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 週末が近づくにつれ、周囲は王宮で開かれる舞踏会の話で持ちきりになっていった。

 学園の中庭では朝から令嬢たちが噂話に花を咲かせている。

 話題の中心はもちろん王太子殿下ジェラルドだ。


「外国の王女様とのご婚約は、ずいぶん前に解消されてて、今は新しい婚約者を探してらっしゃるそうよ」

「ある程度、選定が進んでらっしゃるとか」

「ジェラルド殿下って、見目も美しいんでしょう?」

「どんな方が選ばれるのかしら?」


 アネットが勝ち誇ったように口を開いた。


「自由恋愛がどうとか言っても、さすがに王室との婚姻となると、侯爵家以上の令嬢じゃないと無理じゃないかしら」


 伯爵家の令嬢であるセレーヌとナディアが急につまらなそうな顔になった。

 ポーラは侯爵令嬢だが、容姿、その他のもろもろで、いつも格下に見られているせいか、今回もビミョーに微笑むばかりだ。

 アネットだけがウキウキしている。


「正式な婚約者がいない侯爵家以上の令嬢となると、かなり絞られるわよね」


 午後には「すでに王宮では相手の目星をつけてあり、舞踏会で最初のダンスを踊る相手が有力候補だ」という噂が広まっていた。


 その段階で、シルヴィは蚊帳の外の人となった。


「お姉様は、お相手ではなかったようね」


 アネットがにっこり笑うと、ポーラが「どうして?」と聞いた。


「お姉様、舞踏会には出席しないもの」


「シルヴィ、行かないの?」

「どうして?」


 どうしてと聞かれても、アネットがいる前でうまく説明するのは難しい。

 シルヴィへの招待をアネットが断ってしまったからだと本当のことを言っても、「どうしてそんなことを言うの」とアネットに泣かれて、再び答えに詰まる未来しか見えない。


「お姉様って、そういうことに興味がないのよ」

「そんなことないわ」

「え、そうなの? お姉様、ジェラルド様に興味があるの?」

「そりゃあ……」

「まあ! やっぱり、狙ってたのね! ホント、お姉様ってガツガツしてるんだから!」


 アネットは曲解の天才だ。シルヴィは遠い目になった。

 これで「興味がない」と言えば、どんな解釈が返ってきたのだろう。


 「嘘つき」、あるいは、「自分たちを見下している」、「本当はガツガツ狙っているくせに」、そんなところか。


 誰よりも見栄えのする相手と婚約して人に勝ちたい、みんなを見下したい。そんな考えが、アネットの中にはある。

 そして、ほかの人間も同じように考えているはずだと決めつけている。


 だから、何を言っても「お姉様は、本当は喉から手が出るほど、素晴らしい婚約者が欲しいはず」という解釈になる。


 シルヴィに限らず、アネットにとっては全員が競争相手で、その中で自分が一番でありたいのだ。



たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

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