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MACHO繰りの少女  作者: 女又心
6 アダムカドモン

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6-4 現世界の真相

「……かつて、ボルバキアウイルスによる全ての男性の雌化――その名も〝総人雌化計画〟を企てた、狂気の天才科学者がいました。男性に強い恨みと憎しみを抱くその人物こそ、のちに教団の教祖となる女性です。そして、彼女の類稀なる才覚に目を付け、スポンサーに名乗り出たのが、当時世界的な資産家だった、今の商会の会長でした。〝今の〟とあえて前置きしているように、彼は現在も存命で、バイオコンピュータで延命を図りながら、長きに渡り虎視眈々と好機を窺ってきた、旧世界を知る唯一の生き証人でもあります」


「どちらも常軌を逸してる……」


 吐き捨てるように言ったアイーダに特に反応を示すことなく、エリサは続ける。


「会長さんの目的は既にお話した通り、男性が死滅した世界で自分だけのハーレムを実現することです。それには単にボルバキアウイルスだけでなく、ウイルスに耐性のある男性のボディや、女性を支配下におくための催淫システムを新造できるような、高度な技術力が事後も必要でした。――一方、全ての男性の消滅を望む教祖様にとって、典型的な雄である会長さんは、本来であれば相容れない存在。しかし、総人雌化計画のため、世界同時多発的にボルバキアウイルスのパンデミックを引き起こすには、どうしても莫大な資金力や組織力がボトルネックとなっていました」


「互いに互いを利用すべく、両者は手を組むことになったわけね」


 アイーダの呟きに、エリサは小さく頷く。


「事が成った後、アダムカドモンを創造することを条件に、教祖様は彼からの後援を取り付けることに成功。結果は歴史が示す通り、総人雌化計画は実行に移され、男性は一人残らず雌化、もしくは死に絶えました」


「会長を除いて、ね」


「記録によれば、ボルバキアウイルスによって身体を作り替えられる際、想像を絶する痛みを伴うそうです。この拒絶反応に耐えられず亡くなってしまった方も多いと言われていますわ」


「自分だけ安全な場所に避難してから悪魔的ウイルスをまき散らす……ド外道極まりないわね」


 そんな見下げ果てた男に対し、これまで育ててもらった恩義を感じていたというのだから、何とも皮肉な話だった。


 エリサの話は続く。


「パンデミック後、会長さんと教祖様は表向き協力して新たな秩序構築を進めました。男性復活を建前としたAK商会を設立し、急激に数を増やしつつあったミュータントに対抗すべく、五体の超高性能MACHO(バオルタイプ)を試作。その裏では当初の盟約通り、アダムカドモンの創造に着手しますが……両者の蜜月は、そう長くは続きません。教祖様は最初から会長さんを裏切るつもりでした」


「でしょうね」


「それは会長さんにしても同じことだったと思います。商会の運営や計画が軌道に乗ってしまえば、共犯の真実を知る教祖様は邪魔者以外の何者でもありませんから。実際、アダムカドモンを製造している秘所の場所や、会長さんの自我データをバックアップしているサブのバイオコンピュータの在り処は、教祖様にも秘匿されていたそうです」


「たとえ用済みとして切り捨てられなかったとしても、会長には半永久的な時間がある。下手に手を下さなくとも、教祖が寿命で死ぬのを待てばいいだけ……」


「ええ。そこで教祖様は、あくまでセキュリティの一環と称して、フェロモンシステムの発動にある制限を施しました。それが、五体のバオルタイプに仕込んだ認証コードです。一つでもコードが不足すればシステムは発動しない……その仕様を逆手に取り、アダムカドモンの設計を終えた教祖様は、バオルタイプの強奪を画策したのですわ」


「そっか……その時に持ち出したのがイグナシオなのね」


 まだ量産型MACHO(コンソナント)もない時代に、教団がどのようにしてバオルタイプを手に入れたのか、以前よりずっと気になっていたが、アイーダはようやく合点がいった。


「商会と(たもと)を分かった教祖様は、ナチョを旗頭(はたがしら)にレジスタンスを組織し、アダムカドモン計画の動向を監視すべく活動を開始しました。それが、わたくしたち教団こと、秘密結社Lの始まりです。ちょうどその少し前、商会から独立を認められたUのウルリヒのWIMPがバックヤードを興したこともあって、図らずもバオルタイプの分散に成功した形ですわね。ちなみに、ウルリヒも独立時に商会の管理下から外れていますわ」


 そう付け加えつつ、エリサは話を進める。


「また、教祖様は商会を脱走する際、バオルタイプの設計データを完全に抹消していました。教祖様を失った商会にバオルタイプのデッドコピーを生み出す技術力はなく、性能に劣る量産型MACHO(コンソナント)の生産に漕ぎ着けるのが関の山。前述の理由(認証コードの存在)によりバオルタイプを失いかねない強硬手段を実質封じられた商会と、自衛の手段や抑止力としてバオルタイプを保有するバックヤードや教団の間には、絶妙なパワーバランスが生まれることになります。そして、教団・バックヤードに次ぐ第三の勢力の台頭を危惧した会長さんは、既存の通信システムを秘密裏に破壊・独占し、様々な知識や技術の継承を阻む、啓蒙とは真逆の裏工作を推し進めるようになり……結果として、人類の文明は衰退・逆行の一途を辿り、今に至ります」


「何て(はた)迷惑な……」


 一個人の取るに足らない欲望のために、全人類の発展が妨げられるなど、冗談ではなかった。


 長かったエリサの話も、いよいよ核心に迫っていく。


「そんなこんなで、商会は教団が保有するナチョの捜索を続け、教団は雲隠れしながらプロジェクトAKの動きを探る、といった膠着状態が千年以上も継続するわけですが……二年前に起きた、ある事件がきっかけで、長らく停滞していた情勢に変化が訪れました」


「二年前っていうと、もしや……」


「そう。ゲルダ・ベルンハルトによる、Eのエルンスト強奪事件ですわ。それまでノーマークだった部外者の手によって引き起こされたかの珍事は、商会やわたくしたち教団にとって完全なイレギュラーでした。厄介なことに、奪ったMACHOを闇市場に流すことで生計を立てているゲルダは、他の機体同様、エルンストの通信機能や識別信号の発信機を物理的に破壊することでこれを無力化し、商会や教団の追跡を巧妙に逃れているのです」


 ふーやれやれと芝居がかった仕草でエリサは大きく息を吐く。


「反面、向こうもバオルタイプのシステム性能を最大限に有効活用することはできないわけですが……まあ、それはともかく。結果として、彼女が行方を(くら)ませていることで会長さんの悲願達成はますます遠退き、わたくしたちも事態の推移を見守るのが非常に困難になりましたわ」


「加えて変装の名手だしね。手を焼くのもよく分かるわ」


 アリシアという人畜無害な乳狩り被害女性に扮して接触してきたゲルダのことを思い出し、アイーダは顔をしかめる。


 エリサは頷くと、


「いくら貴重なバオルタイプと言えど、ゲルダの手に渡ったエルンストがいつまでも無事である保証はどこにもない……。これまでのようにじっと機を待つわけにはいかなくなった会長さんは、商会内部の人間に事情を伏せたまま、次のような苦肉の策を実行に移します。それは、商会のバオル持ちを警護班に配属し、任務と称して彼女に完成したアダムカドモンを回収させ、その過程で残りのバオルタイプ四機と接触させ、認証コードをアダムカドモンに受信させるという、何とも迂遠な方法でした」


「そして、その白羽の矢が立ったのが、わたしたち……」


 おかしいとは思っていた。バオル持ちの二名同時代替わりに、自分やインゲルのような新米若手の大抜擢。先代が謎の失踪を遂げたことによる異例の措置と当時は聞かされていたが、(ふた)を開けてみれば体のいい使い捨ての駒だったわけだ。


「わたしも、あの子(インゲル)も、物知らぬ小娘の方が御しやすいという理由で選ばれたに過ぎないということか……」


「酷な言い方ですが、実際その通りでしょうね。事実、お姉様は会長さんに(そそのか)され、彼の思惑通りに行動を起こし、ごく自然な流れで警護班に転属する運びとなりました。あとは、準備を整えたのち、任務でお姉様にアダムカドモンを回収させ、それを餌にわたくしやゲルダを(おび)き出し、途中フラミニアさんの所に寄るように仕向け、最後に裏切り者としてインゲルさんにお姉様を討たせれば、会長さんの大願は労せずしてまんまと成就するはずでした――けれど」


「…………?」


 知らず道化を演じていたことを知り塞ぎ込んでいたアイーダは、思わせぶりに言葉を切ったエリサに視線だけを向ける。


 アイーダの目がまだ死んでいないことを確認したエリサは、満足げに口元を綻ばせると、


「会長さんにとっての大きな誤算……それは、アイーダさんを利用したことで、結果的にインゲルさんという規格外の傑物(けつぶつ)を目覚めさせてしまった、ということです」

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