クラスのまとめ役
授業が全て終わってから始まるショートホームルーム。
普段は簡潔な連絡と藤原先生の愚痴を聞かされる時間になっているのだが、今日は珍しく愚痴の一つもない。大きな学校行事に向けて、生徒達へ多くの通達があるからだ。
「お前達もわかっていると思うが、そろそろ体育祭がある。もう委員や部活で準備を始めている生徒もいるようだな」
体育祭。この単語を聞いて、教室内から喜びと落胆の声が上がる。
「そう騒ぐな。学校行事なんだから、嫌がっても三年間は避けては通れないぞ。私だってお前達と同じくらいの時は、黙って耐え忍んでいたんだからな」
なるほど、先生は落胆側の生徒として学生時代を送っていたようだ。
人は見かけによらないもんだな。今は長身で手足が長い先生も、まさか昔はここまでスタイルが良くなかったとか……。
「ま、まぁ私の昔話はまた時間があるときにでも話してやる……かもしれないから落ち着け。今はお前達の体育祭の連絡の時間だぞ」
女子からの質問攻めを冷静に受け流し、藤原先生は過去を懐かしむ顔から教師の表情に戻ってきた。
その変わり身の速さは、山田部長と似たものを感じるのは俺だけだろうか。
そんな別のことを考え、何もない窓の外に顔を向けていても、ホームルームは進んでいく。どうせ、俺に関係ある話など碌にないのだから。
「それで体育祭だか、一つルールがあってな。全員強制参加の競技以外は、最低でも一人一種目以上は出場することが必須になる。だから、サボろうと思ってるやつは逃げられないから覚悟しておけよ」
なんだか先生の視線がこちらに向いている気がする。
……絶対に目を合わせてはいけない。
「まずは競技の一覧表を配るぞ。それぞれ必要な人数も書いてあるから、どれに出たいか考えておいてくれ。別に今すぐ決めようと言ってるんじゃないからな。期限までにお前達で決めておいてくれ。私は生徒の自主性を尊重しているんだ」
前の席から配られてきたプリントには、リレーや綱引きなど、体育祭でお馴染みの競技がずらりと書いてある。変わり種など特になく、普遍的な体育祭。現実とはそんな物だ。
「よし、これで全員に渡ったな。あとのことは体育委員に任せたいところだが……体育祭の実行委員と兼任しているから、これ以上仕事を増やしてやるのは酷だな。誰かまとめ役になりたいやつはいるか?」
「……」
教室中がシンと静まり返った。
それもそうだ。わざわざ体育祭のクラスのまとめ役なんて面倒ごとをやりたがる物好きがいるわけが——。
「先生! 俺、やるよ!」
あった。
ガタンと椅子が倒れんばかりの音をさせながら立ち上がった親友の姿に、俺は既視感を覚えた。
そうだ、中学の頃からこいつは何かと仕事を抱え込んでいた。先生からの頼み事はノータイムで承諾していたし、自分から率先して何かしら働いていたり、忙しない3年間を送っていた。
それに俺も約50%の確率で付き合わされていたような気がする。……妙なことを思い出してしまった。
「そうか。なら頼むぞ、有馬。じゃあ、あともう1人手伝ってくれるやつはいないか? 有馬1人に仕事を任せきりにするわけにはいかないからな」
「……」
そして再び訪れる静寂。
今回は1人目がすっと決まったが、一般的な高校ならその段階で多くの時間を費やしていたことだろう。
「……いない、か。ならば仕方ないな」
2、30秒経ったくらいで藤原先生はため息をつきながら口を開いた。
なんだか無性に嫌な予感がする。そして最悪なことに俺の嫌な予感は大抵当たる。いい予感はことごとく外れるくせに。そういうところが嫌いだ。
「一ノ谷! 有馬と一緒にやってくれるか?」
ほらな、やっぱりだ。
「……俺がですか?」
「お前達、2人ともうちの部員だろ? 私も極力顔出して相談は聞くようにするからさ、頼むよ」
教室中の視線が俺に集まっているのを感じる。
選ばれたんだからお前がやれと、無言の圧が全身に浴びせられている。本当に居心地が悪い。
この雰囲気の中、やらないなんて言い出せるわけがなかった。ツキがない。これだから同調圧力なんてやつは嫌いだ。




