舞い踊る
午前の競技が終わり、昼休憩を挟む。
昼食を取り、熱気が少し落ち着いてきたところで、再燃させるための午後最初のプログラムは——応援合戦だ。
今ではクラス別での対抗戦になった体育祭だが、昔は紅白の二チーム制だったと聞いている。その名残りでこの応援合戦も二つのチームに分かれ、二種類のパフォーマンスが披露される。
先攻の紅組はチアリーディングだ。太鼓の音に合わせて男女が混じったチア隊がポンポンを振っている。
奇をてらわない、だが体育祭という場においてこれ以上ない一体感を見せるそれは、盛り上げるには十分なものだった。
「続きまして、白組による応援パフォーマンスです!」
アナウンスが響いた後、グラウンドはしばらく静寂に包まれた。
大勢が踊っていた紅組とは対照的に、白組は広いグラウンドの中心に学ラン姿で帽子で顔を隠した生徒が一人佇むのみ。
ざわつく観客の視線を一身に集め、彼女は帽子を投げ捨てる。
「さぁみんな! 最高のステージにしようか!」
山田部長の一声で黄色い声援が鳴り響いた。
同時に音楽が流れ、太鼓の音が大気を震わせる。軽快なリズムと共にバックダンサー隊と、熊、鹿、猪の要素を含んだ赤い謎生物の着ぐるみを纏った平野先輩が入場してきた。
「……何だあれ」
「えっと、瀬奈先輩の小説に出てくる……確かジビエ大帝」
「聞いてもわからん」
土埃舞うグラウンドが劇場に変わる。主演女優の一挙手一投足で観客席からは拍手と口笛が飛んでいる。
キレのあるダンスとぴょこぴょこと跳ねるマスコット。笑顔の波が広がっていく。
「今日の流した汗も、笑顔も、焼けるように熱い想いも、全部が青春の記憶に変わる! 悔いなんて一ミリたりとも残しちゃいけないのさ」
山田部長が指し示した先で平野大帝がくるりと回転しようとして、尻もちをついた。
おそらくは着ぐるみで動きが鈍ったが故のアクシデント。だが、部長が先輩に手を差し出し、それがまるで演出であったかのように振舞ってみせた。
さらに大きくなる笑いと拍手。まるでスポットライトに照らされているかのように見えた。
「凄いな、あの人達は」
思わず俺は呟いていた。
「本当に別世界の人みたい。あれだけ目立ってるのに、嫌味がない振る舞いができるのは凄いね」
隣で見ていた御影も頬をほころばせている。
「来年は一ノ谷君がこの景色を見せてくれたら最高なんだけど」
「無茶言うなよ。俺より御影の方が主役向きだろ。絵が映える」
「……一ノ谷君は、私がああやって踊ってるのが見たいの?」
クライマックスの直前、小さく尋ねた御影の言葉。返す言葉に迷っているうちに俺達は歓声に飲み込まれた。
「さぁ、体育祭も後半戦! 準備はできてる? もちろん、誰よりも輝く主役になる準備をさ!」
平野先輩が紙吹雪を放つ。
太陽の光を受けて星のように輝く光の粒が、風に舞う。
割れんばかりの喝采が山田部長をはじめとした応援団に贈られている。
「……一ノ谷君」
「ん?」
「私ね、一ノ谷君になら何でも話せるし、何でも見せてあげられるよ」
「あまりそういう事は人前で言うもんじゃないぞ」
心地良い風が俺達の間をすり抜ける。
俺には部長達のように、みんなを盛り上げたり、励ましたりする事はできない。
でもいつか、それができる人達と共に何かを成し遂げることができたのなら、きっと幸せを感じることができるのだろう。
そんなことを考えながら、再びグラウンドに目を向けてみると、周囲に手を振りながら撤収していく応援団の姿が見えた。
砂埃で靄がかかり、光に照らされた彼らの姿は幻想的で夢の中にいるかのように遠く感じた。




