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青春に調味料をひとつまみ  作者: 瀬戸 暁斗
体育祭編

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19/27

サッカー部のルーキー

「えっ、どうしたの? 急にイメチェンなんて、一ノ谷らしくないわね」


「そりゃあそうだろうよ」


 翌日、教室に入った途端に多くの視線が突き刺さるのを感じた。慣れないことはするもんじゃないな。

 髪型が変わった瞬間から一緒にいた桔平は別として、最初に俺に話しかけてきたのは意外にも本庄だった。

 本庄が御影と連れ立って俺と桔平の席まで来たのも、余計に視線が集まった要因だろう。クラスの中心人物が日影者と話しているのは、俺でも妙だとは思う。


「まぁ、変だとは思うよな。教室の隅っこで大人しくしているようなやつが、急に髪型変えて登校してくるんだもんな」


「そんな変だなんて誰も思わないよ! だって……と、とっても似合ってるから……」


 御影からこう言われ、昨日も山田部長から似合っていると言われたが、いまいちその言葉を額面通りに受け取れない自分がいた。きっと今、俺は表情すら上手く作ることができていないだろう。


「……そ、そうか」


「何がそうか、よ。せっかく有紗が褒めてるんだから、少しくらい嬉しそうにしたらどうなの? それにあなた、顔だって別に悪くないんだからもうちょっと他の人と仲良くしようとしたら、絶対に人気出るわよ」


「人気なんて別になくていいだろ。俺は現状で満足してるんだ。あとな、面のことを言うなら桔平とかあいつ……ほら、そこのサッカー部の……あいつとかがなぁ……」


「あぁ、若松(わかまつ)君ね。って、名前くらい覚えといてあげなさいよ」


 若松……そうだ思い出した。若松遼太朗(りょうたろう)(りょうたろう)だ。

 サッカー部では期待の新人だともてはやされ、勉強もそれなりにできる。クラスの中では男子をまとめ上げて、御影・本庄グループに次ぐ規模の陽キャグループを形成している。


「確かに若松君は女の子に人気だし、いっつもキャーキャー言われてるけど、あなたとは顔の種類が違うだけでしょ」


「そうだよなー。遼太朗はなんつーか濃いんだよなぁ。目力強いし。んで、真尋は……薄い?」


「雑味が無いって言うか、悪くなる要素は0って感じかしら」


「褒めてるのか貶してるのかどっちだよ、それ」


 改めて若松の顔を観察してみると、彫りが深く日本人離れしていると言っていい。これはモテるわけだ。


「そりゃあ褒めてるわよ。性格以外はスペック高いんだから」


「終わってる性格してて、悪かったな」


 性格が悪いことは十分自覚している。自分のことも、他人のことも嫌なところばかり目がいってしまう。

 そんな性格ともう十数年付き合ってきたわけだ。今更変われるなんて思っていない。


「で、用件は何だ? 朝から俺の席まで来るってことは何が理由があるんだろ?」


「え? 別に無いけど」


「……ん?」


 思ってもみなかった返答に、思考がフリーズする。じゃあ何故なんだと聞き返すよりも早く、御影の言葉が耳に入ってきた。


「理由が無かったら一ノ谷君と話していたらダメなのかな? 私はもっと一ノ谷君と仲良くなりたいよ」


「真尋を嫌ってる奴なんてさ、真尋が思ってるよりも少ないんだぞ。だから、ちょっとずつでも周りと関わり増やしていかないか? まずは任せられた仕事をこなすところからでもさ」


 桔平はそう言うと席から立ち上がり、先ほど話題に出た若松の方へ歩いて行った。

 そのまま若松を中心とした輪の中に自然と入っていくと、一言二言何か交わしたかと思えば、こちらへ彼を連れ出してきた。


「よう、ニューヘアーの一ノ谷。体育祭の打ち合わせをするんだってな」


「朝から悪いな。時間もらって大丈夫か?」


「問題ないさ。どうせあいつらと駄弁ってるだけだったし」


 そう言いながら若松は先程までいた輪を指差すと、少し口角を上げた。その一挙手一投足が爽やかで、俺や桔平とはタイプが異なる。間違いなく、人生で初めて出会う種類の人間だと感じた。


「なら良かった。早速だけどな、若松には選手として体育祭でクラスの中心になって欲しいと思ってる。勝つことを目的にするにせよ、楽しむことを目的にするにせよ、クラスの意思を統一するには絶対的な支柱が必要だからな」


「なるほどね、いい考えだと思う。でも、その役割を僕が担ってもいいのか?」


「いいもなにも、運動能力と人望をこのクラスで一番兼ね備えてるのは若松だろ」


「……意外と評価してくれてるんだ。一ノ谷って、もっと他人に興味ないのかと思ってたよ」


「別に興味があるわけじゃない。観察してるだけだ」


 四十人のクラスメイトが在籍しているこの1-5。それぞれがそれぞれの特性、個性を持って生きている。

 その異なる能力をせっかくなら、一番適した場所で活かしてやらないともったいないだろう。


「それで、若松はどの競技に出たい?」


「僕が選んでもいいのか?」


「このクラスはお前を中心に動かすからな。できれば目立つ方がいい」


 競技の数と人数の関係上、何人かは複数の競技に出場しなければならない。

 戦力的に見ても、若松には馬車馬の如く働いてもらおう。それを苦にするような性格はしていないはずだ。


「それなら、リレーを選ばせてもらおうかな」


「わかった。リレーならあと三人いるな。バトンパスの連携もあるし、やりやすいやつがいるか考えておいてくれるか」


 俺が若松の方に向けてエントリー表と名簿を差し出すと、彼は口角を上げながら名簿の中の名前を三つ指でなぞった。


「どうせなら、一番速い組み合わせで勝ちに行こう」

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