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MACHO繰りの少女  作者: 女又心
1 マッチョ繰りの少女

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3/24

1-2 教団のWIMP

「見つけましたわよ! 商会の桃色髪の乙女(ピンクレディ)こと、我が愛しのお姉様♡」


 秘所を発ってほどなく、戻りの渓谷地帯の中腹に差し掛かったところで、唐突にそんな高飛車な声が聞こえてきた。


 その聞き覚えのあるお嬢様口調に、アイーダはうんざりした様子で顔をしかめる。


「……毎度のことながら、どうやってわたしの居場所を嗅ぎ付けてくるんだろう、あの()は」


『不明:我らの身辺に発信機の類いは認められない。情報漏洩、あるいは対アイーダに特化した専用生体センサーを先天的に搭載している可能性が微粒子レベルで存在』


「フフン。お姉様のいるところなら、たとえ火の中水の中、ですわ!」


 微妙に誤った言い回しをしつつ、その人物は満を持して姿を現す。


 差し込む陽光を照り返すプラチナブロンドのボブと、眼下に広がる樹海に勝るとも劣らない色鮮やかなエメラルドの瞳が特徴的な少女だった。


 そして、特筆すべきはその胸部。


 アイーダにも引けを取らないたわわな果実が二つ、そこにはたゆんたゆんと実っている。


 なお、彼女の背後にはアルフォンスに似た蒼玉色のMACHOが静かに控えており、主と共にこちらを見据えていた。


 両者を捉えたアルフォンスが、再確認の意味も込めて報告する。


『識別:教団――正式名称〝秘密結社L〟所属のWIMP(ウィンプ)――エリサ・クラウスと、そのMACHO――Iのイグナシオと断定』


 WIMPとはWomen as Indispensable Motive Powerの略で、MACHOを使役する女性を指す呼称だ。俗に『マッチョ繰り』とも呼ばれる。


 直訳で『不可欠な原動力としての女性』の名が示す通り、MACHOはWIMPの存在なくして稼働することはできない。ひとたびWIMPを失えば、どんなに高性能なバオルであっても、それはただのガラクタ同然、見て()れだけの木偶(でく)(ぼう)と化す。


 WIMPの認証は乳房で行い、WIMPの死、あるいは乳房の喪失を以て失効するのだが、特にバオルのWIMPは巨乳の女性しかなれないことで、その特殊性を更に際立たせていた。母音(ボイン)だけに。


 目の前に対峙するエリサもまたバオル持ちであり、敵対するとある組織の幹部でもあった。


 男性不要を説く過激思想宗教団体――秘密結社L。通称『教団』。


 電脳に搭載された男性ベースの疑似人格を排し、外装を女性的なフォルムに換装した改造MACHOを使役して工作活動を行うテロ組織だ(流石にバオルは無改造のようだが、歴代のWIMPが教育を繰り返した結果、イグナシオの口調はオネエ言葉になってしまっている)。


 男性復活を目的とするAK商会とは事あるごとに対立しており、アイーダ自身、これまでの任務中にエリサとは何度も交戦経験があった。


 ただ――


「その積み荷……わざわざこんな僻地まで取りに来たところを見ると、さぞかし大事なもののようですが?」


「だったらどうする?」


「無論、是が非でも回収させていただきますわ。……でもまあ、お姉様がわたくしたちの仲間になってくださるというのであれば、この際積み荷の方はどうでも――んんっ、もとい、見逃して差し上げてもよろしいのですけれど?」


「断る」


 アイーダのすげない即答に、しかしエリサは満更でもなさそうに破顔する。


「ふふ、お姉様ならそう答えると思ってましたわ。そこがまたいいんですけど♡」


 立場上敵対しているものの、どうやら彼女はアイーダに対し強い慕情を抱いているらしく、顔を合わせればこうして懲りもせず教団へのスカウトを繰り返していた。


 アイーダの返答は予想通りだったのだろう、さして気落ちした様子もなくエリサは表情を引き締める。


「ナチョ。一気に片を付けますわ。トランスフォームですのよ」


『かしこまりぃ♪』


 なよなよしたオネエ言葉で応えるなり、イグナシオが高速で変形を開始する。


 平時は自律駆動式のヒューマノイドとしてWIMPをサポートするMACHOだが、有事の際はWIMPの要請に応じてパワードスーツ形態へと移行する。


 これは対ミュータント用の戦闘モードであり、MACHOは単独行動の自由を失う代わりに、搭乗したWIMPに無類の強さを授ける一騎当千の機装へと変貌を遂げるのだ。


 エリサたちの動きに呼応するように、アイーダたちも次の行動へと移る。


「アル、一旦荷物置いて。応戦するよ」


『了解:――シーケンスTF、起動』


 岩陰に荷物を降ろすと、イグナシオに数瞬遅れてアルフォンスは変形を始める。


 四肢を大の字に広げた機体の胸部装甲が上方に展開し、続けて腹、上腕、大腿の各装甲が前面開放される。


 そうして機体内部に生じた、人一人がすっぽり収まりそうなスペースに、アイーダは何の躊躇もなく颯爽と乗り込んでいく。


 再び機体の各部装甲が閉じられると、アイーダを取り込んだアルフォンスに大きな動きが見られ始めた。


 手甲と具足に形を変え、アイーダの両手両足へと装着されるアルフォンスの腕部と脚部。


 頭部もヘッドギアの形状に変化し、露わになったアイーダの小顔を包み込むようにして保護する。


 胴体を構成していたパーツはアイーダの背部に移動してバックパックを形成し、装甲が取り除かれた彼女の全身は、ボディラインにフィットする薄い皮膜のような材質に包まれていた。


 一見頼りないこのボディスーツ、実は耐刃性能に非常に()け、銃弾などの衝撃も吸収する優れ物だ。


 加えて、バックパックで生成されたエネルギーを体中に伝播させ、WIMPの身体能力を飛躍的に向上させる役割も担っている。


 アルフォンスの変形開始から時間にしておよそ六・九秒。


 緑と青。


 異なる色の機装を纏った戦姫が二体、渓谷地帯に降り立った。


 アイーダと同様、パワードスーツと化したイグナシオをその身に鎧ったエリサが、おもむろに腕を前方に伸ばしてこちらを指差す。


「ナチョ、やっておしまいなさい」


『あらやだエリつぃん、ボケちゃったの? 実際に戦うのはアタシじゃなくて、ア・ナ・タ♡』


「いっ、いちいち言われなくても分かってますぅ! ちょっとそれっぽくカッコつけてみただけですわ!」


「相変わらず気の抜ける相手だけど……来るよ、アル」


了解(ラージャ)


 一瞬、アイーダとエリサの視線が虚空で交差。


 次の瞬間、両者激突。


 互いに瞬時に距離を詰め、真っ向から取っ組み合いを繰り広げる。


「やん♡ お姉様の顔近い♡」


「無駄口叩いてると舌噛むよ」


 緊張感の欠片もない言動とは裏腹に、万力のような力でアイーダ達に拮抗して見せるエリサ駆るイグナシオ。


 掴み合う両機の各部が軋みを上げ、二対の両脚が根を下ろした地面は亀裂を作りながら徐々に陥没していく。


(機体の性能(スペック)はほぼ互角。だったら……!)


 勝敗を分けるのは操者の力量。


 アイーダは前触れもなく、予備動作なしでエリサの鼻っ柱に頭突きをかます。


「あいたっ!?」


 文字通り面食らったエリサの頭がわずかに揺らぐ。


 その刹那に生じた間隙を衝き、アイーダは速やかに攻勢へと転じた。矢庭にエリサの両手を振りほどき、流れるような動きで腰だめに右手を構える。


「アル。こんなところで時間をかけるつもりはない。最初から最大出力で行く……!」


『了解:フルパワー、解放』


「えっ!? ちょっ、待っ、お姉様っ!?」


 慌てふためくエリサを他所に、アイーダは膨大なエネルギーを右拳へと集束させる。


 やがて桃色の燐光を放ち始めたそれを、アイーダは勢いよくエリサの腹部へと突き入れた。


「一意専心! 鉄拳制裁!」



 ドゴォッ!!



『「あーれー」』


 見事なまでのクリーンヒット。


 もろに直撃を受けたエリサ・イグナシオペアは、四肢を放り出してくるくると回転しながら空の彼方へと消えていった。


「……ふう」


 正拳突きの姿勢のまま、アイーダは瞑目しつつ静かに呼吸を整える。


(……確実に手応えはあるのだけど、あまり有効打になっている気がしないのは何故だろう?)


 まあ、今はそんなことはどうでもいい。


 早速降機しようとしたアイーダに、突としてアルフォンスがアクシデントの発生を告げる。


『警告:先程の戦闘の余波を受け、付近一帯の一部地形にて崩落が発生。そのはずみで、警備対象が崖下に転落した模様』


「嘘でしょ!?」


 見ると、先刻荷を降ろした岩陰のスペースが、削り取ったように綺麗さっぱり消えてなくなっていた。


 急ぎ崩れ落ちた崖縁に駆け寄ると、アイーダは身を乗り出して眼下に目を凝らす。


 程なくして彼女は、見覚えのある機械の箱が、勾配のある岩塊斜面をごろんごろんと転がり落ちる光景を目の当たりにした。


 そして、その進行方向の先には、樹海に向かって垂直に切り立つ、断崖絶壁の端が広がっていて――


「アルッ! 出力全開ッ!」


『了解:フルブースト・オン』


 奈落の底へとまっしぐらな荷物目がけ、アイーダは一目散にその後を追う。


 バックパックと足裏のバーニアが激しく火を噴き、土煙を上げて緑色の機体が岩肌の上を疾駆する。


 爆発的な加速力により、対象との距離はみるみる縮まっていくが。


(お願い、間に合って……!)


 ようやく手の届きそうな所まで追い付いたアイーダとほぼ同時、前を行く荷物が遂に(きり)(ぎし)の突端へと到達する。


 中空へと無造作に放り出される機械仕掛けの箱。


 滑落寸前ギリギリの所で踏みとどまり、アイーダは必死にその手を伸ばす。


(届け……!)



 ――だが、懸命の努力も虚しく。



 今一歩のところでアイーダの(かいな)は空を切り、荷物は樹海へと真っ逆さまに吸い込まれて――


「……ッ!」


 何を思ったか。


 咄嗟にアイーダは地を蹴り、宙を舞う機械の箱へと身を投げ出して飛び付いた。


 何とか繋ぎ止めたそれを、彼女は両手両足でぎゅっと抱きかかえ、続けて自身の背を下にする形に姿勢を制御する。


『警告:この高度から墜落した場合、当機、及び搭乗者のアイーダ共に、深刻なダメージを(こうむ)ることが予想される。警備対象の保全を諦め、当機とアイーダの身の安全を図ることが、現状で最善と判断』


「そんなこと、言われなくても分かってる!」


『疑問:この行動を選択するに至った合理的な説明を乞う』


 落下に身を任せつつ、アイーダは悲愴な面持ちで下唇を噛んだ。


「……わたしには、どんな失敗も許されない。それくらいでなきゃ、あの子の隣に並び立つ資格なんて……」


『理解不能:客観的な説明を――』


 落ちる間、アルフォンスは納得のいく回答を延々とアイーダに求め続けたが、その要望に彼女が応えることは、結局最後まで一度としてなかった。

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