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青春に調味料をひとつまみ  作者: 瀬戸 暁斗
体育祭編

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20/27

バトン

 体育祭が翌週に迫り、校内の雰囲気も慌ただしく変わってきた。

 1-5では、中心選手に据えた桔平と若松がクラスをまとめ上げている。それに対して俺は……。


「何冴えない顔してんだよ。盛り上がっていこうぜ。せっかくアンカー任されたんだしよ」


「うるせえ。ちょっと休ませてくれ」


 度重なる練習によって生まれた筋肉痛に悩まされていた。

 若松をリレー選手にした代償に、彼が選んだ勝利を狙えるメンバー。その中に俺の名前が入っていた。


「まぁさ、どのみち真尋はリレー走ることになってたと思うぜ。仮に俺がメンバー決めるとしても、真尋をリレーに選んでた。だから諦めて頑張りな」


「別に手を抜くつもりはねぇよ。こんだけ出力上げて運動するのが久しぶりで、体がついていってないだけだ」


「やっぱ、律儀なやつだねぇ」


「律儀ってお前な……。そういうお前はどうなんだよ。綱引きチームのリーダーだろ」


 クラスの中心として選出した桔平と若松。若松には目立って勝つことで士気を上げるという役割を命じたが、桔平にはチームをまとめて良い雰囲気を維持することを任せていた。

 実際、クラス全員でいい結果を残そうという空気感が形成されつつある。そこへ水を差すわけにもいかず、こうして俺も練習に励んでいるというわけだ。


「うちは順調だぞ。全部勝てるかはわからないけど、息もあってるし、何よりやる気がある」


「そりゃあ羨ましいな」


「どうした? リレーチームは何か問題でもあったか?」


「なんて言うかな……個人的な問題だとは思うんだが……」


 1-5は順調に体育祭に向けて準備を進めている。ただ一つ、どうしても拭いされない不安材料が俺の中にはあった。


「あんまり練習で上手くいってない。バトンパスがめちゃくちゃ手間取る」


 単純に足の速い生徒をかき集めた即席チームで挑む


「へぇ、珍しいこともあるもんだな。お前ならそれくらいこなせるもんだと思ってた」


「買い被りすぎだ。人の何倍も努力して、やっと身につくかつかないかってレベルの人間だぞ、俺は。特にチームプレーなら尚更だ」


 俺は昔からどうも不器用だった。走ったり、ボールを投げたり、一つ一つの動きはそれなりにできても、それらが組み合わさった競技となればなかなかうまくこなすことができなかった。

 個別の動きができることもあって、桔平など周りの人からは良い印象を持たれてはいるが、その実特段運動神経がいいわけではないという自覚があった。


「じゃあさ、練習すればいいじゃん」


「……ん?」


「だから、できないならできるまでやれば、できるようになるだろ。ほら、俺が手伝ってやるからさ」


 何を言い出すのかと思えば、この男が為せば成るを体現している人間だということを俺は忘れていたようだ。

 思わずフッと口元が緩んでしまった。


「ああ、頼んだ」


 * * *


 放課後、桔平に連れられグラウンドに出てみると、山田部長、平野先輩、そして住吉が俺達を待ち構えていた。


「……何でここに?」


「俺が呼んどいた。練習してるところ見てもらって、問題があったら指摘してもらえるだろ」


「そうかもしれんが……」


 ほら、見てみろよ山田部長を。面白半分で来てる人の目をしてるぞ。


「まぁ、いいか。それで、バトンは?」


「ここにあるよ。陸上部から借りてきた」


 驚くほどに手際良く準備を進めていた運動部コンビのコミュニケーション能力に少し怯えながらも、住吉から手渡されたバトンをそのまま桔平に受け渡す。アンカーの練習はバトンを受け取るだけでいい。

 そのまま互いに5mずつほど離れて向き直った。


「じゃあ一本目、はじめるぞ」


 軽くジャンプを繰り返し、桔平がこちらに走り込んでくる。短い距離だが既にトップスピードに入ったその姿は猪を彷彿とさせる。

 ただ待っているだけではバトンパスはできない。俺も桔平とは反対側へと助走を始める。テイクオーバーゾーンの幅を目一杯使って加速を途切れさせないことが重要だ。今は桔平を信じて後ろ手にバトンを待ち構えた。


 パシッ。


 手の中にバトンが触れた冷たい感触。振り向かずにそのまま走り抜けた。


「何だよ。出来るじゃん」


 速度を緩めた俺に追いついてきた桔平は、その勢いのまま俺の肩へ腕をまわす。


「出来るもんだな。今まで全然上手くいってなかったんだが」


 何度もリレーチームで練習していたが、今回のようにスムーズなバトンパスができたことはなかった。

 2人で首を傾げながら、走ってきた距離を戻ると、山田部長が腕組みをして待っていた。


「今の、もう一回やってみてくれる?」


「もう一回? 真尋もいい感触のまま終わらせてやったほうが——」


「大丈夫。信じてやってみて」


 言われるがまま、再び距離を取り、バトンパスをする。これをまた3回ほど繰り返し、その間ミスをすることは無かった。


「ハァ……ハァ……な、何回、やらせ……やらせるんですか……」


「もういいじゃないですか。一回もバトンパス失敗しなかったですよ」


 息切れしている俺と平然としている桔平。運動から離れた調理部員と現役バリバリのラグビー部員の差は大きい。


「そうだね。君達2人なら、息が合うんだろうね。長年の信頼関係の賜物だよ」


「そ、それで?」


「チームメンバーと、特に君がバトンを貰う相手とちゃんと話し合ってきたほうがいい。君はまだクラスメイトを信頼できていないようだ」


 心当たりがない訳ではない。

 未だにクラスメイト全員の顔と名前が一致しておらず、友人と呼べる人も桔平くらいのものだ。信頼以前に交友すら持てていない。


「話は聞かせてもらったよ! 俺の方で機会は取り持とう!」


 突然聞こえてきた聞き覚えのある声。俺をリレーチームに引き入れた男が、サッカーボール片手に背後に立っていた。

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