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他人を知ると言う事

「これは俺の考えなんだけど、他人とどれ位の深い仲になれるか。それって、その人と過ごした時間に比例すると思うんだ」


 放課後の屋上には、二組の恋人同士が楽しそうにいちゃついている。その屋上の隅で、私と駒沢君は議題無き会話を続けていた。


「たがらさ。俺の中では桜田は平屋の次に女子の中ではよく話す相手なんだ。時間の密度が濃いほどその人の事が分かるし、好きにもなりやすい」


「ちょっと待って駒沢君。その線引きがよく分からないわ。例えば恋愛対象じゃない女子と長い時間を過ごしたらその場合はどうなるの?」


「い、意地の悪い質問するなあ。桜田。勿論、恋愛対象じゃない以上は好きにならないよ。幾ら過ごす時間が長くても」


「ん?って事はさ。私がランキング入りしたって事はさ。少なくとも私は恋愛対象者って事なの?」


「ま、まあ。そう言う事だよ」


 ······何だろう。駒沢君の私への肯定的な言葉を聞く度に、私の胸がざわつき出す。そして妙にくすぐったい気持ちになる。


「私と平屋さんは共に駒沢君の恋愛対象であってその差は過ごし時間の差。そう言う事なのよね?」


 私の質問に駒沢君は小さく頷く。何だろう。この不思議な感覚。普段共に過ごしているクラスメイトの一人一人が駒沢君みたいに色々考えたり思ったりしている。


 それはごく当然な事だが、その中に自分がランキング入りと言う形で関わっている。何だろう。例えると人の物語の中の登場人物に自分の名前があったのを見つけた気分。


 私がその気持ちを駒沢君に伝えると、駒沢君は「上手い事を言うな桜田は」と褒めてくれた。


「その人の恋愛対象に該当すれば、過ごす時間によっては恋人になれる。その可能性があるって事よね?駒沢君」


「でもそれってさ。諸刃の剣でもあるんだよな。良いと思ったり相手でもさ、よく話すと何か違うなと冷めちゃう時もあるし」


「それってつまり相手に幻滅するって事?」


「うん。例えば俺は、幾ら美人でも本人の居ない所でその人の悪口を言う女子は嫌だな。あと足を組む女子も苦手だ」


 へ、へえ。駒沢君ってそんな風に女子を見てたんだ。


「桜田は人の悪口は言わないしさ。あと足が長いのに絶対に組まないよな」


 桜田君はそう言った後、慌てて謝罪して来た。決して私の足をいやらしい目で盗み見していた訳じゃないと。


 他人の悪口は言わない。足を組むと身体に良くないからしない。これは、私が幼い頃から両親に厳しく躾けられた事だった。


 私は特にそれを意識して守っていた訳では無かったが、駒沢君には好印象を与えていたらしい。


 ······でも。何だか嬉しい。人にこう褒められると、自分が認められいるようで。


「······駒沢君だって人の悪口言わないよね。後、男子同士でふざけている時に相手の身体を叩く時も絶対に力を入れない」


 私のこの発言に、駒沢君は目が覚めたように両目を見開く。


「皆で遊びに行く時も集合場所に必ず一番で来るし。帰りが遅くなった時は女子を送って行くし。お店に入る時も女子を先にして自分は最後に入るよね」


 私のこの褒め言葉に、駒沢君は頭を掻いて私から視線を逸らす。駒沢君は明らかに照れていた。


「······さ、桜田。その。良かったらって言い方も妙なんだけど。褒め合いっこみたいな会話は止めないか?これってさ。良い事だけを言い合う上辺だけのやり取りだよ」


 突然の駒沢君の宣言に、私は動揺する。そ、それって、もう私とは話したくないって事かしら?


「え?ち、違うよ。むしろ逆だ。その人を知る為には、嫌な側面も知らなきゃ駄目だと思うんだ」


 この時の私は、駒沢君の意図を測りかねていた。駒沢君は、目に見えない人間関係の一線を一歩踏込もうとしていのだった。


 それは駒沢君が先刻言った様に、諸刃の剣だった。



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