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MACHO繰りの少女  作者: 女又心
4 バックヤードの支配人

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12/24

4-3 五里霧中

 アルフォンスの検査を待つ間、アイーダはフラミニアにこれまでの経緯(いきさつ)を掻い摘んで説明した。


 本社から機密物輸送警備の特命を受け、地図にも記されていない秘所に赴いて積み荷を受領したこと。


 輸送中に教団のバオル持ちエリサと遭遇・交戦し、その過程で樹海に落下する憂き目に遭ったこと。


 落下の衝撃でアルフォンスの通信機能が使えなくなり、また積み荷の中身がそこで寝ている子ども(Cボゥイ)だと期せずして知ってしまったこと。


 バックヤードを目指す道中立ち寄った隊商宿で、乳狩りの被害者アリシアに助けを求められたこと。


 そのアリシアこそ乳狩りのゲルダ本人であり、狩場のオアシスで牙を剥いた彼女に応戦・苦戦していた折、フラミニアの救援のおかげで事なきを得たこと。


 状況が状況だけに、機密への抵触もある程度お構いなしに、アイーダはありのままの顛末をフラミニアに語って聞かせた。


「なるほどね」


 話を聞いて一人得心した様子のフラミニアに、アイーダはなおも釈明を続ける。


「きっと、定時報告がなかったことで、上からあらぬ嫌疑をかけられてるんだと思う。アルが通信不能に陥っていた事実を稼働ログと共に報告し、誤解を解くことさえできれば……」


 希望的観測を口にするアイーダに、しかしフラミニアは瞑目して首を左右に振った。


「アイーダちゃん。多分、今回の一件は、そんな単純な話ではないと思う」


「……?」


 と、そこへ、ドアをノックする音がフラミニアの私室に響く。


『マスター。アルフォンスの機体走査が完了したので報告にきました。彼も一緒です』


「ご苦労様、ウル。どうぞ入って」


 言われて、ウルと呼ばれたMACHOとアルフォンスが順番に入室してきた。


 戻ってきたばかりの相方に、フラミニアは早速問いかける。


「それで、結果は?」


異常なし(オールグリーン)です。アルフォンスの機体に故障は一切見受けられません。彼が通信機能不全をきたしている理由は今もって不明です』


「ウルでもダメなのね。まいったな……」


 落胆するアイーダにフラミニアは告げる。


「トラブルに見舞われていようがいまいが関係なく、あなたはいずれ濡れ衣を着せられていた、ってことなのかもしれないわね」


「? それはどういう……」


 いまだ状況が呑み込めずにいるアイーダに、フラミニアは信じがたい可能性を示唆した。


「つまり、アルが通信できないのは不慮の事故などではなく、何者かの故意によって引き起こされた通信遮断の線が濃厚、ってこと」


「通信遮断って……」


 突拍子もない話にアイーダは面食らう。一体誰が、何のために?


 そんな彼女に、フラミニアは先の推論に至った経緯を話してくれた。


「実を言うとね。一昨日――ちょうど、あなたが樹海で気を失っている頃になるのかしら? ある筋から、眉唾な情報提供があったの。近い内、あなたが冤罪で商会から追われる身となる、って」


「は?」


 寝耳に水だった。もしその話が本当なら、不幸な偶然が重なった結果と思われた今のこの状況も、一転して何者かに仕組まれた茶番の疑惑が浮上する。


 フラミニアは続ける。


「正直、最初にその話を聞いた時は半信半疑だったのだけれど……念のため、あなたにも知らせておこうと送ったメッセージはエラーで返ってくるし、その矢先に指名手配書(これ)でしょう? これは早めに手を打たないと、本格的にあなたの身が危ないかもしれないと思って」


「そんなことが……」


 結果的に、その情報提供があったからこそ自分は命拾いすることができたのだと思い、アイーダは人知れず感謝の念を抱く。


「それで、そのある筋っていうのは?」


「さっきあなたの話にも出てきた、教団のエリサちゃんよ」


「……前言撤回」


「はい?」


「ごめん、こっちの話」


 疲れたように額を手で押さえながら、アイーダは呻く。


「それにしても、どうしてあの子がそんな情報を……?」


「教団は、わたしたちも知らない商会の裏事情や暗部に通じている(ふし)があるから。何かしらのルートを通じて社内秘(トップシークレット)の一端を掴んだのかもしれないわね」


 フラミニアが憶測でそう言うと、アイーダは不貞腐れたように唇を尖らす。


「だったらあの時直接教えてくれてもよかったのに……」


『推測:アイーダが問答無用で先方を撃退したため、話を切り出すタイミングを逸したのではないかと思われる』


 アルフォンスの的確な突っ込みを、アイーダはふいっとそっぽを向いて無視した。


 そんな二人のやりとりを苦笑混じりに眺めていたフラミニアは、ふと視線をベッドで眠るCボゥイへと移す。


「渦中にいるのは、どう考えてもその子でしょうね。秘所から運び出された商会の最重要機密にして、あのゲルダがバオルタイプ(アルフォンス)に目もくれず執着を見せたその特異性。かねてからの商会の宿願。それらの情報を総合すると、自ずとその正体も見当が付くけれど……」


「…………」


 俯き固唾(かたず)を呑むアイーダを一瞥し、フラミニアはふうと短くため息を()いた。


「まあ、それがなんであるかまでは、わたしの関知するところではないけれどね。――何はともあれ、その子を巡る何らかの計略に、不運にもあなたは利用されてしまった。……ううん、そんな生易しい話ではないわね」


「Cボゥイに関わり、その結果商会に捨て駒にされる筋書きが、初めからからすべて決まっていた……」


 あまりに救いのない話に、少なからずアイーダはショックを受けていた。自分が一体何をしたというのか。


 そして何より、この回りくどいやり方に、果たしてどんな意味があるというのか。


「分からないことだらけだ……」


 (うつ)ろに呟くと、アイーダはベッドに歩み寄り、寝ているCボゥイの頬に優しく手を添える。


(……冷静になれ、アイーダ・マリア。上の思惑がどうであれ、この子の意思とはおそらく無関係なはず。商会が信用できない以上、この子のことを守れるのは、今やわたしだけなんだ)


 被害者意識を捨て、Cボゥイの保護者に徹することを決めたアイーダは、フラミニアから得た情報の吟味を始める。


(思うに、わたしが積み荷の中身について知ったかどうかは多分問題じゃない。なにがしかの名目で、わたしがこの子と一緒に逃避行すること自体に意味がある、のだと思う)


 では、その目的は何か?


(指名手配されれば、必然的に不特定多数の人物に追われることになる。そして当然、彼女らに捕まらないよう、わたしはあの手この手を使って逃げ回ることになるわけで)


 そうなると、自分たちに接触し得る存在は、ある程度限られてくる。あるいは、逃亡中に立ち寄るロケーションに何か意味があるのかもしれない。


(そうした特定の人物や場所にCボゥイをコンタクトさせることが黒幕の狙い……? だとしたら、わたしが行く先々で関わる事物の中に、何か共通点や法則性が見出せるはず……)


 思い詰めた様子で自問自答繰り返すアイーダの肩に、フラミニアがポンと手を置いた。


「とりあえず、アイーダちゃん。今日のところはあなたも休みなさい。疲れた頭では、いいアイディアも浮かばないわ。これからどうするかについては、明日改めて話し合いましょう」


「でも……」


「こんな状況で休めるわけがない、って言いたい気持ちはよく分かるわ。それでも、休める時に休まないと、あなたの身が持たなくなる」


「分かっちゃいるけど……」


 フラミニアの説得にアイーダがいつまでも渋っていると、不意にアルフォンスが口を開いた。


『報告:インゲル・カーレンからアイーダ宛てのメッセージを受信』



〇+



 同時分。商都、AK商会本社ビル、会長室。


 謁見の間とでも形容すべきその広々とした空間の中心部には、深夜にもかかわらず、一人の少女と一体のMACHOが並んで佇んでいた。


 少女の方は(つや)やかな黒髪をショートにしており、そのサラサラな前髪の下ではサファイアの如き切れ長の瞳が鋭い眼光を宿している。AK商会警備隊の制服に包まれた胸元は見るからにパツパツで窮屈そうに張り詰めており、その下に大層なものを隠し持っているのは誰の目にも明らかだった。


 対するMACHOは紅玉のボディを有していた。ここにはいないアイーダのアルフォンスと同系統の機体だということが一目で分かる外見的特徴を備えている。


 警護班のアイーダと双璧をなす防衛班の若きエリート、インゲル・カーレン。


 そして、彼女が使役するバオルタイプのMACHO――Oのオスカー。


 両者についての説明を手短にまとめると、そのようになる。


『報告:アイーダ・マリア宛てにメッセージの送信完了を確認』


「了解よ、オズ」


 オスカーの機械音声にインゲルが短く応じると、今度はまた別の合成音声がどこからともなく響き渡る。


『要請通り、君からアイーダへの通信のみ制限を解除したが……果たして彼女は君の呼び出しに応じるのか? 罠だと勘繰られるのがオチだと思うのだが』


「心配は要りません、会長。あの子は必ず私に会いに来ます。たとえそれが、罠であったとしても――」


 事の発端は数時間前。


 毎日一通、欠かさず届いていたアイーダからのメッセージが突然途絶え、不審に思った矢先に彼女が指名手配されたことを知ったインゲルは、これはどういうことなのかと会長に直訴を行った。


 そこで会長から、アイーダには背任の疑いがあること。それゆえ、彼女が仲間や協力者と連絡を取れないよう、現在アルフォンスには緊急措置で通信規制がかけられていることを知らされたインゲルは、続けて次のような上申を試みた。


 アイーダの処罰は自分に任せてほしい。自分に考えがあるので、アイーダへの片方向通信のみ許可してほしい、と。


 アイーダとインゲルが旧知の仲であることを知る会長は当初、インゲルが情に(ほだ)され、ミイラ取りがミイラになってしまうことをひどく警戒しているようだった。というのも、アイーダの離反が確実になった場合、商会に残されたバオルタイプは、最早インゲルのオスカーただ一機となるからだ。


 かつてバックヤードの支配人に贈呈した最強の一体は例外として、遥か昔に教団の手によりイグナシオを失ったことだけでも大きな失態なのに、エルンストをゲルダに強奪されるというショッキングな事件がまだ記憶に新しい内に、今度は身内の、それも幹部候補であるバオル持ちが造反したとあっては、まさに為政者たる商会の面目丸潰れである。


 そんな彼女――と言っても、会長の姿を見たものは誰一人としてなく、その声も合成のため性別は定かでない。男性は死滅したというこの世界の前提に基づき、会長のことも暗黙の了解で女性と定義付けているに過ぎなかった――に、インゲルは並々ならぬ己の覚悟を表明し、その信頼を勝ち取るに至る。



「友の犯した過ちは、私、インゲル・カーレンが粛清します」



 かくしてインゲルに、アイーダ・マリア追撃の命が下った。


「……馬鹿なアイーダ。私の傍を離れるから、こんな目に遭うのよ」


 会長室を後にしたインゲルは、誰にともなく独りごちると、オスカーを引き連れ夜の闇へと消えていった。

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