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MACHO繰りの少女  作者: 女又心
6 アダムカドモン

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6-2 明かされる真実

「インゲル・カーレン、入ります」


 かつての親友にして逆賊アイーダ・マリアを自らの手で討ち、彼女が強奪したという最重要機密を無事保護して商都に帰還を果たしたインゲルは、その足でAK商会本社ビルにある会長室への出頭を命じられた。なお、その場には相棒のオスカーは言わずもがな、保護した最重要機密の子どもも同行している。


 二人と一体が会長室に入室するなり、待っていたように合成音声が彼女らを出迎えた。


『よく戻ったね、インゲル。()()()()()()()()ようだが、流石の君も知己相手とあっては、やはり一筋縄では行かなかったか』


「まあ、そんなところです」


 曖昧に流したインゲルを特に気にした様子もなく、会長は続ける。


『それで、首尾は? 裏切り者アイーダの口封じには成功したのか?』


 言われて、インゲルは右手に掴んでいたものをすっと正面に差し出す。


 それは、一房の桃色の毛束だった。


『……それが何か?』


「ご覧の通り、アイーダの遺髪です。()()()()()にかけてもらえれば、間違いなくあの子のものだという照合結果が出るかと」


 インゲルの返答に会長は沈思する。


『……インゲル。まさかとは思うが、君。あそこまで大口を叩いておいて、アイーダを誅殺せずに見逃したんじゃないだろうね? 私は彼女を機密保持のために殺せと命じたはずだが?』


「ご命令通り、殺しましたよ。私の、この手で。――ですが、その証明のためだけに、わざわざ遺体を不必要に損壊することもないでしょう?」


『それはそうかもしれないが――』


「仮に」


 会長の発言を遮るように、ぴしゃりとインゲルは言い放つ。


「……何かの手違いで、あの子が息を吹き返したとして。あの子のアルは、完膚なきまでに私とオズが破壊しました。あの子があの場から生き長らえる可能性は、万に一つもありませんよ」


 そうインゲルが断言すると、会長の合成音声にわずかな動揺が混じった。


『……あの機体の識別信号が途絶したのは、そういうわけか……貴重なバオルタイプになんてことを……いや、あれからは既にコードを受信している……今となってはもう無用の長物か……』


 何やら一人勝手に得心した様子の会長。


 その関心は、次に本題の最重要機密へと移る。


『保護してからの道中、その子に妙な詮索や危害は加えてないだろうね?』


「鋭意努力したつもりです。一つ、報告するとすれば、この子がアイーダの亡骸からなかなか離れようとしなかったため、無理矢理引き剥がしてここまで連行してきたので、結果的に私はこの子から完全に嫌われてしまった、ということぐらいでしょうか」


 インゲルの証言を裏付けるように、フード付きの外套を目深に被った幼子は、さっきからじっと俯いたまま、(かたく)なに誰とも視線を合わせようとしない。アイーダが如何(いか)にこの子から慕われていたのかが、傍目(はため)にもよく分かった。


 インゲルの生真面目な物言いに、会長は失笑する。


『まあ、その程度なら別に構わんよ。肉体が無事ならね。その子が何を思い、どう感じようが、(じき)に何の意味もなくなるのだし』


「……それは、どういう意味でしょうか?」


 インゲルの疑問に対し、会長は数秒の黙考ののち、次のように切り出す。


『……そうだな。任務完遂の功績を評価して、君にはいくつかの情報を開示してあげよう』


 その言葉に呼応するかのように、会長室の天井の一部が音もなく開放され、そこから機械仕掛けの螺旋階段が静かに下降してきた。


『その子を連れて、そこから上がってくるといい。その先で私は待っている』


「会長が、この上に……」


 インゲルは息を呑むと、オスカーに幼子の手を引かせつつ、自らも()一歩(いっぽ)と階段に足を踏み出す。


 螺旋階段を(のぼ)った先には、薄暗いドーム状の不気味な空間が広がっていた。機械仕掛けの壁面の上を、時折緑色の光が無音で稲妻のように(ほとばし)る様は、どことなく脈に合わせて浮き上がる血管を連想させる。


 材質は明らかに無機質なのに、部屋全体が生きているような、そんな漠然とした錯覚をインゲルは抱いた。


『――フ、フフフ……この時をどれだけ待ち侘びたことか』


 感無量といった様子の会長の機械音声が辺りに木霊し、インゲルは視線を周囲に巡らせる。


「会長? どこにいるんです?」


『私ならここにいる。正確には、君たちが今いる場所そのものが、この私だと言い換えてもいい』


 意味不明な発言を繰り返す会長に対し、インゲルは傍らのオスカーへと救いの手を求める。


「……オズ。会長の言ってること、意味分かる?」


『推測:AK商会会長の正体が、商会のメインシステムに搭載された高度なAI、あるいはそれに類するものである可能性』


『残念ながら、はずれだ。私は、君のような人工知能とは似て非なる存在なのだよ、オスカー』


 どこか不遜な物言いで否定した会長は、いつになく饒舌な口振りで自分語りを始めた。


『私は正真正銘、人間だ。それも、今は現存しない、〝男〟という性の、ね。何千年も前、ボルバキアウイルスの猛威から逃れるために、自我データを特殊なバイオコンピュータ上に移すことで、今日まで生き永らえてきたのだよ』


「……それはまた、随分と気の遠くなるような話で」


 急なカミングアウトにぽかんとしているインゲルに構うことなく、会長は熱弁を続ける。


『ボルバキアウイルスに耐性のある男性の肉体の創造は、私の積年の悲願だった。プロジェクト(アダム・)(カドモン)……その長年の研究成果が、そこにいる最重要機密――人造人間アダムカドモンだ。その素体を依り代とすることで、私は再び男として、この世界に復活を果たす』


「……つまり、身を以てその安全性を確かめたのち、他の男性も順次復活させていく、ということですか?」


 男性復活を理念に掲げるAK商会は、ボルバキアウイルスに冒される前に保全した男性の遺伝子情報を、今も大切に保存していると謳っている。


 インゲルの至極真っ当な推理を、しかし会長は一笑に付した。


『はっ、まさか。そんなもの、大きな組織を束ねるための建前に過ぎない。厳重に保管してあるのは、あくまで私に関するパーソナルデータのみ。私以外の男は、とっくの昔に死滅している』


「……は?」


 悪びれることなくそう(うそぶ)いた会長に、それまで飄々としていたインゲルも、流石に我が耳を疑った。


 念願を目前にしてか、会長は狂気じみたトーンで、うわ(ごと)のように、ひた隠しにしてきたと思われる本望を訥々(とつとつ)と吐露し出す。


『男は、世界に私、ただ一人だけいればいいんだよ。肉体が老い衰えたら、新しい器に乗り換え、未来永劫、不老不死の如く、女しかいなくなったこの理想郷に、酒池肉林のハーレムを築き、私は生き続けるのだ』


「…………」


 会長の戯言(たわごと)を黙って聞いていたインゲルは、傍らのオスカーを肘でちょんちょんと小突く。


「……オズ。酒池肉林のハーレムって、何?」


『検索:酒池肉林の意味は、豪奢な酒宴。ハーレムの意味は、複数候補有り。ワード〝酒池肉林〟との組み合わせから類推し、〝一人の人物に対し多数の異性が取り巻くような状況〟を指すものと思われる。なお、本来酒池肉林という熟語に肉欲的な意味は含まれないため、このような使い方は厳密には誤用である』


「ふーん、そう」


 オスカーの回答に生返事を漏らしたインゲルは、やがてギリっと歯を噛み締め、姿無き会長を()め付けた。


「……そんなことのために、貴方は私に、あの子(アイーダ)を殺せと命じたのですか、会長?」


『アダムカドモンを独断で占有し、あまつさえ()の存在を不用意に衆目に晒した罪は、万死に値する』


「でもそれは、会長がアルに通信規制をかけたせいで仕方なく――」


『問答無用。そのような窮地に陥ったこと自体、彼女の落ち度だ。情状酌量の余地はない』


「……何よ、それ」


 会長の身勝手な言い分に、インゲルの堪忍袋の緒が切れる。


「私たち……いえ、世界中の全員を(たばか)っておいて、一体何様のつもりなの!?」


『この世を統べる唯一無二の男ともなれば、それはもう、神と呼んでも差し支えあるまい』


「違うッ! お前は断じて神なんかじゃない。自分のことしか考えてない、ただのドクズよ!」


『何とでも言うがよい。五つのコードを受信したアダムカドモンが手中にある以上、最早私の天下は揺るぎないものとなったのだ』


 やおら、ドーム状空間の外壁が、活性化するかのように(せわ)しなく発光を始めた。


『先程説明した通り、この部屋全体が、私の自我を宿したバイオコンピュータの一基にして、アダムカドモンへの人格転写装置となっている。そして、アダムカドモンへの人格移植完了が契機となり、()の素体に実装したフェロモンシステムが、雌を虜にする強烈な催淫フェロモンを振り撒き出す。そうなれば最後、皆、私の言いなりだ。今こうして対峙している君はおろか、誰一人として私に歯向かう者などいなくなるだろう』


 気付けば、幼子(アダムカドモン)の周囲にはエネルギーフィールドが張り巡らされ、手出しができないようになっていた。


 これ即ち、素体を殺害することで会長の人格移植を未然に防ぐという最終手段が潰され、完全に後手に回ったことを意味する。


「……なるほど。勝利の確信があったからこそ、(つまび)らかに明かす必要のない内情を暴露したというわけか」


 敗北を悟ったように握り拳を解いたインゲルに、会長は(ひそ)かにほくそ笑む。


『フフフ、そういうことだ。ようやく自分の立場を(わきま)えたようだね。やはり君は、アイーダと違い飲み込みが早くて助かるよ』


「…………」


 反論もせず押し黙るインゲルに程なく興味を失ったらしき会長は、すぐさま人格移植を実行に移そうとする。


『――思えば、艱難辛苦の連続だった。()()()に施された厄介な細工のせいで、計画の遂行に長いこと難儀させられたが……その苦労も、ようやく報われるか』


「……あの女?」


 おそらくは独り言のようなものだったのだろう。それを聞き付けて反応したインゲルに、会長はばつが悪そうにフンと鼻を鳴らす。


『君には関係のない話だよ。その昔、利用していたはずの相手に、まんまと寝首を掻かれたってだけのことだ』


「……確かに、私の知ったことじゃないな」


 言って、インゲルは口の端に嘲笑を乗せる。


「ただ、一つだけ言わせてもらうと……過去にあったその一件がきっかけで、今回の目標達成までに数千年もの時間を要したというのであれば、これはとんだお笑い(ぐさ)だと思ってね。――まあ、その執念だけは見事だと認めないでもないけど」


『……相変わらず口が減らないな、君は。随分と好き勝手に言ってくれる』


 煽りに煽ったインゲルの毒舌が気に障ったのか、会長は赤裸々な感情を丸出しにする。


『フン、まあいいさ。フェロモンシステムが発動すれば、そんな口答えも一切できなくなる』


 と、そこで、何かを思い付いたように、会長のテンションが不自然に上がる。


『――よし、決めたぞ。復活した(あかつき)には、まず手始めに君を手籠めにしてやろう。女に生まれたことを後悔させてやるから、今から楽しみにしていると――』


 会長が下種(げす)な宣言を口にした刹那、



 室内に、けたたましいアラート音が鳴り響いた。



『なっ、何事か……!?』


 うろたえる会長に、彼のものとは別の機械音声――おそらく、人格転写装置のものと(おぼ)しきシステムAIが、端的に状況を告げた。


『――システムエラー。パーソナリティ転写対象に指定された個体は、アダムカドモンではありません』

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