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第四話 必然な部室


 その男は細身で清潔な顔立ちをしており、しゃべり方以外に怪しいところはなく俗にいうイケメンの部類に入る。そんな恵まれた容姿である彼の名は落部(おとしべ) (まもる) 久保と同じ高校三年である。


「お呼び止めして申し訳ないお急ぎでしたかな?」


「あぁちょっと友達のところへ」


「それはすみません、うーん悪い気は感じませんね、守護って感じではないようですが……まぁでもこれといって問題はなさそうですかね」


「そうですか、良かったです、それでは」


 慌ててその場を後にしようとする久保に落部は告げる。


「宜しかったらホラー研究部へ入りませんか楽しいですよ、それに何かあなたの力になれるかもしれません、これっうちの部のチラシです遊びに来てください……もちろんペットOKですよ」


 落部はまるでチサの事に気づいているかのように黒猫のキーホルダーを見下ろしながらチラシを久保に渡しその場を後にした。


「まぁ仕方ないわね、落部には何かしら感づかれるのは覚悟してたし、それにこれは避けては通れないもんクボッチもあたしも」


「避けて通れないって?」


「わたしのせいかな」


 疑問を残したところで昼休みの終わりを告げる鐘がなる。


 放課後久保は落部の事を思い返しながホラー研究部のチラシを眺める。


「ねぇねぇそれ、部室どこにあるの?」


 隣の席からチラシを覗きサチが聞いてきた。


「えっ……ホラー研究部は二階の音楽室を」


「そうじゃなくて」


 不機嫌な顔を見せるサチに、売店の場所を案内した時を思い返し久保は少し嬉しげにこう言う。

「案内するよ」


「宜しく」


 ――パっパンっ――

 お得意のポケットに入ったパンの破裂音を響かせ、久保とサチのやり取りを覗くように横目で見つめる恵介がいた。恵介は久保と目と目があうと妙に他人行儀に二人の会話に割って入る。


「あっすいませんホラー研究部はどこでしょうか?」


「はっ?」(なんで敬語なんだ)


「ホラー研究部に行きたいのですが」


 割り込む恵介にサチが答える。


「これから私たち行こうと思ってたの、一緒に行く?」


「いやぁ奇遇ですね、是非」


「それじゃ私、先に職員室に転入の件で書類出してくるから少し待ってて」


 急いで教室を出ていくサチを二人は見送り恵介がよそよそしく口を開く。


「あっどうも恵介です」

 

「知ってるしなんで敬語だよ」


 久保の突っ込みをきっかけに恵介は席を立ち上がり、悪態を唾と一緒に投げ散らかす。


「僕を除け者にするとは何事であるのですか、なにゆえクボッチが女性と話しているのですか……まさか……トレンドの力がここまでとは」


「いや、たまたまだよ、それにただ場所を案内するだけだし」


 呆れ顔で恵介をなだめる久保。そんなやり取りを繰り返していると職員室からサチが戻ってきた。


「お待たせ、さぁ行きましょ」


 サチの声に合わせ三人は教室を後にする。

 会話はこれといってなく、サチはしきりにホラー研究部のチラシを眺めていた。

 

「あっここみたいだね」

 

 確かにそこにはホラー研究部と名前が書かれた看板がぶら下がっていた。久保はサチがここに何のようがあるのか気になり聞こうとしたがサチは着くなり勢い良くホラー研究部の扉を開けた。


「珍しいですねお客様が見えるなんて、さぁどうぞお入りください」


 落部の案内になんの躊躇もなく中へ入るサチの後ろを少し緊張気味に恵介が、その後を恵介に隠れるようにして久保が追う。


「これはこれは久保君、来てくれたんですね、嬉しいですね」


「いやっこれは……」


「何クボッチ知り合いなのか?」


「まぁ知ってる、名前と顔だけ」


「で、ではこちらのお、お嬢様もなのか?答えよっ」


「お嬢様?」


 顔を赤らめ明らかに全身力が入ってる様子で恵介が見つめる先を不思議げに久保の目が追いかける。

 そこには、とても小柄で黒髪のボブヘアーの女子生徒が、珍しい客人にも目も暮れずパソコン作業に着手していた。

 

「まぁまぁ立ち話もなんですから座ってください、自己紹介はそれからに致しましょうか、遊離(ゆうり)さんお茶を」


「わかりました」


 そんな中一人好奇心を露出し、幼い子供の様に目を輝かせながら部屋を物色するサチがいた。


「うわぁすごいホラー界の鬼才、闇城明やみじょう あきら先生のサイン入り色紙、あっこれ今は販売禁止で手に入らない【ホントにあるんだ呪いのVideoエピソード1】 すごいんですけど、きゃっ!うそっのろぐまの冬眠シリーズのフィギュア、やばくないっすか……あっ……すいません」


 つい、夢中になり周りの驚いた顔が視界に入るとサチは我にかえり大人しく頬を軽く赤らめ席につく。


「喜んでもらえて光栄です、改めまして私ホラー研究部、通称ホラ研部長の落部おとしべ まもると申します、遊離さん自己紹介を」


木村きむら 遊離ゆうりです、お茶どうぞ」


「遊離さん黒猫はお好きですか?」


 キメ顔で偽トレンドを活用した恵介の遊離に対するアプローチは、何も無かったかのように、お盆を下げに向かう遊離の背中に消えていく。続けて久保が自己紹介をはじめる。


「僕は久保 明です、宜しくお願いします。」


「改めてではあるけれどようこそ久保君」


「拙者は安堂 恵介、趣味は黒猫グッズを集める事、遊離さん黒猫はお好きですか?」


「私は美濃部 幸、よろしく」


「安堂君も美濃部さんもよろしく、まぁ自己紹介が足りてない気もするけれどいいでしょ……今日は遊びに来てくれてありがとう何もないけれどゆっくりしていってください」


「違います、入部しにきました」


 唐突にサチは切りだす、あっけにとられる久保を横目でサチは言う。


「久保も入ればいいじゃん、それにもう恵介君入部届け記入してるよ」


「おっおい恵介まぢかよっ」


「拙者が入れば百人力なんでもお申し付けを、ところで……黒猫はお好きですか?」


 遊離が用意した入部届けに恵介、サチが記入をすませ久保を見つめる。


「はぁ……わかりました」


 ため息と同時に重たい腰を上げ、頭を悩ませながら入部届けに記入をすませる。サチがホラー研究部に来た理由は今更考える必要もなく純粋なホラー好きと言う事以外あのはしゃぎっぷりを見れば言うまでもないだろう。


「それでは改めましてようこそホラ研へ」


 ――ピロン――

 落部は急に鳴ったパソコンを開き、メールを眺め顔つきを変える。

 その隙に久保はヒソヒソ声でチサに尋ねる。


「これで良かったんだな」


「ご名答、ホラー好きの幽霊、やば私、上がる」


「上がるなよ、でもこれでいいならいい」


 パソコンのメールを見終わった落部は勢いよく頭を上げ、浮いた前髪がおでこに着地するのと同時にパソコンを閉じて言う。


「皆さんゆっくり歓迎会といきたいところですかそうもいかなくなりました、早速ですが依頼が入りました。美濃部さん久保くんはこれから依頼主が指定する待ち合わせ場所へおもむき詳しい内容を聞いてきてください」


「はいっ!依頼とか、うわっ上がる!」


「わかりました。」


「安堂君と遊離さんに調べてほしいものがあります宜しいですか」

 

「はいっ部長」


「遊離さんなんなりと」


 こうして久保は正式にホラー研究部、通称ホラ研に入部となった。そうしてホラー研究部に届いた一通のメールがある男女の二十年前の蒸し暑い夏の思い出を呼び起こしてしまう事となる。時を越えて……

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