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終わらない物語 - Beyond -  作者: irie
第一部 出会い
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序章.5 初めての野外昼食

 太陽が昇りきる少し手前で、馬車は一度止まった。

 近くには小川が流れている。

 ソジュは、馬を馬車から外して木にくくりつけ、水と飼い葉を与えていた。レグルスは小川のそばで石を組んでいる。


 セーラが森の入り口付近で枝を集めてくると、着火剤に火をつけて湯を沸かすのだ。


 昼食は朝早くから母親が作ったお弁当だ。お弁当は今日の昼食分しかない。湯が沸いた近くの大きな石にソディとレグルスの包みを置いた。もう一つの石に座って開けると、セーラはソディを呼んだ。


「父さん、美味しそう。早く食べよう!」

「おお、ちょっと待て。先に食べるなよ」

「うう……。お腹が……限界に近い……。」


 昨日は、今日のことを想像してあまり眠れていない。朝もバタバタしていて、少し口に入れただけだった。出発して数時間経ち、少し気持ちや神経も落ち着いてくると逆に空腹感が増してくるようで、セーラはお腹をさすりながら、簡単に汁物を作るレグルスを見る。


「あ~、良い匂い」

「そろそろ良さそうかな。簡単で申し訳ないけど」

「ううん、村の外でこうして食べるなんて初めてだもん。私が分からないから手伝えなくてごめんなさい。何かできることある?」

「あ、じゃあ、カップを小川で洗ってもらえるかな」

「分かった」


 三人分の木造りのカップを小川で濯ぐ。サラサラと流れる水は、太陽でキラキラ光ってとてもきれいだ。

 セーラは少し遠くの光る流れを見ながら、ほうっとため息を吐いた。


 ソジュが馬の世話を終えたのか、手を洗いに隣に来る。

「ほら、早くレグルスのところに持って行ってやれ」

「あっ」

 見るものすべてが新鮮で、好奇心が都度注意を散漫にさせるようだ。セーラは慌ててレグルスにカップを渡した。


「神と精霊と大地、すべての恵みに感謝を」


 大きな石に並んで座ると目を閉じて定例のお祈りをする。その後、具の入っていないスープを一口飲んだ。


「美味しい」

「そうかい? そりゃ良かった。さ、お弁当も食べよう。これは美味しそうだ」

 レグルスとソディも包みを開け、簡単に手で食べれる麺麭パンに肉や野菜を挟んだものにかぶりついた。


「今年は干し肉がうまくできましたね。いい味が出てる」

「そうだな」


 今回の商品でもある干し肉は、塩味が効いていて美味しかった。三人ともすぐに食べ切り、食後のスープをおかわりしながらセーラは二人に聞いた。


「そういや、今日の夕ご飯は泊まるところで食べるんだよね? 明日の昼はどうするの? お弁当作れないよ」

「ああ、宿でちゃんと作ってもらえるようになっているんだ。どこの宿でも金さえ払えばな」


 ソジュは肩を竦めた。

「セーラは宿に泊まったことないし、村に宿もないから分からんだろうが。まあ食事の心配はしなくてもいい。万が一手に入らなかった場合は荷台にもある」

「そりゃ商品でしょ」

 とレグルスは笑いながら、セーラに説明する。


「それは冗談にしても、荷送部が定期的に領都と行き来しているからね。懇意にしている宿もあるし、食事の手配もいつものことだから不足になることはないよ。大丈夫」

 セーラは頷いた。

「そうなんだ。他の村って全然違う? どんなところ?」

「そうだな……。直轄地ってわかる?」

「ううん」


 直轄地とは、アランディア領が直接治めている土地のことだ。基本的には領都の周辺が直轄地になり、その他の地域は領主に仕える貴族が治めている。地域ごとに管理し、税を領主に治めるのだ。南の村は南の辺境にあるので、領都と南の村の間にある地域を通ることになる。


「南の村は、どこの管理になるの?」

「南の村は直轄地なんだ」

「え? 直轄地は領都周辺って言わなかった?」

「そうなんだよ。領と周辺と、南の村が直轄地なんだ。きちんと管理しないといけないから、他の土地は徴税官が徴税に訪れるのが普通なんだけど、南の村は税を持っていくだろ?」

「うん。なぜ?」

「アランディア領自体が国から、国境の警備の任を請け負っているからね。基本的に端っこの南の村も、警備が実は一番主なんだ。作物とかの税は二の次なんだよ」


 何となく分かった気はするもののセーラの疑問は晴れない。


「村より南は何もないって思ってたけど、国境ってことは国があるってこと?」

「それは分からないんだ。俺たちには聞かされてないだけであるのかもしれないし、統治されてないだけで警戒しないといけないのかもしれない。ただ、門を作って囲うのではなく、人を募って警備をさせているっていうのが南の村なんだ」


 レグルスは、それでも、と続けた。

「今まで何かあったためしはないし、税が余所より軽くて生きやすいからね。辺境であっても」


 セーラは、今まで人よりも分からないことが多い中で生きてきたからか、()()()()()ということがあまり好きではなかったけれど、今までと同様それで納得した。

 ソジュは言葉少なに話を聞きながら、三度おかわりしたスープを飲み干すと、腰を上げた。

「じゃあ、先へ行こうか。今日中にコランドル内に入っておかないと」

 コランドルというのが、南の村と領都の直轄地に挟まれた貴族が管理する土地なんだ、と先ほどの話からセーラは理解し、食器を洗って火が一切残らないように砂をかけて片付けた。

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