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コワくて不思議なファンタジー空想科学に泣けるいろいろ短編集

すべては僕が生まれたこの星のために

作者: 大盛こもり

約7800字の短編小説


「おしゃあ!チビは掃討完了だな!20体はいたか?」

「だな、20だ。で、次はなんだ?でかいの来るか?」

「おあっと!でっかいぞ!ウマとタコだ!!」


 アロウ、シブロ、そしてショウの3人は20体の人型クリーチャー、通称チビを雑居ビルエリアで掃討し、大通りエリアに出た。そこで3人を待ち受けていたのは、チビとは比べものにならない中型と大型クリーチャーだ。


「周辺に民間人なし、対象、中型及び大型クリーチャー、M式斬弾使用許可申請!」


 素早く状況を確認したショウが中範囲型殲滅兵器の使用を申請する。顔を覆うモニターの右上にグリーンが点った。


「よし!アロウ、シブロ!M式斬弾使用許可出た!後ろのウマを頼む!」

「ショウ!前にいるタコはどうすんだ!?」

「オレが外装強化で近接戦闘及び陽動、タコは引き付けとく。ウマをさっさと片付けろ!」

「へいへい、じゃシブロ!さっさとやっちゃうぜ!」


 後方に砲武装した人馬型クリーチャー、通称ウマが6体、前方には2本腕4本足の大型軟体クリーチャー、通称タコが2体だ。


 ウマもタコも全身を覆う外装で表情は読めないが、彼らを殺したがってるのはよく分かる。


「アロウ!M式斬弾だ、オレが上から援護するから、お前がタネを蒔け!」

「了解、タネ蒔きの季節到来だな!!」


 アロウは胸元のポケットに手を入れ、幾つかの小さな球を掴んだ。


 ウマはビルの外壁とバスの残骸の間に隠れ、アロウとシブロに砲撃を加えている。ウマの腕と一体化した砲は見た目小さいが、ロケットランチャー級の破壊力がある。だが1発撃つと次の砲撃まで10秒ほどのラグが出るのが欠点だ。

 6体のウマはタイミングを合わせながらラグを少なくしているが、どうしても数秒ほどのラグが出ている。そこが狙いだ。


「外装強化、レグ!」


 脚の筋力を外装で強化したシブロは、砲撃のラグを突いてビルの壁を駆け上り、ウマが隠れるバスに射線が通る位置を見つけた。そこから直接ウマを狙うことは出来ないが、アロウの援護には十分だ。


 アロウはシブロの援護とラグを見ながら素早く残骸の影を駆け回ってタネを蒔く。


「うし!タネ蒔き終わりぃ~、シブロ!斬弾展開するぞ!」 

「りょーかい、いったれ!!」

「ざんげきだん、て・ん・か・い・・・ポチッと」


 その瞬間、ふたつに割れたM式斬弾のタネは、片方が地面に残り、もう片方は上空に飛び立った。ふたつはレーザーでリンクし、同様に飛び上がった全てのユニットと相互にリンクする。


 砲撃の砂埃が立ちこめる中、地上と上空に幾重にも張り巡らされたレーザーリンクの網が完成した。


 その様はまるで鳥かごか・・蜘蛛の巣。


 中範囲型殲滅兵器、M式斬弾。その有効範囲における攻撃対象は敵味方、民間人すら関係ない。だからこそ使用に当たっては指揮センターからの許可が必要となる。


「展開完了、あとはもう、見たくないかな・・」


 アロウがそう呟いたとき、上空ユニットが自律的に動き出し、ウマが隠れるバスの残骸と瓦礫の上空を覆い、その高度を下げた。


 相互にリンクしたレーザーの網は更に高度を下げ、バスの車体と瓦礫の鉄筋コンクリートをまるでバターのように切り裂いていく。


 次に響いたのは、粉々に刻まれるウマたちの悲鳴だった。



「外装強化オール、光学迷彩オン」


 ショウの目前に2体のタコがいる。タコの2本の腕のシルキーな輝きは微細な金属が蒸着した外装だ。骨格がない腕は一見柔らかく見えるが、実は鋼鉄の硬度を持たせることも出来る。


 全身筋肉で剛力のタコ。蒸着外装された2本の腕だけでも脅威なのだが、本当に恐ろしいのは2本の前足だ。

 通常4足歩行のタコは後ろ足2本でも立つことができる。そして自由になった前足の先端は、全体が吸盤に覆われた鉤爪になっている。

 腕と同じく蒸着外装され、伸縮する剛力の鉤爪、それが獲物に触れれば吸盤が吸い付いて離さない。更に鉤爪は獲物の体内に突き刺さる。そして吸盤は体内でも機能する。臓器に吸い付くのだ。

 そうなれば、獲物はもう鉤爪から逃がれることは出来ない。囚われたら最後、体はズタズタに裂かれ、最後は両腕ですり潰される。


 そしてタコの動きは恐ろしく速い。ウマの何倍も危険な敵、それがタコだ。


-こいつの腕と前足は危険だ。だけど、狙い所はある。


 外装強化は鎧のような防御性能で肉体を守るが、体の筋肉に沿って配置された特殊繊維は身体能力の大幅な向上をもたらしていた。


 一体目のタコ目掛け、強化した脚力で真正面から突っ込むショウに、タコの反応は微妙に遅れる。身に纏った光学迷彩が一瞬の余裕をショウに与えてくれる。


 タコは真正面のショウを捉えようと両腕を広げたが、ショウは左に身をかわすと同時に地面に伏せる。

 景色に同化して動き回る敵が目の前で消えた。 慌てたタコは後ろ足だけで立ち上がり、両腕と両前足を振り回す。だがそれはむなしく空を切った。


「両腕、モードヤイバ!」


 ショウは両腕の外装形状を刃モードに切り替えた。地面に伏せたそのままの姿勢で、ショウはタコの後ろ足に接近する。


-ここだ!


 タコの弱点、それは後ろ足で立ったときの爪先だ。


 大型軟体のタコは重い。それ故の4足歩行なのだが、2本足で立ち上がれば全体重が爪先に掛かる。骨格がない軟体だが、その時だけは爪先が鋭角に曲がって刃が入る。そこをピンポイントに狙って爪先の切断に成功すれば、タコの動きを封じることが出来る。しかも、脅威の前足も無力化できるのだ。


 強化した脚力で地面を蹴り、空中に飛び上がったショウは、両腕の刃をタコの爪先に振るった。

 ショウの刃は正確にポイントを捉え、ショートケーキでも切るかのように振り抜かれる。


「ギィィエエエエーーーー!!」


 両爪先を切断されたタコは、爪先の先端から青い血液を飛び散らしてのたうち回る。


 もう立つこともできず、武器である前足で這いずるしかない仲間にもう一体のタコが走り寄る。光学迷彩で景色に紛れたショウは、すでにその場から離れていた。


 仲間となにやら話をしているタコの背後に回ったショウは、M式斬弾のタネを取り出した。


-陽動は上手くいったが、気付かれずにコイツをいくつ蒔けるか。粉々にしないとタコは死なない。下手すれば腕一本でも襲ってくるからな。


 大型軟体クリーチャーのタコは、体中に10個の脳髄を持っている。一番優位の脳がやられても、下位の脳が機能を引き継ぐのだ。


 その時、背後でウマたちの悲鳴が響いた。


 アロウとシブロの足音が聞こえる。


-アロウ、シブロ、やったな。3人ならもう負けることはない。


 ショウは口角を上げた。



「ショウ、アロウ、シブロ、市街戦訓練終了です。掃討対象個体、MⅠ型20体、HS881型6体、OCTⅡ型2体、全体掃討完了、所要時間9分49秒、10分を切りました。よく出来ましたね」


 見上げる3人の頭上に小型ドローンがホバリングしている。声はドローンからのものだ。


「この市街戦訓練を持って、あなたたちは西ブロックセクト7でのカリキュラムを終えました。すばらしい成績でした。そして10年間、お疲れ様。もう会えないのは寂しいけれど、すぐに市民になれますから、楽しみですね」

「サンキューママ・・・ママも10年間、ありがとう。僕たちは市民になるよ。きっと」


 3人は顔を見合わせ、満足げに笑った。



 基地中央に位置する訓練場に、ショウを含め50名ほどが整列している。彼らはそれぞれ配属先を告げられていた。

 

「ショウ・シイマ、配属は機動攻撃部隊15小隊。18時までに小隊に合流・・」


 ショウは5才からの10年間、アウス防衛軍戦闘員育成施設、西ブロックセクト7で育った。同じ時期に入ったアロウ、シブロもずっと一緒だ。


 この間、彼らは通称”ママ”と呼ばれる汎用AIに育てられ、同時に戦闘技術を叩き込まれた。


 3人とも親の顔や生い立ちの記憶が無い。ただ、この星系第3惑星、アウスを侵略してきた星人の攻撃で孤児になったのだと、ママは教えてくれた。


 だから『あなたたちの手で星人を殲滅しなければならない』とも。


 だが今、アロウとシブロはいない。ふたりはショウよりも早く別の小隊に配属され、すでに星人の母星に出撃したと聞いている。


「ショウ・シイマ?あんた知ってるよ?西ブロック成績トップのショウだよね!あたしロティ、名字無しのロティ、西ブロックセクト3出身、で、あんたと同じ15小隊、よろしくね!」


 突然隣から声を掛けてきたのは、濃い茶色の肌を持つ女性兵士だった。


「ああ、セクト3のロティ、知ってるよ。成績は僕よりだいぶ下だけど、お前も15小隊なのか」


 訓練場に集められた中で15小隊に配置されたのは、ショウとロティだけだった。


「あはは、だいぶ下って・・まぁそうだね、でも実戦じゃ分かんないよ?とにかくよろしくね!」


 ロティはそう言って笑った。



 15小隊には東西南北の各ブロックから各2名、計8名が配置されていた。


 すでに整列しているショウたちの前で、空中にホバリングしたドローンから声が響く。


「15小隊長のブラザです。皆さんの情報は全てハンドモニターに表示されています。このミッション内でのポジション、ミッションの内容、了解ですか?」

「了!!」


 全員が腕に装備しているハンドモニターを確認した。


-ミッションリーダーは、俺か。


 ショウはこのチーム8名の指揮官に任命されていた。


「皆さんはこれから本ミッションの完全遂行のみを考えてもらいます。リーダーのショウは本ミッションについてプランを作成し、3時間後に提出すること。承認を得れば全員に共有します。それまで各員にバイタルボックスでの待機を許可。では、解散」

「小隊長!」


 飛び去ろうとするドローンに、ショウが声を掛けた。


「ブラザで構いませんよ。ショウ、なにか質問ですか?」

「ブラザ、質問です。西ブロックセクト7出身のアロウ・ヨウマとシブロ・コウについて情報はありますか?」

「アロウ・ヨウマ、シブロ・コウは敵母星通信基地破壊作戦に出撃、2名とも重傷ながら帰還、市民権を得て現在はシュトにて療養中、以上」


 検索を掛けたのだろう、ブラザは即座に応えた。


「ショウ、いえ、あなたたち全員、このミッションを終えれば市民権を得ます。楽しみですね」


 そう告げてブラザは飛び去った。それを見て、ショウの元にロティが駆け寄る。

 

「ね、私は総合成績はほどほどだけど、射撃は相当なもんなのよ?ちゃんと活かしてね?指揮官どの」

「ほぉ、射撃ね、分かったけど、他のみんなのデータも確認してからな」

「ほぉ・・って、おじさんみたいだね!」


 ロティは手を振りながらバイタルボックスに向かった。


「さぁ、僕のプランが承認されれば・・・出撃だ」



「ショウ・・・あぁ・・・ゴメン、わたし、なんにも役に立たなくて・・がはっ!」

「ロティ!喋るな!喋るとバイタルが・・」


 敵母星、そこは地獄だった。


 戦闘開始直後こそ敵の小型、中型クリーチャーを圧倒したショウの部隊は、敵部隊が投入した新型クリーチャーに蹂躙されていた。それはアウスでの訓練で戦ったタコに似ていたが、各個体がM式斬弾に似たドローンを伴っている。だがそのドローンが発しているのはレーザーではなく、正体不明の電磁波だった。


「くそ!あいつが飛ばしてるドローンは何を出してる!?骨が・・軋む?」


 ショウたちの全身を包む実戦型外装は、頭のてっぺんから爪先までをシームレスに覆う。外から見るとツルツルの風船を被っているように見える。それが装着者のコマンドによって自在に変形し、戦闘能力を大幅に向上させる。新型の発する電磁波はその機能を全て無効化し、しかも骨格にまで影響を与えているようだ。


 すでにショウとロティ以外の6名全員が倒れている。切り札だったM式斬弾も機能せず、彼らの周りに散らばっていた。


 生き残ったロティも小型クリーチャーの猛攻を受けて戦闘不能だ。

 長距離型は場所が特定されると集中攻撃を受ける。そして、近接戦闘では弱い。


 もう打つ手はなかった。


「外装強化、オール!」


 迫る新型のドローンを避けたショウはロティを背負い、強化した全筋力で瓦礫を駆け抜け、前線を離脱した。


「近接戦闘の2名と中距離支援の4名は新型のドローンで戦闘不能だ。M式斬弾も無効化されたし、長距離型のロティも小型どもの集中攻撃を受けた。やつらはこっちの部隊編成を知ってたのか?」


 ビルの残骸に身を隠し、偵察用ドローンを上空に飛ばしたショウは、モニターで敵の様子を窺った。


「・・あいつら、いったい何するんだ!!」


 ショウのモニターに、倒れた仲間を抱える小型クリーチャーの姿が映った。近接戦闘の2名が連れ去られる。だが、更に信じられない光景をショウは目の当たりにした。


「なんだあの炎は・・あれは、中距離支援のカイルだ。どうしてカイルの体が・・燃えている?いや、中距離支援の4人全員が燃えている・・いったい何が起こってる?」


 小型クリーチャーが近接戦闘の2名を連れ去るとき、新型はその傍でドローンを飛ばしている。つまり、カイルたちはドローンの電磁波の外にいた。


「まさか、いや・・・そんな」


 ショウの頭の中に疑念が渦巻いた。そしてその疑念は、すぐに確証となる。


「うぁっ!!ロティ、ロティっ!!」


 突然、ショウが背負ったロティの腕が高熱を発した。


「あああぁあああ!!ショウ!熱い!!あっついぃいい!!ショウーーー!!」


 ロティを包む外装が燃えている。いや、違う。

 その炎は、ロティの体内で燃えている。


 腕から吹き出した炎はロティの体を包み、辛うじて残っていたロティのバイタルは瞬く間に尽きた。そしてロティの体は燃やし尽くされ、粉々の灰になった。


 骨のひとかけらも残さずに。


「カイルたちもロティと同じだ。欠片も残さずに燃え尽きた。これは・・コマンドなのか?」


 そう呟いた瞬間、ショウのモニターにコマンドが表示された。


 ”ショウ・シイマ ミッション遂行不能と判定、ディスポーサル”


「ディスポーサル・・処分って・・あっつ!!」


 まず指先に鋭い痛みが走った。思わず目をやった手の平の中央で炎が燃え上がり、瞬時に黒い灰となって崩れ落ちた。

 手の平に開いた穴を見ても、ショウは自らの体に何が起こったのか、理解するのに時間が掛かった。


-僕は・・・燃えているのか?


 そう理解する間にショウの手の平は燃え尽き、内から溢れる炎は両腕の手首、肘へと燃え広がる。


-だめだ、僕も、燃える。


 ショウが天を仰いだ瞬間、その眼は頭上に数機のドローンを捉えた。


-新型のドローン、僕を追ってきたのか・・そんなことしなくても、僕は燃え尽きてしまうのに。


-ロティのように・・


 ショウの意識は闇に溶けた。



「・・・バイタル正常に戻ります」

「焼損部位、両上腕、両下肢、膝下部まで・・」


-誰だ・・人か?


-僕は・・・救出された?


-ここはアウスか?・・シュト、なのか?


「・・・覚醒します」


 目を開けたショウの目の前にいたのは、ヒトだった。



 ホバーチェアに乗せられたショウの横に、小型クリーチャーに連れ去られたふたり、ラウンズとカメオが座っていた。3人の目の前には巨大なスクリーンが設置され、数名の白衣の人間が忙しく機器を操作している。


 準備が終ったのか、そのうちのひとりが3人に向き直った。


 その白衣の人間は女性で、ユミコ・ヨシヤマと名乗った。

 ショウたちはこれまで、自分たちと同じ年頃の女性しか見たことがなかったが、ユミコはずっと年上に見える。


「お待たせしました。ショウ、ラウンズ、カメオ・・呼び方はこれでいいですね?それではまず、お互いの惑星について説明を始めましょう」


 ユミコは、戦争状態にあるふたつの惑星について語り出した。


 ショウたちが敵の母星と信じて疑わなかった惑星、そこは地球と呼ばれ、ショウたちの母星アウスはペセタ星系第3惑星、ペセタデルタと呼ばれていた。


 次にユミコが発した言葉に、ショウたちは戦慄した。


「そしてあなた方は、ペセタデルタ人ではありません。この星の人類、地球人です・・」


 地球での暦、西暦25××年、ペセタデルタによる最初の侵略が始まった。それは誰にも気付かれないように、静かに、だが着実に。


 彼らはその年から10年間に渡って、秘密裏に地球人拉致を実行したのだ。対象は10代の男女、しかも学力や体力に優れた優秀な若者たち。その数は数千人に及ぶ。


 当初は誘拐や単なる失踪、事故として扱われた事案は、10年の時を経て解明された。

 これら失踪事件と25××年から急増した確証的なUFO事件との関連が疑われ、決定的な証拠を掴むことが出来たからだ。


 その後、ペセタデルタによる侵攻が始まった。


「私たち地球人は、結局ペセタデルタ人という生物を現認したことがありません。ですが、彼らが侵略に用いる人型ドローンが、戦闘後にそのテクノロジーはおろか、DNA情報すら残さず消滅することに着目し、ある仮説を立てたのです」


 ショウたちは言葉を失ったまま、聞き入るしかなかった。


「私たちを侵略するツルツルの人型ドローンは地球人の、いえ、あの子供たちのクローンなのでは」


「あの頃、地球から拉致された少年少女たちの・・クローンなのでは、と」



 ペセタデルタ人、いや、アウス人たちは自らは戦わず、地球から拉致した子供たちのクローンを兵器として利用していた。しかも、戦闘不能か作戦終了時に『ディスポーサル』する、使い捨ての兵器として。


 この地球で戦っていたのは、地球人同士だった。


「あなた方が、外装、と呼ぶ戦闘用スーツと、あなた方の骨格にディスポーサルコマンドのシステムが組み込まれていました。私たちはようやくシステムの解析に成功して、コマンドを妨害、無効化する複合的電磁波を開発したのです。この電磁波の範囲内ならあなた方は安全です、燃えません」


 ユミコは続けた。


「つまり、これから地球に来る兵士たち、あなた方と同じ顔をした兵士たちは生き残ることができます。コマンドで燃えることなく」


「それで、あなた方はどうしますか?」


「私たちはあなた方の希望を尊重します。ペセタデルタに戻りますか?それとも残りますか?」


「この地球に、あなた方の、ふるさとに」



「ああ、見えた、アウスだ。あそこにアロウとシブロがいる。そうだ、僕は市民になるんだ」


 ユミコ・ヨシヤマは、アロウもシブロも燃えてしまったのだろう、と言った。


 でもそんな話はウソだ。


 だってママは、市民になれって言った。

 だってブラザは、アロウもシブロも帰ってきた、市民になったって言った。


 だから僕だけは、地球人が確保していたアウスの船で戻ってきた。


 一緒に帰ろうって言ったけど、ラウンズとカメオは首を横に振った。


 それはしょうがない。いいんだ、僕だけで。


 僕は帰る。僕が生まれたあの星に。


 アウスに。



 夜空を見上げながら、ユミコ・ヨシヤマは呟いた。


「帰りなさい、ショウ・シイマ、あなたが生まれた星へ」

「でもね、あなたのふるさとはここ、地球」

「そう、あなたは地球の子」

「ペセタデルタの子じゃ、ないの」


 ユミコは背後のオペレーターを振り返り、手を振った。


「よろしいのですね、ユミコ。これで戦争は終わりますが、あの子たちは」


オペレーターの問い掛けに、ユミコは無言で頷いた。


 ユミコの表情を読み取ったオペレーターは、軽く頷いてコンソールを操作した。


 地球から遠く離れた宇宙の星で、閃光が煌めいた。


 そこは、ショウ・シイマがアウスと呼んだ惑星。


 彼と、彼の船に仕込まれた終末兵器、それが炸裂した瞬間。



「さようなら、ペセタデルタ」

「さようなら、ショウ・シイマ」

「そしてさようなら、地球の子供たちよ」


 ユミコ・ヨシヤマは、再び夜空を見上げた。


 その瞳に、美しい星が煌めいていた。


 いつもと変わらぬ、美しい星が。





すべては僕が生まれたこの星のために  了

連載形式の短編集にも入っています。

そちらもご覧いただくと、うれしいです。

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