、歴史書を手に取った。
アイドルの追っかけを辞め、古代兵器の構造図を壁に貼った。
甘いお菓子作りの代わりに、怪しげな実験を繰り返した。
周囲からは「変人になった」「ショックでおかしくなった」と囁かれた。
親戚たちは気味悪がり、遠ざかっていった。
学校でも浮いた存在になった。
けれど、構うものか。
私の評価なんてどうでもいい。
私の人生なんて、匠が生き残る確率を一パーセントでも上げるための燃料でいい。
全ては、愛する匠のために。
いつか彼が旅立つその世界で、寂しくないように。傷つかないように。
私の愛が、知識となって彼を守る盾となるように。
私の言葉が、彼を導く剣となるように。
―――だってお姉ちゃんは、世界一可愛い弟のためなら、狂人にだってなれるんだから。
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【第二部:六十進法の休日と、隠された焦燥】
2.六十進法の休日
『不条理な宿題』
時は流れ、真綾の奇行が我が家の日常という風景に溶け込みつつあったある日曜日の午前。
暖房の効いた快適なリビングで、小学五年生になった俺、匠は算数の宿題を前に頭を抱えていた。
今日の敵は“時間と速さの計算”だ。
「……あーもう、わかんねぇ! 意味わかんねぇよ!」
俺はシャーペンを投げ出し、椅子の背もたれにぐったりと体を預けた。
窓の外は冬晴れだが、俺の心は土砂降りだ。
「百円は十円が十枚。一キロは千メートル。全部『十』の区切りで進むのに、なんで時間だけは六十秒で一分、六十分で一時間なんだよ。全部百で区切れば計算しやすいのに……」
社会の仕組みに対する素朴な疑問と、宿題が終わらない苛立ち。
その矛先を、俺は過去の人類へと向けた。
「十進法の方が絶対楽だって。なんでこんな中途半端な数字なんだよ。昔の人は意地悪だったのかな」
―――その時だった。
リビングの空気が、ピリリと凍りついた。
「匠。あなた、今、人類最高の知性を侮辱したわね?」
背後から響いた冷徹な声に、俺はビクッと肩を震わせた。
恐る恐る振り返ると、そこには異様な出で立ちの人物が仁王立ちしていた。
姉の真綾だ。
しかし、今日の格好はいつも以上に気合が入っている。身に纏っているのは、ざっくりとした生成りの麻布でできた、着物のようなワンピース。いや、布を体に巻きつけただけの古代服か。
腰には、目の覚めるような鮮やかな青――ラピスラズリ色と言えばいいのか――の幾何学模様の帯が巻かれている。
「……なにその服。土嚢袋?」
「失礼ね。これは『カウナケス』と呼ばれたシュメールの神官服を現代風にアレンジしたものよ」
真綾はふん、と鼻を鳴らして胸元を張った。
よく見ると襟元や袖口には金色の糸で、無数の楔みたいな文字が刺繍されていた。
首からは大粒の青いビーズのネックレスを下げ、手には粘土板……ではなく、分厚いハードカバーの歴史書を恭しく持っている。
まるで博物館の展示から抜け出してきたような『古代メソポタミア風・休日コーデ』で、彼女は冷然と俺を見下ろしていた。
「ね、姉ちゃん……侮辱って、ただ時間が計算しにくいなって言っただけで……」
「それが無知だというのよ! いい? 十なんて数はね、二と五でしか割れない貧弱な数よ。でも、四千年前にバビロニアの賢者たちが愛した『六十』という数はどうかしら」
真綾は手に持っていた本をバサリと閉じ、俺の宿題プリントの上に叩きつけた。
「二、三、四、五、六、十、十二、十五、二十、三十……と、驚異の十二種類もの約数を持つ、宇宙で最も美しい『完成数』なのよ! それを証明してあげるから、ちょっとおやつのロールケーキ出しなさい」
「は、はい……」
逆らってはいけない。姉のスイッチが入った時は、従うのが我が家の不文律だ。
言われるがままに冷蔵庫から三切れ分の長さのロールケーキを出すと、真綾は包丁を構えた。
その袖口にある『ハンムラビ法典』の第一条が刻まれているらしい刺繍が、キラリと光る。
『等分の美学』
「いい、匠。これを私とあなた、そしてきなこの三人で分けるとするわよ。あなたの好きな十進法脳で考えると、全体を『10』とするわね。すると『10÷3=3.3333……』と無限に続いて美しくないわ。最後の一切れを誰が食べるかで、血で血を洗う争いになるのよ」
「ワフッ!」
足元で、ミニチュアダックスのきなこが「早く食べたい!」とばかりに短く鳴いた。
短い足をフル回転させて、テコテコテコッとテーブルの下へ潜り込んでくる。
「でも、全体を『六十』と考えればどう? 六十割る三は『二十』。きれいに整数で割り切れる。だから円の角度も三百六十度なの。ほら、完璧な三等分よ」
真綾は眼鏡をクイッと押し上げ、鮮やかな手付きでケーキを切り分けた。
その手つきに迷いはない。
差し出された皿には、定規で測ったかのように均等なケーキが載っていた。
「……すげぇ。ミリ単位でぴったりだ」
「でしょう? 見て、この断面の白と黄色のコントラスト。美しいでしょう? 六十進法という秩序もまた、星々の運行を測るために生まれた天空の叡智。つまり、このケーキは宇宙の真理そのものなのよ!」
真綾は陶酔したように語るが、その頬はほんのりと赤い。俺が素直に「すげぇ」と感心したのが意外だったのか、それとも自分の熱弁が恥ずかしくなったのか。
彼女はコホン、とわざとらしい咳払いを一つすると、急に視線を泳がせた。
「ま、まぁ、食べてみなさいよ。古代の叡智の味がするはずだから」
「へぇ……(よく分からないけど、ケーキは美味そうだな)」
俺はケーキを頬張る。うん、美味い。
確かに、割り算に関しては姉ちゃんの言う通りかもしれない。十だと喧嘩になるけど、六十なら平和だ。
俺はうっかり頷いてしまった。「六十進法、意外と便利かも」と。
この時の俺は知らなかったのだ。
真綾が教えていたのは、単なる計算の利便性ではなく、古代文明における『階級社会の厳しさ』だったということを。
『階級の理不尽』
―――数時間後。
「姉ちゃん、おやつのポテチ持ってきたよ……あ、これも六十進法で分けるんだよね?」
俺は袋を開けながら確認した。さっきのケーキみたいに、きれいに三等分にしてくれるはずだ。
しかし、真綾はソファで足を組み、麻衣の裾から覗く足を優雅に揺らしながら冷酷に言い放った。
「ええ。この袋には概算で六十枚のチップスが入っているわ。バビロニアの社会階層に基づいて分配しましょう」
「しゃかいかいそう……?」
嫌な予感が背筋を走る。
「この場の王である私が全体の二分の一、つまり『三十枚』。次に、神に仕える神官階級であるきなこが全体の三分の一、『二十枚』」
「……え、ちょっと待って」
俺の脳内で計算機が弾かれる。
三十足す二十は、五十。残りは――――
「そして、平民である匠。あなたは残りの六分の一、『十枚』よ」
「きなこより下かよ!!」
俺の悲痛な叫びなどどこ吹く風。真綾は優雅にポテチを口に運び、きなこには犬用のボーロを二十粒(ポテチ換算)、皿に入れてやった。
「バウッ!バウッ!」
きなこが姉ちゃんを讃えて、腹の底から出るような太い声で吠えた。完全に権力者に取り入る太鼓持ちの犬だ。
姉ちゃんがきなこの頭を撫でると、きなこは尻尾をグルグル回し、姉ちゃんの膝に短い前足をかけて媚びを売っている。
俺は手元の十枚(しかも袋の底で割れた小さいやつばかり)を見つめ、涙目で齧った。
「……文句があるなら出世なさい、匠」
「くそぅ……いつか下克上してやる……」
姉ちゃんの横顔を見る。
彼女はポテチを食べながらも、その視線はどこか遠く――リビングの壁に貼られた世界地図の向こう側を見つめているようだった。
ただの意地悪じゃない。
まるで「理不尽に慣れておきなさい」と、無言で訴えかけているような、そんな切迫した横顔。
ふと、真綾と目が合った。
彼女はハッとしたように瞬きを繰り返し、慌ててポテチの袋で口元を隠した。
「な、なによ。平民の分際で王の顔をジロジロ見ないでちょうだい」
耳まで赤くなっている。
姉ちゃん、なんでそんなに必死なんだよ。
たかがポテチの配分で。
『覚醒』
散々な目にあった夜、俺は再び算数のドリルに向かった。
平民扱いされ、夕飯にはドロドロの「古代風お粥」(古代の水は粘度が高かったという謎理論による失敗作)を食べさせられ……六十進法生活はこりごりだ。
そう思って問題を解き始めた、その時だ。
『時速4kmで15分歩きました。進んだ距離は何kmですか』
いつもなら「ええと、15分は時間の何分の一だ?」と悩み、分数にするか小数にするかで迷うところだ。
けれど、今の俺の頭には、昼間に見たロールケーキの断面図が浮かんでいた。
―――全体を『六十』と考えれば、きれいに整数で割り切れる。
「……15分は、60分の4分の1。1÷4は、0.25。つまり0.25時間。―――なら、これに時速4を掛けて……1kmだ!」
一瞬だった。
数字がパズルのピースのようにカチッとはまる。
霧が晴れるような感覚。
『1時間40分は何分ですか』『20分は何時間ですか』
全部、60の友達だ。
姉ちゃんが言っていた「六十の約数の美しさ」が、頭の中で踊りだす。
「……すげぇ。俺、時間の計算だけは天才になってるかも」
俺は驚いて自分の手を見た。シャーペンが止まらない。
姉ちゃんに散々「秒」で換算させられたり、ポテチの枚数で分数を叩き込まれたおかげで『60』という数字の塊が、手にとるようにイメージできるのだ。
ふとキッチンの方を見ると、真綾がきなこと遊んでいる姿が見えた。
青い帯をなびかせ、何かを熱心に語りかけている。
「次はエジプト式分数に挑戦しましょうか~『ホルスの目』を使った計算は美しくてよ」
なんて物騒なことを言っている。
きなこは意味もわからず、姉ちゃんの足元で「クゥ〜ン……」と甘えた声を出し、短い足で姉ちゃんのスリッパをホリホリしていた。
古代の服を着て、変な理屈をこね回す姉ちゃん。
でも、そのおかげで俺の苦手意識が一つ消えたのも事実だ。
「まあ、テストでいい点取れるなら、たまには付き合ってやってもいいかな」
少しだけ大人になった俺(平民)は、リビングのソファでくつろぐバビロニアの王に向けて、小さく感謝したのだった。
その時、真綾がふとこちらを振り返った。
俺が解き終わったドリルを見て、彼女は満足そうに微笑むと、ポツリと言った。
「いいこと匠。世界は『10』だけで出来てるわけじゃないの。郷に入っては郷に従え。ルールが違う世界に行っても、その世界の定規をすぐに見つけなさい。それが生き残るコツよ」
その言葉には、妙な重みがあった。
ただの勉強のアドバイスじゃない。もっと切実な、祈りのような響き。
「……姉ちゃん、なんか生き急いでない?」
俺が茶化すように言うと、真綾はビクッと肩を震わせた。
そして、誤魔化すようにきなこを抱き上げると、その茶色い背中に顔を埋めてしまった。
「う、うるさいわね! これは高等な教育なの! きなこ、匠ってばバカよねー」
「ワフッ(同意)」
きなこの毛並みに顔を埋めたまま、姉ちゃんの首筋がほんのりと赤くなっているのが見えた。
照れ隠しにしては、必死すぎる。
まるで、何かから逃げるように、あるいは何かを隠すように。
俺はそう言って笑った。
その言葉の意味を、彼女の焦燥の理由を、本当に理解する日が来るなんて夢にも思わずに。
ただ、窓の外の月だけが、静かに俺たち姉弟を見下ろしていた。
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【第三部:闘技場の物理学と、姉の幻影】
3.闘技場の物理学
『殺意の臭い』
割れんばかりの歓声と罵詈雑言の嵐。
陽光と砂埃が、フライパンの上のバターみたいに身を焦がしていく。
「さぁさぁ、みなさんご注目! 剣を持たせりゃ右にでる者なし! 先の試合で三人殺しの栄誉を授かった戦士モルナガだー!」
対面の柵が上がり、上半身裸で一振りの剣を持った男――モルナガが現れた。
筋肉の鎧をまとった獣のような男だ。その目には、理性よりも濃い殺意がたぎっている。
「さてこちらは先日仕入れたばかりの生きの良さ! 敗残兵ヘリオン! ご覧ください、彼の持つ長大無比な槍を!」
俺はヘリオンなんていう名前ではない。
この身体の中身は、現代日本の会社員、川背匠。二十四歳だ。
いくらなんでも突然すぎる。ウォシュレットがないと生きていけない俺が、殺し合い?
俺は、確か―― 仕事帰りのトラックで、飛び出してきた小動物を避けようとして、崖から落ちて⋯⋯一体、なんでこんな事に?
理不尽にも程がある。
労基署に駆け込みたい案件だが、あいにくこの世界に労働基準法はないらしい。
膝の震えが止まらない。あまりの恐怖に歯の根が合わない。
こちらの武器は長槍のみ。防具らしい物は何一つ身につけていない。
「ぷっ、なんだいあの巨人が持つような槍は」
「長すぎてあれじゃ投げられないよ」
観客の嘲笑が突き刺さる。対戦相手のモルナガまで、盾を投げ捨てて笑っていやがる。
完全にナメられている。
(死ぬ……ここで死ぬのか……?)
恐怖のあまり思考がショートしかけたその時、俺の鼻腔をくすぐったのは、血と鉄錆の臭い――ではない。
ふわりと、場違いな「紅茶」と「古びた紙」の匂いがした気がした。
―――姉ちゃんの部屋の匂いだ。
同時に、指先が槍の柄の感触を捉えた。
ずっしりとした木の重み。この長さ。この重心。どこかで……
そうだ。あの「狂った特訓」だ。
『幻聴』
意識が、一瞬で過去へとフラッシュバックする。
リビングのソファで、紅茶を飲みながらゲーム画面を指差す姉の姿が、陽炎のようにモルナガの後ろに重なって見えた。
『いい、匠。もしあんたが槍一本で殺し合いをするハメになったら、絶対にビビっちゃだめ。長い方が勝つの。それが物理よ!』
―――姉ちゃんの声だ。
幻聴だ。分かってる。でも、その声は俺の脳髄に直接響く「生存マニュアル」のように鮮明だった。
モルナガが雄叫びを上げながら迫ってくる!
剣の間合いに入られたら終わりだ。
早く思い出せ、俺! 姉ちゃんはなんて言ってた!?
『槍兵というのは初歩的な兵科なの。徴兵されて戦い慣れていない者は原則槍兵よ。そんな素人がどう戦っていたかというと……』
真綾の幻影が、眼鏡をクイッと押し上げ、冷徹に言い放つ。
『槍を振り上げてぶっ叩くの。いい? 刺すよりぶっ叩く! 先端に重量がある長尺物は、振り下ろせば凄まじい遠心力が働く。これが「モーメント」よ!』
(それだ!)
俺の身体――ヘリオンという名の戦闘マシーンの肉体が、俺の思考より先に反応した。気合を入れてガバッと思い切りよく槍を振り上げる。
その突拍子もない動きに驚き、モルナガは足を止めた。
こんな長大な槍を、まるで棍棒のように振り下ろされるなど、剣闘士の常識にはなかったのだろう。
「うおおおおっ!」 ゴガッ!!!
盛大な金属音と土煙を立てて、全長6メートルの長槍の穂先は、兜ごしであったものの見事にモルナガの頭部を痛打した。
テコの原理と重力、そしてヘリオンの怪力が生み出した物理的破壊力。
兜は槍の形をべっこりと残し、モルナガがよろめく。
だが、決着はついていない。
奴隷剣闘士のルールと勝利への執着がモルナガを動かす。血を撒き散らしながら剣を腰に溜め、刺し違えんと目を剥き出して迫ってくる。
(ひっ……!)
殺される。その恐怖が再び足を竦ませる。
俺は平和な日本で育ったんだ。トドメなんて刺せない。
逃げたい。今すぐ布団に潜り込みたい。
その時、背中に衝撃が走った。
誰かに、ドンッ! と背中を蹴飛ばされたような衝撃。
『逃げるな、匠! 生きるのよ!』
姉ちゃんの叱咤が、鼓膜を震わせる。
そうだ。物理だ。感情論じゃない。
長さは、距離だ。距離は、時間だ。俺にはまだ、時間がある!
『長槍を両手で突いては特性を発揮できないわ。リーチを有効に使いたい場合……左手は『バリスタ(投射機)』の溝よ!』
俺の左手が、勝手に槍を固定する。
『右手は弦! その反発力で槍を弾き出しなさい! 筋肉の収縮と弾性エネルギーを一点に集中させるの!』
「うおおおおッ!」
姉の掛け声(幻聴)と同時に、俺の右腕が爆発したかのように槍を突き出した。
左手をスライダーにして、右手を弦に。
物理法則に従順な槍の穂先は、まさにバリスタから放たれた矢のように、一直線に空気を切り裂いた。
———ズプッ。 嫌な感触が手に伝わる。
槍先は、モルナガの腹部へ深々と突き刺さっていた。
ドサリ。 モルナガが崩れ落ちる。
静寂。
そして、爆発するような歓声。
俺は荒い息を吐きながら、血に濡れた槍を見つめた。
手の震えは止まらない。けれど、心臓は確かに動いている。
「……姉ちゃんの無駄知識、実戦で通用しちゃったよ……」
乾いた笑いが口からこぼれ落ちる。
バカみたいに詳しかった歴史の話も、面倒くさかった物理の実験も、全部。
あのウザいくらいの熱弁も、ポテチの理不尽な分配も。
全部、この瞬間のためにあったんじゃないかと思えるほどに。
俺は、生き延びた。
姉ちゃんの「遺言」のような知識のおかげで。
砂埃の舞う空を見上げると、どこか誇らしげに腕を組む姉ちゃんの幻影が、フッと消えていくのが見えた気がした。
【第四部:エピローグ 時を超えた食卓】
4.エピローグ:時を超えた食卓
『静寂の部屋』
季節は巡り、冬の寒さが和らいだ頃。
日本の、とある一軒家。
匠がいなくなった後の真綾の部屋は、以前よりも広く、そして恐ろしいほどに静まり返っていた。
かつては足の踏み場もないほど散らばっていた実験道具や、歴史書は綺麗に片付けられている。
壁一面に貼られていた狂気の「弟育成カリキュラム」――そこには槍術、サバイバル、古代数学、帝王学といった文字が並んでいた――は、もう役目を終えて剥がされかけている。
古びたガムテープの跡だけが、かつての狂騒の日々を物語っていた。
窓辺には、一羽の白い梟が止まっている。
レキシだ。
真綾はキッチンから戻ってくると、小さなテーブルにショートケーキを二つ置いた。
一つは自分の前に。
もう一つは、誰もいない向かいの席に。
あの日、「六十進法だ」と言って三等分した時とは違い、今日はきれいな二等分だ。
きなこが、トコトコと歩いてくる。
いつもなら匠の足元に潜り込んでおねだりをするのに、今日は匠のいない椅子の匂いを嗅ぎ、クゥ〜ンと寂しげに鳴いて、真綾の足元に体を寄せた。
「……探してもいないわよ、きなこ。あの子はもう、遠いところに行っちゃったんだから」
真綾は独り言のように呟き、向かいの席を見つめる。まるで、帰らぬ人を待つ食卓のように。
あるいは、仏前に供えるかのように。
「彼は生き延びたかね?」
レキシが静かに問う。黄金の瞳はすべてを見通しているようだった。
真綾はフォークを手に取り、少しだけ強がって、いつものように口角を上げた。
「当たり前よ。誰が育てたと思ってるの」
その声は微かに震えていた。
フォークを持つ指先が白くなるほど力を込め、彼女は誰もいない席を睨みつける。
あの日、バカスカ笑いながら食べたケーキとは違い、今は静まり返った部屋で、クリームの白さが痛々しいほどに目に染みる。
「計算も、槍も、物理も、全部教えたわ。異世界の理不尽なルールの中で、彼が生き抜くための武器は全部渡したつもりよ。……文句なんて言わせないわ」
真綾は口元を歪め、精一杯の強がりを続ける。
私は狂った姉。
感情なんて捨てて、知識だけを詰め込む機械になったはずだった。
役目は終わった。
あの子は生き残った。
なら、笑いなさいよ。
誇りなさいよ。
けれど、視界が滲んでいくのを止めることはできなかった。
ぽたり、と涙がテーブルクロスに落ちる。
一度溢れた雫はもう止まらない。
堰を切ったように、真綾の頬を伝い落ちていく。
『喪失と愛』
「でも……っ、幸せになる方法だけは……教えられなかったわね」
嗚咽が漏れた。
物理法則や歴史の知識で、弟の命を守ることはできたかもしれない。
バリスタの原理で敵を倒せても、夜の寒さを凌ぐ人の温もりまでは教えられなかった。
寂しさを埋める方程式なんて、どの歴史書にも載っていなかった。
「寂しいわよ……匠。バカな弟。私の宝物……」
真綾は顔を覆って泣き崩れる。
誰もいない部屋に、姉の慟哭だけが響く。
あんなに騒がしかった日々。
変な服を着て、ポテチの枚数で揉めて、きなこが吠えて。
「姉ちゃんウザいよ」と笑う匠の声。
すべてが幻になってしまった。
レキシは翼を広げ、震える彼女の肩にそっと触れた。
その温もりだけが、今の彼女を繋ぎ止めるよすがだった。
「泣くといい。その涙もまた、彼への愛だ」
「うぅ……っ、あの子、ちゃんと食べてるかな……寒くないかな……誰か、あの子に優しくしてくれる人はいるのかな……」
それは、「狂った姉」の仮面の下に隠していた、ただの「お姉ちゃん」の本音。
「心配ない。彼は君が与えた武器を使って、自らの足で立っている。君の愛は、確かに海を越え、時を超えて彼を守っている」
「……そうね。あの子なら、きっと大丈夫よね」
真綾は涙を拭い、赤くなった目で顔を上げた。
そしてフォークを突き立て、自分の分のケーキを一口頬張る。
匠の分のケーキは、手つかずのままそこにある。
甘くて、しょっぱくて、懐かしい味がした。
「ありがとう、レキシ。あなたのおかげで、あの子に武器を持たせてやれた」
「礼には及ばないよ……君も、ケーキになりたいという夢は叶いそうにないが、立派な姉にはなれたようだ」
「ふふ、うるさい鳥ね」
真綾は泣き笑いのような表情を浮かべ、窓の外を見上げた。
この空の向こう、時空を超えた遥か彼方に、弟がいる。
§§§
一方、ここは異世界クロネリア帝国。
初勝利を収めた夜、ヘリオンこと匠は、牢獄の狭い鉄格子の隙間から、見慣れない星空を見上げていた。
月は二つあり、星座の形もまるで違う。
ここは確かに異世界で、あの騒がしくも温かいリビングはもうどこにもない。
理不尽で、暴力的で、泥臭い世界。
明日もまた、命のやり取りが待っている。
けれど、俺の中には確かに残っている。
姉ちゃんが無理やり叩き込んでくれた知識が。
あの変な服を着て、得意げに語っていた姉ちゃんの姿が。
「ねえ、姉ちゃん……俺、生きてるよ」
夜風が頬を撫でる。
それはまるで、遠い日本から届いた姉の手のひらのようだった。
「変な姉ちゃんだったけど……ありがとう。姉ちゃんのくれた知識、全部使うよ。全部使って、絶対に生き抜いてみせる」
匠は強く拳を握りしめる。
この手にあるのは、見えない「武器」。
愛と狂気によって研ぎ澄まされた、最強の生存戦略。
たとえ二度と会えなくても、姉の愛はこの胸の中で燃え続けている。
「だから見ててくれよ。姉ちゃんの弟の活躍をさ」
二つの世界、二つの空。
けれど、見上げる月は違えど、二人の魂は確かに繋がっていた。
姉の愛を盾に、弟は歩き出す。
英雄へと至る、果てなき旅路を。
(了)
※
最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
姉が授けたのは剣でも魔法でもなく、「知識」という名の武器でした。
いつか来る別れの日に、弟がたった一人でも凍えないように。誰かに騙されず、自らの足で立てるように。
彼女の奇行……いえ、愛の鞭が、異空の空の下で弟をどう助けるのか。
あるいは、弟が去った後の日常で、彼女がどう振る舞っているのか⋯⋯
二人の物語は、まだ終わりません。
もしよろしければ、それぞれの続きの物語で、また彼らに会いに来てください。
弟君の旅路に幸多からんことを。
そして、姉君の日常に平穏があらんことを。
※
本作の挿絵にはAI生成を使用しています。




