(21)
テオドールがその場を収めに入った。
「テランス、これ以上、妹の恥を晒すのはしのびない。今日のところは、これで失礼していいかな」
「あ、ああ……」
ジェラルドは何か得体のしれないものを見るようにアネットを見ていた。
シルヴィと目が合うと困ったような情けないような顔になった。
「……アネットではなく、きみの名は、シルヴィだったんだね」
「あなたは、テランスではなくて、ジェラルド殿下だったのね……」
テランスというのは本当だとジェラルドは軽く訂正した。
まだ、どこか呆然としたまま見つめ合い、その日はそれで別れた。
ドニエ公爵邸に戻ると、父や兄たち、姉のマチルドも加わって、アネットがこれまでしてきたことについて話し合いが持たれた。
シルヴィも母と一緒に黙って様子を見ていた。
「シルヴィがパーティーに行きたがらないと言っていたのは、アネットの作り話だったのね?」
「シルヴィは真面目だからとかなんとか、理由をつけていたけど、それも嘘だったのか」
姉や兄が問えば、父も「あんな言い方で人を罵るような娘だったとは」とテランスことジェラルドに向けた言葉を挙げて、首を振る。
「噂で聞いた時は、まさかと思った。いつも可愛いアネットが、そんなことを言うはずがないと……。だが、自分の耳で聞いてしまった今となっては、噂のほうが全て真実に思える」
アネットは、まだ「違うの。お父様、信じて」と甘えるように取りすがっていたが、告げ口などしていないシルヴィを責めたことから、シルヴィの前では、いつもああやって誰かを嘲笑っていたことが透けて見えると父は言った。
お父様、とすがるアネットを、父は拒絶した。
「先ほどの様子から考えて、ジェラルド殿下から婚約解消の申し出があるのは目に見えている」
我が家にとっては大きな恥だと父は顔をしかめる。
「そんな……! なんとかならないの? お父様の力で、なんとかして!」
「アネット、全部おまえのしたことだ。自業自得だと思いなさい。おまえは、少し反省したほうがいい」
自分の目の前で王太子を「貧乏くさい」だの「みすぼらしい」だの「関わり合いになるな」だの言った娘の姿を思い出すにつれ、父の怒りは増してゆくようだった。
「あんな恥ずかしい思いは、したことがない」
「お父様!」
「おまえに求婚していた方々からは、ひどい苦情が来ているし、この先、我が家の娘を迎えてくれる家などあるのかどうか、心配だ。シルヴィにまで影響が出たら、どうするつもりなんだ」
「シルヴィお姉様ですって? いつも、シルヴィお姉様のことばかり大事にするのね! いいわ、もう! お父様なんか嫌い!」
「アネット!」
わっと泣きまねをしながら、アネットは居間を出ていった。
「全く……」
父が頭を抱える。
テオドールが「まあ、シルヴィのことは心配ないと思うけど……」と呟く。
父は、あまり楽観的な気分にはなれないのだと首を振るだけだった。
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