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 それから約二週間ほど経った週末に、王太子の婚約を披露する舞踏会が盛大に開かれた。


 700人以上の貴族が集まる王宮の大ホールに国王夫妻が現れる。淑女たちは軽く膝を曲げ、紳士たちは胸に手を当てて迎えた。

 次いで、貴賓であるリンハルト帝国の皇太子、レルシュ公国の若き大公殿下などが一段高くなった入場口に現れ、紹介された。


 最後にジェラルドとシルヴィが入場すると、会場はため息で満たされた。


「さすが評判のドニエ公爵家の令嬢だ。なんと美しい」

「美しいだけでなく、気品に溢れていますわね」

「ジェラルド殿下と並ぶと、似合いだし、とても落ち着いて見える。貫禄さえ感じるな」


 将来の王太子妃、そしていずれは王后になる令嬢の美しくも慎ましい佇まいに、会場中の貴族たちが好ましい感情を抱くのがわかった。


 アネットとシルヴィをよく知る学園の令嬢たちも安堵の吐息を吐いていた。


「結局、シルヴィが選ばれて、本当によかったわ」


 ポーラの言葉に、情報通のナディアは「実のところ、最初から人違いだったみたいよ」と囁いた。

 

「ジェラルド様はシルヴィに一目ぼれしたのに、どこかで名前を間違えてしまったんですって。帰国したばかりで、殿下は二人が双子だってことを知らなかったの。アネットのせいでシルヴィが舞踏会に来なかったことも、間違いの原因みたい」

「そうなの?」

「間違った、なんてことは、王室としては、あまり大きな声で言いたくないらしいから、内緒みたいだけど。でも、ジェラルド様は気さくな方で、正直にそうおっしゃったそうよ。エドワールからこっそり聞いたの。教会でどうとかって、エドワールにも一因があるとかないとか……」


 横で聞いていたセレーヌがため息を吐いて言った。


「殿下じゃなくても、間違えたかも。アネットは、自分が目立つために、シルヴィを社交の場に近づけないようにしてたでしょ」


 学園に通う子女がいなかったり、公爵家と縁遠い、二人のどちらかに結婚を申し込むような立場にいない多くの貴族は、ドニエ家の令嬢が三人いると認識していない可能性がある。

 帰国を祝う舞踏会で踊った令嬢と目の前にいる令嬢は同じ人物だと思っているかもしれないとセレーヌは言った。

 

 いずれにしても、アネットではなくシルヴィが王太子妃になることになり、二人を知る令嬢たちはスッキリと納得し、心から喜んだ。


「アネットは来ないのね」

「尼僧院に行かされたらしいわ。裏でひどいことを言ってたのが、ドニエ公爵にバレたみたい」

「まあ……」


 ポーラは口に手を当てたが、セレーヌは「自業自得よね」と言って笑った。


 アネットにマウントを取られ、あからさまに蔑まれたことを令嬢たちは忘れていない。彼女たちの婚約者や、アネットに袖にされた青年たちも、アネットの本性を忘れないだろう。

 貴族全体にいっぺんに知れ渡るほど大きな噂話になることはないが、彼女の人間性はじわじわと広まる可能性がある。


 そうなると、シルヴィやテオドールを通して王家と縁を繋ぐドニエ家にとって、ひいては王家にとっても、アネットの存在は不都合なものになっていくかもしれない。


「もしかしたら、一生、尼僧院から出られないかもね」


 セレーヌの言葉に、ポーラだけでなくナディアもかすかに目を見開いたが、すぐに口の端に笑みを浮かべた。

 さんざん人をバカにして、みんなの気持ちを傷つけてきたのだ。

 このまま表舞台から消えてくれるのが一番いいような気がする。


「そうなることを望むわ」


 ナディアが言うと、大人しいポーラまで「なるべく、心安らかに暮らしたいものね」と言って微笑んだ。


 やがて音楽がホールに響き始め、ジェラルドとシルヴィが中央に進み出る。

 

 最初のダンスを軽やかに踊る二人に、人々の目は吸い寄せられた。

 幸福そうな表情を見て、みんなの心も幸せに包まれた。


 ダンスの後もジェラルドはずっとシルヴィをそばから離さなかった。友人たちに紹介し、シルヴィの友だちにも一緒に挨拶に回る。

 ナディアたちは心から二人に言った。


「おめでとう。どうかお幸せに」


 準備の期間が必要なため、結婚式は来年の春になると発表された。

 


たくさんの小説の中からこのお話をお読みいただきありがとうございます。

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