第3話 入学直前の桜子
「私はヒロが態度を改めるなら仲直りしてあげてもいいと思っています!」
喜びを隠しきれず笑顔で宣言する桜子。上から目線の偉そうなセリフが台無しになるほど期待に満ちた笑顔だ。
「うん。桜子ちゃんの気持ちはお父さん良く分かっているよ。そんな桜子ちゃんにお父さんからアドバイスだ」
「何かしら?」
「桜子ちゃんとヒロ君はもうすぐ13歳だね?」
「そうよ! 来週から大和学園に入学ですもの!」
「うん、それでね、お父さんから桜子ちゃんに伝えたいことがあるんだ。…女の子の13歳と男の子の13歳はちょっと違うんだ。お父さんも13歳だったことがあるから分かるんだけど、男の子の13歳は難しいんだ」
「そうなの?」
「ああ。13歳の男の子は素直になれない。そこが難しい…。嬉しくても嬉しいと言えない。好きなのに好きと言えない…男の子の13歳は難しいんだ。だから…ヒロ君が桜子ちゃんと仲直り出来るようになるまで2年も3年もかかるかもしれない。桜子ちゃんは待てるかい?」
「2年も3年も…」
桜子の喜びが急速に萎んだ。
「桜子ちゃん…」
愛娘の悲しそうな様子が切ない。
「…でもヒロが領地を継ぐ為には私との仲直りは避けて通れないのよね!」
「そうだね。我が武蔵領とヒロ君の家の春狩領の同盟の破棄だけはないよ」
「それなら私がヒロに歩み寄ってあげるわ!」
それは逆効果かもしれない…と伝える前に浮かれた愛娘は部屋を飛び出していった。
その後、執事やメイドから「桜子お嬢さんが浮かれて危ない。窓から飛び出しそう」とか「機嫌が良すぎて気味が悪い」とか、ちょっと恥ずかしい報告が届いた。