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青春に調味料をひとつまみ  作者: 瀬戸 暁斗
体育祭編

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15/27

陽の光当たる場所

「うぉぉー!!」


 土煙を上げながら走る親友の姿を、俺は日陰に座って眺めていた。

 中間テストが終わり、あとは結果発表を待つのみ。部活休止期間も相まって、溜まりに溜まったストレスを発散しようと、運動部所属の生徒たちは普段以上のやる気で体育の授業に取り組んでいる。

 男子の体育の種目はサッカー。目まぐるしくかわる攻防で、運動不足が解消できているのか、プレイしている皆は楽しそうに汗を流している。


「何? あなたサボってるの?」


「……本庄か」


 声が聞こえてきた方を向くことなく、俺は答える。誰が話しかけてきたかなんて、振り向いてみなくてもわかった。

 本庄かんな。入学して早々のトラブル——調理部ストーカー事件の首謀者の一人にして、調理部の新入部員だ。

 出会った時の印象はお互いに良いものではなかったが、今では嫌味を言いながらも同じ部活に所属している仲間として、ほどほどに関係を築けていると思う。互いの第一印象から考えてみれば、信じられないほどの進歩だ。


「別にサボってるわけじゃない。交代待ちしてるだけだ。というか、女子の方も授業中だろ。お前こそサボってるんじゃないか?」


 体育の授業は男女別で行われる。男子がサッカーをしているのに対して、女子の競技はフットサルだ。


「私はさっきまで試合に出ずっぱりだったの! 今やっと休憩できたところなんだから」


「なら、女子と一緒に休憩してろよ。わざわざこっちまで移動してくる必要はなかったんじゃないか」


「あんな日差しの下で休憩できるわけないでしょ。一応女子の休憩場所には日除けのシートを被せてあるけど、あそこ凄く風通しが悪くて蒸し暑いのよ。涼しくて日陰になってるの、ここしかないんだから。あなただって、日陰で涼みたくて一人でここにいたんでしょ」


 広いグラウンドには、カンカン照りの太陽からの強い日差しが降り注いでいる。

 遮蔽物の少ないグラウンドで、唯一快適に過ごせるのが、今俺たちがいる部室棟の軒下というわけだ。


「……流石に今日は暑いからな。それにほら、見ればわかるだろ。俺は暑さに弱いんだ」


「むかつくぐらい肌白いわね。スキンケアに気を遣ってる女の子くらい白いわ」


 俺が半袖の体操服から見えている腕を突き出すと、本庄が眉間に皺を寄せているのが、視界の端に見えた。

 遺伝なんだから、そんなに怒られても俺にはどうもできないぞ。

 それに知らないだろうが、病院に行ったら看護師さんから「採血しやすそうな腕」って喜ばれるんだぞ。


「……で、私がこうして女子の体育を抜け出していても、先生からは何も言われてないわけでしょ」


「ん? それが?」


 突然の話題の転換についていけない。


「なら、あなたが女子の体育を見に行っても問題ないんじゃない?」


「ないわけないだろ、ありまくりだ。何言ってんだ、頭おかしいのかお前」


 一体何を言い出すのか。暑さで頭がやられたんじゃないだろうか。このまま保健室に連れて行ったほうがいいのか?


「そこまで言う!? はぁ……ちょっとは察しなさいよ。有紗の様子は気にならないかって聞いてるのよ」


「何でそこで御影の名前が出るんだ?」


 御影有紗。本庄と同じくストーカー事件に深く関わっているそうだが、その顛末を俺は聞かされていない。

 御影を追跡していた悪質なストーカーは本庄ではなく、事件は当人たちの間で解決したとだけ山田部長から伝えてもらった。

 もっと詳細を知りたい気持ちもあったが、俺は所詮、事件の当事者ではないただの一般調理部員だ。深入りするべきではないと思うし、相談を持ちかけてきた御影が納得しているならそれでいい。俺の出る幕ではない。


「いいから答えなさいよ。気になるの? 気にならないの?」


 本庄は俺を睨めつきながら、圧を放ってくる。小柄すぎる平野先輩ほどではないが、本庄の女子の平均身長に満たない小さな体のどこからそんな力が生まれてくるのだろう。

 まぁ、俺は今座っているわけだから、立っている本庄からは見下ろされているわけなんだが。


「気になるもならないも、俺が女子のところに行くわけにはいかないだろ。最近やっと男連中と普通に接せるようになったけどな、女子からはまだ距離取られてるの、知ってるぞ」


「へぇ、気づいてるんだ」


「そりゃあな」


「流石は『錨橋のヴァンパイア』ね。人の視線には敏感なんだ」


「うるせぇ。他人事だと思って、面白がってるんじゃねぇよ。言っておくが、変な噂を流されてはいるが、俺は何もしていないからな」


「はいはい、わかったわかった」


 人の噂も七十五日と言うが、七十五日ごとに噂を流されたら、なかなか消えてはくれない。

 だが、確実に噂が薄れ始めている。現に1-5の男子がその話をすることはもうない。これも、桔平の協力があってのものだ。持ち前のコミュニケーション能力で相手の懐に入ると、すぐさま誰とも仲良くできる。俺にはとてもじゃないができない芸当だ。


「まぁ今日のところはいいわ。ほら、向こうから呼ばれてるみたいよ。さっさと行ってきなさい!」


 見ると、サッカーコートの中から桔平がこちらへ手招きをしている。選手交代の時間のようだ。

 俺は重い腰を上げ、陽の光が眩く照らすグラウンドへ足を踏み入れた。


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