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MACHO繰りの少女  作者: 女又心
4 バックヤードの支配人

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4-2 フラミニア、バックヤード、そして

 フラミニアに先導されたアイーダたちは、夜明け前に当初の目的地であるバックヤードへと辿り着くことが出来た。


 バックヤードの敷地は、ミュータントや野党の侵入を拒む城壁で外周を取り囲まれており、商都ほど立派ではないものの、ちょっとした城郭都市の様相を呈している。


 フラミニアは何故か守衛のマッチョ繰りが警備を固める正門を避け、彼女と一部の親しい人間しか知らない裏口(バックドア)から壁内に帰還した。


 その理由が気になったアイーダは、先を行くフラミニアにストレートに訳を尋ねてみたのだが、


「ごめんね。詳しいことは後で話すから」


 などと勿体(もったい)付けられ、その場での回答をはぐらかされてしまった。


(フラミィ姉さんのことだから、何か事情があるのだと思うけど……)


 喉の奥に引っ掛かった小骨のようなしこりを胸に残しつつ。


 かくしてアイーダは、住人の大半が寝静まる中、生まれ育った養護施設へと数年ぶりに里帰りするのだった。


 帰途、フラミニアにはアルフォンスの不調(通信機能障害)を伝えていたので、まず一行は施設の建物内に併設された工房へと通される。


 ディアンドルの乳袋を弾ませて自機から降りたフラミニアは、ヒューマノイド形態に戻ったばかりの相方に指示を出す。


「ウル。話は聞いていたと思うけれど、アルのこと、お願いね? 彼のスキャニングはあなたに任せるわ」


『了解です、マスター。――それではアルフォンス、どうぞこちらへ』


了解(ラージャ)


 ウルと呼ばれた黄水晶のMACHOは、アルフォンスと比べて随分と人間臭い紳士的な所作で彼の案内を始めた。アルフォンスも大人しくそれに従う。


 次にフラミニアは、Cボゥイをおんぶしているアイーダへと向き直る。


「さて、と。それじゃあ、わたしの部屋に場所を移しましょうか。長旅で疲れてるところにあんなことがあって、いい加減その子も限界でしょうし。わたしのベッドを使っていいから、早く寝かせてあげなさい」


「うん。ありがとう、フラミィ姉さん」


 そうしてフラミニアの私室に移動したアイーダは、家主がお茶の用意をしてくれている傍ら、彼女のベッドにCボゥイを寝かせることにした。


「今日は大変だったね、Cボゥイ。ここはもう安全だから、嫌なことは忘れてゆっくりお休み」


「あい……」


 力無く応答するなり、即すーすーと規則正しい寝息を立て始めるCボゥイ。こちらが思っていたより余程(よっぽど)疲弊していたのかもしれない。


 彼の健やかな寝顔を尻目に、アイーダはフラミニアがお茶を淹れて待っているテーブルへと引き返す。


 席に着くと、フラミニアがお茶の入ったカップを差し出してくれたので、アイーダは両手でありがたくそれを受け取った。


「ごめん。何から何まで……」


「いいのよ、気にしないで」


 フラミニアはほわほわした笑顔でそう言ったものの、やがてその端正な表情は、次第に真剣味を帯びたものへと取って代わる。


「――それよりも、アイーダちゃん。あなた、随分と面倒な事に巻き込まれているみたいね?」


「え?」


 確かにここ連日は災難続きであったが、どうしてフラミニアが自分の受難を把握しているのか。


 不可解そうに小首を傾げるアイーダの目の前に、フラミニアは胸の谷間から一枚の紙切れを取り出し、それを広げて見せる。


「な……」


 それは、AK商会発行の公式手配書だった。


 最重要機密を奪って逃亡した罪で、とある人物を指名手配した、といった内容が、そこには記載されている。


 そして、その人物とは、他でもないアイーダ・マリア本人であった。


「わたし、そんなことしてないッ!」


「落ち着いて、アイーダちゃん」


 話が見えず困惑するアイーダを、フラミニアは冷静に宥める。


「今回、わたしが夜な夜な単身視察に出たのは、頻発する乳狩りの調査もあるけれど、一番の目的はあなたを捜索し、内密に保護することにあったの。まさか、こんなに早く見つかるとは思っていなかったし、その上もう一人のターゲット(ゲルダ)と戦闘を繰り広げているなんて考えもしなかったけれど」


「あれは、成り行き上というか何というか……」


 そもそもの話、今回の任務が始まってからというもの、起こった出来事のほとんどが成り行き任せだったと言っても過言ではない。


「……通報するの? 本社に、わたしのこと……?」


 恐る恐る尋ねるアイーダに、フラミニアは優しく微笑みながら、静かに首を横に振る。


「まさか。確かに、バックヤードとAK商会は協力関係にあるけれど、向こうの言い分をそのまま鵜呑みにするほどわたしの目は節穴ではないわ。とりあえず、ここにいるしばらくの間は大丈夫だから安心なさい」


 心強い言葉にアイーダが頼もしさを感じたのも束の間、フラミニアは「でも」と付け加えて話を続ける。


「それも長くは持たない、というのが実情でしょうね。商会に限らず、ゲルダのような無法者(アウトロー)連中に嗅ぎ付けられるのは、おそらく時間の問題」


 深刻そうに顔を曇らせるフラミニアに、幾分気を取り直してアイーダは頷く。


「それに、フラミィ姉さんには、ここのみんなを守る責務がある。今、わたしの知らないところで何が起きているのかは分からないけど、わたしの面倒事に、みんなを巻き込むわけにはいかない」


 決然と言ったアイーダに、フラミニアは心苦しそうな表情を浮かべる。


「厳しいようだけれど、あなたのその認識で概ね間違ってないわ。――無論、それを理由にあなたを見殺しにする気は、わたしには毛頭ないけれどね」


 そう告げると、彼女は卓上に身を乗り出してアイーダの目を覗き込む。


「何があったか、話してもらえる? 状況を整理して、これからどう行動すべきか相談するためにも」

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