ありがとう
今日も、夜西くんは通常運転。ぐっすり眠っています。
私、有宮琥珀はショートスリーパーです。
昨日は、見たかったドラマを1人で楽しんでいました。
(あの俳優さん、かっこよかったなぁ……)
家で私1人でテレビを見るような時間は夜くらいしかないので、少しワクワクします。でも、家族と見るテレビも、賑やかで大好きです。
昨日のことを思い返して、ほっこりしていた頃。席順で物語を朗読する時間になりました。
私の番が近づき、声を頑張って張って出しました。
他の人も読み終わり、次は夜西くんの順番になりました。気持ちよさそうに寝ている彼は、国語の授業なんてこれっぽっちも聞いていません。
(教えてほうがいいかな……)
でも、また聞こえていないでしょう。それなら、そっとしておいたほうがいいですよね。
私は教科書を読むフリをして、夜西くんから目を逸らしました。
「また寝ているのか、夜西!」
先生が大きい声を出して、夜西くんは目を覚ましたみたいです。寝起きの声で、ゆっくりと朗読をしていました。
そして、また寝てしまいました。
頬杖をついて、窓の外を眺めているようにも見えますが……明らかに、頭が動いています。そして微かな寝息が私には聞こえます。
(反省、しないんですね……)
「夜西、問い3を答えろ」
夜西くんが起きていると思ったのか、先生が名前を呼びました。
眠りが浅かったのか、夜西くんは前を向いて立ち上がりました。
簡単な問題なので、文を読めば分かるものです。ですが……
(話を聞いていなかったから、分かっていない……)
物語文を読んでいないのと、そもそもどの問いを答えるのかが分かっていないようです。
教えたほうがいいのでしょうか。
……ですが、小さい声で教えても、この静かな教室では気付かれてしまいます。
私は、ノートの端っこをちぎって、夜西くんの机の上に投げました。
「っ!……えぇっと、答えは2です」
「正解だ。なんだ、聞いてたじゃないか」
先生は、少し驚いた様子で次の問いの解説に移りました。
どうやら、紙を渡したことは気付かれていないようです。
(ふぅ……良かった……)
ふと、夜西くんのほうを見ると、目がばちっと合いました。
数秒間、ずっと目が合っていました。
どうして、私を見ているんでしょう……顔に何かついてるのでしょうか。
目を逸らして、板書を写していたとき、視界に紙がありました。
[ありがとう]
そう書かれた紙は、夜西くんから飛んできたものです。
もう一度目が合ったので、私は会釈をしました。夜西くんも同じように会釈をしました。
また寝るかもと思いましたが、次は寝ませんでした。
起きているフリでもなく、ちゃんと授業を聞いて、板書を写していました。