(7)
「自由恋愛という意味では、いないわね」
テオドールの質問にシルヴィは真面目に答えた。
地位や財産という点では、マチルドの婚約者にも劣らない好条件の相手もいる。
どの人も、一応は立派な人だと思う。
ただ、好条件の人物ほど、エドワールのような考え方をする傾向を感じた。
相手にされるまでは下手に出て、いざ話が進み始めるとマウントを取ってくる……という話は、友人たちからもよく聞く。
もっとこう、ふつうに人と人という感じで、付き合えないものだろうかと思う。
(貴族である以上、無理なのかしら……)
家柄や生活水準を競う風潮はなくならない気がする。
夏の初めの宵の中を兄と一緒に家路に就いた。
慈善パーティーの場合は、夜と言ってもお開きの時間が早いので助かる。
郊外の城に帰り着き、メインになる居間に入ると、アネットが侍女に足の爪を切らせていた。
「あら、早かったわね。お姉様」
「早かったわね、じゃないわよ。黙って帰ったりして……」
「だって、退屈だったんだもの」
「エドワール様にご挨拶もしなかったでしょ。エスコートしていただいて、失礼じゃない」
アネットは鼻に皺を寄せた。
爪を切っていた侍女に「痛い」と言って顔をしかめる。
申し訳ありませんと頭を下げて、侍女は下がっていった。
「ずんぐりむっくりのくせに偉そうにするから、ウンザリしちゃったの! ナディア程度の子には、あれくらいの人がちょうどいいわね」
「何言ってるの? ナディアと行くはずだったパーティーに、自分が割り込んだようなものなのに」
「ナディアがあんまり自慢するから、あの程度の男なら、簡単になびくってことを教えただけよ」
「アネット、あなたって人は……」
どうしたんだい? と兄たちが居間に入ってくる。
「シルヴィお姉様が、私を叱るのォ」
「シルヴィは真面目だからな」
アネットの甘えた言い方に、テオドールが笑みを返す。
真面目って、何よと思うが、言えば、そういうところだよと笑われるがオチだ。
アネットがエドワールと来ていたことはテオドールも知っているし、先に帰ってしまって、エドワールが文句を言ってきたのも聞いている。
なのに、この調子なのだ。
ちゃんと反省してるのに~、とアネットが言えば、そのくらいにしてあげたら? などと言うのだ。
(テオドールお兄様が優しいのは知ってるけど……)
優しすぎるのは考えものだ。
しかし、ここで「アネットに優しすぎる」などと言おうものなら「焼きもちかい?」などと笑われる。
何度も繰り返したやり取りを思い出し、不毛な戦いに挑む気力を失くした。
シルヴィ一人がカリカリしても、仕方ない。
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