第五話 掴まれた首とペンギン
急に慌ただしなる空気をよそに落部は再度メールを確認し、返信を行ったところで今回の依頼内容について語る。
「まずは、依頼主ですが二年C組、本村 喜美子 美術部、依頼の内容は放課後、誰もいない美術室に忘れ物を取りに依頼主が向かい、忘れ物を持って出ようとした時、聞こたらしいんだ……『あなたのじゃない……』と、それからというもの美術室に居ると依頼主だけ声が聞こえてくるとの事、今回はその原因究明と事の終息を望んでいます」
「本当に幽霊はいるというのですか?クボッチ本当なのか」
「いや恵介、俺に聞くなよ」
恵介の問いに久保は幽霊と話をしたなど言えるはずもなく、バツを悪くする。
「本当に幽霊がいるかどうか、それを認識するには恵介さん、あなたが知ろうとするかどうかです、もっと言うと後悔、心残りなどと言った未練を理解してあげれるかどうかということ、大丈夫ですよもし呪われそうになったら遊離さんがどうにかしますので、美濃部さんは、久保君がいるので大丈夫でしょ、それにいざとなったら子猫ちゃんも……まぁまずは依頼の内容がガセかどうかですね、その為にも話を聞いてきてもらわないとですね、美濃部さん、久保君は二年C組に向かってくださいそこで依頼主とアポがとれております」
落部の「呪われそうになったら」という言葉で青ざめ苦笑いをする恵介。
「遊離様、拙者の命あなたに託すのですよ」
「……」
そんな事はおかまいなしと言った様子で一人ワクワクを顔に書いたように意気揚々とサチが教室を飛び出す。
「それじゃ行ってきます、行こうクボッチ!」
「あっちょっとサチ、てか今クボッチて呼んだ?ていうかテンション高っ……あっ待ってって」
ホラー研究部、依頼そして学校の怪奇現象ときてボルテージが上がってるとは言え、久保はふいにサチにクボッチと言われた事に小さな喜びを覚えた。
「元気ですね美濃部さんは、それじゃ遊離さん、恵介君に調べてもらいたいものは……」
和やかに二人を見送り落部は急に場を締め付けるような表情を見せ、調べものを告げた
「わかりました」
「そんな事調べるというのですか……了です」
恵介は急に乗りきらない顔を見せ、無理やりに不安を飲み込み頷いた。
勢い良く飛び出したサチと久保は約束の二年C組に到着し、依頼主と顔を合わせる。
「あっあの、ホラー研究部の方ですか?」
サチが教室を開けた途端に問いかけたのは、少し不安げな表情を浮かばせ少し大きい丸ぶち眼鏡を可愛らしいそばかすにはさまれた鼻すじまで下げた女子生徒。
「そうよ、私は美濃部 幸、サチでいいよ」
「僕は久保 明です、宜しく」
「私は本村 喜美子です今回は宜しくお願いします」
一通り自己紹介を終えたところでサチは落部から聞いた今回の内容について話し相違がないか確認をとる。
「はい間違いないです、あっあと見えるんです…てか見えてはいないんです……けどいるように感じるんです、美術室に部員以外の誰か」
「今日は部活はないの?」
「えっ!?ない……ですけど」
「よしっそれじゃ美術室に行きましょっ」
「いい……ですけど」
「サチちょっと急すぎるような、本村さんだって無理して」
「大丈夫大丈夫!何かあってもクボッチがいれば大丈夫って部長が言ってたから」
「いやいやサチそれは勝手に部長が」
(この短時間でなんだその部長に対する信頼は……)
「そこまでサチさんが言うなら」
持ち前の笑顔で強引を振りまきサチは突拍子もなく提案する。サチに飲まれ承諾する本村、部長への信頼に納得がいかないが本村が承諾した事にやむを得ず久保もこれを了解する。
そうして三人は問題の美術室に入る。
「ここが問題の美術室ねっ、本村さん大丈夫?」
「はい、今は何も」
「ちなみに忘れ物って何だったの」
「えっ……」
「ほらっ忘れ物取りに来てからなんでしょ聞こえたの、その時の忘れ物って?」
「あっはいそれはあそこに置いてあるあのペンギンのぬいぐるみです」
本村はそう言うと美術室後ろの棚、ちょうど久保が立っている後ろにある綺麗な花がさされた花瓶の横を指差した。
「あっこれですか」
久保は何気なくその可愛らしいペンギンのぬいぐるみを取り上げた。
(あなたのじゃない……持っていかないで)
――ドクン――
微かに、だが確かにその声が聞こえた久保を深い寒気が襲う。それと同時に胸にぶら下げた黒猫のキーホルダーからチサ飛び出した。
「やばっクボッチぬいぐるみから手離してっ!」
チサは出てきたなり慌ててそういう、久保はチサが出てきたと同時に今おかれている目の前の状況を視認する事ができた。そして絶句し息を飲んだ。
それもそのはず、久保が視認したものそれは、おぞましく悲しく睨み付け久保の首を締める女の子とそれを前から必死に抱き押し久保から離そうとするチサがいたからだ。
「駄目よ早く置いてってクボッチ!」
突然起こった目の前状況に息を忘れる久保は頭の血が下がり身体の力が抜けていくのを感じ、何の抵抗もできないと言うよりは何の抵抗もせず、徐々に目が黒ずんでいくそして完全に意識が飛びかける瞬間。
――バチンッ!!――
「クボッチしっかり!!」
それは久保の明らかに異常な様相を見ていたサチがとっさに出した突然のビンタだった。
頬が叩かれる音と共に意識が戻った久保は掴んでいたペンギンのぬいぐるみを離し棚に落とした。
すると女の子は久保の首から手を離し、抱き押そうとするチサと共に霧のように光り消えていく。
「えっなんで私も消えんの?クボッチーっ」
「チサ?……チサ!」
消えゆくチサと入れ替わりに落部が慌てて教室に入ってきた。
「やっぱり思った通りですね、物騒な気配がしたので来てみましたがどうやら少し遅かったようですね」