七色光の星花(スピカ)
天族
…白い羽と白い角を持った竜人
…銀髪、赤目の人が多い
地族
…黒い羽と黒い角を持った竜人
…金髪に紫紺の瞳の人が多い
勇者
…元花婿
… 金髪に赤色と紫色の目を持って生まれる地族
星花
…元花嫁
…神の愛子
…銀髪、金と赤の瞳、白い羽、七色の角を持った竜種。天族のみに生まれる愛し子で、白い獅子の神獣を伴う
むかし、むかし、むかーし、むかし、あるところに二種類の竜族がありました。
竜の白いツノと白い羽、そして銀か灰色の髪と赤眼の容姿の特徴が多い天族。
竜の黒いツノと黒い羽、そして金か黒色の髪と紫眼の容姿の特徴が多い地族。
二種族は長い間、地上で争っていました。
それが今のように天と地で分かれたのは、劣勢になった天族が天にある島まで後退したからです。
天と地で分かれた後も争いは止まりません。
このままでは天族が滅んでしまう——そんな時でした。
「貴方方が争いをやめないのなら、神が理由を作りましょう」
大勢いる神の中でも最高神ロシュタリアスが天族に神の愛し子を授けたのです。
神は続けた。
この愛し子の力は地にいなくては使えないと、そして地族の中でたった一人の者だけが大いなる力を身に宿した愛し子を覚醒させることができるのだと。
天族は愛し子を使って地族を攻めることはできない。
また逆も然り。地族は万人が愛し子の力を引き出せない。
こうして天族と地族の争いは終結を迎えたのでした。
「……愛し子と対になるたった一人の地族の者は、愛し子の覚醒を兼ねた婚姻の儀を水月(六月)に行った。花嫁である愛し子は虹の階段を降りて、花婿の待つ七星宮へと向かう。これが今の星花と勇者の誓いの儀の元になったものである」
少女の—— 白い陶器のような肌すらも透けそうな水色の混ざった長く伸びた銀髪が小ぶりな耳にかけられる。
頭上には二本の虹色に輝くツノ、伏せがちな長いまつ毛の間から見えるは金と赤のオッドアイの瞳、細身の背中を露わにした若草色のドレスによって丁度肩甲骨あたりに白い小さな羽があるのが見える。
名を、シェリーネといった。
彼女こそが明日の水月(六月)一日目に、勇者と誓いの儀を執り行なう愛し子こと星花であった。
生まれてから18年、書庫のような部屋から王宮の外に出たことのない天族の王家に生まれた姫君は、白い鳥が飛ぶ青い空を窓から眺めて頬を桃色に染めた。
明日、ようやく初めて外に出られるのだと。
期待と不安が入り混じって胸がドキドキとトキメキで昂るのがわかる。どうにかなってしまいそう。
「ど、どうしましょう……。こんなに高揚とした浮ついた気持ちではいけないというのに……」
『星花、そのような調子ではワレは不安だぞ。最も必要なことは何事にも動じない精神力である』
側にいた神獣の小さな白い獅子に嗜められる。耳についた星型のピアスが特徴的な神獣は、愛し子を証明するひとつだ。
「わ、わかっていますロロ……でも……」
淡い期待を豊かな胸の中に抱いて、シェリーネは空を飛び回る鳥たちを眩しそうに窓から見つめた。
そして、時は来た。
白いドレスで天の島から虹の階段を降りて、天と地の境界線に位置する七星宮に辿り着いたシェリーネは、勇者と誓いの儀を交わす。
「——この身の全ては貴方と同族の為に。誓います、星花シェリーネ、僕は御身の盾となり剣となることを」
勇者の証である金髪に赤色と紫色オッドアイの容姿をした青年が、少女の前で片膝をつき、手を取って甲に唇を寄せる。
恥ずかしさに胸に置いた手がソワソワと落ち着かなくなってしまった。そうだ、い、言わなくちゃいけない。
「ち、誓います。神の愛し子の力はこの世界の為に、女神の為に、そして—— 今、目の前にいる貴方の為だけに奮いましょう。私の勇者様がまもってくれる限り、この力、貴方だけに授けましょう」
ゴーーン、ゴーーン。
二人を祝福する鐘が鳴る。
シェリーネの身体を淡い光が包み込み、白い羽が大きく広がった。抜けた羽がヒラヒラと舞う中、この日この時をもって少女は神から授かった愛し子の力を覚醒させることとなったのだった。
式を見守ったのは両王家の役人と二人の使用人。
けれど、世界は二人の儀式を祝福しているようだった。そよかぜが草花を揺らし、虹の階段は一層輝き、噴水の水は大きく半円を描いた。
そして、ある意味祝福するかのようにソレは現れる。
平和の訪れた世界に、悪魔が襲来したのはもう随分と昔のこと。花嫁が星花と名を変え、花婿が勇者と呼ばれるようになったのは、この悪魔たちの襲来に起因する。
ガーーン、ガーーン、グワーーーン。
警告するかのように鐘が音色を変え、鳴り響く。
「儀式の後、初めての共同作業だ!!星花、どうか僕に力をお貸しください!!」
剣を構えた勇者が悪魔の侵す海を睨む。
「は、はいっ。どうか貴方に恩恵を……【星花の祈り】」
女神の与えたもうた愛し子の力が、祈りよって勇者へ七色の星ように流れ込む。七色の星の輝きを身にまとった勇者は悪魔へと立ち向かう。
「はあああああああああ!!!」
水平線上で散る火花を、シェリーネは胸の前で手を握りしめながら見守っていた。戦う力のない少女は見守ることしかできない。祈りが途切れないように集中することしかできない。
「——あれが、私の勇者様……」
夕日が照らす、ピースして勇者の無邪気に笑う勝利した顔はとっても眩しかった。
☆☆☆
シェリーネは、翌朝ひとりで目が覚めるとネグリジェの上から薄い上着を羽織ってバルコニーへと出た。
目の前に広がるのは朝日を浴びて輝く水平線。
海の方へと吹くそよ風が銀の髪を揺らした。
世界の新鮮な空気を、肺いっぱいに吸い込んだ。
(……世界は、綺麗なものばかりです……)
胸が躍って、頬が紅潮する。
そういえば昨日の勇者様も素敵だったなと、シェリーネはふと思い出す。
ぽ、ぽ、ぽぽぽぽっ。
奇妙な効果音が鳴りながら、さらに頬を赤らめてしまう。
熱くなった頬を両手で隠した少女は、首をぶんぶんと横に振った。邪念だ、邪念は退散させなければ。
「この瞬間にも悪魔が襲来するかもしれないのに、私ってば……。しっかりしないといけませんよね……!」
悪魔は、突然この世界に現れた脅威。愛し子が覚醒すると出現し、その代の愛し子が死ぬとぱったり訪れなくなる不思議な存在だが、愛し子が死ぬと再び天族で愛し子が産まれる為、脅威が消え去ることはない。
なぜなら愛し子がいなければ、覚醒していなければ、荒れ果てた地族の土地は潤うことがないから。
地族からしたら、産まれた愛し子は必ず覚醒させなければならないし、地族に攻め込まれればすぐに落ちてしまう天族からすれば無用な争いを避けることになる。
だから、悪魔はずっとこの世界に——いいや、天と地を覆う結界が一番緩いこの七星宮の目の前に広がる海から現れ続けるのだ。
「シェリーネ様。もうそろそろよろしいでしょうか?」
「ひゃいいい!?」
神獣のロロも眠っていたため、一人でクネクネとしていた—— 絶対一番見られたくない姿を、地族が派遣してくれた侍女に目撃されてしまっていたようだ。背後から控えめに声をかけられ、肩を浮かしたシェリーネは半ば泣きそうになりながら振り向いた。
「お、おはよう…ございます。レシカ……」
「はい、おはよう御座いますシェリーネ様。よくおやすみになられたようですね、ただ今支度を整えさせていただきます」
黒髪で糸目の女が、穏やかな笑みを浮かべ、緩やかな動作でシェリーネを化粧台へと促す。
今まで誰にも身支度を整えてもらったことがない少女は、ドギマギとして緊張しながら両手と両足を一緒に動かした。
「勇者様とのはじめての朝食ですものね、緊張なさるのも無理はありません……。不肖レシカ、腕によりをかけて仕上げさせていただきます!」
随分と張り切っている。ちょっと怖い。
「……よ、よろしくお願いします……」
シェリーネは彼女の勢いに身を任せることにした。
☆☆☆
パレスの中にあるガゼボ——白い柱、天井のガラスはステンドグラスになっていてまるで小さな神殿のよう——にて勇者ユキアは星花を待っていた。
側に控えるのは執事服を着た落ち着きある濁った金髪の男。
「……ユキア様、間もなくいらっしゃるようですよ星花様が」
もう一度執事は勇者を眺め、それからため息をこぼした。
「もう少し、落ち着かれてはいかがですか?」
「—— う、うるさい!!これが落ち着いてられるか?いや、無理だろ」
花婿の印である容姿の金髪に、赤色と紫色のオッドアイの青年は、綺麗な髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜた。周囲から見たら乱心しているようだ。
頭から足までジタバタ暴れまくったユキアは、ぜーーはーーと肩で息をしながら執事であるルヒトを泣きそうになりながら振り返った。
「やばい!!マジでどうしよう!推しが!!推しが目の前にくるとか!!?落ち着いてられるかーーー?」
「ユキア様、貴方の前世のお話は何度も聞き及んでおりますが、是非ともそのだらし無い・格好良くない・無様な姿を星花様にお見せになられませんよう。私はご忠告申し上げておきますよ、いいですか?」
「強調されるとすごい、傷付くんだけど!?」
勇者ユキア—— 彼は前世が日本人、そして。
「うあああ……、『境界線下の星花』で早々に死亡した推しのシェリーネが目の前にいるとか!!ど、どんな顔をして会えばいいんだーー!!ていうか、本とは異なる性格だったらどうしようとか思ったけど昨日の時点では全然一緒だったんだけど!?」
「はぁ、現実と本の世界を混ぜないでくださいユキア様。いえ、その辺の最低限の分別は付いていらっしゃるのでしょうが……私は心配です」
もはや諦めた顔をしたルヒトが、頭が痛むようにこめかみを抑えながら再びため息を零した。
「全く。おや、いらっしゃったようですよ……」
「!!!こ、こほん!!」
足を組んで、肘をテーブルについて両手を口元に近づけた。
「はぁ……」
執事は、ぐしゃぐしゃに跳ねた髪でガタブルと震える主人を心配そうに見つめた。
☆☆☆
深い青のドレスを身につけて白い獅子のロロと共に朝食の席現れたシェリーネが、先に来ていたユキアへと裾を上げて礼を取った。
「あの……、おはようございますユキア様……」
昨日の今日、距離感が掴めず遠慮がちにシェリーネは朝食の席についた。
小さな滝から流れる水の音が返事を返す。
「あの、ユキア様……?」
返事がなく、何かしてしまったのかと不安げに尋ねると、向こうも緊張しているのか真っ赤になった顔で慌てて口を開いてくれた。
「あ!いや、お、お、おは、おはようございます!!いい天気だね!!」
「ふふ、はい。とってもいい天気で……」
ガーーン、ガーーン、グワーーーン。
和やかな談笑を邪魔するかのように鐘が鳴り響く。
「——っ!悪魔が襲来したようです、勇者様!!」
あんなに美しかった空が暗くなり、シェリーネは慌てて席を立ち上がる。勇者は、狼狽する少女の手を取り甲に口づけを。
「ゆ、勇者……さま?」
「……キミに明日もその次の日も、生きていて欲しいんだ僕は、そのためならなんだってする。貴方は、僕が守ります」
真面目な顔をしてそう呟いたユキアは、シェリーネを見上げる時にはもう照れ臭そうに笑っていた。
心臓の音がうるさい。鼓動が早い。
触れられた甲が熱を発していた。
「あ、貴方に恩恵を勝利を……【星花の祈り】を捧げます」
この鼓動を落ち着け、抑えるように胸に手を置くと、シェリーネは勇者の無事を勝利を祈った。勇者の体が輝き出す。
「ルヒト、レシカ。僕の大切な星花はお前たちに任せた!」
「「御意。ユキア様」」
頭を下げる使用人と不安そうなシェリーネを背に、ユキアは黒い羽を広げて悪魔へと立ち向かっていった。
(どうか……怪我をしないで……)
握りしめた手に力が篭った。
(生きていて欲しいなんて、あんな優しい目で愛おしそうな目で言われるのが、こんなにも嬉しいなんて……知りませんでした)
ユキアのことを、知りたいと思った。
浮ついているシェリーネを金眼の獅子が残念そうに見上げた。
『……星花よ、だからワレは言ったというのに……』
「見つけたよ!!神の愛し子!!」
「え……?」
「シェリーネ様!!!」
空から声がして見上げれば黒いツノに白い羽の竜族が槍を手に、勢いよくシェリーネに降ってきた。
咄嗟に少女を守るようにカッと紫の双眸を開いたレシカが飛び込んでシェリーネを抱きしめた。
辺りを砂埃が舞う。
警戒したルヒトが腰に下げていた剣を構えると、黒髪の小さな少年が襲いかかってきた。
「アスベラの邪魔、させない」
「くっ!!暗殺者!?ユキア様に合わせる顔が無くなってしまうではありませんか!」
ルヒトは、歯痒そうだった。
☆☆
「く……!何かあったな……」
悪魔と戦うユキアもパレスの方角を見やった。
けれど、少年の身包む光は衰えずユキアを守って力を貸し与えてくれている。
『ギギ……ギギ……』
「あーーもう!!やけに多い。こんなことをしている場合じゃないっていうのに!」
一体、また一体、悪魔を屠る。
『ギギ……』
背中を切り裂かれた勇者は、が……っと口から血をこぼす。
「あの子を守ると誓ったんだ僕は……!!お前らに負けるわけにはいかない!!」
百体を超える悪魔の群れを前に、勇者はただただシェリーネを守ることだけを考えていた。
『なるほど、貴様が勇者か……私は悪魔第10位階だ。面白い、遊んでやろう』
「ボスきたーーーーー!5秒で片付ける!」
勇者は口の血を拭い、口角を上げて見せた。
☆☆☆
砂埃が舞う。
『星花無事か……?』
「ロロ……?私は……」
聞き慣れた神獣の声に失いかけた目を開ける。
なにか体が重い?
当然だ、レシカが覆いかぶさっていたのだから。
「れ、レシカ!?レシカ!?大丈夫ですか?」
『安心しろ、無事である。全く、無理をする。自分の身を盾してまで星花を守ろうとするとは。それは、ワレの仕事である』
大きくなったロロが、あの一瞬で二人を咥えてその場を離脱してくれたらしい。槍が刺さった地面は美しい花が咲いていたはずなのに、隕石が落ちたような大きく穴を開けていた。
「ありがとう、ロロ。あの人は一体……」
「あー、やだねー。神獣が出てこられちゃアタシらも商売上がったりだよ全く」
灰色髪、紅い双眸の女が穴からヨイショと這い上がって重そうな槍を肩に乗せた。黒いツノ、白い翼。地族と天族の特徴が混じっているということは、混血なのだろう。
憎み合っていた地族と天族の間で混血が生まれることは珍しく、王宮にはいなかった。
(初めて、お会いしましたね……)
「悪魔を呼ぶアンタはこの世界に要らないんだよ!というわけで、神の意志の元、お命頂戴するよ愛し子様!!」
『させぬ!メイドよ、星花を連れて逃げるがよい!』
「はい!神獣様、シェリーネ様こちらへ!!」
「ろ、ロロ!!」
レシカに手を引かれ、シェリーネは後ろ髪を引かれながらその場を脱した。
「へぇ、神獣様が相手かい?——行くよ!!」
『舐めるな、小蝿が』
ロロは一瞬で女暗殺者を叩き潰した。同じ暗殺者でルヒトと互角に戦っていた少年が頬に剣を掠めながら叫んだ。
「アスベラーー!!」
『そちらの暗殺者も、引くがよい。今回の星花は無駄な殺生を好まぬのでな、この女を連れて消え去るがよい』
「う、うわあああああああ!!」
口惜しそうな顔をして、暗殺者は叫びながらロロに剣を向けた。
『阿呆め』
☆☆☆
「はぁ、はぁ!!なぜこんなにも暗殺者が……!?」
逃げた先で再び男の暗殺者に出くわしてしまったレシカとシェリーネ。戦うレシカは鞭と剣を器用に操って、体格差の大きいガタイがいい男と互角に戦っていた。
「……私、私が……浮かれてしまったから……」
「どうかご自分を責めないでくださいませ!!それよりも、結界を強化することはできますか!?ああっ!!」
「れ、レシカ!!」
転がる彼女が壁に叩きつけられ、ぐったりと意識を失ってしまった。
(結界?結界の強化……。だ、だめ……同族は結界内から弾く事ができません)
「よう、別に俺は嬢ちゃんに恨みはないんだけどな。俺の仕事は依頼できた暗殺なもんでさ」
「それにしては、堂々としていてあまり暗殺者らしくないような……」
「ふはは!!嬢ちゃん余裕だな。これから命を刈られるっていうのにな」
いえ、それは怖いですけど。勇者様が戦っている今、祈りを解くわけにもいかない。冷静で、冷静にならなくては。
「な!?勇者!?」
どうにかしてレシカを連れて逃げないといけない。機会を伺った矢先、があああああん!!凄まじい爆音が鳴り響いて壁を破壊しながら、怖い顔をした細身の勇者が剣をガタイのよい暗殺者の男に叩きつけた。男が反対側の壁を壊して吹き飛ぶ。
「これが……、祈りの力を身につけた勇者の力……か……。ぐ、はは、ははは!いいねぇ面白い!」
「シェリーネが危険な目に遭ってるのに悪魔になんて構ってられるか。5秒で片付けてきたけど、なにか?」
「ぷはは!勇者ーそれは嘘だろ」
「う、うるさい!!ていうか、シェリーネの命が欲しいなら、僕を倒してからにするんだな!!」
(勇者様、耳が真っ赤です……)
余計な事を考えてしまったシェリーネは、ぶんぶんと顔を横に振ってその場に膝をついた。
勇者が目の前で戦うというなら、星花にできることはたったひとつ。—— 祈る事のみ。
「ユキア様を、信じます」
勇者の体を包む虹色の光が強まる。
より一層、力が湧いてくるのを感じた勇者は驚いたように目を開いた。
「……うん、信じてよシェリーネ!必ずキミを守ってみせるよ」
「おしゃべりはそこまでだぜ!ガキども!!」
剣と剣が重なった。
「うらああああああああああ!!!」
「が……っくそ……」
星の光と力を纏った勇者の剣が、男の剣を破壊する。
とどめの一振りを間一髪で避けた暗殺者は、一瞬で姿をくらませた。
「逃げられた!!?ぐぁ……っ」
暗殺者を逃すまいと追いかけようとしたユキアだが、悪魔の戦いで負った傷から血が噴き出し、その場にガクリと倒れ込んだ。
☆☆
「勇者様!!っ、酷い怪我……!【星花の守護】」
「あはは、結構やられたよ今日は……いてて……あ、ホッとする」
暗殺者との戦いよりも悪魔との戦いによってボロボロの勇者の前に急いでかけてくるシェリーネ。倒れ込む勇者の側で膝をついて怪我を治してくれる。
「途中で、すごくすごく力が湧いたんだ。そう、僕の身体がすごく輝き出した時……。勝てたよキミのおかげだ」
グッと親指を立てると、シェリーネが照れたように はにかんだ。
パレスで起きた出来事は理解できている。自分が悪魔と戦っている間に、シェリーネが暗殺者に狙われるという命の危険が及んでいるのは本の通り。やはり本の記述とリンクしている事が起きるらしい、この現実では。
強制力、というやつだろうか。
今回は間に合ったからいいものの、もしも悪魔との戦いで精一杯だったら。
ユキアは、眠たくなる中でシェリーネの姿を上から下まで確認する。うん、よし、怪我とかしてなさそう、大丈夫。よかった、そうだよな神獣もついているわけだし。ルヒトたちもいるんだから……。
「へへ、生きてる。シェリーネ」
「は、はいっ生きてます!ユキア様、ちゃんと生きてますよ」
「ちがう、キミが生きていてくれてよかった……」
あたたかい光に包まれて眠くなっていくユキアは、そっとシェリーネの頬を指でくすぐった。「????」とシェリーネはどうしてこんな事をされるのか分かっていないようで、戸惑って首を傾げていた。あ、くすぐったそうに瞳を閉じた。
「キミを、死なせない……ボクは、ずっとキミを想っていたんだから……」
「へっ?ゆ、勇者様?ユキア様?それは、どういう—— え、えぇ……!?」
へにゃりと子供っぽく微笑んだユキアは、そのまま夢の中へ。
起こそうにも起こさないシェリーネは、すごくじれったいようで、手をバタつかせて発散させていた。
明日からもほのぼとした暮らしの中で、勇者は星花を守る為に力を奮い、星花は勇者と周りのものを守る為にその力を使っていくのだろう。この世界を救いながら。
空が二人を祝福するように天に七色の虹を描いていた。
○シェリーネ
…水色の混じった銀髪に金と赤目の少女。虹色の角を持った神の愛子
…天族の王家に生まれ、ほとんど王宮の最奥から出たこともなく生きてきた
○ユキア
…金髪に赤色と紫色の目の青年。
…地族の民家に生まれた青年。産まれてから王家に預けられて育ってきた。『境界線下の花嫁』を読んだ転生者でシェリーネ推し
…ポーカーフェイスが苦手
○ロロ
…星花と契約した神獣。女神の代理人
…喋る白い獅子。左耳についてる星のピアスが特徴的。
○レシカ
…シェリーネに仕えることになった地族のメイド
…黒髪に紫色の瞳
…糸目
…優しい
○ルヒト
…ユキアに仕える地族の執事
…お目付役でもある
…濁った金髪に紫色の瞳。
…人当たりがいい、落ち着いた性格。




