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第三話 現金な愛嬌


「静かに静かに、それじゃ美濃部さんの席はあそこね」


 転校生は高校生活において一種のイベントである、生徒達がざわつくのは無理もないだろう。そんな彼らを本村先生がなだめ転校生の席を指定する。

 未だざわつく教室の中、一人違った心境で転校生を見つめる久保、本村先生の声も今の彼にはすぐには届かなかった。


「ぼ…くぼ……おいくぼっ!」


「はっはい!」


「久保も隣の席なんだから仲良くするように」


「はい」


 本村先生の声に気付き慌てて涙を拭い、平常心を装い呼びかけに答えた。そんな久保の隣の席に彼女は腰をおろした。


「クボッチあと言い忘れてたけど私…」


 黒猫のキーホルダーからチサが何か言いかけた時だった。


「ねぇ君」


 隣の席から彼女が話しかける。


「あっはい、僕は久保 明よろしく」


「ちょっと耳かして」


 ゆっくりと彼女は久保に顔を近づけ耳打ちをする。

 

「自己紹介とかいいし、仲良くなんてめんどくさい事しないで、用があったら私から話しかけるからいちいち社交辞令をするのは疲れるのよ……わかった?」


「わかりました」(これは本当にチサなのか……)


 自己紹介というか一方的な彼女の自己のあり方を強制的に久保にぶつけたところでチサが先ほど言いかけた言葉を告げる。


「性格良くないから……」


「だろうな」

 

「いやぁこうして自分を見るとひくわ……」

 申し訳なさそうに告げるチサに久保は困り顔で苦笑いを見せた。

 その後、彼女とはもちろん接点もなく午前が終わり昼休みの鐘がなる。


「クボッチ売店行かんのか?」


「あぁごめん食欲なくて」


「了、でもちゃんと食べないと僕みたいな健康的な身体には慣れないのだよ」


「恵介おまえ健康をググって学べ」


 恵介の誘いを軽く流し久保はいつものように屋上に行き、ため息と共に大の字に寝そべり流れる雲を見つめながらチサを呼ぶ。


「チサ聞こえてる?色々整理したいんだ」


「聞こえるよ、ちょっと待ってて」


 そういうと寝そべる久保の横に霧のような光が現れ包まれた光の中からチサが現れた。


「よいしょっと」


 チサはかけ声をため息のように吐くと久保の横に大の字に寝そべり話しを続ける。

 

「まずは何から話そっか?何から聞きたい?」


「えーっと……一年後にいったい何があったの?」


「…………」


「思い出したくないこと聞いてごめん無理に話さなくていいんだ、ほんとに」


「いいえ違うの死ぬ時の事はまったく覚えてないの、気が着いたらお通夜で家族が泣きながら棺に入ってる私を見つめていた。それを私は部屋の隅で眺めていた、もちろん私の声は誰にも聞こえなかった。その時だったの、勢い良く玄関を開けてそのまま廊下を走りクボッチが現れた。膝をつき棺の前で泣いているクボッチを見て私思ったの、きっとあの時クボッチと付き合ってればこんな事にはならなかったんだって、何でそう思ったのか理由はわからないけど胸の中で強く後悔した時だった、瞬きをしたらこの世界に切り替わってた。」


「そうだったのか、話してくれてありがとう」


 久保はどこかホっとしていた。死因について知るべきと思っていたがチサの彼女の死に関して内心聞くのはとても怖かったのだ。


「ごめんね肝心なところわからなくて」


「いいんだ、あっでももう一つ疑問が」


「いいよ聞いて」


「こうしてチサと普通に会話しているんだけど……彼女と話せる気が全くしません」


「プフっ」


「笑えないよ、初対面であんな事言われたら」


「まぁ自分で言うのもなんだけど根は優しい子なんだけど、それにあなたの事嫌いなわけじゃないよ」


「チサを見てれば優しいのはわかるよ、でもこれから距離が縮まるのかほんとに?」


「まぁ大丈夫よ、あっあと今小銭持ってる?」


「小銭?ちょっと待って……六百円くらいはあるけど」


「良かった、それじゃ後で」


「あっちょっ待って」


 何故か。チサは久保のお財布事情を確認し慌てて黒猫のキーホルダーへと戻っていった。

 小銭が何に関係があるのか久保はすぐに知ることとなる。


「ねぇ君」


「えっ、美濃部さん?」


 久保は自分を呼ぶ声に振り向く。するとそこにいたのは彼女だった。思わず寝そべっていた身体を起こし再度彼女を確認した。さっきまでチサと普通に話していたはずなのに、急に胸の鼓動が高鳴りだすのを感じていた。彼女は優しい風に吹かれ揺れる髪を綺麗な指で耳にかきあげる。思わず見とれている久保に彼女は唐突に言った。


「五百円」


「えっ?」


「だから五百円」


「あっはい」(だからチサは小銭を……)


「ありがと、売店は」


「えっ?売店は一階に降りて職員室の……」


「違うわよ、案内しなさいよ」


「うんいいけど」


 強引な彼女の行動に飲み込まれどこかあっけにとられた様子で久保は売店へと彼女を案内する。


「ねぇその黒猫のキーホルダー」


「えっ?」


「黒猫のキーホルダーどうしたの?」


「あぁこれ、これは確か……そうそう小学生の頃転校する時に貰ったんだ」


「そんな昔のまだ持ってるの?」


「うんこれだけは昔から大事にしてるんだ」


「そうなの、ここが売店ねありがともういいわ、あっあとサチでいいわよ」


「えっ?」


「だから美濃部さんてキモいからサチでいいよ」


「わかった」


「それじゃ……ありがと」


 最後に優しく微笑む姿を強制的に久保に焼き付け売店へと入っていくサチの後ろ姿を見つめ一方的ながらも会話をし、売店まで一緒に歩いたという事実が久保は未だに信じられずにいた。


「ねっ悪い子じゃないでしょ、少し強引なところはご愛嬌って事で」


「そうだね、やっぱり君は綺麗だ」


「いやちょっ恥ずかしい」


 久保は思わず本心を軽々しくも声に出してしまった。幽霊とはいえ本人でもあるチサに言ってしまった事に時間差で恥ずかしさを覚え顔を赤らめた。


「あっでも黒猫のキーホルダーについて聞かれた時はちょっと焦ったチサの事もあるし……」

 

「それね、まぁ可愛かったんじゃない」


 少し曖昧なチサの返答ではあったが久保は特に気にも止めず教室へと戻っている最中だった。


「あれっ!?あなた憑いてますね、憑いてますよ、うーん、それとり憑かれてますよあなた」

 

「えっ誰?」


「あぁ失礼私ホラー研究部、通称ホラ研部長の落部(おとしべ) (まもる)と申します、以後お見知り置きを」

 

 いきなり現れた男に驚きと危機感を感じる久保にチサがボソッと言葉を漏らした。


「やばっ、面倒くさいの忘れてたわー」


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