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上司の指摘

 翌日、報告と許可を得るため、騎士団長のシオンに面会の要望を出すと、その日のうちに時間を確保してくれた。


 お昼前、騎士団長の部屋に今回の関係者である聖女四人が向かう。


 副団長が出迎えてくれて、彼も同席するようだ。シオンの後ろに控えるように立つ。


 入室したときに六日ぶりに見たシオンは忙しそうに机に向かって仕事をしていたが、特に変わった様子はない。


 まだ告白の返事をしていないから彼が気を悪くしてないかと不安だった。

 ところが、彼と目が合った瞬間、にこりと満面の笑みを向けられる。

 鋭かった褐色の瞳は、一瞬にして目元が緩み、背後の窓から陽の光が差し込んでないのにキラキラと輝き出していた。

 予想外な反応だったから内心驚いたが、リリアンも微笑みながら、上司である彼に丁寧に挨拶をした。


 シオンにソファに座るよう促される。


 腰を下ろしたサラサは面会のお礼と共に事情を説明し、指導者の任命について相談する。


「サラサ筆頭聖女の考えに問題はないから承認するけど、俺としては見過ごせない部分があるんだよね」

「あら、なんですか?」

「アザベル上級聖女が大聖女の指示に従わなかった件についてだよ。命令違反だ」


 場の空気が凍った気がした。


(あれは、命令違反だったの!?)


 リリアンは言われて初めて気づいた。


 慌てて隣にいるサラサを窺えば、彼女は耳元に顔を寄せて囁く。


「昨日は気づいていて見過ごしたのかと思っておりました」


 リリアンは言われて思い出す。昨日のサラサの様子を。


「リリアン様のお話はもういいのですか?」


 そう言いながらサラサは明らかに戸惑っていた。


(あれは私に呆れたのではなく、アザベルに命令違反を指摘するかと思っていたのに予想外にもしなかった戸惑いだったの……?)


 向かいに座るアザベルも見たら、彼女の顔色も悪かった。


「……そ、そんなことはございません。ですが、そのような誤解をされる態度をとってしまって申し訳ございません」

「リリアン大聖女には常に護衛騎士がついている。彼から報告はすでに受けているから、誤解も何もない。あなたは上司である大聖女の命令を断り、許可を得ずに場を離れたよね? 命令違反として罰則が科せられる事案だよ」


 確かにあのときも少し離れたところに護衛が控えていた。


「でも、まだリリアン様は研修中だったので、質問の対応なら指導者であるサラサ様が相応しいと思ったものですから」

「うん、そう意見を述べるのは問題ないよ。でも、言い捨てて去るのはありえない」

「そ、そんな……!」

「大聖女は、ここでは俺と同じくらい、いやそれ以上に偉いから。どうしてあんな態度をとったのかな?」


 シオンの口元には笑みが浮かんでいるけど、目は笑っていない。ジッとアザベルを見据えている。


「どうしてって、まだリリアン様は研修中だから、一人前ではないですよね? 大聖女になったのも、回復力が高い点だけが理由でしたし。私のほうが経験者で実績もありますから、業務面で未熟なリリアン様より判断が正しいこともあると思ったんです」

「なるほど。経験の少ない大聖女を下に見ていたと」

「いえ、そんなことは」

「経験から助言するのは理解できる。でも、それならお伺いを立てればいい。これは理解できたかな?」

「……はい。でも、命令違反で罰則までは厳しくないですか?」

「それはあなたが言う台詞ではない。いい大人がさ、そんなことも分からないではね、正直困るんだよね」


 シオンらしくない、馬鹿にするような呆れた口調だった。

 アザベルの形相が、怒りに染まり、カッとなったのか、勢いよく立ち上がってシオンに向き直った。


「なによ、元は平民風情が、私を馬鹿にするなんて!」


 再び場が静まり返った。

 ところが、怒鳴られたシオンは全く意に返していなかった。むしろ、してやったりと言わんばかりの楽しそうな笑みを浮かべていた。


「今、あなたは俺に侮辱されたと感じたから、言い返したんだよね? そもそも、これと同じことをあなたはメルリ見習い聖女にも言ったんだよ?」

「そんなわけないわ!」

「一ヶ月も経つのに分からないでは困る、そんな質問をするなんて困ると彼女に言ったよね?」


 アザベルの顔色が明らかに変わった。


「それは、そんなつもりは」

「一ヶ月も経つのにこんなことも分からないのかと馬鹿にして、そんな質問をするなんて愚かだと、相手の資質を貶すことをあなたは言外に言ったんだ。あなたは自分がされて怒るようなことをメルリ見習い聖女に何度もしたんだよ」

「……そ、そんな」


 そう小さく答えたアザベルの顔色から血の気が引いていた。

 同じように不快な思いをしたからこそ、自分の発言の不味さをやっと理解したようだ。


「資質を貶され続けて自信を持てるかな? メルリ見習い聖女が自分は落ちこぼれと言った理由がこれで理解できたかな?」


 アザベルはやっと首を縦に振った。いまだに自分の過ちが信じられないのか、とてもぎこちなかったけれども。


「ちなみに俺への暴言だけど、指導の一環でわざとあなたを怒らせたから今回は不問にしておいてあげるよ」


 シオンの思惑にまんまと嵌ったアザベルは、茫然として力が抜けたようによれよれと座り込んだ。


「まだ話を続けるけどいいかな? サラサ筆頭聖女の話で、まだ解決していない問題があるからね」

「まだ、私に問題があるのですか……?」


 アザベル弱々しい様子でシオンに尋ねる。自信に溢れていた彼女の面影は、今は全くない。


「いや、あなたの話ではないよ。薬草園での問題というか謎だよ。とりあえず場所を移ろうか」


(薬草園で起きた謎?)


 みんな同じ疑問を抱いたのか、顔を不思議そうに見合わせながらも、腰を上げて執務室をあとにした。



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