(1)
「週末の舞踏会、シルヴィお姉様は行かないことになってるの」
「え……? どういうこと?」
「マチルドお姉様と私だけ行きますって、もうお返事してあるから」
「な、なんで……?」
だって、とアネットは笑った。
「私と同じ顔のシルヴィお姉様が一緒だと、なんだか落ち着かないんだもの」
またか。
アネットの美しい顔を眺めて、シルヴィはうんざりした気持ちになった。
金色の髪と青い瞳。
人形のようだと誰もが褒める美しいアネット。
学園でも社交界でも、自他ともに認める人気ナンバーワン令嬢だ。
……ということになっている。
その実、同じ顔のシルヴィも、かなり人気があるのだが。
でも、それを言うと面倒なことになるので、黙っている。
それに、アネットみたいに自分の人気をアピールするのはイマイチ気が進まない。
人気があろうとなかろうと何も言わず、ヘンに騒がれないのが一番だ。
王宮での舞踏会や主要貴族が集まるパーティーへの参加を妨害されるのは、初めてではない。
そのせいで社交界での影がアネットより薄かったりするが、それでいいとシルヴィは思っていた。
目立つのは好きではないのだ。
(でも、今回は……)
アネットとシルヴィは双子の姉妹だ。
ドニエ公爵家の秘宝などと呼ばれ、美人なことで知られている。
自分で自分を美人と言うのもどうなんだと思うが、同じ顔のアネットが美人で売っているので、否定するのもアレなので、とりあえずシルヴィも美人ということで構わないが、どうでもいい。
双子なので同じ年だ。
今年の七月に学園を卒業する十八歳。
同じ日に生まれたけれど、アネットは必ずシルヴィを「お姉様」と呼ぶ。
シルヴィとアネットには兄が二人、姉が一人いて、二人の下にきょうだいはいないから、シルヴィを「お姉様」と呼ぶことで、「ドニエ公爵家の末っ子」として可愛がってもらえるから。
……らしかった。
どうでもいいけど。
それはそれとして、舞踏会である。
大勢の貴族が集まる王宮での舞踏会には、さすがにシルヴィも行きたかった。
特に今週末の舞踏会は王太子ジェラルド殿下の帰国を祝うもので、いつになく盛大なものになると噂されている。
学園の友人たちも、みんな行く。
今回ばかりはマジで行きたかった……。
しかし、正式な招待状もないのに、行くことはできない……。
シルヴィは、アネットと唯一違う菫色の瞳を天井に向けて、諦めのため息を吐いた。
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