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第二話 教壇の約束


「なーんて……ごめんね驚かして、私はクボッチにしか見えないの、あっでも私とは必ず付き合ってもらうからね」


 片目を閉じ軽く舌を見せチサは言う。

 一方久保はゆっくり両手を広げ深呼吸を二、三度繰り返し未だ整理できない頭と心に「落ち着け……落ち着け俺」と何度も言い聞かす。

 徐々に落ち着く胸の鼓動に合わせさっきまで遠ざかっていた恵介の声が久保の耳に戻ってきていた。

 そんな久保を見てチサは言う。


「まぁ、こうなるよね。恵介君もいるみたいだしこれ以上会話は難しい見たいだね……って事でまた後でねクボッチ」


 そう言った次の瞬間彼女は後ろへ軽く片足で飛び着地と同時にまるで霧のように消えていった。



「ちょっと待っ……て」


 目の前で消えたチサを久保はもどかしく手を伸ばし掴む仕草を見せたが握りしめたのはチサの笑顔が余韻を残す暖かい春の風だった。


「クボッチ、クボッチ大丈夫なのか?」


 いい加減痺れをきらした恵介が食べかけのパンを握りしめ久保のもとへ歩みよる。

 久保は慌てて返事をする。

「あっあぁ……恵介……あれは夢だ……屋上で寝てる時に見た俺の淡い夢だ」


「はぁ?このふとどきものぐぅぁ!」


「あれは告白されたいと願うささやかな俺の夢だ、恵介巻き込んですまなかった」


「まぁでも、ある意味夢オチの方が納得いくかな、伏線もなしにクボッチが告白されるなんてどう考えても回収が困難ではある、無駄にズボンをいじめてしまったわ」


「本当にすまない恵介」


 逆に夢オチで合点がいき握りしめていたパンを頬張り歩く恵介の後ろを申し訳なさそうに頭をかきながら久保が追いかけ屋上を後にした。

 その後、恵介には謝罪の意を込めイチゴオーレ、バナナオーレ、カフェオーレでとりあえずは久保がとっさについた夢オチの幕は無事に閉じ、何とも不思議な1日を終え、勢い良くベットに背中を預けた。


 「はぁ……幽霊ってあんなにはっきり見えるのかよ」


 ため息と率直な感想が口から漏れた。


「それにしても綺麗だったなチサ……」


「ほんとに?」


「うん、髪をかきあげるしぐさも笑った顔も」


「幽霊なのに?」


「幽霊でも綺麗なものは綺麗だっ……て誰と話してんだ俺?」


 チサを思い返し心地よい余韻のせいで遅れた違和感に戸惑いつつ久保は勢い良く上半身を起こし声のする方へ顔をやる。


「もしかしているの?」


「もしかしているよ?」


 声は机の方から聞こえているがチサの姿は見えず久保は不安げに立ち上がりゆっくり机へと向かう。


「ここっ!ここっ!クボッチ!」


「まさかこれっ?なんで?」


 久保はそう言うと恐る恐る机の棚に置いてあった黒猫のキーホルダーをつまみ上げた。


「ご名答っ!」


「うわぁっ」


 驚きのあまり猫のキーホルダーを宙に放り投げてしまったが一瞬チサの顔が頭をよぎり慌てて両手を受け皿にして落下する猫のキーホルダーを受けとめる。それと同時に机の角に頭を打ち悶絶して両手そのままに横たわった。


「痛そー大丈夫?」


「大丈夫、何で猫のキーホルダー」


「うーん楽だから?あの姿のままだとものすごい疲れちゃってすぐ眠くなっちゃうの、よりしろってやつ?なんかこのキーホルダー居心地良さそうって感じて」


「そうなのか、大変なんだな幽霊ってやつも」


「まぁこんな状況にでも感謝はしてるんだけど」

 

「あっあの……何か僕にできる事があったら何でも言っていいから、って言っても何かできるわけでもないけど、とにかく力になりたいんだチサの」


「わかったありがとう、クボッチは変わらないね昔も今も未来も……よし今日はこのくらいにしてまた明日ね、おやすみなさい」


「うんおやすみなさい」


 どこか寂しげに優しく小さく呟くとちさは今日の終わりを告げ、それに合わせ久保も打ち付けた頭を抑えながらベットに入り、深い眠りについた。


 翌日迎えにきた恵介にせかされ目を覚ます。


「いつまで寝てるのだこの夢オチ人わまた夢の中で告白されたか?そうなのか?」


「うるさいっ悪かったよ昨日は」


「夢オチ?フフっそれが言い訳に?ハハハっお腹痛い」


 昨日の事をおちょくりながら乱暴にカーテンを開ける恵介と夢オチがツボにはまるチサに久保はたまらず顔を洗いに向かい、いつものように10分程恵介を待たせようやく家を出た。

 学校の教室に入り一番後ろの窓際の席に着くと目の前の席に着いた恵介がしきりに久保をチラ見する。


「どうした恵介、なんかあるなら言」

「なにゆえ!なにゆえ黒猫のキーホルダーが胸ポケットから垂れ下がっているのか答えよ」


 久保がしゃべりきる前に恵介は食い込みに割り込む。よっぽど気になってたのだろう。


「あぁこれ?なんとなく?あっなんか昨日テレビのサッパリで今年のトレンドは黒猫って言ってたって母さんが言ってた」


「そんなトレンドの力をかりたからと言って彼女ができるわけができるわけが……このふとどきものがっ」


 悪態を見せ自分の席に戻り恵介は携帯に呟いた。


「ヘイシリッ 猫 アクセサリー 最寄り」


「食い付きえぐいって」


「クボッチ言い訳もえぐいよ、フフっ」


 胸からぶら下がるチサがクボッチへ突っ込むのと同時に担任の本村(モトムラ)先生が入ってきた。


「おはようみんな、今日から新しく転校生が仲間に入ります、よろしく頼むよ!さぁっ入って入って」


 急にざわめきだす生徒を尻目に本村先生の声に合わせ彼女は教室へとやってきた。

 彼女を見た久保は思わず目を丸くし同様のあまり思わず立ち上がり、みんなの注目を浴びると静かにまた席に座った。そんな彼を恵介も心配そうに見つめていた。

 それもそのはず転校生の容姿は昨日屋上で見たチサの姿そのものだったのだから。


「今日から転校してきた美濃部(ミノベ) (サチ)です、宜しくお願いします」


 自己紹介を終えた彼女は肩まで伸びた黒い髪を綺麗な指で耳にかけた。

 彼女を見てすっかり固まってしまった久保に黒猫のキーホルダーからチサが話しかけた。


「固まったままでいい返事もしなくていいから聞いて、あの転校生は私、私は彼女の1年後なの、そして彼女は1年後に死ぬ、私は死んで過去にタイムスリップすることができたわ幽霊のまま、未来でクボッチと私はこれから距離を縮めお互いに惹かれ合う……だけど付き合う事ができなかった、もし付き合っていたら……クボッチ私を救って……お願い……」


 涙をこられきれず絞り出す声がキーホルダーから伝わった。教壇の横には生徒たちから歓迎の拍手を受け、照れてる様子でハニカミお辞儀する彼女。また久保も涙をこられきれず絞りだした小さな声で「わかった……僕は君を死なせない……」真っ直ぐに彼女を見つめキーホルダーに手を当て呟いた。


 久保の当てた手に答えるようにチサは一言告げた。


「約束……必ず私と付き合ってね……クボッチ」

 

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