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追跡者の正体

「それで、何で俺達の後ろをついてきてたんだ? と言うか、誰?」


 駅の前で言い合っていると他の人の迷惑になる。

 俺達は最寄りの公園まで移動し、俺、謎の女子、山田部長の順番でベンチに座った。平野先輩は、この公園をテリトリーにしている小学生軍団に追いかけ回されている。


「はぁ!? 私のことわからないわけ!? はぁ……何で有紗はこんな奴に……」


 鬼の形相でこちらを睨みつけてくる。一体俺が何をしたというのか。恨まれるようなことをした覚えはない。


「もういいわ! その要領の悪い頭から一生忘れられないように教えてあげる!」


「いや、そこまでは頼んでない」


「なんでよ! 聞きなさいよ!」


 高校生になってから、なぜか面倒な人間関係がバラエティ豊かにできている。

 その第一号たる山田部長に、この状況を何とかしてもらおうと目を向けてみたが、俺とこの女子のやり取りに飽きたのか、スマホをいじっていた。

 おい、こっち向けよ。後輩のピンチだぞ。


「もう、あなたと話してると本当に調子が狂うわね……。私、本庄(ほんじょう)かんなよ。あなたと同じ神手高校一年五組。覚えておきなさい!」


「同じクラスの本庄……。そういえばクラス名簿の中にあったようななかったような……」


「あるわよ。一緒の教室で授業受けてきたんだから」


 たった一ヶ月で、話したこともないクラスメイトを全員覚えるなんて無理な話だ。

 ……でも、本庄は俺のことを認識していた。もしかして、人の顔と名前をすぐに覚えるのは一般技能なのか?


「わかった。お前がどこの誰かはわかったから、何で俺達の後ろをついてきていたのか説明してくれ。御影さんのストーカーはお前なんだろ?」


 ストーカーという単語が俺の口から出た瞬間、明らかに本庄の様子はおかしくなった。

 俺のことを睨みつけていた強い眼差しは影を潜め、こちらに目を向けようともしない。それに、落ち着きのない様子でソワソワとしだした。


「……違う」


「何だって?」


「違うわ! ……私はストーカーなんかじゃない。有紗は……有紗は私の親友だから」


「親友だと?」


 おかしい。何一つとして理解ができない。こうして後ろをつけている現場を確認され、逃げられない状況でつく嘘ではない。嘘はすぐにバレる。


「部長、本庄の他に怪しい人はいましたか?」


「いや、この子だけだよ。君達を遠目から見ている者はいたけどね。ほら、君達目立つから」


 目立つのは御影さんがいたからだ。俺には要因はない……はず。

 逆に美人の隣に変な奴が並んでいたら、それはそれで目立つのか?


「まぁ、私も直接見張りをしたのは今日が初めてだが、弓道部の部長にも掛け合って、有紗ちゃんの周りの不審な情報は逐一私に伝わるようにしていたからね」


 この前の生徒会長に掛け合うという発言といい、この人の交友関係はどうなっているのだろう。

 それに、山田部長についてはいろいろな噂があるのを聞いたことがある。

 生徒会長ですら頭が上がらないこの学校を統べる人だとか、数百人規模の配下とファンクラブを持っているだとか。そのほとんど全てが嘘なのかもしれないが、本当だと思わせるだけと凄みが彼女にはあった。


「だそうだが、何か説明してくれないとストーカーとして突き出すことになるぞ、自称親友さん」


「じ、自称!? 自称なんかじゃない! 私は小学生の頃から有紗とずっと一緒に過ごしてきたの! それを、あなたなんかに……あなたなんかに!」


 急に声を張り上げて立ち上がる本庄。

 いきなり大声が聞こえてきて、平野先輩が転んでしまった。


「私の気持ちなんて、あなたにわかるはずがないわ。人の名前だって覚えてなかったんだから」


 人の気持ちなんてものを完璧に理解するのは不可能だ。経験に基づく推測はできても、全てを読み取ることはできない。フィクションの中にはあっても、現実にテレパシーは存在しないのだから。


「私は心配だったの。あなたみたいな女たらしに騙されて、部活にまで入って、あまつさえ二人で帰ってるのよ!」


「女たらしって、誰のことだ?」


「あなたに決まってるじゃない、一ノ谷真尋! 男子が入らないような調理部に入って、有紗のことも籠絡しようとして!」


 何か大きな勘違いをされている気がする。俺は自分から進んで調理部に入ったわけではないし、御影さんの入部も俺が知らないうちに起きていた。

 ……おいそこ。笑っているんじゃない、先輩二人。見えてるぞ。


「それに、私見たんだから。マリンピアで女の子と腕を組んで歩いてたところ」


「マリンピア……あぁ、あれか」


 確かに俺は、ゴールデンウィーク中にマリンピア神戸にいた。

 だが、やましいことは一つもない。あるはずがない。


「一緒にいたのは妹だ。嘘だと思うなら、平野先輩に聞いてみたらいい。あの日会ったから、証人になる」


「妹!? あの距離感で!?」


「別にいいだろ……って、やっぱりストーカーじゃねぇか。休みの日にまでついてきやがって」


 ちょっと待て、こいつは御影さんのストーカーのはずだ。何で俺についてくる?

 それに何であの日の俺の行き先を知っていた? 紬と過ごす予定を、誰かに話した覚えはない。


「もう、お前がストーカーか、ストーカーじゃないかはどうでも良くなってきた。でも明日、俺達の目の前で御影さんに会って、このストーカー騒動について弁明してもらう。いいな」


「わ、わかってるわ……。それで私の役目が終わるなら……」


 本庄にもう抵抗の意思は見られない。俺への剥き出しの敵意も幾分かマシになり、今はベンチに座り直している。


「ただ一つ。お前が御影さんの親友だというなら、聞いておきたいことがある」


 俺の脳裏に浮かぶのは、先ほど見た御影さんのスマホのホーム画面。そこに映る俺のよく見知る人物。


「なぁ、いつ紬を……俺の妹を盗撮した?」

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